連載
インディーズゲームの小部屋:Room#267「Antichamber」
最近は主に,世界中を旅しながら他人の家に無断で侵入し,勝手にタンスを漁ったり,壺を叩き割ったりしている筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第267回は,オーストラリアのゲーム開発者,Alexander Bruce氏が開発した一人称視点のパズルゲーム「Antichamber」を紹介する。シンプルでクールなデザインの迷路の中を,カラーブロックを吸い込んだり,撃ち出したりできる不思議なデバイスを片手に探索するという本作。エッシャーのだまし絵のような,頭がこんがらがりそうになるパズルが特徴の一本だ。しかし,こうして文章化すると,まるっきり強盗みたいだ……。
本作には,これといって明確なストーリーは用意されていない。プレイヤーはなぜか,摩訶不思議な迷路の中におり,行く手にある謎や仕掛けを解きながらとにかく前に進むのがゲームの目的だ。操作方法は一般的なFPSとほぼ同様で,W/A/S/Dでの移動と,マウスでの視点変更をおこなうというもの。FPSをプレイしたことがある人なら,ほとんど何も迷うことなく操作できるだろう。スタート地点の壁に,操作方法がでかでかと書かれているので,ゲームを開始したらざっと確認しておこう。
本作で特徴的なのは,その独特のグラフィックスだ。通路や部屋の多くはワイヤーフレームで描かれた白と黒のモノクロだが,その中に時折,赤や青や緑の目にも鮮やかな色彩が使われている。これが非常にシンプルで美しく,効果的なBGMと相まって,本作ならではの幻想的な世界を作り出している。しかし,美しいデザインだけが本作の見どころではない。むしろ注目すべきなのが,その難解極まるパズル性の高さだ。
何がどう難しいのかを文章で伝えるのは非常に困難だが,例えるなら,本作ではあちこちの通路や部屋が,エッシャーのだまし絵のように,奇妙にねじれてつながっている。つまり,ある通路を一方向から見た場合と,振り向いてうしろを見た場合とで,まったく別のつながり方をしていたりするのだ。そのため,迷路の構造が非常にややこしいことになっており,頭の中で空間を把握しようとしても,こんがらがってワケが分からなくなってしまう。
また,ゲーム開始時は丸腰だが,ある程度ゲームを進めると,小さなカラーブロックを吸い込んだり撃ち出したりできる,銃のようなデバイスが入手できる。カラーブロックは,壁のくぼみに撃ち込んで仕掛けを操作したり,扉が閉まらないようにつっかえ棒にしたりといった使い方ができ,上述のだまし絵風のパズルと合わせて,本作のかなめとなっている。全体的にパズルの難度は高く,やり応えがあり,さんざん迷った末に仕掛けを解いたときの達成感はかなりのもの。
もし迷ってしまっても,いつでもスタート地点に戻ることができ,一度行ったことがある部屋に直接ワープできるのも親切な機能だが,強いて難点を挙げるとすればヒントが少なく,同じ場所をぐるぐる回り続けているうちに3D酔いしてしまうことかもしれない。そのため3D酔いしやすい人は要注意だが,それを差し引いても本作は,その不可思議なパズル性を体験してみる価値がある一本に仕上がっている。残念ながら本作にはデモ版が用意されていないが,製品版はSteamにて19.99ドルで発売中なので,興味を持った人はぜひお試しあれ。
■「Antichamber」公式サイト
http://www.antichamber-game.com/- この記事のURL:
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