連載
インディーズゲームの小部屋:Room#448「Killing Time at Lightspeed: Enhanced Edition」
東京ゲームショウを何とか乗り越え,ようやく怪盗ライフを始めた筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第448回は,Gritfishが開発した「Killing Time at Lightspeed: Enhanced Edition」を紹介する。本作は,亜光速で地球から離れつつある主人公と,地球に残された友人達との,SNSでのやり取りをモチーフにしたアドベンチャーゲームだ。我は汝,汝は我……。
宇宙航行技術の発達により,人類が急速にその活動圏を広げている西暦2042年。新たな世界は新しい労働力を欲しており,多くの人が新しいチャンスを求めて遠い星々に旅立っていった。そして今まさに,主人公も「火星発,グリーゼ667C行き」の亜光速恒星間フライトに出発しようとしていた……。
火星からグリーゼ667Cまでは,地球時間でおよそ29年の旅路となるが,フライト中の体感時間は30分ほど。プレイヤーはそのフライトの間に「Timestream」というTwitterのようなSNSツールで地球での出来事を知り,そこに残された友人達とコミュニケーションを取るというのが本作の内容だ。ちなみにグリーゼ667Cは実在する星で,さそり座の方角に地球から約22光年離れた場所に位置しているそうだ。
そんなわけで,ゲームプレイの大半はTimestreamへの投稿や,ニュース記事を読むことに費やされる。友人達の投稿の中には,選択肢から文章や質問を選んでこちらから返信を送れるものもあるが,それに対して主観時間でほんの数分後に彼らから返事が届くうちに,地球では約1年半が経過している。
普通に考えると,地球から離れるほど,やり取りにかかる時間が長くなりそうだが,本作では最後まで,1年半に1回のメッセージというペースは変わらない。まあ,このあたりは筆者には分からない高度なテクノロジーが関係しているのだろう。たぶん。とは言え,やり取りを重ねるごとに地球との距離的,時間的な開きが大きくなっていくのは確実で,文字どおり飛ぶように(地球での)時間が過ぎていく中で,自分だけが取り残されたような感覚を味わえる。
プレイヤー(主人公)にとってはほんの数分のうちに,地球にいる友人達の人間関係がどんどん変化し,結婚したり離婚したり,子供のことで悩んでいたりしているのを,離れた場所からただ眺めることしかできない寂しさやもどかしさ。そして,フライトが終わりに近づくにつれ,友人達からのメッセージが減り,botが垂れ流す広告ばかりになっていくときの切なさには,何ともやり切れない思いを感じる。
しかもその間,地球では新しいテクノロジーが新しい社会問題を呼び起こし,友人達を取り巻く情勢はどんどん不安定になっていく。当然,プレイヤーにはそれをどうすることもできない。将来,自分が宇宙飛行に旅立つことになっても,絶対に軽い気持ちで暇つぶし(killing time)にSNSを見たりしてはいけないという気持ちにさせられる作品だ。そんな,どことなく新海 誠監督の「ほしのこえ」っぽい切なさを感じさせる本作は,Steamにて980円で発売中だ。
■「Killing Time at Lightspeed: Enhanced Edition」公式サイト
http://www.killingtimeatlightspeed.com/- この記事のURL:
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