レビュー
SLI&CrossFireX両対応のマザーボードは,史上最強のゲームプラットフォームとなり得るか
ECLIPSE SLI
» 一部搭載製品がNVIDIA SLI&ATI CrossFireX両対応として注目を集める,Intel X58 Expressチップセット。最大4-wayのマルチGPU構成を柔軟にサポートするプラットフォームの存在意義を,宮崎真一氏が検証する。予想以上に魅力的なそのテスト結果は要注目だ。
柔軟なマルチGPUサポートは,すでにCore 2シリーズの上位CPUを持つ人にとって,CPU,ひいてはプラットフォームを移行するだけの価値となり得ているのか。MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから入手したX58マザーボード「ECLIPSE SLI」を使って,この点を明らかにしてみたい。
あらためて確認する
X58環境におけるマルチGPUの要件
テストの前に,X58環境におけるマルチGPUの利用条件をおさらいしておこう。
一方のCrossFireXは,“AMDの認証”といったものが不要ということもあり,一言でまとめるなら「従来同様」だ。対応するグラフィックスカード分のPCI Express x16スロットを持つマザーボードなら,Windows XP環境で2-way,32/64bit Windows Vista環境では2/3/4-wayがサポートされる。
2/3-way SLI&2/3/4-way CrossFireXを全検証
テスト解像度は高解像度に限定
DrMOSを構成する10基のDriver-MOSFET。6基がCPU用,2基がCPU内蔵メモリコントローラおよびQPI用,残る2基がノースブリッジ用に用意されている。詳細は11月3日のテストレポートを参照してほしい |
上で示した3-way SLIと4-way CrossFireXのイメージカットにおいて,マスターとなるグラフィックスカードの隣に見えるのがサウンドカード。そのため,I/Oインタフェースは,USB 2.0×8を用意するなど充実している |
- VRMの高効率化機能であるMSI自慢の「DrMOS」
- 徹底した電力管理を行えるソフトウェア「Green Power Center」とハードウェア「Green Power Genie」の組み合わせ
- POSTコードだけでなく,システム状況も総合的に監視できる「D-LED2」
を標準で搭載,あるいは添付した,ハイエンド指向の製品となっている。このクラスのマザーボードではあらためて説明するまでもないが,搭載するコンデンサはいずれも機能性高分子アルミ固体電解コンデンサ。また,EAX ADVANCED HD 4.0対応で,「Sound Blaster X-Fi Xtreme Audio」相当のPCI Express x1版サウンドカードが付属することで,バックパネルI/Oインタフェース部の使い勝手が上がっているのもユニークなところだ。
さて,テスト環境は表1のとおり。CPUは「Core i7-965 Extreme Edition/3.20GHz」(以下,i7-965)と「Core 2 Extreme QX9770/3.20GHz」(以下,QX9770)を用意し,動作クロックを揃えている。
また,メモリモジュールは,容量をなるべく近づけるべく,前者はトリプルチャネルで1GB×3,後者はデュアルチャネルで1GB×4とした。OSに32bit版Windows Vista Ultimateを用いることで,後者で利用可能なメインメモリ容量は3.2GB程度となるので,容量が問題になる可能性を回避できると判断している。
比較対象となるマザーボードは,SLIの検証に「nForce 790i Ultra SLI」(以下,790i)搭載のPINE Technology(XFX)製マザーボード,「MB-N790-IUL9」,CrossFireXの検証にはASUSTeK Computer(以下,ASUS)製の「Intel X48 Express」(以下,X48)搭載マザーボード,「Rampage Extreme」を用意している。
MB-N790-IUL9 Designed by NVIDIAのハイエンド品 メーカー:PINE Technology(XFX) 問い合わせ先:シネックス(販売代理店) info@synnex.co.jp 実勢価格:5万円前後(2008年11月22日現在) |
Rampage Extreme ROGブランドのDDR3対応X48マザー メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:5万円前後(2008年11月22日現在) |
表1で示したとおり,グラフィックスドライバは「GeForce Driver 180.43 Beta」と「ATI Catalyst 8.11」を利用した。テストタイミングの都合上,必ずしも最新版ではないが,この点はご理解を。
なお,今回はAMDとASUS,CFD販売,NVIDIA,玄人志向などの協力を得て,テストに必要な「GeForce GTX 280」「ATI Radeon HD 4870」搭載の各グラフィックスカードを準備しているが,そのうちTul製の「PowerColor PCS+ HD 4870 512MB GDDR5」はクロックアップモデルである。本製品をテストで利用するに当たっては,「ATI Catalyst Contorol Center」から動作クロックをリファレンスに落としていることを,あらかじめお断りしておきたい。
GX-280N-ZDF XFXブランドのGTX 280カード メーカー:PINE Technology(XFX) 問い合わせ先:シネックス(販売代理店) info@synnex.co.jp 実勢価格:6万円前後(2008年11月22日現在) |
PowerColor PCS+ HD 4870 512MB GDDR5 独自クーラー搭載のOCモデル メーカー:Tul 問い合わせ先:CFD販売 http://www.cfd.co.jp/ 実勢価格:3万6000円前後(2008年11月22日現在) |
EAH4870X2/HTDI/2G/A Splendid対応のHD 4870 X2 メーカー:ASUSTeK Computer 問い合わせ先:ユニティ(販売代理店) news@unitycorp.co.jp 実勢価格:7万円前後(2008年11月22日現在) |
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション6.0準拠。ただし,3-way SLIや4-way CrossFireXの真価が発揮されるのはGPUへの負荷が高い状態になるため,解像度は1680×1050/1920×1200/2560×1600ドットの3パターンに絞り,「高負荷設定」でのみ行う。また,3-way CrossFireXは,ATI Radeon HD 4870 X2をマスター,ATI Radeon HD 4870をスレーブとする構成を採用した。これは,3本のPCI Express x16スロットが16レーン,16レーン,4レーンでそれぞれ動作するECLIPSE SLIの仕様に合わせたのと,そもそもATI Radeon HD 4870カード×3という構成の実現可能性を考えてのものである。
なお以下,文中,グラフ中とも,GeForce/ATI Radeonの表記は省略。CrossFireXはグラフ中のみ「CFX」とする。さらに,GTX 280およびHD 4870のシングルカードは,便宜的に「1-way SLI」「1-way CFX」とグラフ中で表記するので注意してほしい。
マルチGPUでスコアを大きく伸ばすケースの多い
Core i7+X58プラットフォーム
まずグラフ1は「3DMark06 Build 1.1.0」(以下,3DMark06)の結果である。ご覧のとおり,グラフが大きくなることを嫌ってスコアを省いているが,画像をクリックすると別ウインドウで“スコア入り”のグラフを表示するので,興味のある人はそちらをチェックしてほしい(※以下,「スコア」としたグラフは同様だ)。
さて,グラフ1を見ると,2/3-way SLIと2/3/4-way CrossFireXでi7-965のスコアが明らかにQX9770より高いが,むしろ注目したいのは,そのパフォーマンス向上率である(グラフ2,3)。
GPU業界で「Scaling」(スケーリング)と呼ばれる,マルチGPU構成時のパフォーマンス向上率。グラフ2はSLI,グラフ3はCrossFireXにおいて,「シングルグラフィックスカード構成と比べてどれだけスコアが伸びたか」をパーセンテージで示したものだが,ご覧のとおり,すべての条件でi7-965のほうが高い伸びを示している。CPU−チップセット間インタフェースであるQPI(QuickPath Interconnect)は,ゲーム用途(など)で有利だとIntelはアピールしているが,確かにそれを感じるスコアだ。もちろん,i7-965のほうが,QX9770よりもマルチGPUと釣り合うポテンシャルを持っている,という見方もできよう。
実際のゲームではどうだろうか。「Crysis Warhead」から,グラフ4がスコアだが,全体的にQX9770のほうがスコアは高めである。
パフォーマンス向上率に目を移すと,グラフ5のSLIでは,2-wayでQX9770のほうが率で上回るのに対し,3-wayではそれが逆転する点に注目したい。GPU側の性能が上がったとき,スコアを伸ばす余地があるのはi7-965+X58のほうというわけだ。
もっとも,Crysis WarheadのCryENGINE 2.0はマルチGPUへの最適化がそれほどうまくいっていないこともあって,2560×1600ドットではどれも150%程度で頭打ちになっているのも見て取れる。
この「最適化がうまく行っていない」様子は,CrossFireXでより顕著だ(グラフ6)。さすがに600%などというスコアは無視してグラフを作ったが,それでも,この荒れたグラフから何かを求めるのは難しい。2-way CrossFireXの1680×1050&1920×1200ドットに注目すれば,i7-965のほうがスコアを伸ばす方向にある,とは言えなくもないが。
続いて「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のスコアがグラフ7だ。ざっと見た限り,SLIだとQX9770が有利,CrossFireXだとi7-965が有利である。
そのパフォーマンス向上率を見てみると,SLIではi7-965とQX9770との間に,あまり差がない(グラフ8)。ほぼ同程度といっていいだろう。しかしグラフ9を見てみると,CFXでは総じてi7-965+X58のほうがQX9770+X48よりも高い伸びを見せており,とくに4-wayでの差が大きい。両環境ともPCI Express 2.0の16レーン×2接続であることを考えると,この差は重要だ。
このCall of Duty 4と比較的近い傾向を示しているのが,「デビル メイ クライ4」である(グラフ10)。
ただ,パフォーマンス向上率に目を移すと,SLIではQX9770+X48のほうがi7-965よりも高くなっている(グラフ11)。とくに3-way SLI時の2560×1600ドットだとかなりの違いになっているが,デビル メイ クライ 4がマルチGPUに最適化されていることを踏まえるに,790iで3本のPCI Express x16スロットがすべて16レーンで動作するのに対し,ECLIPSE SLIだと3本めが4レーン動作となっていることが影響していると見るべきだろう。
実際,グラフ12では,3本めのPCI Express x16スロットを利用しない4-way CrossFireXだと,i7-965はQX9770よりも伸びている。GPUへの負荷が最も大きくなる2560×1600ドットで,差が最大に達している点は押さえておきたいポイントだ。
ここまでとは少し様相が異なってくるのが,グラフ13にスコアを示した「Company of Heroes」である。
スコア自体はi7-965+X58のほうが高いので見落としがちだが,グラフ14で,SLI構成時のパフォーマンス向上率を見ると,QX9770のほうが高い。2560×1600ドットで大きく差がつくのは,前述したPCI Express x16スロットのレーン構成によるものだろう。
一方,グラフ15に示したCrossFireXでは,解像度が低いうちはi7-965のほうが良好であるのに対して,2560×1600ドットではQX9770が逆転。とくに4-way CrossFireXにおける違いはかなりのものである。ここまでは高解像度でi7-965が高い伸びを示していたので,大きく異なるわけだ。Company of HeroesはマルチGPUに最適化されたタイトルだけに,こういう結果が出ているのは面白い。
最後に,「Race Driver: GRID」(以下,GRID)の結果をまとめたのがグラフ16である。スコア自体は,3-way SLIでi7-965がQX9770を圧倒。2-way SLIでも1920×1200ドットまでは圧倒する。CrossFireXも同様の傾向を見せる一方,2560×1600ドットは大荒れ,といったところである。
グラフ17に示したSLIのパフォーマンス向上率は,グラフ16の結果を反映したものになっており,i7-965+X58の高い伸び率が目立つ。
グラフ18は,2560×1600ドットがまるで信用できないスコアになっているのを無視すると,やはりi7-965環境が高い伸びを見せている。ある意味,i7-965におけるマルチGPU環境の性能向上メリットが色濃く表れた一例といえそうだ。
SLIとCrossFireXで
異なる傾向を示す消費電力値
いつものように,スコアをログとして残せるワットチェッカー,「Watts up? PRO」を使って,システム全体の消費電力を測定した結果がグラフ19である。
ここでは,OS起動後30分間放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時とした。グラフがかなり煩雑となったので,スコアの値のみを表2にまとめているので,併せて参照してもらえればと思う。なお,グラフ19も拡大画像は用意してあるが,縦方向にかなり大きいので,開くときはご注意を。
さて,結果で興味深いのは,SLIだとi7-965+X58のほうが消費電力は高く,CrossFireXだと逆に低い傾向が出ている点だ。
もちろん,比較対象となるQX9770とは,組み合わせられるマザーボードが異なるので,厳密な意味での横並びには適さない。だが,3-way SLIだとi7-965+X58が最大で110WもQX9770+790iより高いのに対し,4-way CrossFireXだと逆にi7-965+X58がQX9770+X48より最大で70W低いというのは,さすがに「マザーボードの違い」の一言では片付けられそうにない。
なお,SLIテストでシングルカード時に比較するとQX9770+790iのほうが消費電力値は高いので,SLI構成を組むと,とたんに消費電力が上がってしまう印象だ。より高い効率で動作している,と好意的に解釈することはもちろん可能だが,少なくとも,X58プラットフォームでSLI構成をとる場合は,電源ユニット選びが,これまで以上に重要となりそうである。
マルチGPU環境ならCore i7のほうが魅力的
最強のゲームプラットフォームなのは間違いなし
Core i7+X58は,冷却や消費電力周りの苦労をものともしないコアゲーマーにとって,マルチGPU環境における現時点で最強のプラットフォーム。そう述べても過言ではないだろう。
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