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「ニコニコ大会議2008」レポート。ニコニコ動画の行く末や狙い,MAD文化を推進する理由とは?
ニコニコ動画といえば,このところ大きな注目を集める日本発の動画共有サービス。最近では,MAD動画(二次創作動画)の削除についての発表が物議を醸すなど,いろいろと話題の尽きないサイトでもある。
発表会では,特定のユーザーだけと動画を共有できるコミュニティ機能「ニコニコミュニティ」の追加や,コメント欄に入力することでいろいろなアクションが行える「ニコスクリプト」の強化などがアナウンスされた。また,新たに動画素材を共有するためのサービスである「ニコニ・コモンズ」など,MAD動画のムーブメントを加速させるための仕組みも発表。ほか,ニコニコ動画のスペイン語版やドイツ語版のサービスも開始するなど,“世界”へ向けた取り組みも実施していくという。
本来はゲーム中心で情報を扱う4Gamerであるが,いまやゲームのプレイムービーも普通に見かける場となったニコニコ動画ということで,ひっそりとイベントに参加してみた。発表された内容をいくつかピックアップしながら,ニコニコ動画の行く末やその狙い,MAD文化などについても,ちょっぴり推測/考察してみたい。
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会費収入は1億を超えたが,会員の伸びは鈍化
そんな発表会は,まずニワンゴの代表取締役である杉本誠司氏が簡単な挨拶を行ったのち,ニワンゴの親会社であるドワンゴの代表取締役 小林 宏氏が登壇。ニコニコ動画の現状や,今後の抱負などを語った。小林氏の報告によれば,ニコニコ動画の7月1日時点の登録ユーザー数は790万人。うち有料の「プレミアム会員」数は20万4000人,携帯電話向け「ニコニコ動画モバイル」は191万人とのこと。広告の売り上げは,月額4000万規模になるという。プレミアム会員の月額使用料は500円なので,計算すると,20万4000人×500円=1億200万円。つまりはこれに広告売り上げの4000万円を足した1億4200万円が,現在のニコニコ動画の月間の売り上げということになる。抱えているであろうインフラコストや,事業そのもののイニシャルコストなどを考えると,決して「儲かってウハウハ」とまでは言えないと思われるが,売り上げは着実に伸びているようだ。
2008年3月3日 2008年7月1日
会員数 約560万人 790万人
プレミアム会員数 約18万9000人 20万4000人
モバイルアカウント 約114万人 191万人
とはいえ,今年の3月時点のデータから比較すると,プレミアム会員の伸び幅が極端に少ないのが気になるところ。ひろゆき氏自身も「個人的には,プレミアム会員になんの魅力も感じなかった」と爆弾発言(?)をしていたが,動画を普通に見るぶんには,無料会員でもほとんど不自由しないのは確かだろう。
今回発表された機能のいくつかには,プレミアム会員向けに+αのサービスを実装しているものが多く,今後は,無料会員をいかにプレミアム会員へと誘導していくかが,サービス展開の一つのポイントになってくることは間違いない。
「i-mode」の立役者が顧問に
小林氏に続いて現れたのは,お馴染みのひろゆき氏と,元NTTドコモ執行役員の夏野剛氏の二人。夏野氏は,7月4日付けでドワンゴの顧問に就任しており,その発表も兼ねての登場だ。いわく「世界に打って出られるコンテンツはほかにはない」「ニコニコ動画の黒字化を担当する」とのこと。
夏野氏といえば,かつてはi-mode普及の立役者として活躍した人物。夏野氏は,「ニコニコ動画の弱点は,大きな会社のお偉いさん方と“大人の話”をする部分だと思う」とし,「僕がぜひ大会社のおじさん達をニコ厨にしていきたいと考えている」と,その意気込みを語っていた。
ひとしきりのトークが交わされた後,ひろゆき氏と夏野氏が進行役を務めながら,ニコニコ動画の各種新機能が紹介されていった。詳しくは公式Blogの「こちら」を参照してほしいが,ざっと抜粋すると以下の通りだ。
■新サービスについて
・ニコニコミュニティ(7月5日開始)
・ニコニ・コモンズ(8月中旬予定)
■追加機能などについて
・ニコスクリプト新機能「夏ニコス」
・一斉世論調査「ニコ割アンケート」
・海外版の対応を強化
・ニコニコ市場テーマソング発表
・ai sp@ceでニコニコ動画を再生
・ファッションブランドとコラボ
・ニコニコムービーメーカーVer.UP
・H.264をすべてのユーザーへ開放
合法的なMADムービーが今後の展開の焦点
念のため説明しておくと,MADとは,映画やアニメや漫画などの一部シーン/カットを切り出して,新たな動画作品として編集し直したもののこと。ニコニコ動画などでは,このMAD動画がユーザーの間で大きな人気を呼んでいるわけなのだが,ほぼすべてのMAD動画が著作権的には「黒」というのが実情だ。
このニコニ・コモンズは,そういった問題を解決すべく考えられたサービス。簡単にいってしまえば,Web上における「フリー素材」のようなものなのだが,ニコニ・コモンズの面白いのところは,その素材がシステム的に管理(コモンズIDが割り振られる)され,コンテンツとそれに使われた素材の関係などが「可視化」されるという部分だろう。作品利用者は,派生作品を発表(アップロード)する際に,どの素材(コモンズID)を使ったかを申告でき,それによって著作物の利用情報が把握できるようになるのだという。
登録可能な素材は音声,動画,画像などを予定しており,クリエイターは,プロ/アマチュアを問わず投稿可能。またAPIを提供することで,ニコニコ動画以外のサイトについても,ライセンスの追跡/管理を行えるようにするらしく,外部対応サイトの第一弾としては,イラスト投稿で盛り上がりを見せるSNS「pixiv」が予定されているようだ。ちなみに,「ニコニ・コモンズ」ライセンスを利用したビジネスも制限しないとの説明がされたものの,具体的にどんなビジネスを想定しているのかなど,細かい話は現時点ではなされなかった。実際のところどういう可能性を見いだしているのか,なかなかに気になるところであろう。ドワンゴ側は,これによってクリエイターが刺激し合える環境を構築し,創作活動の活性化を図っていきたいという。
権利侵害MADの削除とは,コインの裏表
このニコニ・コモンズの発表は,つい先日発表された「MAD動画も含めた著作権侵害コンテンツの,著作権者からの削除要請にニコニコ動画が応える」という件にも関連している。つまり,今後は可能な限り透明化していき,より健全な形で二次創作活動の場を作っていくという流れの一環だ。
解説やその後の質疑応答の中で,ひろゆき氏は,MAD動画の削除,あるいは削除時に削除要請をした権利者の名前を表示する機能などについて,「MADが消されることがそんなに問題だとは思っていない。この素材は使ってはいけませんという話になっても,これまでMADを作っていた人はきっと「使って良いもの」の中でMADを作り続けるんじゃないか」とコメント。
加えて,「削除時の権利者の表示については,今までは,どういった理由で動画が消されているのかが分からないのが問題だった。例えば動画が消されるにしても,動画の中のこの音楽が駄目だったとか,あるいはこのキャラが問題だったとか,いろいろと違う。今までMADを作っていた人達は,これなら大丈夫じゃないかと思っていながら消されたり,逆にどう考えても駄目だろうと思っていたものが残っていたりみたいな経験があるんじゃないか」と語り,「だから,何が駄目で何が良いのかをハッキリさせるのが目的」と,その機能の意図を説明していた。
動画にコメントを付けられるというところからスタートし,(インタビューへの回答ですでに片鱗は示されていたが)今回の発表でMAD文化に向かって大きく舵を切り始めたニコニコ動画。今後,どういった形/未来像を目指していくのか,なかなか興味深い点だといえよう。
ともあれ,イベントは大盛況のうちに終了。収容人数が2000人程度と言われるJCBホールであるが,それがほぼ満席になるほどの大賑わいであった。「こういうイベントを定期的に開催できるよう頑張りたい」,ニワンゴの杉本氏はそう語り,イベントを締めくくった。
消費者が直接参加する,新しい娯楽の開拓こそが狙いか?
さて今回のイベントを見て気になったのが,ニコニコ動画が「どんな未来像を描いているのだろうか」という点だ。もっとあけすけにいえば,MAD文化を世に広めていくことに,どんな「ビジネス的」な勝算があるのだろうかという疑問である。
ニコニコ動画の経済効果といえば,一般には広告効果が取り沙汰されがちである。これを端的に言うと,見る人/知る人が増えれば,結果として「買う人」も増えるだろうという理屈である。どんな商品であれ,知ってもらわないことには始まらないのは確かだし,その点は間違ってはいない。しかし,本当にそれがニコニコ動画の真の狙い,あるいは効用なのかといえば,どうも違うように思えてならない。
今回のイベントおよび,これまでのニコニコ動画の活動経緯を見てきて,ぼんやりと連想したのは,「カラオケ」の歴史とビジネスモデルだったりする。
ご存じのようにカラオケは,歌うという行為をレジャー化,産業化したものである。歌うという行為,文化自体は,それこそ大昔からあったわけだが,カラオケというのは,酒場でギター弾きが小銭を稼ぐ時代から始まり,テープレコーダーを使ったカラオケシステムの販売を経てスナックなどに普及,それがカラオケボックスという事業形態を得てビジネスとして大ブレイクしたという歴史がある。
言うなれば,ごく小さなローカルの場の大衆文化(酒場で歌う)でしかなかったものが発展し,一つのレジャー/産業として進化していったものが,今日のカラオケであるわけだ。細かくは「歌声喫茶」などといった別の系譜も考慮する必要があるとは思うが,カラオケの面白いところは,「プロの歌を売る」というビジネスから派生して,いつしか一般の人が歌を歌うという需要(消費)を一般化させ,それをビジネスとして成り立たせてしまった点にある。
翻って現在のMAD文化はどうだろうか。ひろゆき氏のこれまでの発言を見る限り,彼らの真の狙いは表面上の広告収入とかではなくて,どうも「そういうあたり」にある気がしてならないのである。少なくとも,以前のインタビューなどを鑑みるに,ひろゆき氏が単純な広告効果云々という視点でMAD文化を見ていないのは明らかだろう。
もちろん,「そういうあたり」の中身が,具体的にどういう形になるのか筆者にはまだ分からない。分からないが(あるいは分からないからこそ),新たな面白さを作り上げていこうという彼らの頑張りを今後も注意深く追っていきたい思う次第なのである。一方でいくつもの課題,難問が見えているニコニコ動画ではあるが,その解決のための方途を含め,これからの活動にも注目していきたい。
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