インタビュー
「ブラウザ三国志」サービスイン8周年記念対談。生みの親・椎葉忠志氏と現プロデューサー・五味一郎氏が赤裸々に語った激動の歴史とは
さらに新設されたw19ワールド(公式版,mixiゲーム版,ハンゲーム版),36ワールド(Yahoo! Mobage版)では,1シーズン限定で,サービスイン当初の武将カードのみを使ってブラ三を楽しめる「クラシックワールド」を展開している。クラシックワールドでは,武将カードのイラストやデザイン,都市のレイアウトも当時のままだ。
クラシックワールドの登場により,8年前と現在とが交わるのであれば,当時のエピソードなども聞いてみたくなるというもの。そこで今回,ブラ三の生みの親にして初代・ブラ三プロデューサーである,Aiming 代表取締役社長 CEO 椎葉忠志氏と,現・ブラ三プロデューサーの五味一郎氏の対談を企画し,お二人に本作の8年間の歩みを振り返ってもらった。
「ブラウザ三国志」公式サイト
「ブラウザ三国志」8周年記念キャンペーン特設ページ
予算は5000万円(!)
スタッフ8人で開発が始まった「ブラウザ三国志」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
五味さんは椎葉さんと,今回初めてお会いになるそうですね。
五味一郎氏(以下,五味氏):
そうなんです。今日は,現在のプロデューサーとしてだけでなく,長年ブラ三で遊び続けているプレイヤーの一人としても,当時のお話をうかがいたいと思っています。
椎葉忠志氏(以下,椎葉氏):
ためになる話ができるかなぁ(笑)。
4Gamer:
いやいや(笑)。
まずは椎葉さんに,サービスイン前後のエピソードを教えていただきたいのですが。
もともと僕はPCオンラインゲームの会社にいて,そこを辞めて2008年にONE-UPでオンラインゲーム事業を始めたんです。ただその頃って,PCオンラインゲームのプレイヤーはこれ以上爆発的に増えそうにない,かといってコンシューマゲームのオンライン化もなかなか進まない……という時期だったんですね。
そんな状況の中,僕は「すべての端末がネットにつながって,誰もがオンラインゲームを遊ぶようになる」と主張していたんですが,なかなか理解が得られませんでした。
それでも頑張って,「基本無料のオンラインゲームを作りましょう」と各社に提案して回っていたんですが,なかなか話が進まなかったんですよ。
五味氏:
ちょうど時代が移り変わるか変わらないかという時期ですね。
椎葉氏:
その一方で,当時の僕はフィーチャーフォンの勝手サイトが伸びていることや,ニンテンドーDSがヒットしたことに着目していました。そういった隙間の時間に遊べるものは強いな,と。そして誰もが自宅でも会社でも使っているPCで,隙間の時間を使って遊べるものに,ブラウザゲームがあったんですよね。
もっとも,当時の日本では「Travian」を遊んでいる人が多少いたというくらいの認知度でしたし,中国をはじめとしたアジア市場でもそんなに目立った動きはありませんでした。
五味氏:
それでご自身でブラウザゲームを作ろうと考えたわけですか。
椎葉氏:
ええ。Travianも最初はつまらないと思ったんですけれど,だんだん可能性が見えてきて。というのも,Travianは半年も遊べばやることがなくなってしまうんですが,そこに領土の取り合いと3〜4か月ごとのリセット,そしてサーバー統合によって新しい敵が生まれるというサイクルを入れれば,より長く遊べるゲームを作れるんじゃないかとひらめいたんですよ。
それに,領土の取り合いがあれば自然にコミュニティが生まれますし,戦争で勝つためにはガチャでカードを引いて、それを合成してキャラクターを育てなければなりませんから,ビジネス的な要素も満たせます。そんな経緯で作り始めたのが,ブラ三でした。
4Gamer:
開発はスムーズに進んだのでしょうか?
椎葉氏:
いやいや,とんでもない(笑)。
何しろ予算が少なかったですからね。AQインタラクティブ(現マーベラス)が,「椎葉はオンラインゲームのプロだから,これで好きなものを作りたまえ」と出してくれた予算が当初5000万円でしたから,それをどう割り振るかで頭を悩ませました。
おそらく今回のクラシックワールドで初めて初期ブラ三のカードを見る人は「イラストがしょぼい」と思うでしょうが,そりゃそうですよ。予算がないから,イラストにお金を使えないんです。
4Gamer:
今やカードゲームは,美麗なイラストが入っていて当たり前ですからね。
椎葉氏:
ただ,実のところカードゲームのイラストって,遊んでいるうちにある時点からあまり重要ではなくなるんですよね。プレイヤーの中で記号化されて,パラメータだけが大事になる。それは「マジック:ザ・ギャザリング」もそうだし,例えばアーケードゲームの「三国志大戦」や「LORD of VERMILION」もイラストがセールスポイントの一つになっていますが,同じ傾向にあるでしょう。
4Gamer:
ぱっと見で目を引くのはイラストですが,遊んでいるうちに見慣れてくるものではありますね。
椎葉氏:
そう。遊び込んでもらうことを前提にするなら,少ない予算の中でイラストにコストをかける必要はないと考えたわけです。
4Gamer:
そこは最初から割り切って作り始めたと。
椎葉氏:
そういうことです。そんなこんなで実際にブラ三を作り始めたのですが,最初は「Travianをベースに3割ぐらい変える程度なので,簡単なもんだろう」と思っていたんです。でも,まったくの見込み違いでした。
ゲームは,内容を3割変えたらもう作り直しなんですよね。それこそ,血ヘドを吐く思いで作っていました。
4Gamer:
ちなみに当時ブラ三の開発に携わった人数はどれぐらいだったのでしょうか。
椎葉氏:
自分を含めて8人です。オフィスも小さくて,荷物を持ってきた宅配便の業者が間違えて会議室に入ってしまったと思ったのか,あわててドアを閉めて帰っちゃうくらいの規模でした。
ツラい部分を乗り越える面白さがあるからこそ
プレイヤーがのめり込んでいった
4Gamer:
そんなブラ三も,今ではブラウザゲームブームの先駆けとして知られる存在です。
椎葉氏:
2009年4月にクローズドβテスト(CBT)実施,続いて7月に正式サービスを開始したんですが,実際にブラ三が注目されたのはmixiゲームのサービスが始まってからなんです。
ただ,ブラ三はmixiゲーム用に作っていたわけではなく,たまたまmixiがソーシャルアプリのサービスを提供するタイミングに合っていただけなんですよね。mixiのスタッフがブラ三のCBTに参加して気に入ってくれて,「ぜひmixiゲームで」とオファーしてくれたので,あわてて出したんです。だから売り上げも,2009年の10月頃まではそれほど大きくなかったんですよ。
五味氏:
ヒットのきっかけには何があったんでしょうか。
椎葉氏:
たまたまインバイト機能を上手に使っているアプリを見たんです。「じゃあ,それをブラ三でもやってみよう」と実践したら,どんどん人が入ってきて大成功しましたね。
五味氏:
椎葉さんとして,ブラ三がヒットするだろうという自信はあったんですか?
椎葉氏:
かなり自信を持っていました。僕はよく,「何タイトルものオンラインゲームをヒットさせたプロデューサー」と言われるんですが,正直ブラ三以外はそんなに自信があったわけじゃないんです。「ログレス」(「剣と魔法のログレス いにしえの女神」)だって,4日前まで「これ本当に出すのかよ?」とか言ってたくらいで。
五味氏:
さっきの椎葉さんのお話じゃないですけど,それこそログレスが出るまでは,マーベラスの社内でも「スマホでネットに常時接続して,複数人がリアルタイムで同時に遊ぶゲームなんて無理」という論調が主流でしたよね。
椎葉氏:
本当ですよ。「バッテリーの消費がすごいから無理」とかね。
五味氏:
「非同期じゃないと絶対に成り立たない」という意見もありました。
椎葉氏:
ともかくブラ三には,隙間の時間を取りにいったから当たったという側面があるのは確かです。おっしゃったとおり,そのあとのソーシャルゲームやモバイルゲームなど,同じく隙間の時間に侵食していくゲームが台頭する先駆けとなったと言っていいんじゃないでしょうか。
4Gamer:
それぐらいのインパクトはあったと思います。
椎葉氏:
実際,「ブラ三をすごく参考にした」といってくださる方もいますしね。例えば「ドラコレ」(「ドラゴンコレクション」)を作った兼吉さん(KONAMI 兼吉完聡氏)も,「ブラ三のカード合成はすごく面白いけど,複雑過ぎるからドラコレではシンプルにした」とおっしゃっていましたし。僕からすると,ドラコレのほうが圧倒的に良くできていましたけどね。
4Gamer:
椎葉さんご自身は,ブラ三の何に自信を持っていたのでしょうか。
ゲームの面白さです。当時,CBTの前にAQインタラクティブで社内テストを実施したんですよ。150人くらい参加して木曜日か金曜日から始めたんですが,週明けまで張り付いて遊んでくれた人がけっこういて。そのとき,「まだ完成していないのに,これだけ楽しんでくれるのは,コミュニティの形成や,領地の取り合いに,狙いどおり心を動かされたからだろう」と自信を持ちましたね。
実際,サービスインしてからも夢中になっているという感想のメールをたくさんいただきました。毎日のように自分の周囲の状況を報告してくださる方も大勢いらっしゃいましたし。
4Gamer:
それでは,サービスイン後のアップデートなどで,逆に後発のソーシャルゲームなどから受けた影響はあったのでしょうか。
椎葉氏:
僕らがブラ三の開発を手がけていたのは2011年9月頃までなんですが,2010年後半からドラコレを含めたソーシャルゲームが,週単位のイベント実施や続々とカードを追加するなど,簡単でスピード感のあるコンテンツを展開し,多くの人に受け入れられるようになりました。
一方ブラ三は,いわば苦味成分が旨味になっているようなゲームです。「忙しい」「合成の仕様が難しい」「秒単位でスキルを発動する必要がある」というツラさがあるけれども,だからこそ面白い。それだけの熱量を費やさなければならないからこそ,コミュニティもより強固で深くなっていく。だから僕らとしては,そこはあまりいじらなくてもいいんじゃないかという雰囲気でしたね。
4Gamer:
それまでと変わらないスタンスだったと。
椎葉氏:
自動合成など,仕組みを簡単にしていくのは当然の流れといえばそうなんです。ただ,それはカードを100枚も配るから必要になるわけであって,だったら本当に必要なものを10枚だけ配るようにするほうがいいと思うんですよね。重要なものだけに絞ったほうが面白くなりますよ。
私もいろんなゲームを実際に触りましたが,ブラ三の合成が一番面白いと思っています。
仕組みはすごく分かりにくいんですが,一度理解できると,これが面白い。
椎葉氏:
あえて難解にした側面もあるんですよね。というのも,「分からなければ,ほかの人に聞くでしょ」と。コミュニティがあって,皆で熱量を費やして世界制覇を目指す過程では,絶対に会話が必要になります。その会話のネタの一つとして「分かりにくい合成とスキル」を用意したわけです。コミュニケーションや,ひいてはリーダーシップを生み出すためには,不完全というか,分かりにくいくらいがちょうどいいという考え方でした。
4Gamer:
受け止められ方も狙いどおりだったわけですね。
椎葉氏:
とはいえ,Aimingでブラ三タイプのゲームとして展開している「ロードオブナイツ」(iOS / Android)は,時代の要請もあってもっと簡単なシステムにしているんですけどね。その意味では,ブラ三のプレイヤーは8年も前のゲームなのによく続けて遊んでくれているな……と感慨深いですよ。
五味氏:
実際,8年前からずっと継続しているという方も多いんです。
椎葉氏:
それは,当時のブラ三の熱量が一生の友達・戦友を作ったからなんでしょうね。
4Gamer:
人とのつながりという意味では,mixiとブラ三との相性も功を奏したのでしょうか。
椎葉氏:
確かにブラ三はmixiで火が付いたわけですが,mixiとゲームは相当かけ離れたものだったんです。だってブラ三の前にmixiゲームで一番流行っていたのは,「サンシャイン牧場」だったんですから。ブラ三みたいなゲームがmixiで受け入れられるかってことは,やってみるまで分かりません。
4Gamer:
見た目からして毛色が違いすぎますし。
椎葉氏:
でもフタを開けてみれば,自分で村を作り,ほかのプレイヤーとコミュニティを作っていくゲームですから,一度ハマりさえすれば他者とコミュニケーションを図ることが好きな社会性の高いmixiのユーザーが熱中するのは無理もないんですよね。
五味氏:
mixiには,すでに多くのコミュニティが形成されていたというのも大きいですよね。もともと知り合いがいるところに,コミュニティこそが重要なゲームが投入されたわけですから。
椎葉氏:
でも当のmixiからは,「ブラ三は実名でなくともプレイできるからソーシャルゲームじゃない,オンラインゲームだ」と指摘されていたんですよ。例えば五味さんと僕がmixiの同じコミュニティのメンバーだとしましょう。そこで五味さんが僕をブラ三にインバイトして,僕がブラ三を始めたとしても,ゲーム内の誰が五味さんなのか分からないんです。
でも僕らとしては,領土をめぐって戦うゲームだから,匿名のほうがいいと考えていたんです。だって自分の村を破壊したのがリアルの友達だと分かったら,微妙な空気になるじゃないですか。
4Gamer:
確かに(笑)。
椎葉氏:
当時のガイダンスでは,僕らのほうから実名を使わないよう勧めていた記憶すらありますよ。
五味氏:
インバイトに関しては,さっきほかのアプリを参考にしたとおっしゃっていましたよね。
椎葉氏:
ええ。当初は,匿名のゲームということもあって,mixiのインバイト機能とは相性が悪いと考えていたんですよ。でも当時,インバイトにものすごくインセンティブを付加して,プレイヤーをメチャクチャ増やしたmixiのサービスがあったんです。リアルの友達が作ったものだったので,僕らもそれを真似してみたら,プレイヤーが増えすぎて次々とワールドを増設する必要が出てきてしまいました。
五味氏:
そうなりますよね(笑)。
椎葉氏:
それこそ2〜3日に一つ,ワールドを増設していましたからね。今でこそサーバーを増強するときにクラウドサービスを使うのは一般的ですけれど,当時は事例がなかったし,しかも社内唯一のインフラエンジニアがオーストラリア在住だったので,本当に地獄のような日々でした。社長の僕が夜中ずっとサーバーに張り付いているんですよ。それで何とか対応するんですが,いよいよ無理だとなるとインフラエンジニアをたたき起こすという(笑)。
そんな感じの日々ではありましたが,ブラ三は望外な成功を収めました。繰り返しですが,ゲームの面白さには自信があったんですけれども,もう一つ5000万円の投資金額に対する回収という面でも自信を持てましたね。
勝ち負けにかかわらず
遊び続ける気にさせるワールド増設・統合の仕組み
五味氏:
実は私もTravianのヘビープレイヤーだったので,当時,同じようなゲームを開発している人達がいると聞いて,一緒に働いてみたいと思ったことがあるんですよ。
椎葉氏:
ああ,そうだったんですか。でも本当にキツかったから,オススメはできませんね(笑)。当時のスタッフに会うと,いまだにそのときの文句を言われるぐらい。ただ,それでもブラ三を作りきるしかなかったんですよね。
五味氏:
当時,ブラウザゲームを作ることは新しいことで,前例もほとんどありませんでしたしね。Travianも,ブラウザさえあればどこでも遊べるという点が新鮮でしたし。
椎葉氏:
そういえば僕らは,Travianの日本第2サーバーのトップ同盟だったんです。ゲーム内では「いつ攻撃しても必ず対応される。あいつらの職業は何なんだ」なんて言われていて(笑)。
五味氏:
私はその当時,マーベラスのコンシューマ部門に所属していて,同僚を誘ってTravianをやっていたんですが,あるとき「もう五味には付いていけない」と言われてしまったんです。「朝5時に起きてプレイするのは無理だ」と。
椎葉氏:
僕らもそんな感じでしたよ。「朝4時に攻撃するから集まれ」とか(笑)。
4Gamer:
ヒドい(笑)。
五味氏:
しかもTravianは終わりがないじゃないですか。
椎葉氏:
終わりがないというか,さっきもちょっと話したけど,ずっと遊んでいるとシーズンの途中からWonder of the Worldを作る以外にやることがなくなるんですよね。戦争は最初の1か月でほぼ終わってしまうから。
五味氏:
でも,確かシーズン開始から6か月くらい経過しないと,Wonder of the Worldを建てられる村が登場しないんですよね。
椎葉氏:
そうそう。兵を作ってしまうと内政的に負けなので,誰も作らない。だから戦争を仕掛けてもすぐに終わってしまう。とにかく戦争が無駄にしかならなかったんです。Travianのそういった部分を踏まえて,ブラ三はどうするべきなのか,よく考えたんですよ。それで「絶対に戦争をしなくちゃいけない」というテーマにして,仕様を切ったんです。
そのためにも,例えばブラ三では,常に兵をたくさん集めておかないと無理だという仕様にしています。これは銃に弾を込めておけば,誰かがトリガーを引くだろうという発想に基づくものです。
4Gamer:
ブラ三は,戦争に勝ってもシステム的なメリットがないですよね。何かメリットを用意しないと,誰も戦おうとしないのでは? という懸念はなかったのでしょうか。
実際,そういう議論もありました。しかし「世の中はけっこう好戦的な人だらけだ,ということを信じよう」と(笑)。実際,ブラ三の戦争の発端は,同盟間の小さなもめごとなんですよね。
また,こうしたゲームで戦争の勝者にメリットを与えると,プレイヤー間で馴れ合いが発生しやすいんです。以前,運営を手がけていたMMORPGは,戦争に勝ったギルドに大きなメリットがありました。そうなると強豪ギルドが戦争に勝つことに貢献するから,代わりに何かメリットを寄こせというギルドが出てきて,ゲーム本来のシステムとは別のプレイヤー間同盟ができてしまうんですよね。
だから戦うとリアルの生活が圧迫され,勝ったからといってとくにメリットもないブラ三の戦争をやると,徒労感だけが残って「戦争は良くないことなんだな」と実感できる(笑)。
五味氏:
落城したときには,むしろホッとしますよ(笑)。
椎葉氏:
負けたことは悔しいんだけど,「これで楽になれる」という気持ちも確実にありますね(笑)。
五味氏:
48時間後の前線復帰まで何もできないので,「仕方ない,今日は休もう」と(笑)。
椎葉氏:
実を言うと定期的なワールドの増設と統合は,そういった戦争に負けた側の心理を考えて用意しているという部分もあるんです。Travianのように戦争に負けたら6か月間やることがなくなってしまうと,プレイヤーの離脱を招いてしまうんですよね。
そこでブラ三では,たとえ第1ワールドで負けたプレイヤーも,新しく建った第2ワールドに移籍すれば今度は勝てるかもしれないと思えるような仕組みにしました。再び負けて「このゲーム,もういいや」と思っても,「第3ワールドができるらしい」と聞けば,もう1回チャレンジする気になる可能性があります。さらに「今回はここが弱点だったから,次はこうすればうまくいくんじゃないか」というやり取りでコミュニティが盛り上がるだろう……と。
ワールド増設の仕様も,こういう理由で決めたわけです。
五味氏:
さすがに8年経ったので,当初のような殺伐さは薄れてきたと思いますが,椎葉さんの狙いどおりにコミュニティを維持しつつ遊んでいただいている印象は受けます。2016年には長年ブラ三を遊んでくださっている皆さんをリアルの場に招いて,一緒にお酒を飲む機会を設けたのですが,基本的に皆さん,仲がいいんですよ。
ただ,シーズンの終わりが見えてくると「お前は来期,どこ行くの?」みたいな小競り合いが始まるんですよね。
椎葉氏:
そういった「アイツ,今期一緒のワールドでちょっとムカついたから,来期は別のところに」みたいなプレイヤーの心理も含めて,ワールド増設の仕様を決めたんですよ。
ワールド統合といえば,2015年7月にはブラ三の公式版,mixiゲーム版,ハンゲーム版の三つのプラットフォームのプレイヤーが,同じワールドで遊べるようにしました。それを記念して,各プラットフォームのどこが強いのかを決める「登録サイト対抗戦」を開催したのですが,これが盛況でした。各プラットフォームでどこの同盟が最強なのか,マンネリ化していたところに,知らない同盟が大挙して登場するわけですから,そりゃ盛り上がりますよね。
椎葉氏:
それも当初の狙いどおりです。これもMMORPGの運営で学んだことですが,一度「オレがサーバー内最強!」となっても,サーバー統合で知らない強い敵が現れると盛り上がるんですよ。だからブラ三は,最初からワールド統合を前提とした仕様にしました。
4Gamer:
そこにもオンラインゲームの運営経験が活きているんですね。
椎葉氏:
プレイヤーとしての経験もありますね。その双方から,ダレていくところがあるから離脱しやすくなるし,対戦があるから長く続けやすくなるということを強く意識してブラ三を作っていきました。
また,オンラインゲームの運営は,常にインフレと向き合わなければなりません。コンテンツの追加だけでインフレを支えるのはまず不可能ですから,いかにしてインフレしたプレイヤー同士の対戦に向かわせるかという部分をすごく考えていましたね。
五味氏:
登録サイト対抗戦は,最初は三すくみ状態で,ぶっちぎりでmixiゲームが強かったんですよ。そこで公式とハンゲームが手を組み,大逆転するというドラマが生まれて,見ている私達もすごく面白かったんです。
椎葉氏:
君主同士が話し合い,協力して強豪を倒すという,リアルの政治の世界みたいなことが起きるのも,ブラ三ならではですよね。ここまで話し合って,裏切ってが起きるコミュニケーション性の高いゲームは,世界的に見てもなかなかないですよ。
4Gamer:
そのほか,椎葉さんがブラ三を振り返って,ここは良かったと思う部分はありますか。
椎葉氏:
ガチャを1回引くのに600円かかるという設定にしたことです。当初は1回300円にするつもりだったのですが,それだとガチャを引く頻度が増えるので,その分,いらないカードを作る必要性が生じてしまうんですよ。
4Gamer:
先ほど,無駄なカードを入れて100枚にするより,必要なカード10枚のほうが面白くできるとおっしゃっていましたね。
椎葉氏:
ええ。ガチャを回す頻度が高いと,お金を使うプレイヤーとそうでないプレイヤーの格差が広がります。今どきのスマホゲームは比較的誰もが抵抗なくガチャを回していますが,当時はそのあたりが二極化していたんですよね。
しかもブラ三のようなゲームは,無料で遊びたいプレイヤーが面白いと感じてプレイを続けてくれないと成立しません。僕自身はお金を使ったプレイヤーがやや強い,あるいはプラシーボ効果で強いと思い込んでいるくらいがちょうどいいと考えていたので,あまり差を付けたくなかったんです。
4Gamer:
そのバランスこそが重要である,と。
椎葉氏:
そこでガチャ1回300円は無理,かといって1000円はもっと無理……と考えて,落としどころとなったのが600円でした。そのうえで「無料でもかなり遊べる」といってもらえるバランスにできたのは,本当に良かったですね。そうやっていろんな遊び方の人が,コミュニティの中できちんと役割を得られていましたし。
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