連載
【ヒャダイン】次期首相,トルネコに一票!
ヒャダイン/前山田健一 / 歌手・作詞家・作曲家・編曲家・プロデューサー
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
作曲家,作詞家,編曲家,歌手として八面六臂の大活躍を繰り広げるヒャダイン/前山田健一氏の(たぶん)月刊連載,「ヒャダインの『あの時俺は若かった』」がスタートしました。
この連載では,ヒャダイン氏が幼少期に遊んだゲームの思い出,当時考えていたことなどを通して,それが現在の活動にどんな影響を与えているのかを,少しずつ浮き彫りにしていきます。
第1回「次期首相,トルネコに一票!」
さて。今回取り上げるのは,「トルネコ」。そう。1990年に当時のエニックスより発売されたファミリーコンピュータ用ソフト,「ドラゴンクエストIV 導かれし者たち」(リンク先はニンテンドーDS版)で初めて登場し,その後,スピンオフ作品で何作も主演を務める何かと人気なキャラクターです。実はそんなトルネコから,知らず知らずのうちに学んだことがあります。
ここではそんなお話をさせていただこうと思うんですが……。トルネコ。ツッコミどころが満載なんですよね。そこでまず,彼の初出演作である,FC版DQIVにおけるトルネコのストーリーを振り返ってみましょう。4Gamer読者の皆さんであればご存じでしょうし,「俺もそう思ってた!」みたいな部分もあるかもしれませんが,そこはご容赦を。
トルネコ。田舎町レイクナバの武器屋で雇われ店員をしている,大肉中背の中年男性。年齢は非公開ですが,ルックスからみて,だいたい40歳くらいと推定。妻・ネネと息子・ポポロという核家族。ポポロは小学校低学年くらいの設定かと。
で,ゲームのスタートは,嫁の弁当片手に武器屋に通ってオーナーに挨拶をして,来る客にひたすら武器を売る。ひたすら,売る。時々,中古買い付けもする。そして,時間が来たらオーナーが出てきて,約100G(ゴールド)を日給としてもらう。そして,家に帰って,寝る。この繰り返し。
そう。ゲーム開始時点のトルネコは,妻子持ちのフリーターなのです。そもそも,日給の100Gというのは,高いんでしょうか安いんでしょうか。ではまず,そのあたりを検証してみましょう。
検証材料として使用するのは妻・ネネ特製の「おべんとう」の売価。どこの馬の骨が作ったか分からない弁当を買い取る道具屋の気が知れないけど,とにかくこのおべんとう,売却できます。その売価が7G。DQIVにおいてアイテムは,買い値の75%で売ることができるので,おべんとうの一般小売価格は9Gと計算できますね。
さて。2012年の日本での弁当の平均価格,いくらなんでしょう。大体でいーや。計算しやすいように「540円」としましょうか。そんくらいですよね。ということは1G=60円,ということが概算できますね。
おまたせしました。1G=60円のレートで考えると,トルネコの日給は6000円。決して高くない。妻子持ちとしては厳しい状況です。
で,そんなトルネコ。ストーリーを進める為には,このバイトをほったらかして,フィールドに出かけなければいけません。そう。無断欠勤。安日給とはいえ恩義のあるお店に,なんという不義理。
レイクナバという狭い田舎町のことです。この悪行はすぐに町中に伝わることでしょう。「トルネコさんところの旦那さん,仕事ブッチして町の外をほっつき歩いてるらしいわよ,ゴニョゴニョ」。
そしてフィールドで何をするか,というと,モンスターハント。DQIVのトルネコ章はシステムが独特で,HP8くらいの「いたずらもぐら」を倒したら売値900Gの「てつのよろい」をゲットできたりします。ちっこいもぐらが「てつのよろい」を引っ張りながらフィールドを歩いている異様な光景がそこにあるのです。
それにしても900G。9日分の給料です。そりゃ,バイトをブッチするのも当然でしょう。
さらに,そこからの行動にもなかなかエグいものがございまして。高貴なお城ボンモールにて,レイクナバ出身のおバカな若者がツマラン犯罪を犯して牢屋に収容されているという情報をキャッチ。トルネコは看守の目を盗んで,ソーッとキメラの翼を手渡し,脱獄させるわけです。完全に脱獄幇助ですね。その後,無断で王子の部屋にズカズカ入っていったりと,やりたい放題。不法侵入ですね,トルネコ。
そこでボンモールと隣国エンドールが,戦争直前という情報をキャッチ。防具不足に悩むボンモールに,トルネコは一般小売価格の2倍以上の価格で防具を売りつけ始めます。まあ,買いたい人がいるんだから悪いことではない。けど,あざとい。
しかし! トルネコはそれでは飽き足らなかった。そこで,両国の戦争を回避させる方向に暗躍し始めます。両国の王子と王女が恋に落ちていることを利用し,フィクサーとして縁談をまとめ,戦争を回避。両国王からの絶対的信頼を勝ち取ります。
続く舞台は大都会エンドール。トルネコはそこで自分のお店を持つチャンスを得ます。大都会での夢の路面店です。が,その為には大金が必要になります。今までの商売方法では,時間がかかりすぎる。トルネコはついに,やってしまいます。
洞窟に潜入して「ぎんのめがみぞう」を持って帰って,売却。誰のものとも分からない女神像を,売却。盗掘した遺跡を売っぱらうようなもので。神をも恐れぬ男,トルネコ。
そんなこんなでお店を持ったトルネコ。店主を妻であるネネに任せるのですが,アコギ。ていうか,ボッタクリ。一般小売価格の数倍でお客さんに売りつけます。目の前にライバル店があるのですが,そこで大量に武器を買ってネネに渡すと,明日には数倍の売上として自分の財布に入ってくる。
「ネネは商売上手」という設定ですが,商売上手ってだけじゃ説明できないですよね。わざわざネネのいる店で買う,ということは……?
さらにトルネコ。「伝説の武器」を探すという名目のもと,もっとワールドワイドに商売をしようと目論みます。その為に,私財を投じて土木開発に着手。エンドールから隣国ブランカまでの交通網を整えます。武器屋はネネに任せ,預かり屋として営業。勇者一行の道具や現金を預かったりしているのですが,現代の銀行がそうであるように,きっと一般の客には金貸しをしているんだと思います。嗚呼。
その後も船舶事業に着手,主要な灯台が魔物の巣窟になっているということで,見ず知らずの勇者一行に退治させにいきます。
そして,「自分も導かれし者だ」と勇者一行に付いていくことになります。が,戦力にはならず馬車でのーんびり,食っちゃ寝,食っちゃ寝。でもDQIVの場合,フィールドでは馬車にいるメンバーもレベルアップします。なので,のんびりしてるだけでどんどん成長。皮肉なことに,トルネコのレベルアップの伸び率はメンバーNo.1で,増えていくHPは,まるで体重を暗喩しているかのようです。
こんな感じで活躍する(?)トルネコなんですが,このサバイバル能力,見習うべきところが多いんじゃないでしょうか。
幼少期,なぜトルネコが主人公の一人なのか,本当に不思議でした。だってね,戦士のライアン,お姫様のアリーナと神官のクリフト,アリーナの教育係である魔法使いのブライ,踊り子マーニャと占い師ミネアの姉妹,そして勇者というほかの主人公達と比べて,明らかに異質ですよね,トルネコ。でも,大人になった今,彼が主人公の一人に選ばれた理由が分かる気もします。この図々しさ,実は少し参考にもしています。
中年妻子持ちのフリーターから,勇者一行として荒稼ぎ。ついにはスピンオフ作品で主演を務めるまでに至る。完全にサクセスストーリーですよ。やり口は正直エグい。けど,常に目標まで最短距離で,軸もぶれない。あと,プライドの投げ捨て方も,お見事。
どんなえげつないことをしようと,「だからなに?」。
馬車で食っちゃ寝。「だからなに?」。
この鈍感力。図太さ。色んなものに振り回されて首相がガンガン交代する昨今の日本。いっそトルネコが首相になったら,なんだかうまくいくんじゃねえか,なんて思ってみたり。
こんな具合に,ゲームキャラを脳内で妄想し続けて31年。誰に頼まれたわけでもなく一人で磨いた妄想力が,アニメのキャラソン作りとかに役立って,生計を立てられるようになりました。
■■ヒャダイン/前山田健一(歌手・作詞家・作曲家・編曲家・プロデューサー)■■ 野宮真貴さんの歌手生活30周年を記念したセルフカバーアルバム「30 〜Greatest Self Covers & More!!!〜」で,名曲「ベイビィ・ポータブル・ロック」をプロデュースするなど,音楽業界からの注目度がますますアップしているヒャダイン氏。2月12日(日)には,恵比寿リキッドルームで開催される音楽イベント「秋葉原三丁目〜Kids Are United〜」で,ライブパフォーマンスを披露する予定。なお,このイベントは小中高校生の入場料が無料となっていますので,生ヒャダインを見てみたいキッズはこの機会にぜひ。 |
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ドラゴンクエストIV 導かれし者たち
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