連載
【ヒャダイン】「MOTHER2」という,奇跡のゲーム
ヒャダイン/前山田健一 / 歌手・作詞家・作曲家・編曲家・プロデューサー
ヒャダインの「あの時俺は若かった」 |
第12回「『MOTHER2』という,奇跡のゲーム」
この収録曲の中に,自分としても「これを収録できて良かった!」と,とても嬉しく思っているものがあります。
それは,あの往年の名作「MOTHER2 ギーグの逆襲」に登場する名脇役,「トンズラブラザーズ」のBGMを使って歌ってみた,「トンズラブラザーズのテーマ 2012」です。各関係者様,本当にありがとうございます。
トンズラブラザーズは,某ブルースなブラザーズをオマージュしたブルースバンドで,「ほしいもの それは かね」など,お金のことばかり言っているせいか金銭トラブルが多く,借金のかたに劇場でパフォーマンスをさせられています。そこを主人公達に助けられるという,憎めない奴らなのです。
さらに嬉しいことに,「MOTHER」シリーズでゲームデザインを担当した糸井重里さんの,「ほぼ日刊イトイ新聞」の企画として,サカモト教授(頭にファミコン載っけてる人。実は僕と大学の同級生)と一緒に“MOTHER2 LIVE”をやることができました!!
そこに現れたのは,MOTHERシリーズの音楽を手がけられた鈴木慶一さんと田中宏和さん! オリジネーターがきたーーーーーー!! お二方にはギターとベースで参加していただき,パーカッションの方も交えつつ,教授はピアノ,僕はオルガンや鍵盤ハーモニカを担当しました。
どせいさんの姿が思い浮かぶ「スリークのテーマ」や「ツーソンのテーマ」「フォーサイド(摩天楼に抱かれて)」「Pollyanna(I Believe in You)」,さらには「ビコーズ アイ ラブ ユー」などなど,名曲を演奏させてもらったんです。
もうね。演奏しながら鳥肌じーーーん。さらにさらにさらに!! スペシャルゲストとして元ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんにも参加していただき,かの名曲「スマイル アンド ティアーズ」を歌っていただきました。もちろん伴奏は我々! 生きてて良かったー!!
あ,私も僭越ながら「トンズラブラザーズのテーマ2012」をトンズラ風のコスプレで歌わせていただきました。恐縮です。この模様はUstreamとニコニコ生放送で配信されていたんですが,なんと約7万人もの方々に見ていただくことができました。糸井さんはこの日,京都にいらっしゃったのでお目にかかれなかったんですが,現地からネットを通じて見ていてくれたそうです。
それにしても,約7万人とは……MOTHER2という作品の根強い人気に,あらためて驚かされた次第です。
「おとなもこどももおねーさんも」のキャッチコピー,SMAPの木村拓哉さんによるCMなど,当時から話題でしたが,ゲームの内容が素晴らしすぎるんですよね。仲間と出会いながらボスを倒しに行くという,それだけ書いたらスタンダードなRPGですが,ディテールがいちいち素敵なんです。
敵をやっつけてもお金は手に入らなくて,遠くにいるパパに電話をしたら「口座にお金を振り込んでおいたよ」と言われ,キャッシュカードでディスペンサーから引き落とすという「金銭」の描き方。街にいる人達に話しかけても,ほとんどがストーリーの本軸にまったく関係ないことだったり,単なるぼやきだったり,シュールな内容だったりと,大人がニヤリとできる要素がたくさん。
敵は宇宙人なんだけど,最後の敵の破綻ぶりや撃退方法などは,本当に深く考えさせられるところがあります。
そして「MOTHER3」につながるポーキーという存在。誰からも愛されることなく,お金や権力だけを信じてのし上がっていくポーキーは,こどもなのに「おとな」のイヤなところがすべて詰め込まれたかのような存在。ひたむきに進んでいく主人公ネス,ポーラ,ジェフ,プーとの対比で,それはより鮮明に描かれていると思います。
ネスの邪魔ばかりして,いつも悪態をついていた「豚王」ポーキー。MOTHER3の後半において,彼の中でのネスの存在意義が分かる部分があって,それを知るとMOTHER2におけるポーキーの言動の背景に思い至り,胸が苦しくなります。主人公ネスも,そこに気付くようで,ネスが自分の心の中の世界「マジカント」を訪れたときには,穏やかなポーキーが……。
愛されることがない孤独をお金や権力でだまくらかして,だんだん破綻していくポーキーの姿を通して,糸井さんが描こうとしたことについては,ぜひご本人にお聞きしてみたいものですね。
聞くところ東京糸井重里事務所は食事にこだわりがあるらしく,美味しい「給食」がいただけるとか。あと,不定期に食べ物系イベントも開催されているらしく,やせっぽっちの食いしん坊ヒャダインとしてはたまらんです。
そう。食べ物。MOTHER2の特徴の一つとして,ほかのRPGに比べて出てくる食べ物の数が圧倒的に多いというのも忘れちゃいけません。ハンバーグ,ハンバーガー,ピザ,クロワッサン,やぎバターがゆ,いのちのうどん,ほしにく,モロヘイヤスープ,コーヒー,クッキー,オレンジジュース,マジックタルト,いちごどうふなどなど。
そして「ふりかけ」というシステム。ほかの食べ物と組み合わせることで美味しくなったりまずくなったり。しお,こなざとう,ケチャップ,あおのり,タバスコなどなど。「食」の楽しさをRPGでここまで表現している作品は,そうそうないような気が。「体力を回復させるのは,やはり食べ物だ」という,人間として当たり前のことを,あらためてゲームに教えられているような気にもなります。
「死」の描かれ方も印象的でした。序盤に出てくる仲間(ハエだけど)や,いろいろと助けてくれたならず者が,いとも簡単に,そして淡白に死んでいくのです。RPGのストーリーにおいて,「死」は一大イベントであり,プレイヤーの心にトラウマを残すレベルのものさえあったりするのですが,MOTHER2ではあっさり。
今の世の中,ニュースをつければ毎日のように事件や事故のニュースでたくさんの人が亡くなった情報が飛び込んできます。その一つ一つは,とても痛ましく悲しいことなのですが,「続いてのニュースですっ☆」で,動物の赤ちゃん特集をされるとさっき感じた悲しみをあっという間に忘れてしまう。そんな残酷な面を持っているのが,現代人だと思うんです。
僕の勝手な解釈ですが,MOTHER2で「死」が淡白に描かれていることは,「RPGだからって死に重きを置くなんて都合が良すぎやしないかい,現代人?」と痛いところを突かれているようです。
その一方,これまたネスの心の世界「マジカント」では,今までに倒してきた敵が出てきて「お前にはずいぶん、痛めつけられたけど……覚えてるぜ」と恨み節を吐くのです。これは主人公の心の中の世界。つまり主人公は,罪悪感を持ちながら敵を倒しているということなんですよね。
ストーリーでの「死」には重きを置くくせに,敵をバッタバッタやっつける「死」に関しては勧善懲悪として正当化するのがRPGの世界のお約束だというのに,それを逆手に取っているんでしょう。だからこれを遊ぶと,「RPGだからって死を軽んじるなんて都合が良すぎやしないかい,現代人?」と,これまた痛いところを突かれた気になるのです。
「ぼくのことを覚えててくれてありがとう。」
「ぼく,君がむかし好きだった女の子の名前知ってるよ。」
「冬の日に遊んだね。ぼくはとけて消えてしまったけれど
君の思い出の中に,まだ残っているんだよ。」
と,誰しも成長過程で通るけれど忘れてしまうことを話しかけてきます。また,幼少期の自分自身が,
「ぼく,小さい頃の…ぼくだよ。
ねぇ,キャッチボールしようよ。
それとも,まんがを読んだりゲームをしたりするかい?
えっ? 忙しいのかぁ…。」
と話しかけてきたりもします。
いつまでもこどものつもりだったのに,気付けば32歳ヒャダイン。忙しさを言い訳にろくすっぽ遊んでいない32歳ヒャダイン。このパワースポット,そしてマジカントによって,両親に大切に育てられてきたこと,小さい頃たくさん遊んだこと,そして知らぬ間にオトナになっちゃったこと,それらを痛いほどに思い知らされるのです。
一見軽妙でポップな雰囲気のMOTHER2ですが,オトナになった今,あらためて考えなおしてみると,「本当に深いなあ,そして重いなあ」と感じます。人間として当たり前のこと,だけどオトナになったら忘れてしまいがちなこと,それを教えてくれます。
リアルタイムでプレイしたときは,ただただ怖かった「ネスサンネスサンネスサンネスサン」の意味も,今なら少し分かる気もします。
MOTHER2のお話はこれで終わり。そして2012年も終わりですね。今年も色々ありました。4Gamerさん,読者の皆さんにはたいへんお世話になりました。来年もお世話になります。きっといろいろあるし,いろいろやると思うのですが,皆様,2013年のヒャダインもよろしくお願いします。
というわけで,最後はエンディングのプーのセリフから。
2012年! PKサヨナラ!!
■■ヒャダイン/前山田健一(歌手・作詞家・作曲家・編曲家・プロデューサー)■■ 本文にもあるとおり,先日アルバムをリリースしたばかりのヒャダイン氏ですが,2013年1月30日には次のシングル,「23時40分」を発売予定。Base Ball Bearをフィーチャリング・アーティストに迎えたこの曲は,TVアニメ「バクマン。」の新オープニング主題歌に決まっているそうです。 |
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