レビュー
待望の拡張パック第一弾の中身は?
ヨーロッパユニバーサリス ローマ:
ヴァイア ヴィクティス【完全日本語版】
» サイバーフロントから発売中の「ヨーロッパユニバーサリス ローマ:ヴァイア ヴィクティス【完全日本語版】」は,昨年(2008年)発売された「ヨーロッパユニバーサリス ローマ」の拡張パック第一弾。日本のファンにもおなじみ,スウェーデンのParadox Interactiveが贈る,例によっていろいろと凝りまくったストラテジーだが,この拡張パックによってどう変化したのかを,「パラドゲーとともにあらんことを」(May the Paradox Game be with you)でおなじみのライター,徳岡氏がレビューした。
世界でも有数の「濃い口」ストラテジーを作ることで有名なParadox Interactiveの数ある作品のうち,古代ローマ時代のヨーロッパを扱った「ヨーロッパユニバーサリス ローマ」(以下EUR)は,ヨーロッパユニバーサリスシリーズの中でも比較的お手軽感が高い半面,さて,いったいこれはどうやって楽しめばいいのだろう? という疑問も残る作品でもあった。
ファンの間でも評価は分かれており,「ローマに特化してもよかったのでは」といった意見は洋の東西を問わず見受けられる。
拡張パック(スタンドアロンでは起動しない)である「ヨーロッパユニバーサリス ローマ:ヴァイア ヴィクティス」(以下EURVV)もまたいろいろと判断に困る作品で,残念ながら「これは最高だ!」と言う人にはあまりお目にかかれない。
とはいえ,個人的にはこの作品は,十分に評価すべき美点を備えた作品であると思う。必ずしも瑕疵なき傑作というわけではないが,EURVVならではの視点というものが確かに存在しているのだ。
ということで,今回はEURVVの新機能を紹介しつつ,その魅力を掘り起こしていきたい。
あえて言おう,「EUR+イン・ノミネ」と。
なんのひねりもなくいってしまえば,EURVVは,EURの駆動部分を「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII イン・ノミネ」(以下,EU3イン・ノミネ)において完成したエンジンに換装した作品である。
具体的には,まず「ミッション」の概念が追加された。これは一定の年月を区切って元老院そのほかの上位機関から授けられるもので,「〜を滅ぼせ」とかいった類の命令である。達成すると,お金がもらえたり,達成したときの指導者の名声が向上したり,国家の安定度が回復したりする。
ミッションは,目指せばご利益があるが,目指さなかったとしても別段悪影響があるわけではない。またご利益といっても割と些細なものなので(安定度向上はときにして甚大な影響を与えるけど),がんばって何が何でも成し遂げるぞと意気込む必要もない。とりあえずの目安程度に思うのがいいだろう。まあ,「討つべし」系のミッションは,討つべしとされた国からこっちに喧嘩をふっかけてくることも多いが。
また,「法の制定」の概念も追加されている。史実に存在したさまざまな改革や法律が再現されているもので,これらを採択することで交易の効率が上がったり,神託の成功率が向上したりと,だいたいにおいて社会全体が向上する(ドローバックと抱き合わせにはなっているが,それでもやって損しないことのほうが多い)。
もっとも,法を新しく制定するにはそれなりの条件を満たさねばならない。条件としては,国家の「与党」がどの派閥であるかといったことを基本として,法律ごとに細かく設定されている。これら条件は,それぞれの法律ボタンの横に設置された[?]ボタンにマウスカーソルを合わせると自動的にポップアップするので,デュアルディスプレイを用意して片方の画面に攻略Wikiなどを表示しながらプレイする必要はない。
さらに国家の体制変更も,同様に実施できる。EUR以前は「隠された条件を満たしたら,あとは一定確率の発生を待つ」系のイベントだったが,EURVVではその条件が明示されているし,満たした状態で変更を指示するかどうかはプレイヤー次第だ。「この国を,こう変えてやるんだ!」という指針の立てやすさは,類似のストラテジーゲームと比較してもかなり優れているといえるだろう。
これ以外にも,「敵」「味方」といった,EU3イン・ノミネにおいて国家間に設定されていた関係性が,EURVVでは個々人の間に適用されるようになった。かつては意味不明なくらいにぐっちゃりと付与された個人の特性も,かつてほど無分別に積み重なることはなくなったようだ。なにしろ以前はパーソナリティを確認する意味があるのかと思うくらいアイコンが並んだので……。
全体的に見て,EU3イン・ノミネ経由のギミックは良好に機能しており,細かな数値的バランスの調整も進んでいる。
人物が関係するイベントの場合,イベント窓に現れたシルエットにカーソルを合わせると情報がポップアップする。大変便利 |
殖民が完了していない土地では,蛮族との戦いが発生することも。うまくいくと彼らを奴隷として連れて帰れる。古代ですから |
これらによって,EURは確実にプレイしやすいゲームになった。「それはEU3イン・ノミネの完成度の高さゆえのことだ」と言われればまったくもってそのとおりだが,遊びやすくなったことに文句を言う筋合いはない。
むしろEU3プレイヤーであれば,冒頭に掲げた「EUR+イン・ノミネである」という言葉の重さを感じてもらえると思う。「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」が本当に完成したのは,「イン・ノミネ」においてである。EURもまた,EURVVでゲームとしてのスタートラインに立った。そういう点において,EURVVはEURプレイヤーにとって必須の拡張パックなのだ。
議会,このままならぬもの。
EURVVで追加された最大のギミックは,「議会」であろう。
議会は,基本的に五つの派閥で構成される。派閥には,
- 軍事主義
- 商業主義
- 宗教主義
- 社会主義
- 人民主義
が存在し,それぞれにリーダーを筆頭とした構成員がいて,99席存在する議席を互いに奪い合っている。
ゲームが進むにつれてさまざまなイベントが発生するが,中にはこの議席数の配分に直接影響を与えるものもある。どの派閥の人間を重要なポストにつけるかによって派閥のバランスは変動するし,大きな軍功をあげて凱旋パレードをすれば当然ながら権勢の向上につながる。
とはいえ,話をすばらしくゲーム的にまとめれば,できればプレイヤーが望む派閥の権勢を拡大したい。というのも,軍隊の指揮官もまた,いずれかの派閥の誰かということになるからだ。政権のトップが自分の派閥と一致していれば,彼らの忠誠心はそれほど心配する必要はない。けれどトップと自分の派閥が食い違うと,忠誠心の維持に問題を生じ始める。
安定した治世を望むなら,選挙ごとに最高指導者となる人間の派閥が変化するような事態は極力避けたい。そのたびに技術開発担当の人間を入れ替え,忠誠心の落ちた将軍に冷や飯を食わせ(ときには投獄し)ていたのでは,効率もへったくれもあったものではない。
軍事主義者が政権を取ると,戦争にはめっぽう強くなる。しかしながら,これにはいろいろな罠もあったりする |
宗教主義的派閥に属する指揮官の忠誠心が低下している。できれば宗教主義的派閥の人物は使いたくないが…… |
そうであるなら議席数で議会を圧倒すればいいではないか,ということになるが,これがそうはうまく運ばない。少数派になった派閥は,逆に「反動勢力」としてラウドスピーカーに化けていく。議席数では30対8なのに,政治的影響力では8に負けていますということさえ起こるのだ。
また,微妙な世論の影響も無視できない。例えば軍事主義を押しつぶし,極力平和を維持すれば,「長く続きすぎた平和」のせいで好戦的な世論が湧き上がってくる。市民は,戦争の惨禍をすぐに忘れてしまうらしい。
同様に,社会主義派閥に肩入れして彼らの理想とする社会を構築していくと,彼らが躍進するきっかけとなった問題が解消されてしまい,それはそのまま求心力の低下につながる。その一方,彼らでは解決できない問題は,それを解決できる派閥にとっての求心力になる。
しばらく人民主義的派閥による国家経営が続く。何がまずいといって,このときの彼らの派閥には,呆れるほど人材が薄かったのだ |
このときの元老院はスーパータカ派状態。マケドニアが「ここらで手打ちに」と言っているのに,提案を受諾するボタンが押せない |
かくして,プレイヤーには「議会のバランスを取る」ことが要求されるのだ。そしてそのうえで,あくまでも自分が望む派閥が指導者層であり続けることが望ましい。また,仮に政権を譲るとしても,できるかぎり自分に近しいイデオロギーを持ったグループに委譲したい。
国策は国家のありかたに大きな影響を与える。政権交代で国策が勝手に変わってしまうのがEURVVの恐ろしいところ |
結構ギリギリの戦争をしているさなかに政権が転び,軍隊のモラルを向上させる効果のある国策を破棄されるという事態に直面すると,なかなか楽しい気分になれる。
もちろん,一つの手段として「独裁制への移行」も可能だ。これによってわずらわしい派閥抗争からは自由になるが,独裁制への移行は条件がかなり厳しい。そしてまたEURVVのプレイ期限がオクタヴィアヌスのアウグストゥス就任(要するに皇帝就任)までに切られていることから見て,これは一つの「ゴール」である。もちろん,史実よりも早く皇帝になってしまえば,「早すぎたローマ帝国」をプレイすることも可能なのだが。
そもそも,古代民主制とは何だったのか。
EURVVをプレイして思い知るのは,制作者のシャレっ気に富んだ視線である。
我々はしばしば,「衆愚政治に陥るまでの古代ギリシアにおける民主制は,理想の民主制であった」「腐敗するまでのローマにおける共和制は,ローマをヨーロッパ最強にして最も誇り高い国家とした」といった夢を見る。
しかしEURVVにおいて議会が腐敗していない時期など,一瞬も存在しない。議会は,成立したその瞬間から,魑魅魍魎の徘徊する派閥力学で動く世界だ。「古き良き理想郷」など,ゲーム内のどこにもありゃしないのである。
そして,いかに派閥政治がうざったく非効率であると論じたところで,部族政治による慣例と因習に縛られた社会よりは効率が上がっている。丘を越えてたどりついた先に理想郷はなかったとしても,過去に広がっているのは「より望ましからぬ過去」でしかない。
だからEURVVをプレイする中で,プレイヤーはなんとかしてより良い国家,より効率の優れた国家を目指す必要がある。共和制はゴールではないのだ。
そしてそのためにさまざまな改革を行うけれど,それは事態を抜本的には変えない。変革を訴えて新奇なシステムを導入したところで,それだけでは本質部分の苦悩を解消できたりはしないのだ。
EURVVにおいては,やがて登場する「独裁制」が,「より望ましからぬ過去」としての共和制を駆逐する。独裁制への移行が民主主義の自殺なのか? はたまたそもそも民主主義など存在していなかったのか? それを体験し決定するのは,プレイヤー自身である。
EURVVは,このように,一種の政治シミュレーターとして興味深い方向に進んでいるのだ。「ヴィクトリア 太陽の沈まない帝国」もまた似たようなジレンマを体験できるゲームだが,ヴィクトリアに比べてEURVVのハードルは格段に低い。
「友人」「敵」といった人間関係が結ばれるようになったのもEURVVの追加要素。まあ,いざとなったら投獄したりできますが |
同時期のエジプトの模様。ヒストリカルな人物が登場すると,ちょっと嬉しくなったりもする。クレオパトラかあ…… |
それでもEURVVに不満が表明されるのは,やはりこのゲームシステムが,どうにも古代ヨーロッパ世界を再現しているようには感じにくいからかもしれない。ローマを再現したという割には,ローマに特化したギミックを持っているわけでもなく,かといってよりローマ的なエンジンにしたら「ガリアの諸部族が元老院を持つようになりました」なんてことになる可能性もあるだろうし……。そもそもあの時代,国家形態のフォーマットはあまりにも多彩であり,ローマ以外をプレイできるようにしなくてもよかったんでは,という意見は強い(というかそれが普通かもしれない)。
個人的には,EURVVはとても楽しい。でもたぶん,あまりローマ的ではない。そのギャップが,世界的に辛い評価へとつながっているように思う。
正直な話,歴史ストラテジーから離れ,例えば「アルファケンタウリ」を舞台に架空の国家や組織が争う世界だったら,EURVVは絶賛されていたのではないだろうか(あるいはファンタジーでもいい)。「古代ローマであること」にあまりこだわりのない人,そして(繰り返すが)本編のプレイヤーなら必携の拡張パックだ。
ともあれ,EURVVは,EURの第1拡張パックであり,パラドゲーにはよくあることだが,第2拡張パックでもう一段化ける可能性も残されている(出ればの話だが)。またもし,来年(2010年)以降に予定されている「ヴィクトリア 2」がもしこのレベルで政治をシミュレートしてくれるなら,相当面白い作品になるだろうという楽しみもあるが,これは余談だった。
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ヨーロッパユニバーサリス ローマ:ヴァイア ヴィクティス【完全日本語版】
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