インタビュー
Mad CatzのAndroidゲーム機「M.O.J.O.」とは一体何なのか。プロダクトマネージャーに聞いてみた
それにしても,これまでMad CatzやSaitek,CyborgそしてTRITTONといったブランドでゲーマー向け周辺機器を展開してきたMad Catzが,なぜこういったゲーム機を出してきたのだろうか。今回4Gamerでは,E3 2013会場でMad Catzのシニア プロダクト デヴェロップメント マネージャーであるRichard Neville(リチャード・ネビル)氏,そしてプロダクト デヴェロップメント マネージャーであるDaniel Nuth(ダニエル・ヌース)氏に短時間ながら話を聞けたので,その模様をお届けしよう。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。お二人はプロダクトマネージャーとのことですが,まずはどういった製品の開発に関わっているのか教えてください。
私が最近担当したものですと,マウスであれば「R.A.T.」シリーズや「M.O.U.S.9」,ヘッドセットであれば「F.R.E.Q.」シリーズ,あとは発表したばかりのM.O.J.O.などが挙げられます。
Daniel Nuth(以下,Nuth氏):
私は「M.M.O. 7 Gaming Mouse」や「S.T.R.I.K.E.」シリーズのキーボード,それとM.O.J.O.と一緒に発表されたワイヤレスゲームパッド「C.T.R.L.R Wireless GamePad」の担当です。
4Gamer:
つまり,Mad Catzのアーケードスティック以外の製品……というか,“Cyborg系”の製品には,だいたい関わっているということですか?
Neville氏:
そうなります。Mad Catzの製品開発拠点は本社のあるサンディエゴのほか,イギリスと香港にもあって,アーケードスティックはサンディエゴの担当なんです。私達は,普段イギリスの同じチームで働いていて,PCゲーム関連の周辺機器を中心に,分担して担当しています。
4Gamer:
なるほど。今回,M.O.J.O.のお話をしていただこうかと考えていたのですが,そういうことであれば,Mad Catzのゲーマー向け製品についてもいくつか教えてください。
Neville氏:
それはぜひ。
4Gamer:
Mad CatzのPC用ゲーマー向け製品といえば,やはりマウスやキーボードのデザイン性,それとカスタマイズ性が一番の特徴かと思います。しかし,例えばゲーマー向けマウスであれば,使い勝手を重視すべく,むしろ機能やデザインはシンプルで,重量が軽い製品が求められることも多い。そこから外れた製品をあえて主軸にしているのは,どういった理由によるものなのでしょうか。
Neville氏:
率直に言ってしまえば,ゲーマー向け周辺機器という市場の中で,後発である我々がどのように差別化を図っていくかを考えた結果になります。ゲーマー向けマウスに関しては,開発にあたってまず,「どのようなニーズがあるのか,どのようにして今までにないものを作っていくのか」を考えました。そして検討を重ねて,デザイン性とカスタマイズ性という答えを得たのです。
Nuth氏:
普通のマウスで行えるのは,ボタンが割り当てられたり,重さが変更できたりする程度のカスタマイズです。しかも,ボディがトップシェルとボトムシェル……上と下のパーツがつながってできているので,基本的に形状は変えられません。
しかし,それではユーザーの持ち方にフィットした形状にはならない。そこで,パーツごとに位置を調整できるマウスを作ろうというアイデアが閃きました。
4Gamer:
パーツごとに調整が可能という利点は,一方で重量が重くなりがちという弱点も抱えていますが,そこはどのようにお考えでしょう。デザインが優れているだけに,逆に「Mad Catzのマウスを普通の機能で使いたい」というニーズもあるのではないかと思うのですが。
Nuth氏:
そこは我々も認識しています。カスタマイズして自分にあった形状にできるという点に大きな魅力を感じるのであれば,「R.A.T.7 Gaming Mouse」などを使っていただければ良いかと思いますが,おっしゃるように重量が気になる人もいるでしょう。そういった人向けに,上位モデルと同じ外観で,重量の軽い「R.A.T.3 Gaming Mouse」という選択肢を用意しています。
4Gamer:
なるほど。そこは製品ラインナップでカバーする方針なんですね。
それにしても,「これまでにないマウスを作り出す」という方向性でこの独特な形状を実現しているのであれば,開発時に苦労もあるのではないですか?
Neville氏:
もちろんあります! その質問を待っていました(笑)。Mad Catzのマウスは,カスタマイズのために,パーツが分かれていますよね。
4Gamer:
ええ。
Neville氏:
しかし,当たり前ですが,マウスを円滑に操作できるようにするためには,接地面を平らにしなければなりません。これが1つのパーツであれば簡単な話なのですが,別パーツで平らな底面を作ろうとすると,そうもいかない。
4Gamer:
確かにそこがズレたら,マウスそのものが傾いてしまいます。しかも,そのバラバラのパーツは,カスタマイズ機構によって稼働するわけで……。
Neville氏:
そうなんですよ。ユーザーからすると当たり前のことですが,そういったパーツの整合性をきちんと取るのは,とても難しいんです。
Nuth氏:
おかげで,センサーをきちんと読み取ってくれる場所に配置するのも,かなり試行錯誤しています(サンプルを手に取り)。
4Gamer:
見えないところで,大変なチャレンジをしていたんですね……。
ところでそのサンプルもそうですが,いつのまにかCyborgブランドの製品は,Cyborgのロゴではなく,Mad Catzの3本爪のロゴが描かれるようになりましたよね。これはどういった理由によるのでしょうか。
Nuth氏:
以前は,PCゲーム用周辺機器はCyborg,家庭用ゲーム機用周辺機器はMad Catzの名前で出してきましたが,どちらもゲーマー向け製品なのだから区別していく必要はないだろうということで,統合して展開することにしました。スマートフォン向けのゲーマー向け周辺機器なども,Mad Catzブランドで出していく予定です。
4Gamer:
Saitekなど,ほかのブランドはどうなるのでしょう。
Neville氏:
Saitekは今後も,独立したプロフライトシミュレーター製品のブランドです。ヘッドセットのTRITTONブランドも継続されます。
「Android Micro Console」として作られたM.O.J.O.
4Gamer:
次はM.O.J.O.とC.T.R.L.R Wireless GamePadについてお聞きします。
Nuth氏:
分かりました。まずは,これをどうぞ(とC.T.R.L.Rを手渡す)。
4Gamer:
あれ,これはC.T.R.L.R……ですよね? スマートフォンを取り付けられるんですか?
Nuth氏:
ええ。付属のアタッチメントを利用すると,C.T.R.L.Rとスマートフォンを一体化させられるのです。
4Gamer:
ちょうど,携帯ゲーム機のようなスタイルで遊ぶ感じになるわけですか。
C.T.R.L.RはM.O.J.O.に付属するだけでなく,単体でも発売されるとのことですが,確かにこれならスマートフォンと組み合わせて使えますね。
Nuth氏:
それだけでなく,「GameSmart-Mode」「PC-Mode」「Mouse-Mode」の3つにモードを切り替えて利用できるのも特徴です。GameSmart-Modeはスマートフォン用ゲームパッドとして使うモード,PC-ModeはPCゲーム用ゲームパッドとして使うモード,そしてMouse-Modeは,タブレットやスマートフォン上で,マウスのカーソルを動かすような感じで操作が行えるモードになります。Mouse-Modeを利用すると,タッチスクリーンでのみ動くようなタイトルであっても,ゲームパッドでプレイできます。
4Gamer:
なるほど。タッチスクリーン用の操作ができないと,M.O.J.O.のゲームパッドとして使った場合,タイトルによっては操作ができなくなってしまいますから,そこは対策してあるというわけですね。
続いてM.O.J.O.ですが,これはAndroid端末から液晶パネルを省いた代わりに,ディスプレイ出力機能を持たせた機器という理解で合っていますか?
そうです。1920×1080ドット解像度での出力が行えます。
4Gamer:
つまり,大画面でAndroidのゲームが遊べる据え置き型ゲーム機になるんですよね。似たような方向性の機器としては,OUYAが発売されていますが,M.O.J.O.ならではの特徴はどういった部分になるのでしょう。
Nuth氏:
一番違うのは,おそらく使い方に対する考えですね。OUYAは,専用のオンラインシステムを使って,すべてのゲームがFree-to-Playで遊べるというのが特徴です。一方でM.O.J.O.は,私達がハードウェアメーカーだからかもしれませんが,専用のストアを設けて購入してもらおうという考えはありません。普段,スマートフォンなどで遊んでいるタイトルを,大きな画面で遊べるというコンセプトで開発しているんです。
4Gamer:
しかし,リッチな環境で遊べるというのはウリではありますが,本体とテレビの電源を入れて,腰を据えてプレイしなければならないというのは,弱点でもありますよね。スマートフォン向けのゲームは,プラットフォームがスマートフォンだからこそ手軽に遊べるというのが大きなポイントですから。それでもあえて,大画面で遊べる機器を出す意図は,どういったものになるのでしょうか。
Nuth氏:
おっしゃることは分かります。ただ,現在,ゲームを遊ぶのはもちろん,音楽や映画,インターネットなど,さまざまなAndroid上での楽しみ方が広がっていますよね。それらを,スマートフォンの小さな画面ではなく,大画面で楽しみたいというニーズは,必ずあると思うんです。ニーズがある以上,それにフレキシブルに応えるというのが私達の役割だと考え,M.O.J.O.を開発しました。
4Gamer:
というと,位置付けとしては,ゲーム機というよりは,Android用ゲームの遊び方を広げる周辺機器的な感じになるんですか?
Nuth氏:
その質問には,イエスの部分とノーの部分があります。出発点は,Android用ゲームの遊び方を広げる,よりリッチな環境で遊べるようにするということで,間違いありません。ただ,Androidベースですから,実際はもっといろいろなことができて,音楽やインターネットなども楽しめるわけです。ですから,私達は周辺機器という認識はしていません。
4Gamer:
では,M.O.J.O.は何と呼ぶべきでしょう。
Nuth氏:
「Android Micro Console」でしょうか。私達は,ゲーマー向け周辺機器を,「ハードウェアで皆さんのお役に立つ」ということにこだわって開発しています。このこだわりを,Androidに当てはめて生まれたものがM.O.J.O.だとご理解いただければと思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
正直に言うと,今回話を聞いてみても,ゲーマーとしてはM.O.J.O.の「ゲームや音楽,インターネットなど,さまざまなAndroidでの楽しみ方を大画面で行える」という方向性は,ピンとこない部分がある。
ただ,「市場にはないハードウェアで,新たなゲームの遊び方を提示する」という意味では,CyborgブランドのR.A.T.やS.T.R.I.K.E.といったゲーマー向け周辺機器と,同様のアプローチで登場してきた製品とは言えるかもしれない。
今のところ,M.O.J.O.の国内での発売は決定していないが,Mad Catzとしては世界市場で販売していく予定とのことなので,続報を待ちたい。
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