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時計の秒針1秒ぶんのズレも我慢がならない――超高精度なモーションコントローラの誕生秘話と可能性。「PlayStation Move」開発者インタビュー
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印刷2010/11/13 10:00

インタビュー

時計の秒針1秒ぶんのズレも我慢がならない――超高精度なモーションコントローラの誕生秘話と可能性。「PlayStation Move」開発者インタビュー

 2010年10月21日に発売された,PlayStation 3(以下,PS3)の新型コントローラ「PlayStation Move(プレイステーションムーブ)」は,特徴的なスフィア(光球)が装備されたモーションコントローラと,そのスフィアの光を捉えるカメラ「PlayStation Eye」を組み合わせることで,プレイヤーの三次元的な動きを詳細にゲームに反映させる,最新の周辺機器だ。

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 PlayStation Moveと同時発売された専用/対応ソフトは計6タイトルだが,「バイオハザード5 オルタナティブ エディション」や「MAG」など,一部既存タイトルがアップデートによりMoveに対応し,手持ちのソフトを新たな遊び方で楽しむことも可能となっている。

 今回4Gamerでは,このPlayStation Moveの開発/発売に深く携わった3人の人物にインタビュー。「時計の秒針1秒ぶんのズレも我慢がならない」という信念のもとに生み出されたPlayStation Moveの実力と可能性について興味がある人は,ぜひご一読を。
 また以下の記事では,PlayStation Move対応ソフト9作品/10本のプレイムービーを掲載しているので,あわせてチェックしてみてほしい。

プレス向け体験会で遊べた,TGSにプレイアブル出展予定の「PlayStation Move」対応ソフト9作品/10本のプレイムービーを4Gamerに掲載


「PlayStation Move」公式サイト



カメラのみでは実現できなかった3D空間認識が目標


ソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイドスタジオ プレジデント 吉田修平氏。世界に15か所存在するSCEのワールドワイドスタジオのゲーム制作の責任者で,ソフトウェア開発側のクリエイターとして,PlayStation Moveの開発に参加
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4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まずはこのPlayStation Move(以下,PS Move)の,開発当初のお話からお聞かせください。そもそもPS3で,新しいモーションコントローラを作ろうと思ったきっかけはどこにあったのでしょうか?

吉田氏:
 PlayStation 2(以下,PS2)時代に発売した「EyeToy USBカメラ」という周辺機器がありまして,これを開発したSony Computer Entertainment Americaのリチャード・マークス率いるUS R&Dチームが,カメラを使ったさまざまな認識技術を継続的に研究していました。その間にハードウェアはPS2からPS3へと進化していきましたが,2006年のPS3の発売時期には,まだカメラを使った認識技術を,モーションコントローラ製品として実現するまでには至らなかったんです。
 その後,認識技術やハードウェア面が進化したことで,2006年当初では実現できなかった“3D空間の認識”を目標に,開発をスタートさせることになりました。

4Gamer:
 EyeToyやPlayStation Eyeの時点で,モーションコントローラとしてはある程度完成していた印象も受けるのですが。

吉田氏:
 そうですね,2003年のEyeToyでは,すでにコントローラではなく体を使ってプレイするという,斬新な遊びの提案が実現できていたんですが,それがPS3とPlayStation Eyeになったとしても,解像度やカメラの性能が上がっただけでは,ゲームとして画期的な体験を作り出すことはできませんでした。またSIXAXISでも,内蔵センサーを利用した操作を当時のタイトルに組み込んで試してはいましたが,その操作を中心にしたゲームを作るほどではなかったんですね。

4Gamer:
 その段階から先日の発売に至るまで,かなりの期間がありましたが,具体的にはどのような動きがあったんでしょう?

ソニー・コンピュータエンタテインメント 第二事業部 設計部5課 課長 宮崎良雄氏。PSPやPS3のSIXAXISなどの各種周辺機器を中心に開発を行う第二事業部に所属。無線に強いノウハウをPlayStation Moveに投入する,ハードウェアのプロフェッショナル
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宮崎氏:
 技術の比較検証をしていたのが2007年で,実際にPS Moveの開発が始まったのが2008年でした。US R&Dは,2008年の時点でプロトタイプを作って動かしていたんですが,それを同じスペックのまま商品化するのは,極めて難しい状況でした。

吉田氏:
 研究中は,モーションや距離を感知するために,磁場や超音波を利用したものや,3Dステレオカメラなども試していました。それらを比較したときに,リチャードが設計したピンポン球をカメラで捉えるという,現在のPS Moveに近い形の入力装置が,我々のやりたいことを実現できそうな感触があったんです。


ソニー・コンピュータエンタテインメント 商品企画部 企画1課 磯部洋子氏。PlayStation Moveの商品企画を担当。ネーミングや発売時期,価格の決定など,企画全般の各種マネジーメント,オーガナイズ業務などに携わる
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磯部氏:
 実際に商品として量産するにあたっても,それがもっともバランスの良い設計でした。磁場や超音波を使ったものは,家庭での使用においてどうしても難があって,3Dカメラの場合は価格面ですごく高くなってしまい,どれも求める商品像にはならなかった。スフィアありきの形で行こうと決定したのは2008年ですが,すべての仕様が決まったのは2009年でした。

4Gamer:
 具体的な仕様が固まるまでの間には,一体どのような紆余曲折があったんでしょう?

吉田氏:
 2009年6月のE3で発表したときは,現在「スポーツチャンピオン」として発売したタイトルの背景などを取り除いたものを,テクニカルデモとしてお見せしており,すでにソフトウェア面も完成しつつありましたが,実際にプレイヤーが遊ぶさまざまな環境において,認識がずれてしまったり壊れたりと,何かしらの支障が出てしまうような状態では,商品として成立しません。ローコストで頑強な,量産化に耐えうる商品のスペックが決定するまでのチューニングに,すごく時間をかけていたんです。

4Gamer:
 なるほど,地味ではありますが,極めて重要な部分に時間を費やしていたわけですね。

吉田氏:
 我々ゲームの作り手としては,いろんなプレイヤーがいろんな楽しみ方をできるように作りたいじゃないですか。ハードの精度が高いほど,プレイヤーがやっていることをダイレクトにゲームに取り込めますからね。

4Gamer:
 認識精度が高ければ高いほど,プレイヤーの技術がゲームに反映されやすく,またそういった性質のゲームも作りやすいと。

吉田氏:
 はい。「スポーツチャンピオン」の卓球がまさにその例なんです。あれはプレイヤーの手首の動きまで感知することで,より現実に近い体験ができますからね。あの感覚は,ぜひ一度,実際に体験してほしいと思います。そのリアルさに驚きますよ。
 逆に精度が低いと,微妙なズレが生じたときに,システムがそれをそのまま取り込んでしまい,自分はうまく動かしたはずなのに,それがゲームに反映されず,結果ゲームが面白くなくなってしまうんです。ジェスチャー的でアバウトな動きしか取り込めないと,極端な話,ボタンを押しているのとあまり変わらず,ゲームにモーションならではの楽しさや深さを出せませんからね。ゲームのチューニングを行う際に,ハードのシステムがどこまで信頼できるのかということが,我々が一番大事にしていたところです。

宮崎氏:
 PS Moveと同時に開発していたソフトのチューニングは,去年1年かけてずっとやっていましたね。

「スポーツチャンピオン」の卓球では,PlayStation Moveの認識精度と,そこから生まれる深いゲーム性が,とても手っ取り早く体験できる。一度遊んでみれば,そのあまりの“生々しさ”に驚くはずだ
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1秒の角度も妥協できない精度まで調整を重ねる


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4Gamer:
 ソフト開発と同時に進行するとなると,調整はかなり大変そうですね。

宮崎氏:
 何か問題が起こったときに,ハードが原因なのかソフトが原因なのかをまず考える必要があるんです。ハードを作っている目線からすると“ソフト側でなんとかして”ということになるんですが,(吉田氏を指して)彼はウンと言わないんですよ。開発中,コントローラを動かす方向にわずかなズレが出てしまったときに,「時計の秒針1秒ぶんのズレも我慢がならない」と言われたほどで。

吉田氏:
 秒針の1秒は,角度でいうと6度ですよね。コントローラを正面に向けたときに,6度ズレてしまうと,我々が求めているものとしてはNGなんですよ。そこまでこだわらないと,カジュアルなものはできたとしても,真剣にプレイできる奥深いものはできないと考えていたんですよね。

宮崎氏:
 単純に精度の高いデータをアプリケーションに渡すには,とても高価なセンサーを使うしかないんですが,商品としてそれは成立しないので,商品化可能な内容のデバイスで,そこで生じた誤差をいかに打ち消すかというノウハウをうまく投入して調整を進めていきました。その甲斐あって,最終的には誤差1度以内の精度に収めることができたんです。

磯部氏:
 PlayStation 3の周辺機器という冠を乗せるからには,カジュアルというだけではいけない。コアゲーマーの皆さんにも納得できるような内容と両立させることが,このPS Moveのキーとなるテーマのひとつでしたね。

4Gamer:
 なるほど,他社さんのモーションコントローラとは,似ているようでまったく違う方向を向いているんですね。

吉田氏:
 意外だと思われるかもしれませんが,実は作っているときは,他社さんのコントローラとは全然違うものを作ってきたつもりなんです。コントローラが,3D空間のどこにどういう向きで存在するのかを高精度で認識するという要素は,今までのゲームにはなかったですからね。確かにCMやPVなどを見ると,家族みんなでカジュアルに楽しんでいる様子を出してはいますが,実はそこだけに留まらない高いポテンシャルを秘めているんです。

4Gamer:
 正直なところ,「Wiiとどこが違うの?」という声もあると思うのですが……その線引きは,やはり今お話いただいたところにあるのでしょうか。

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吉田氏:
 我々は,PS Moveの魅力をユーザーの皆さんに伝えるために,三つの大きな特徴を挙げています。まずは,これまでお話したとおり「3D空間を高精度で認識できる」という,モーションコントローラの基本性能の違いですね。二つめは,「同時にカメラを使って楽しめる」という点です。使用時には必ずカメラが必要になるので,「Me&My Pet」のように,カメラの映像とCGを組み合わせた拡張現実(AR)体験が簡単に実現できるんです。

4Gamer:
 なるほど。

吉田氏:
 そして三つめは,PS3のハードウェアの周辺機器であるという点。モーションコントローラを使ったときに重要なのは,ゲーム世界の中で何が起こるのかを表現するところにあります。そこの表現力という部分で,PS3は圧倒的に有利ですからね。これらの三つの要素を軸に,ユーザーの皆さんに訴求していきたいと考えています。

磯部氏:
 とくに三つめの要素については,HD画質で3D立体視やオンライン機能などが楽しめるわけで,PS Moveを組み合わせることで,我々が思っていた以上に面白いものができそうな予感がしています。

吉田氏:
 PS Moveというのは,PS3のシステムリソースを極力圧迫しないように設計しているんです。ですので,対応する予定がなかったゲームでも,簡単に対応させることができますよ。弊社では「MAG」という,256人が同時に参加できるオンラインFPSを発売していますが,それのPS Move対応パッチは,PS Move発売と同時にリリースできました。「MAG」や「バイオハザード5オルタナティブ エディション」のような,PS3の機能を使い切っているタイトルにも対応させられるという強みは,PS Move専用ではないPS3の主力タイトルにも,簡単に適用可能です。それは訴求のための大きな力になります。

4Gamer:
 既存のゲームにも対応できることで,対応ソフトのラインナップについては心配がありませんね。

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吉田氏:
 ええ。新しいユーザーインタフェースなので,一体何に使えるんだろうというのが,プレイヤーの最初の興味であり,疑問ですよね。そのときに,既存のゲームでPS Moveを試していただいて,新しい面白さを発見できると,今度はゲームを作っている側が,新たにPS Moveの可能性を切り開くことにもつながります。
 たとえば「MAG」のようなFPSでは,敵を狙うのに向いていると高評価をいただいてますし,ユービーアイ ソフトの「R.U.S.E.」というRTSでは,PS Moveをマウスのように使って快適にプレイできます。iPhoneで発売された「Flight Control」がPS3に移植され,先日ヨーロッパでDL販売されたのですが,それがPS Move対応となったことで,iPhoneのタッチ操作と同じ感覚で操作ができるようになりました。

4Gamer:
 精度の高いモーションコントローラであれば,マウスのような操作感も実現しやすいですし,タッチ操作以上の快適さを出すことも可能ですね。

吉田氏:
 はい。PS Moveをいろいろなゲームで試していただくことで,ユーザーインタフェースの置き換えや改善が確認されてきています。同じタイプのゲームを作っているデベロッパの皆さんに,PS Moveを使った新たなインタフェースに気付いてもらえるような広がりも,大いに期待しています。

「MAG」(左)や「バイオハザード5オルタナティブ エディション」(右)のようなアクション性の高いゲームも,PlayStation Moveであれば直感的かつストレスなくプレイできる
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  • 関連タイトル:

    PlayStation Move モーションコントローラー

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