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CPUとRadeon GPUを統合したAPU時代,開幕。AMD,新世代プロセッサ「E-Series」「C-Series」を正式発表
なお,2011年第2四半期中の市場投入計画となっているメインストリーム市場向けFusion APU「Llano」(ラノもしくはリャノ,開発コードネーム)が「A-Series」となることも,合わせて発表されている。
●E-Series(Zacate)
- AMD Dual-Core Processor E-350/1.6GHz(以下,E-350)
デュアルコア,512KB×2 L2,1ch DDR3-1066,TDP 18W,DirectX 11 - AMD Processor E-240/1.5GHz(以下,E-240)
シングルコア,512KB×1 L2,1ch DDR3-1066,TDP 18W,DirectX 11
●C-Series(Ontario)
- AMD Processor C-50/1GHz(以下,C-50)
デュアルコア,512KB×2 L2,1ch DDR3-1066,TDP 9W,DirectX 11 - AMD Processor C-30/1.2GHz(以下,C-30)
シングルコア,512KB×1 L2,1ch DDR3-1066,TDP 9W,DirectX 11
※製品名の後ろは順にコア数,L2キャッシュ容量,メモリコントローラ,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力),対応DirectX API
初のFusion APUとして,BobcatコアとDirectX 11世代のGPUコアを統合した18W TDPのZacateと,9WのOntarioを展開 |
Zacateが目指すのは,2009〜2010年のCPUとGPU,North Bridgeの機能&性能を1つのシリコンに統合し,大幅に消費電力を低減することだ |
E-SeriesはPentium 6000シリーズの対抗,C-SeriesはAtomの対抗という位置づけ。AMDはGPUで,最も市場性が大きい価格帯に価格対性能比の高い製品を投入できるようシリコン開発を進める「スイートスポット戦略」を推し進めているが,Fusion APUでも同様の戦略をとってきたわけである。
ちなみにAMDは現在,世界統一ブランドとして「VISION」を推し進めているが,E-350と,ノートPCで用いられるE-240は,カジュアルゲームや一般的なアプリケーション,DVD-Video,HD画質のストリーミングビデオなどの利用に最適とされる“VISION無印”扱い。デスクトップPCで用いられるE-240と,C-Seriesの2製品には,HD画質のストリーミングビデオやEメール,チャット,ソーシャルネットワークなどに最適として新たに用意された「HD Internet」というマーケティングブランドが適用される。
2011年のVISIONブランディングにおけるBrazosプラットフォームの位置づけと,新たに用意されたHD Internetの概要説明。E-240はノートPCで用いられる場合にVISION,デスクトップPCで用いられる場合にHD Internetブランドがそれぞれ用いられる |
Intel製CPUとの競合関係を示したスライド |
Brazosプラットフォームの概要
ここからは,ようやく明らかになったAPUと,Brazosプラットフォームの主な仕様を見ていきたい。
4製品に採用された「Bobcat」(ボブキャット)コアは,1コアあたり,容量各32KBのL1データキャッシュとL1命令キャッシュに,容量512KBのL2キャッシュを搭載し,2つの整数演算パイプラインと1つの64bit 浮動小数点演算パイプラインを統合。「アウトオブオーダー型の命令実行と優れた分岐予測により,インオーダー型のAtomよりも低消費電力で効率的な演算処理を実現できる」というのが,AMDの主張だ。
BrazosプラットフォームのAPUアーキテクチャダイアグラム。「5x8 PCIe」という表現も見えるが,実際は,拡張スロット&デバイス用にPCI Express 2.0 x4 ×1(またはx1 ×4),FCHとの接続用にPCI Express x1 ×4ベースのUMI(Unified Media Interface)を採用している |
Brazosプラットフォームのブロックダイアグラム |
Radeon HD 6310は2基のデジタルディスプレイインタフェースと,1基のD/Aコンバータを内蔵しており,最大で3台のディスプレイ出力が可能(うち1基のデジタルディスプレイインターフェースは,ノートPCのパネル出力用としてLVDS出力にも対応する)。メモリコントローラはシングルチャネルのDDR3-1066対応構成で,DIMMスロットは最大2本をサポートする。
APUのアンコア部に統合されるPCI Expressインタフェースは,Gen.2対応のx1×4レーンで,South Bridge機能となるFCH(Fusion Controller Hub)との接続にはPCI Express 1.1 x4ベースのUMI(Unified Media Interface)が採用される。
E-350と組み合わされるFCHは,「Hudson M1」(ハドソンM1)という開発コードネームで知られる「FCH A45」(※ただし,Dumbeck氏は「A50」と述べていた。どちらが正しいのかは現在のところ分からない)で,4レーンのPCI Express 2.0インタフェース,6ポートのSATA 6Gbps,14ポートのUSB 2.0,2ポートのUSB 1.1などに対応するものだ。
一方のC-50は,Bobcatコアを2基搭載し,1GHzで動作。GPUコアには,AMD E-350が搭載するRadeon HD 6310より低クロックで動作する「Radeon HD 6250」が採用されている。
Radeon HD 6250が搭載するStreaming Processor数は80基で,Radeon HD 6310と同じ。TDPを9W以下に抑えるため,動作クロックは,Radeon HD 6310の500MHzに対して280MHzと半分強にまで抑えられているが,それでも「(Atomベースの)現行Netbookと比べれば,11倍以上のグラフィックス性能を発揮する」(AMD)のが強みだ。
なお,冒頭でも紹介したように,AMDはE-350,C-50のそれぞれ下位モデルとして,シングルBobcat仕様のE-240とC-30も用意されており,いずれも上位モデルと同じGPUコアを統合している(表)。
「よりリッチなグラフィックス体験を実現するFusion APU」
AMDは,Fusion APUによって第3のパーソナルコンピューティング環境が切り開かれるはずだと主張する。そのカギとなるのが,以下の3要素だ。
- Fusion APUによるHD 2.0時代のスタート
- ノートPCにおけるパーソナル・スーパーコンピューティングの実現
- AllDay Power
HD 2.0は,最新のビジュアル体験をエントリー製品にももたらせるだけの実力を持つ。それを活かすためにAMDは,主要ソフトウェアデベロッパと協力し,Fusion APUに対応したソフトウェアエコシステムの構築を目指す |
AMDは,APUで高性能なGPUコアを統合することにより,ノートPCでパーソナルスーパーコンピューティング機能を実現可能だと主張。顔認識やイメージ検索なども容易になると見ている |
AMDが公表したE-350の性能指標によると,Pentium 6000シリーズ――ノートPC向けのPentium P6000シリーズを指すと思われる――との比較において,1080p解像度のAdobe Flash形式ビデオ再生で150%,演算性能の目安となるGFLOPS値で23%,3DMark06の総合スコアで30%高い性能を発揮しつつ,(同じバッテリー容量で比較した場合)バッテリー駆動時間はPentiumシステムが6.24時間のところ,E-350のシステムなら「1日の活動時間とほぼ同じ」(AMD)10.4時間にまで達するとのことだ。
AtomキラーとなるC-50の場合,「Atom N550/1.5GHz」に対し,1080pのAdobe Flash形式ビデオの再生で150%,3DMark06のスコアでは11倍以上高い性能を発揮できるという。Atomシステムの場合,CPU性能的には足りていても,貧弱なグラフィックス性能が理由でマトモにプレイできないゲームが少なくなかっただけに,11倍高いとされる3D性能には期待が高まるところである。
ただ,世界初のFusion APUとなった今回の4製品に,性能面での過度な期待を寄せるのは酷かもしれない。
というのも,上で示された性能データは,あくまでもE-350やC-50が得意とするジャンルのみの結果だからだ。AMDが別途公開したデータによると,グラフィックスや浮動小数点演算性能で,E-350はK8コアベースの低消費電力版デュアルコアCPUたる「Athlon II N350/2.4GHz」や,Pentium 6000シリーズを上回る一方,「PCMark Vantage」の「Productivity」テストでE-350が出すスコアは,両CPUの半分強に留まっていたりもする。
実際,大手ODMベンダー関係者は,「AMD C-Seriesの性能は,グラフィックス周りを除くと,よくも悪くもAtom対抗製品に過ぎない」とし,「ノートPC向けというよりは,タブレット端末などへの展開のほうが向いているかもしれない」と指摘していた。
また,AMDでクライアント向け製品のマーケティングを統括するBob Grim氏(Director, Client Product Marketing)も,「Brazosは,2010年のAMDプラットフォームに対して10〜50%といったレベルでグラフィックス性能向上を果たすが,CPU性能は,現在のコンシューマアプリケーションで“良好”(Good)なパフォーマンスを示すレベルであり,既存製品から大きく向上するわけではない」と釘を刺している。
AMDはODMに対し,低価格なノートPCで性能を向上させるには,ミドルクラスの単体GPUを拡張するのを推奨しているようだが,前述のとおり,BrazosプラットフォームのPCI ExpressはGen.2のx4接続なので,GPUの性能をどれだけ引き出せるか疑問視する向きもある。その意味で,4Gamer読者の大多数にとって,本格的なAPU時代の幕開けは,2011年半ばといわれているLlanoの登場を待つ必要があるかもしれない。
2010年12月25日の記事でお伝えしているように,AMDは積極的にFusion APUの高性能化を推進していく姿勢を見せている。低価格なPCゲーム環境を底上げする存在たるFusion APUの今後に期待したいところだ。
AMDのFusion APU製品特設ページ(英語)
- 関連タイトル:
AMD E-Series,AMD C-Series
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(C)2011 Advanced Micro Devices, Inc.