テストレポート
GeForceとRadeonが協調動作する歴史的な製品,MSI「Big Bang-Fuzion」パフォーマンス速報
2009年1月7日,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンは,GeForceとATI Radeonの協調動作によって3D性能を引き上げることが可能という世界初のマザーボード「Big Bang-Fuzion」を発表した。
15:00現在,日本でも国内製品発表会が開催されているため,出荷時期や価格などは追ってお伝えできるものと思われるが,今回は,それに先だって入手した実機について,ざっと動かしてみた結果を速報としてお届けしたい。詳細なレビューは後日,あらためてお届けする予定だ。
基本仕様は「Big Bang-Trinergy」と共通
「Hydra 200」で異種混合マルチGPU動作を実現
→MSI「Big Bang-Trinergy」発売直前検証(前)〜トピック満載のゲーマー向けマザーボード
→MSI「Big Bang-Trinergy」発売直前検証(後)〜3-way SLI,OC Dashboard,QuantumWaveをチェック
Big Bang-Trinergyで「nForce 200」が置かれていた場所に配置されるHydra 200は,NVIDIA SLI(以下,SLI)やATI CrossFireX(以下,CFX)といった,GPUメーカーが提供するマルチGPU構成要件を超えて,グレードや世代の異なるGPU,そして,メーカーの異なるGPUによるマルチGPU動作を実現するというのが,最大の特徴である。
※20:56追記
予定どおり開催された発表会では,LucidLogixのイスラエルチーム,研究開発部門を率いるDavid Belz(デビッド・ベルズ)副社長が登壇。会社概要とともに,Big Bang-Fuzionが搭載する第2世代チップが,65nmプロセス技術で製造され,6W以下という低い消費電力で動作することや,Hydra Engineのドライバが,DirectX APIとグラフィックス(=ディスプレイ)ドライバの間に立って動作することなどが明らかになった。
David Belz氏(VP Research and Development, LucidLogix Technologies)
米国に本社を,イスラエルに研究開発拠点を置くLucidLogix。Hydra 200ではDirectX 9.0cおよび同10.1をサポートしており,今後リリース予定のドライバで,DirectX 11にも対応予定とのことだ。ロードマップには,異種混合3-way動作も入っている
全体としてはSFR(Split Frame Rendering)に近い動作という印象も受けるが,「AFR(Alternate Frame Rendering)でもSFRでもなく,我が社独自のアルゴリズムで描画を行っている」(Belz氏)。
氏によると,Hydra 200チップは「ゲームアプリケーションが実行されると,アンチエイリアシング,ステンシル処理,深度処理のワークロードを見ながら,リアルタイムで2基のGPUに負荷を分散していく」処理を行うとのこと。その後最終的に,2基のGPUで処理された内容を再構成して,プライマリのグラフィックスカードに渡すことで,描画を行うという。
Hydraドライバの動作イメージ。「ゲームアプリケーションが実行されると,APIからの命令をインターセプトして,Hydraが2基のGPUへ割り振ることになる」(Belz氏)
●N-Mode(デュアルGeForce)
- 対応OS:32/64bit版Windows Vista/7
- 対応グラフィックスAPI:DirectX 9/10
- 対応GPU:G9x/GT2xxシリーズ(※デュアルGPUソリューションは非対応)
- 対応グラフィックスドライバ:GeForce Driver 185.85・186.18・190.38・190.62・195.62
●A-Mode(デュアルATI Radeon)
- 対応OS:32/64bit版Windows Vista/7
- 対応グラフィックスAPI:DirectX 9/10
- 対応GPU:ATI Radeon HD 4000/5000シリーズ(※デュアルGPUソリューションには非対応)
- 対応グラフィックスドライバ:ATI Catalyst 9.7以降
●X-Mode(GeForce+ATI Radeon)
- 対応OS:32/64bit版Windows 7
- 対応グラフィックスAPI:DirectX 9/10
- 対応GPU:N-ModeおよびA-Modeでサポートされるもの
- 対応グラフィックスドライバ:N-ModeおよびA-Modeでサポートされるもの
- 特記事項:プライマリグラフィックスカードはGeForce搭載製品にすることが推奨される
つまり,今後NVIDIAから新しいGeForce Driverがリリースされたとしても,そのドライバを利用したいときは,当該GeForce Driverに対応したHydra 200ドライバの登場を待たねばならないのである。
●1.4版ドライバにおける既知の問題(※リリースノートより)
- N/A/X-Modeのいずれでもウインドウモードがサポートされない
- 「Fraps」を有効にしていると,ベンチマーク中にアプリケーションがクラッシュすることがある
- X-Modeで,ATI Radeon搭載グラフィックスカードをディスプレイと接続することが推奨される(※上で紹介したように,X-ModeではGeForceをプライマリにすることが推奨されているので,「セカンダリのATI Radeonカードもディスプレイと接続する」という意味ではないだろうか。原文は「In X-Mode - it is recommended to connect the display to the AMD/ATI graphics card」。ただ,テストした限り,ATI Radeonとディスプレイを接続しなくてもX-Modeは動作した)
- N/A/X-Modeのいずれでも,「BioShock」の終了時に「application has stopped working」というポップアップが表示されることがある
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Call of Duty 4: Modern Warfare」で,閃光弾を投げたとき,画面に縞模様が表示される(※カッコ書きで音響手榴弾に関する言及もあるのだが,実際のところははっきりしない。原文は「Call of Duty 4 stripes appear when throwing a Flash Bang(Stun Grenade) and then disappear in all modes」)
- N/A/X-Modeのいずれでも,DirectX 9版「World in Conflict」がクラッシュする
- N/A/X-Modeのいずれでも,DirectX 10版「World in Conflict」のベンチマークモード終了時に縞模様が表示される
- N/A/X-Modeのいずれでも「Left 4 Dead」がクラッシュする
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Tom Clancy's Rainbow Six: Vegas 2」で,閃光弾を投げたとき,画面に縞模様が表示される(※カッコ書きで音響手榴弾に関する言及もあるのだが,実際のところははっきりしない。原文は「Rainbow Six: Vegas 2 stripes appear when throwing a Flash Bang(Stun Grenade) and then disappear in all modes」)
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Call of Duty: World at War」で,(プレイヤーの)大変近くで爆発が起こったとき,画面に縞模様が表示される
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Operation Flashpoint: Dragon Rising」で,閃光弾を投げたとき,画面に縞模様が表示される(※カッコ書きで音響手榴弾に関する言及もあるのだが,実際のところははっきりしない。原文は「Operation Flashpoint Dragon rising stripes appear when throwing a Flash Bang(Stun Grenade) and then disappear in all modes」)。また,2560×1600ドット解像度で8xアンチエイリアシングを適用すると,X-Modeでパフォーマンスが低下する
- 「Company of Heroes」において,X-Modeでアーティファクトが発生する。また,N-Modeではゲーム中の影がちらちら光る
- 「Batman: Arkham Asylum」において,A-Mode構成時にパフォーマンスが低下する
- 「3DMark06」において,X-Mode時に2560×1600ドット,8xアンチエイリアシング,16x異方性フィルタリング設定を行うと,GT1とGT2の間でアプリケーションがクラッシュする
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Stormrise」で動作が不安定になり,[Alt]+[Tab]キーを押すとクラッシュする
- DirectX 10版「Call of Juarez」で,X-Mode構成時に2560×1600ドット解像度を選択すると,パフォーマンスが低下する。また,同条件で4x SSAAを適用すると,アプリケーションがクラッシュする
- X-ModeでDirectX 10版「デビル メイ クライ 4」を実行し,2560×1600ドット,8xアンチエイリアシングを設定すると,パフォーマンスが低下する
- N/A/X-Modeのいずれでも,「Supreme Commander」がクラッシュする
- N/A/X-Modeのいずれでも,「バイオハザード5」で動作が不安定になる
- 同一のカードによるN/A-Modeを除くすべての動作モードで,「Tom Clancy's H.A.W.X」実行時に,ゲームメニュー画面の反応が遅くなる
テストできたところまでのスコアを掲載
“条件”を満たした場合には高い性能を発揮か
テスト環境は表のとおり。「GeForce GTX 285」搭載のMSI製カード「N285GTX-T2D1G」は,標準でコア/メモリクロックがリファレンスよりも引き上げられているが,今回はリファレンス相当にまで引き下げている。
ただし,バイオハザード5は,ATI Radeonにもあった“日本語版と海外版で実行ファイル名などが異なる問題”により,日本語版だと非対応。そのため今回は,海外版の公式ベンチマークソフトを用いる。またCall of Juarezは,ベンチマークモードに解像度2560×1600ドットが用意されていなかったので,残る二つの解像度でテストする。
もう一つ。今回の速報では,
- X-Mode:GeForce GTX 285+ATI Radeon HD 5870
- N-Mode:GeForce GTX 285+GeForce 9800 GT
- A-Mode:ATI Radeon HD 5870+ATI Radeon HD 4670
の組み合わせに絞ることをお断りしておきたい。Big Bang-Fuzionでは,CFXはサポートされるが,SLIは非対応なので,2枚のGeForce搭載カードは必ずN-Modeで動作させる必要がある(※同一シリーズのGPUを搭載している2枚なら,ATI RadeonはA-ModeでもCFXでも動作する)。
なお,A-Modeについては,上で紹介したとおり「ATI Radeon搭載グラフィックスカードをディスプレイと接続することが推奨される」が,これに従う形で,X-ModeとA-Modeにおいて,セカンダリのATI Radeonを別のディスプレイと接続したところ,「X-Modeのスコアが数%低下する一方,A-Modeでは1割ほどスコアが上がる」という現象が発生した。そのため今回,セカンダリGPUはディスプレイと接続していない。
というわけで,まずは3DMark06から。テスト結果はグラフ1,2にまとめたが,GeForceとATI Radeonの協調動作がそこそこうまくいっていることは,GeForce GTX 285のシングルカードに対し,GeForce GTX 285+ATI Radeon HD 5870は「標準設定」の2560×1600ドットで約24%,4xアンチエイリアシング&16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」では29〜56%高いスコアを叩き出していることから見て取れよう。
ただし,GeForce GTX 285+GeForce 9800 GTによるN-Modeの効果はまったくないと断じていいレベルであり,また,HD 5870+HD 4670では大きくスコアを落としている。
例えばミドルクラスのグラフィックスカードによるX-Modeなど,もう少しサンプルが欲しいところなので,現時点では結論を急がないでおいてもらえると助かるが,ひょっとすると,組み合わせるカードの性能は比較的近いものにしたほうがいいのかもしれない。性能差がありすぎるカードの組み合わせでは,低いほうに引っ張られてしまっているような印象である。
なお,ATI Radeon HD 5870をプライマリで用いている2条件で2560×1600ドットのスコアがN/Aなのは,ATI Catalyst 9.12と,今回テストに用いているDell製液晶ディスプレイ「3007WFP」の相性問題により,同解像度でのテストを行えなかったためだ。
ゲームタイトルを用いたベンチマークだと,Hydraのパフォーマンスは奮わない(グラフ3〜8)。Call of Duty 4の高負荷設定,GeForce GTX 285+ATI Radeon HD 5870はGeForce GTX 285を平均で2fps上回ったが,ほとんど誤差のような数字であり,現時点では「とりあえず,協調動作はする」というレベルを超えていない印象を受ける。
……取り急ぎ,Hydra Engineの仕様と現状を駆け足でまとめてきた。限られた条件下とはいえ,GeForceとATI Radeonによる協調動作が確かに機能していることは確認できたが,ともあれ今回は速報である。もう少し突っ込んだ話は,後日あらためてお伝えしたい。
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