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[CEDEC 2010]“ゼビウス”“ドルアーガ”の遠藤雅伸氏が読み取った,「ひぐらしのなく頃に」と“ライトゲーム”の共通項とは?
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印刷2010/09/02 20:11

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[CEDEC 2010]“ゼビウス”“ドルアーガ”の遠藤雅伸氏が読み取った,「ひぐらしのなく頃に」と“ライトゲーム”の共通項とは?

画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2010]“ゼビウス”“ドルアーガ”の遠藤雅伸氏が読み取った,「ひぐらしのなく頃に」と“ライトゲーム”の共通項とは?
モバイル&ゲームスタジオ取締役会長 遠藤雅伸氏
 現在開催中のゲーム開発者向けイベント「CEDEC 2010」において,あの「ゼビウス」や「ドルアーガの塔」で有名なクリエーター遠藤雅伸氏によるセッションが行われた。セッションタイトルは「ライトゲームなう」。ここで遠藤氏は,ライトゲームの基礎知識や,ライトユーザー向けゲーム企画におけるゲームデザインのコツなどを語った。

 遠藤氏といえば,実年齢30代以降の元ゲーム少年には,「ゼビウス」や「ドルアーガの塔」など“実は裏側に大きな物語が隠されているゲーム”の開発者として記憶される人物だが,近年は携帯電話で遊ぶようなライトでカジュアルな作品に注目しており,自らその制作にもかかわっている。今回のセッションで遠藤氏は,そういう立場から,おそらく“いま女子高生の間でウケている携帯ゲーム”のことなんか知らないであろう元ゲーム少年(現ゲーム開発者)達に向けて,その紹介を行った。

 まず遠藤氏は,コンシューマゲーム機向けソフトの売り上げが減少していることから,昨今ではゲーム人口が減少しているという見方に対して,そんなことはなく,ゲーム人口はむしろ増えているとした。そして,その増えている部分が,まさにこのセッションで取り上げる“ライトゲーム”をプレイする“ライトゲーマー”であると続けた。

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 対して,旧来のこだわり型のゲーマーのことを遠藤氏は“ゲームエリート”と定義する。そしてライトゲーマーとゲームエリートの違いをまとめたチャートを示し,この両者間には大きな差があると説明した。つまり,会場にいる聴講者の大半は,もちろんこの分類で言えばゲームエリート達だ。つまり,いまゲームをメインで作っている人達(=ゲームエリート)と,ゲームをメインで消費してくれる人達(=ライトゲーマー)との間には,大きな隔たりがあるということだ。そういうことを確認したうえで,セッションは「それではライトゲーマーが面白いと思うものとはどういうものか」という話に移る。

 ここで,ライトゲーマーが楽しむ作品として挙げられたのが,携帯電話でプレイするゲーム「自転車走-チャリそう-」および「糸通し」だ。これらはどちらもあまりにも単純で,旧来の感覚から言えば“ナシ”なゲームだ。しかし現実には,自転車走は一千万以上ダウンロードされているのだそうだ。
 ちなみに遠藤氏は自転車走の存在を高校生である姪から聞いて知ったそうだ。さらに渋谷のマクドナルドに市場調査に行ったときに,女子高生達が自転車走のことを楽しそうに話題にしている姿も目撃したという。

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 次に遠藤氏がライトゲーマー向けタイトルとして挙げたのは「ひぐらしのなく頃に」だった。これはずいぶん意外な気がする(ひぐらしはどちらかと言えばオタク向けタイトルだと認識されているのではないだろうか)が,遠藤氏はこの作品が“アドベンチャーゲームなのに選択肢がない”タイトルであることに注目していた。
 ゲーム中に選択肢を選ぶという行為は,ノベル系ゲームが持っていた“最後のゲーム性”であったはずだ。しかしひぐらしにはそれがない。にもかかわらず,これをプレイした人の中には「ひさしぶりにゲームらしいゲームをプレイした」という感想を持つ人がそれなりにいるらしい。このようなゲームというものに対するユーザー側の認識の変化に,遠藤氏は,ライトゲーマーの心理を読み解く鍵があると見ているようだった。

 お次は「GROW」。この作品はWeb上で公開されているフラッシュコンテンツで,いくつか提示されているアイテムを順番に選んでいくことによって,画像がアニメーションで変化していくというタイトルだ。
 アイテムの選び方にはたしかに正解がある。ゲームエリートであればその攻略法を自分で見つけたいと思うところだろう。だが,女性などのライトゲーマーは,すぐに攻略法を見てしまうそうだ。そして正解が分かったら,それを何回も何回も繰り返し行って,可愛いアニメーションを楽しむのだという。そしてそのアニメーションを見て,女性は「このゲームおもしろーい」と言うのだそうだ。アニメーションを鑑賞することは(我々の感覚からすると)ゲームではないのに。遠藤氏はこのあたりにも,先ほどと同種の“ライトゲーマーを理解する鍵”が隠されているとにらんでいるようだった。

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 このあとも遠藤氏は「脳内メーカー」,「Google Earth」,「Google Maps」のストリートビューなど,旧来の基準ではゲームには見えないが,多くの人が“ゲーム的”に楽しんでいるものの例を,ライトゲームを理解し,制作するためのヒントになるものとして挙げていた。

 実例の紹介のあと,セッションはより具体的なキーワードを中心とした話になっていった。会場で挙げられていたキーワードを以下に列記していこう。

×じっくり→○あっさり
×本格的→○お手軽
×高いゲーム性→○かんたん
×豊富な選択肢→○二択・Yes No
×わかりやすい説明書→○説明書なし
×コントローラーのカスタマイズ→○ワンボタン
×リアルな→○かわいい
×パラメータ・数値評価→○チャート・雰囲気評価
×勝負・ゼロサム→○共同・プラス
×満足感・達成感→○なんとなく

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 “かんたん”であることは,さらに言えば,プレイした人に「私ってひょっとしてゲームうまい?」と思わせることが重要だそうだ。それによって,その人はほかの人にプレイを自慢したくなり,これがゲームが広まっていくきっかけになるからだ。

 選択肢を“Yes No”の二つに絞ると良いという見方は,なるほどと納得できるものだった。たしかに,ゲームをほとんどプレイしない女性でも“性格が分かるYes No診断”といったものはたいてい大好きである,ということは,経験的にも実感できる。

 “達成感”を得るためにゲームにヤマ場を設定するのではなく,“なんとなく”運不運で難度の高いヤマが現れるようにすることで,プレイヤーは自身の失敗を「運が悪かったのであって,わたしが悪いんじゃない」という風に納得する。そうすることで「このゲームは難しいからもうやらない」となってしまうことを防ぐことができるそうだ。

 今回のセッションで示されたライトゲームの特徴を表す数々のキーワードは,基本的にはどれもがすでに人々の間で語られているものだったのではないかと思う。ただ,すごいのはこれらを遠藤氏が,自分で見つけた実例を挙げながら,実体験から得たものとして語っていたところだ。会場では実例が出されるたびに「このゲームを知ってる人,手を挙げて」とやっていたが,挙手する人はまばらだったように見える。ライトゲームの傾向を,知識としては知っているけれど,実際にはなかなか触れる機会がない……といったところだろうか(少なくとも筆者はそうだ)。遠藤氏のようなベテランが流行に対して旺盛な好奇心を寄せていて,それより若い開発者がそのことをよく知らない。構図としては「もっと危機感を持った方がいいんじゃないか」と思わざるを得ないが,案外,それこそがこのセッションの隠された意図かもしれない。遠藤氏なら十分にあり得る話である……。

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