レビュー
核戦争後の世界を描く,サバイバルホラーFPS
メトロ2033
スパイクから2010年5月13日に発売されたXbox 360版「メトロ2033」は,核戦争によって崩壊した世界を舞台にしたFPSだ。こうした「核戦争後の世界」をテーマにした作品としては,Bethesda Softworksの「Fallout 3」(PC/PlayStation 3/Xbox 360)や,GSC Game WorldのS.T.A.L.K.E.R.シリーズ(厳密には核戦争ではないが)などの傑作があり,本作にもそれに近い雰囲気を感じる。それもそのはずで,メトロ2033を開発したウクライナの4A Gamesは,もともとS.T.A.L.K.E.R.シリーズの開発に携わっていたスタッフが興した会社なのだ。
「メトロ 2033」公式サイト
核戦争によって文明が崩壊してから,20年が経過した世界。放射能に汚染された地上は人間の住める環境ではなくなり,生き残ったモスクワの人々は,汚染が進んでいない地下鉄(メトロ)構内にコミュニティを作り生活していた。だが,凶暴なミュータントや,野盗,そして異なる思想を持った人間達の攻撃など,さまざまな脅威にさらされているこの場所も,決して安全といえるような環境ではなかった。
主人公のアルチョムは地下鉄駅の一つ,「エキジビジョン駅」で生まれ育った青年だ。義理の父親の友人である“ハンター”の遺志を引き継ぎ,外の世界へ探検の旅に出ることになる。この冒険を通じて,アルチョムは初めて「空」を見たり,ほかの駅に住む人々と交流を持ったりと,さまざまな経験を積んで成長していく。そんなアルチョムは時折,幻覚や幻聴の類を見ることがあり,これもらまたストーリーにからんでくる。
ゲーム展開はリニアな一本道を進んでいくタイプで,戦闘のほかに随所にさまざまな演出が施されたシングルプレイ専用のタイトルになっている。なお,本作はロシアの作家,ドミトリー・グルホフスキー氏のSF小説「Metro 2033」を原作にしており,小説は小学館より日本語訳の刊行が決まっている(関連記事)。
メトロ2033のローカライズは完全吹き替えで,日本語,ロシア語,英語という3か国分の音声が収録されている。字幕は日本語と英語の切り替えが可能だ。
やはりロシア語圏のゲームなので,雰囲気重視なら「ロシア語音声+日本語字幕」だろうか。ただし,これだと主要キャストのセリフには字幕が出るものの,兵士や一般市民といったNPCの発言には字幕が出ない。個人的なオススメは「日本語音声+日本語字幕」で,これならNPCも日本語をしゃべるし,字幕で主要キャストのセリフをフォローできるのでまあ,当然だけど理解度がグッと増す。
ちなみにアルチョムは普段は無口だが,次のステージが始まる前の導入部分や,一部のチャプターでしゃべる声が聞ける。低く渋い声で,世界観にもよくマッチしている。
吹き替えも丁寧だし,字幕のフォントやサイズ,カラーも見やすい。ローカライズは非常に高レベルだ。
その場の空気感を再現したグラフィックスと音響が
プレイヤーをゲーム世界へ引き込む
メトロ2033の舞台は,モスクワに実在する地下鉄がモデルになっている。「忠実に再現」というほどではないようだが,グラフィックスのクオリティはかなり高く,光と影の描写が素晴らしい。資源の乏しい世界だけに,地下鉄構内はどこも薄暗く,ほこりっぽい。そのあたりの描写も見所だろう。とにかく雰囲気は抜群に良好で,こういう世界観が好きな人ならグッとくるはずだ。
地下鉄の駅同士は線路でつながっており,レールカーと呼ばれる乗り物で移動する。また,銃座を取り付けた装甲車や強力な砲台を装備した戦車もレール上を走るように改造されており,線路は人々の生活に欠かせないものになっている。
駅ごとに個性があるのも,面白いところ。例えば,アルチョムの出身駅であるエキジビジョンは,ミュータントの襲撃で負傷者が続出しており,絶望感から駅全体に重苦しい空気が流れているが,ほかの駅へ行くと,住民がウォッカ片手に盛り上がっていたり,活気ある市場があったりなど,場所によって雰囲気が全然違う。本作のNPCはおしゃべりで,ときに騒々しいほどなので,いろんな駅を散策して住民の暮らしぶりを覗くのは,まるで現実に旅行をしているような感覚だ。
本作には暗い場所が多く,フラッシュライトを点けてのプレイが基本となる。それでもやはり視認性は悪く,目を凝らすことになりがち。そのためか,ほかのFPSと比べて3D酔いを起こしやすいように感じた。ちなみにフラッシュライトはつけっ放しにしておくと光が弱くなり,ナイトビジョン(暗視ゴーグル)はバッテリーが切れると暗視装置が停止して,ただのゴーグルになってしまう。そういう場合は,携帯型の充電器を使わなくてはならない。
サウンド周りも力が入っている部分だ。筆者は5.1chのヘッドホンを使って遊んでいるが,地下らしく音が反響しているのがよく分かる。姿は見えないがミュータントの鳴き声が聞こえてきたり,どこからか人間の声が聞こえたので,そっちを向いてみたら誰もいなくて冷や汗をかいたりした。
また,地上に出ると「ビュービュー」と風切り音がし,誰も乗っていないブランコが揺れて,「キーコー,キーコー」と音を立てていたりする。BGMはほとんどなく,環境音が中心であるため,薄気味悪さが際立って結構怖い。また,後述するアルチョムの呼吸音も,彼の状態を示す重要な情報になっており,ゲームに没頭しているうち,この呼吸音が自分のそれとシンクロしてなんだか息苦しくなったりしたこともある。このように,サウンドはゲームのムードを作り上げる重要な要素として位置づけられており,それに成功している。
アルチョムに力を貸してくれるカーンというレンジャーは,超常現象にも精通しており,地下鉄に出現する亡霊や謎の発光物体などについても説明してくれる。彼の話が本当かどうかはよく分からないが,いずれにせよ,本作にはさまざまなオカルト的演出も施されており,背筋がゾクッとしたことも一回だけではなかった。苦手という人は,ちょっと注意したほうがいいかもしれない。
きれいごとは言ってられない
苛酷な環境を生き抜くためのサバイバル術
メトロ2033の世界では,上述したようにミュータントなどが人類を脅(おびや)かしており,そのため多くの人々が武装している。アルチョムは,リボルバー,アサルトライフル(もしくはサブマシンガン),そしてショットガンまたは空気銃といった特殊武器の各カテゴリから一丁ずつ。そしてナイフとグレネードを二種類ずつ持つことができる。弾薬としては,汎用の5.45mm弾と軍用の5.45mm弾,そして空気銃用の金属球や,金属の杭などが存在する。
ちなみに日本語版には,海外では特定の店舗での早期購入者特典として用意されていたヘヴィーオートマチックショットガンが標準で収録されている。この銃はすさまじい火力を誇り,敵が集団でもあっという間に片付けてしまう。あまりの性能のよさに,ちょっとゲームバランスを崩しているような印象を受けるほどだ。
銃弾の中でも,とくに重要なのが軍用5.45mm弾だ。これは銃弾として使うほか,通貨としての価値を持っている。紙幣より,命を守る銃弾に価値があるというのはユニークな設定だろう。軍用5.45mm弾を商人にわたして性能のいい銃を入手したり,両替商との交渉に使ったりもできる。
この軍用5.45mm弾は威力が高い一方で,利用価値も高い。これを撃ちまくるのはお金をばらまいていることと同じこと。どういった状況で使用するのかはプレイヤーの判断次第だ。通常は汎用5.45mm弾や,ショットガンで戦うといいだろう。
弾薬や武器は商人から購入するほか,地下鉄構内を探索したり,死んだ兵士からルートすることもできる。死体のそばに銃や弾薬が散乱していることも多い。生き抜くためなら仲間の死体でもなんでも利用しなければならないという,過酷な世界なのだ。
ただし,武器を拾いものなどですませ,軍用5.45mm弾の使用を極力避けていた筆者の場合,ゲームクリア時に600近い通貨を所持していたという,いわゆる守銭奴プレイになってしまった。ここはまあ,難度を上げればまた違う感じになるだろう。
通貨以外に重要なフィーチャーとして,ガスマスクがある。外の世界には放射能が強い場所が数多くあり,マスクをしなければ1分も持たずに命を落としてしまうのだ。
ただし,ガスマスクをつけた=安全とはいかない。マスクの防毒フィルターが時間経過に応じて劣化するので,使えなくなったら予備のフィルターと交換しなくてはならない。フィルターの状態は時計を見ることで確認でき,針が緑色の位置にあれば「安全」,黄色なら「注意」,赤なら「危険」だ。
さらに,フィルターが劣化してくるとアルチョムの息が「ゼーハー,ゼーハー」と荒くなり,視界も曇ってくるので,ここでも見分けがつく。フィールドを探索しているうちに交換用のフィルターがなくなってしまった,ということも起こり,地上では常に死と隣り合わせだ。精神的なタフさが要求される。
敵の攻撃によってガスマスクが破損することにも注意が必要だ。攻撃を受けると,まずガラスにヒビが入って視認性が悪くなり,最終的には穴が開いてしまう。
こうなったらガスマスク自体を取り替える必要があるのだが,そう都合よく見つからないことも多く,緊張感がある。ガスマスクは常に着けている必要があるわけではなく,放射能の影響が少ない場所に入ったら外してかまわない。
歯ごたえのある戦闘 ただし,敵/味方のAIには問題も
本作のストーリーは,プロローグと7つのチャプターによって構成されている。プロローグは簡単なチュートリアルも兼ねており,ゲーム内に新しい要素が登場したときには,そのつどヘルプメッセージがポップアップするという親切設計。
一つのチャプターは複数のステージによって構成され,移動だけでステージが終わったり,激しい戦闘があったりと,内容はさまざまだ。なお,プロローグはチャプター1から8日後の話で,ストーリーを進めることで,そのあとに何が起こったのかが分かる仕組みだ。
特定の目標をクリアすることで,次に向かうべき新たな目標が発生するというシステムだが,メモを表示することで現在の目標が分かったり,コンパスが進行方向を示してくれたりするので,ゲームの進行にそれほど迷うことはないだろう。
難度としてはイージー,ノーマル,ハードコアの三段階が用意されている。難度が上がると敵の攻撃力や耐久度が上がって倒しにくくなるほか,AIの反応が鋭くなり,戦闘が厳しくなるという印象だ。
筆者は最初ノーマルで始めたが,後半のステージあたりから詰まり始め,結局イージーに落としてクリアした。ちなみに一度クリアしたステージは,あとからデータをロードしてやり直すことができ,取りこぼした実績を解除したいときなどに便利だ。
基本的に銃をバリバリ撃って倒していくという戦闘スタイルだが,ときには敵の目をかいくぐってこっそり潜入しなくてはならないという,ステルスアクションっぽい場面も出てくる。アルチョムが装備する腕時計には光を感知するセンサーが取り付けられていて,それを使って自分が敵から見えるかどうかを判断するのだ。
「敵に見つからずにクリアする」ことで解除される実績も用意されているが,どう戦うかはプレイヤー次第。ここはスニークでクリアしてみようとか,撃ちまくって敵を殲滅しようとか,突破方法をいろいろ考えることができるところが面白い。
地上を徘徊する危険なミュータントには,巨大な口を持った「ノサリス」,穴から奇襲をかけてくる「ラーカー」,名前のとおり悪魔のような外見の「デーモン」,そして物語のキーとなる謎の存在「ダークワン」など,敵のバリエーションは豊富だ。ミュータント連中は猪突猛進で突っ込んでくるだけだが,集団で襲ってくる場合が多いうえ,動きもかなり敏捷。気がついたら囲まれていたなんてこともあり,なかなか手強い。
このほか,野盗なども敵として襲ってくる。興味深いのは,どうやら世界が崩壊してもなお,共産主義者とファシストは対立しており,しょっちゅう小競り合いを起こしていることだ。ファシスト側が共産主義者に向けのプロパガンダ放送をしていたりなど,カリカチュアライズされたイデオロギー対立がゲームの中で描かれているわけで,S.T.A.L.K.E.R.シリーズに一脈通じるこうしたアイロニーは,いかにも東欧生まれのゲームっぽい。
人間型の敵は,仲間が攻撃されて倒されてもそこから動かずじっとしていたり,同じパターンでこちらの動きうかがっていたりと,正直なところAIのデキはイマイチという印象を受ける。これは人間型の味方AIについても言えることで,仲間がわざわざ敵の群れに一人で突入し,勝手に倒されてゲームオーバーになることもあった。
普通の人間であるアルチョムは,攻撃を食らうと割と簡単に倒されてしまう。攻撃を受けて重傷を負った場合は画面が赤く染まり,心臓の鼓動が早くなる。ヘルスは救急パックで回復できるほか,敵がいない場合,一定時間放置していれば自動的に元に戻る。
このように戦闘はなかなかハードで,どちらかとえばリアル系FPSの雰囲気だ。
ゲームのムードは抜群だが,語られていないことも多い
普段からFPSを遊んでいるプレイヤーなら,エンディングまでは10時間程度という印象で,個人的には,もう少し長くてもよかったかなと思う。
本作はマルチエンディングになっており,プレイヤーのとった行動によって,エンディングが変化するので,リプレイアビリティはそれなりに高い。
何度も書いて恐縮だが,核戦争で荒廃した世界の雰囲気やサウンドなどが素晴らしく,引き込まれる。とくに終盤,ある場所から崩壊したモスクワの様子を俯瞰できるのだが,インパクトは相当なもの。この終末世界の再現度は本当にすごくて,一見の価値ありだ。
プレイする前は「Fallout 3に似ているのかな?」と思っていたが,実際に遊んでみると方向性はかなり違う。メトロ2033は,普通の人間がいかにこの危険な世界を生き延びるかをテーマにすえており,ガスマスクを装備したり,フィルターを交換したり,バッテリーを充電したりと,戦闘以外にやることがたくさんある。これら要素がゲームの世界観にしっかりとマッチし,面倒くささを感じさせないところが見事だ。
とはいえ,クリア後もいくつかの謎が謎のままになっているのは気になった。ネタバレになりそうなので,詳しい話は避けるが,いくつかの疑問に対し明確な答えが提示されないため,やや消化不良な印象だ。このへんは,原作となった小説に任せていたとか,続編やダウンロードコンテンツのためにとっておいたとか,そういった事情があるのかもしれない。
敵のAIがあまり賢くなかったり,画面が暗くて3D酔いを起こしやすいといった点もあるが,世界観や雰囲気は抜群によく,FPS好きの人ならプレイしてもらいたいタイトルだ。原作小説の日本語訳ももうすぐ発売されるようなので,ぜひ読んでみたいと思う。
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