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これでシリーズ全体の読み方もバッチリ! 「放課後ライトノベル」の第2回は,待望のアニメ化も果たした人気シリーズ最新巻『大伝説の勇者の伝説8 壊れた魔術師の未来』
日本人はファンタジーが好きだ。
「ドラゴンクエスト」を筆頭に,RPGにはファンタジー的世界観のものが多いし,「ハリー・ポッター」シリーズや「ロード・オブ・ザ・リング」のヒットは記憶に新しい。ディズニーの諸作品だって,ファンタジーからの強い影響を受けている。我々の身の回りには,意外なほどファンタジー作品があふれている。
ライトノベルもまた,その一端を担っている。『ロードス島戦記』『フォーチュン・クエスト』『スレイヤーズ』『魔術士オーフェンはぐれ旅』等々。ライトノベルの歴史を紐解けば,ファンタジーの名作タイトルが数多く挙がってくる。今でこそ,学園ものに少々押され気味な感はあるが,黎明期,ライトノベルの第一線を固めていたのはファンタジーだった。そして今も,その流れを受け継ぐ作品は続々と生み出され続けている。
今回取り上げる『大伝説の勇者の伝説』もそのひとつ。2010年2月に初のゲーム化となるPSP用ソフト「伝説の勇者の伝説 -Legendary Saga-」が発売され,この7月に待望のアニメ化を果たした,アンチ・ヒロイック・ファンタジーだ。
『大伝説の勇者の伝説8 壊れた魔術師の未来』 著者:鏡貴也 イラストレーター:とよた瑣織 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:630円(税込) ISBN:978-4-8291-3530-3 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●アンチヒーロー・ライナの,挫折と苦難の旅路
『大伝説の勇者の伝説』――タイトルからして,いかにもど真ん中ストレートなファンタジーといった趣のこの作品。実際,ストーリーも(大雑把にまとめてしまえば)「主人公が,争いのない世界を作ろうと奮闘する話」と,ファンタジーの王道を行っている。世界観も,剣あり魔法あり伝説ありと,由緒正しいファンタジー的世界観を踏襲している。
ではどのあたりが“アンチ”ヒロイックなのか。それはひとえに,主人公であるライナ・リュートによるところが大きい。
舞台はメノリス大陸の南,ローランド帝国。かつて「ローランド最強の魔術師」と呼ばれたライナは,「複写眼(アルファ・スティグマ)」という呪われた目を持つがゆえに,人々に忌み嫌われ続けてきた。あるとき彼は,ひとつの事件をきっかけに,止むことのない国同士の争いに終止符を打とうと決意する。だがその途上で,ライナは数多くの悲劇や,友人との別れを経験し,ついには彼自身が「悪魔王」と呼ばれるようになってしまう。
真に王道なファンタジーであれば,勇者である主人公が,街の人々の期待を一身に背負って送り出されるはず。けれど,この作品ではまったくの逆。作中では「勇者」と称される人物が複数登場するが,その称号はライナの上に冠されることはなく,むしろライナが対する相手こそが,その「勇者」だったりする。タイトルの『伝説の勇者』とは,決してライナを指す言葉ではないのだ。
ライナ本人も,「めんどくさい」が口癖で,暇さえあれば昼寝しようとするなど,おおよそ主人公らしからぬ性格の持ち主。彼が傷つき,苦しみながら,いかにして「勇者」たちと肩を並べる存在に成長していくか。それが,本シリーズの見どころのひとつだ。
●いよいよクライマックス直前! 大陸の運命やいかに!?
『大伝説の勇者の伝説(大伝勇伝)』は,シリーズ全体の大いなる序章というべき『伝説の勇者の伝説(伝勇伝)』(全11巻)の直接の続編だ。『伝勇伝』では主にメノリス大陸南部を中心に物語が展開していくが,『大伝勇伝』では舞台が一気に大陸全土に広がり,巻が進むたびに,物語は混迷の度合いを深めていく。
最新8巻では,悪魔王として立ったライナが,いよいよ本格的に各国を相手取って動き始める。それまで傀儡の王として扱われてきた彼が,前々巻の衝撃的な出来事(その内容は,ぜひ各自で確かめてほしい)を受けて,名ばかりではない,真の王として振る舞うことを考え始める。「ローランド最強の魔術師」でもなく,忌まわしき「複写眼」保持者でもない。人の上に立つ「王」となった彼がどんな行動を見せるのか,興味は尽きない。
ほかにもこの巻では,ライナに重大な影響を与えたある人物との邂逅が描かれたり,ヒロインであるフェリス・エリスとの関係が微妙に進展したりする。とくに後者は,それまでなかなか「よき相棒」から抜け出せなかった二人が,今後接近していく大きなきっかけとなるかもしれない。大小さまざまな意味で節目の巻と言えるだろう。
●これから読もうとしている人へ,『伝勇伝』はこう読め!
「伝説の勇者の伝説」シリーズは『伝勇伝』『大伝勇伝』のほかに,『とりあえず伝説の勇者の伝説(とり伝)』『真伝勇伝・革命編 堕ちた黒い勇者の伝説(堕ち伝)』の2シリーズがあり,シリーズの総巻数は40巻近くにも及ぶ。アニメ化などを機に,これから読もうとしている人の中には「どこから読んでいいか分からない!」という人も多いはず。そこで本稿の最後に,シリーズの読み進め方を解説しておく。
『伝勇伝』がシリーズ全体の序章であることは先に書いたとおりだが,それと時系列的に同じ時期に位置するのが『とり伝』(全11巻)。雑誌「ドラゴンマガジン」に連載されたコメディタッチの短編がメインだが,毎巻書き下ろしの中編が収録され,その中にはライナの過去のエピソードもあったりする。そこに登場するキャラクターが,その後長編シリーズである『伝勇伝』『大伝勇伝』に登場するケースも多いため,『伝勇伝』と平行して読み進め,『大伝勇伝』に入る前には読み切っておきたい(ちなみに著者の公式サイトでは,2010年7月現在『伝勇伝』『とり伝』の詳しい読み進め方がわかる「伝勇伝読み方ガイド」が掲載されているので,これから読み始める方はぜひ参考にしてほしい)。
『堕ち伝』(既刊5巻)では,表題作でもある書き下ろしの比重がさらにアップ。1巻ごとの読みきりではなく,1巻,2巻とストーリーが続いていく形式となった。こちらにはライナはほとんど登場せず,主にサブキャラクターたちの過去エピソードが展開する。時系列的にはシリーズのもっとも過去に位置するが,基本的な設定が頭に入ってからのほうが話を理解しやすいため,『伝勇伝』『とり伝』を読破してから読み始めることをおすすめする。
冊数こそ多いものの,読みやすい文体と息をつかせぬ展開がそれを感じさせない。一度読み始めたが最後,多数のキャラクターが織りなす壮大なストーリーから目を離せなくなるはずだ。
■あっという間に分かる,鏡貴也作品
著者の鏡貴也は『武官弁護士エル・ウィン』で第12回ファンタジア長編小説大賞準入選を受賞し,2001年にデビュー。同作はデビュー作にして,10巻を超える人気作品となる。第2作となる『伝説の勇者の伝説』は,第4回「龍皇杯」(読者投票によって連載作品を決めるという,雑誌「ドラゴンマガジン」誌上での企画)で『EME』(著:瀧川武司)と共にダブル優勝を果たしてのスタートだった。2008年からは「伝勇伝」シリーズに加え,『いつか天魔の黒ウサギ』がシリーズ開始。速筆なことで有名で,2本のシリーズを抱えることになった現在でも,変わらぬペースで作品を送り出し続けている。
『いつか天魔の黒ウサギ1 900秒の放課後』(著者:鏡貴也,イラスト:榎宮祐/富士見ファンタジア文庫)
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『エル・ウィン』『伝勇伝』共に,舞台となるのはオーソドックスなファンタジー世界だが,『エル・ウィン』であれば「武官弁護士」なる職業についた人物を主人公に据えるなど,王道の中に絶妙なアレンジを加える手腕が光る。
『いつか天魔の黒ウサギ』では,著者初となる学園ファンタジーにも挑戦。こちらも主人公が「死んでもすぐに生き返り,15分間に7回死なない限りは何度でも復活する」という体を持つなど,既存の学園ファンタジーの枠に収まらない魅力を放っている。
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- 関連タイトル:
伝説の勇者の伝説 -Legendary Saga-
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(C)鏡貴也・とよた瑣織/富士見書房・角川書店