連載
中国地方の覇者・毛利家ついに動く。「放課後ライトノベル」第85回は『織田信奈の野望』で目指すは天下統一!
先日「ポケモン+ノブナガの野望」が発売された。異色すぎるコラボに最初は「え!?」と二度見,三度見したものだが,だんだんと「これはこれでアリだな」と思えてくるから不思議なものだ。織田信長を始めとする戦国武将たちの個性が,ポケモンたちのそれと拮抗しているからかもしれない。
戦国時代といえば,現在でも創作の題材として非常に人気が高い時代。ゲームでも,「信長の野望」「戦国無双」「戦国BASARA」といった数々の名作・人気作が作られている。人気の秘密は,戦乱というテーマ性,大きく移り変わる時代のダイナミズムもさることながら,やはり戦国武将たちのキャラクター性によるところが大きいのだろう。
もっとも最近は,時代の流れというべきか,やたらと武将たちが女性化させられることも多い模様。今回の「放課後ライトノベル」で紹介する『織田信奈の野望』も,そんな「戦国武将女性化もの」の一つ。主役を張るのは,もちろん第六天魔王こと織田信長――否,織田信奈だ。
『織田信奈の野望8』 著者:春日みかげ イラストレーター:みやま零 出版社/レーベル:ソフトバンククリエイティブ/GA文庫 価格:641円(税込) ISBN:978-4-7973-6898-7 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●百花繚乱! 可憐な姫武将たちによる,美しき戦国絵巻
高校2年生の相良良晴(さがらよしはる)は,ふと気づくと戦国時代の合戦場のまっただ中にいた。何が起きたかさっぱり分からないながらも,1人の足軽の助けを得て,命からがらその場を逃げ出す良晴。だがその足軽は,流れ矢を受けて命を落としてしまう。彼こそは木下藤吉郎――のちの豊臣秀吉だった。良晴は,彼が果たすはずだった役目(と,一国一城の主になってモテモテになるという夢)を継ぐことを決意。尾張の武将・織田信奈(おだのぶな)に仕え,彼女の覇道の手助けをすることになる。
誰もが知る戦国時代を舞台とする本作だが,史実との最大の違いは,武将の多くが「姫武将」と呼ばれる女性であること。当然,キャラクター設定や性格付けなども本作独自のもので,たとえば柴田勝家は巨乳の脳筋キャラ,竹中半兵衛はいじめられっ子気質の陰陽師(!),などとなっている。
織田軍武将や,武将以外の登場人物も例外ではない。本願寺顕如は猫を本尊とあがめるにゃんこう宗の寺“本猫寺”の主けんにょになり,ルイズ・フロイス(「ルイス」ではない)は柴田勝家をも超える巨乳のシスターに。伊達政宗に至っては,良晴のちょっとしたひと言で,独眼竜ならぬ「邪気眼竜政宗」を名乗り始める始末。多数の美少女たちが織りなす戦国模様は実に賑やかで華やかだ。
●天下騒乱! 少女たちは戦国の覇者を目指す
こうした設定から,一見すると戦国時代を舞台にした単なるハーレムものかと思いがちだが,さにあらず。物語の主軸はあくまで「織田信奈の野望」,すなわち群雄割拠の戦国時代でいかに彼女が天下布武を成し遂げるかであり,その点は史実と変わらない。
実際,作中には桶狭間の戦いや姉川の戦い,金ヶ崎の退き口といった,歴史に名を残す合戦や出来事が多数登場する。面白いのは,それらが起こる時期については,必ずしも史実に沿ってはいないということ。本来,異なる時期に起きたはずの出来事を結びつけることで,よりドラマティックな物語に仕上げているのだ。一方で,地理や武将たちの勢力図はおおむね史実どおりになっており,なんでもかんでもアレンジしているわけではないのが憎いところ。
そうした,切った張ったの戦国絵巻の中に放り込まれた良晴の武器は,戦国シミュレーションゲーム(ちなみにタイトルは「織田信長公の野望」)などで培った戦国時代の知識。攻撃を避けるのが得意なこと以外,個人としての戦闘力は平凡な良晴だが,未来仕込みの知恵を用い,時に誰もが信じなかった大逆転劇を成し遂げる。人間的な魅力の持ち主(あと美少女)であれば,たとえ敵であろうと生かそうとするスタンスをしばしば甘いと指摘されつつも,己の信念を貫こうとする姿は,主人公にふさわしい男気を感じさせる。そんな彼と信奈との,身分違いの許されぬ恋の行方も本作の見どころの一つだ。
●絶体絶命! 良晴よ,織田崩壊の危機を救え!
数々の難局を乗り越え,勢力を拡大してきた織田軍に,最新8巻では息つく間もなく新たな脅威が襲いかかってくる。京を追われ,明に亡命した将軍・足利義輝の妹,義昭が,中国地方の覇者・毛利家の助けを得て幕府復興のため帰国したのだ。毛利軍の尖兵を務めるのは,「姫武将殺し」の異名を持つ謀将・宇喜多直家。良晴はかねてより抱える天才軍師・竹中半兵衛と,新たに織田軍に加わったもう1人の天才軍師・黒田官兵衛と共にこれを迎え撃つ。
それまで数々の強敵と渡り合ってきた良晴だが,卑劣な手段もためらいなく実行する直家には苦戦に次ぐ苦戦を強いられる。そうした中,以前から病を患っていた半兵衛の身にとうとう異変が……。さらに京では火事騒ぎが起き,その犯人が信奈だという噂が流れる。当の信奈は瘴気にあてられて倒れ,頼れる宿将たちは各地方に派遣されていて助けは望めない。織田軍史上最大の難局と呼べるこの窮地を,官兵衛は,そして良晴はいかにして乗り切るのか。
そして,当初より良晴の胸を騒がせてきたあるイベントも,いよいよ起こる気配が濃厚になりつつある。戦国時代最大級のイベント「本能寺の変」。いまやいつ起こってもおかしくないこの出来事を,良晴は果たして防ぎきることができるのだろうか。
夏からのTVアニメ化も決まり,今後ますます注目度が高まっていくと予想される『織田信奈の野望』だが,原作のストーリーはまさに今が佳境。加速し続ける物語に乗り遅れないよう,今から追いかけていきたいところだ。
■第六天魔王じゃなくても分かる,タイムトラベルもの作品
タイムトラベル/タイムスリップものの中でも,「現代の人間が過去にタイムスリップし,現代の知識や技術を生かして活躍する」というタイプには,今や一つのジャンルといっていいほどにたくさんの名作が存在する。タイムスリップ先が戦国時代のものに限っても『戦国自衛隊』(半村良)や『信長協奏曲』(石井あゆみ),時代を広げれば『JIN -仁-』(村上もとか)や『ジパング』(かわぐちかいじ)などなど,枚挙に暇がない。
『GENESISシリーズ 境界線上のホライゾンI〈上〉』(著者:川上稔,イラスト:さとやす(TENKY)/電撃文庫)
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ライトノベルでもタイムトラベルもの自体は少なくないのだが,移動する時間の幅が短かったり,タイムリープ(何度も同じ過去を繰り返す)ものだったりして,いわゆる歴史改変の方向に進むことはあまりない。もっとも,そもそも戦国時代(を含む,各種の時代)をテーマにしたライトノベル自体がそれほど多くないのだが。
その数少ない例外にして異色作が,昨年アニメ化された『境界線上のホライゾン』。作中世界では有史以来の歴史の再現が続けられており,ストーリーが展開している時期はちょうど日本の戦国時代にあたる。ジャンル自体はファンタジーであり,時代ものというわけではないが,実在した武将などと同じ名を持つキャラクターが多数登場するなど,「当時」を思わせる描写は少なくない。
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