インタビュー
「テイルズ オブ」にも通じる“物語る娯楽”としてのRPG。馬場英雄氏が語る思い出の一本「ポポロクロイス物語」――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第4弾
「僕達のやり方は決して間違っていない」
「テイルズ オブ」で伝える面白さ以上の何か
4Gamer:
せっかくですので,もう少し「テイルズ オブ」シリーズのことについて聞かせてください。馬場さんは現在,「テイルズ オブ」シリーズのブランドマネージャー/プロデューサーを務めていますが,「テイルズ オブ」シリーズがここまでのブランドに育った理由を,どう分析されていますか?
今も昔も変わらぬテイルズらしさ……と言ってしまうと,じゃあテイルズらしさって何なのという話になってしまい,それについてはいろいろな考え方があると思うんです。ただ,「テイルズ オブ」の根本には,「ゲームをクリアした。楽しかった」では終わらせない,メッセージ性のようなものを確かに込めています。
4Gamer:
なるほど。
馬場氏:
プレイヤーさんからよく手紙をもらうんですけど,「クリアしたあとに,何か自分自身の心にモヤモヤっとしたものが残る」という方が結構いらっしゃるんです。そのモヤモヤが何なのかは人それぞれですが,主人公を含む登場人物達から,勇気ややる気,希望を受け取ったという人がかなり多いんですよ。その自分自身に対してのモヤモヤに気付くだけでも大切なんだと思います。
そういうコメントをいただくと,明確にメッセージを込めてゲームを作るという僕達のやり方は,決して間違っていない。多くの方にしっかり届いているんだなと,胸が熱くなります。
4Gamer:
テイルズチャンネル+(プラス)やフェスティバルなどのイベントの盛り上がりを見ると,確かに単なるRPGの枠を越えたものとして,ファンから受け入れられている印象を受けます。
馬場氏:
もちろん「テイルズ オブ」はゲームなので,遊びの部分,例えばリニアモーションバトルの進化だとか,ゲームとしての遊びの要素だとか,そういうところも重要です。そこに関してはきっちり作り込みつつ,もう一つの魅力である物語を通じて,面白さだけでない何かを生み出せたらいいなと,常々思っています。
4Gamer:
うーん,お話を聞けば聞くほど,馬場さんの選んだタイトルがポポロクロイス物語であることがしっくりきます。
馬場氏:
ポポロは本当にいいですよね。
4Gamer:
ポポロもそうですけど,「テイルズ オブ デスティニー」にもひどく泣かされた記憶があります。当時すでにいい年で,しかも私は男ですけど。
馬場氏:
そう言っていただけると(笑)。ちなみにどこが一番グッときました?
4Gamer:
いくつかの泣きポイントがありましたけど,一番きつかったのはやっぱりリオン絡みですね。
馬場氏:
あれはね……表現的には禁じ手なんですよね。絶対的な別れじゃないですか。深い悲しみと思い出だけを残して,自ら命を投げ出すという。僕は哲学者でも何でもないので偉そうなことは言えませんが,好きな人のために自分の命を投げ出すっていうのは,すごいことだと思うんですよ。「あなたにできますか?」と問われても,できるとは軽々しく言えない。
でもリオンは,あそこでそういう選択をした。その一部始終を見てくれたプレイヤーの心に,彼の揺るぎない信念や,友への想いが響いて,美しい記憶として今も生きているっていうのは,作り手として非常に光栄ですよ。グッとくるのは当然ともいえる,まさに禁じ手ではありますけどね。
4Gamer:
ストーリー的にも,ゲームシステム的にも,どう考えても感情移入してしまうような仕組みがあるにも関わらず,あの展開ですからね。もちろん,一生懸命育てたキャラクターが使用できなくなったことも悲しかったんですが……うまいなぁと。
別に僕らも,泣かすために作っていたわけじゃないんですけどね(笑)。でも,プレイヤーに何かを感じてもらいたいと思って作っているものなので,そういう反応は作り手冥利に尽きます。
ゲームって,とかく“悪しきもの”にされがちじゃないですか。目が悪くなる,外で遊ばなくなる,勉強しなくなるとか,そういうことの原因にされてしまうことが多い。そういった側面があることももちろん理解しているんですが,ゲームにだっていい効果はたくさんあるわけですよ。
4Gamer:
年を重ねるほど真顔で言いにくくなってきますが,映画や小説なんかと同様,ゲームから教えてもらうことだって普通にありますからね。もちろん,映画や小説と同様,タメになるかどうかは内容次第,人それぞれですけれど。
馬場氏:
メッセージ性を込めやすいRPGやアドベンチャージャンルならなおさらですね。バイオレンスを強調したゲーム作りっていうものも,表現としては尖っているし,あってもいいと思います。それを否定するつもりは僕にはありません。それは一つのエンターテイメントとして,プレイヤーに特別な体験を味わわせたいとか,ドキドキを与えたいとか,そういう思惑をもって作られているわけで,悪いものではないと思うんです。ともあれ,ユーザーに何かしらのメッセージを伝えられる作品に携わっていることを,我々は忘れるべきではないですね。
4Gamer:
ハードのスペックが向上し,プレイヤーに与えられる情報量が増え,喜びや悲しみ,恐怖といった感情まで揺さぶることができるようになったゲームですが……多くの人に遊ばれる作品を作るのは本当に大変そうですね。
馬場氏:
先ほども,2Dと3Dの話をしましたけれど,人間って,すごい映像とか,すごい体験を経験しても,次第にその刺激に慣れてしまうんですよね。例えばPlayStation 3が発表されたとき,その表現力の高さに,コンシューマゲーマーの誰もが驚いたと思います。でも今では,フォトリアルな作品が当たり前になってきていて,ビジュアルで驚かされることはほとんどなくなりましたよね。
4Gamer:
そうですね。とくに4Gamer読者に多そうな,PCゲームをプレイしている層にとっては,並大抵のグラフィックスクオリティでは驚いてくれないと思います。
ところで,テイルズ オブ イノセンス RはPS Vitaでリメイクされましたけど,グラフィックスやゲーム内容の大幅な強化はもちろん,ハードの新機能を無理に使っていないところに,個人的には好感を抱きました。そのあたりもやはり,ファンのニーズを考えてのことでしょうか。
馬場氏:
もちろん,PS Vitaの特徴を最大限に生かすという考えもありましたが,そこにこだわるがゆえに,例えばプレイアビリティが損なわれてしまっては本末転倒です。もし仮に,PS Vita独自の機能を使うことにこだわりすぎて,ゲームの魅力がスポイルされてしまったら,それは我々にとっても,SCEさんにとっても大きな損失です。PS Vitaにおける初の「テイルズ オブ」は,ゲームとして成立させることを最優先に考えました。
4Gamer:
なるほど。確かにPS Vitaの機能をフル活用しようと思ったら,そこに立脚したゲームデザインが必要になってきますね。
馬場氏:
そうですね。そうするなら新規タイトルを一から作るべきです。それはそれで面白そうですが,イノセンスRは“再構築”を謳ったタイトルですし,まずはゲームとしてのクオリティを最優先しました。
4Gamer:
もしかしたら,いずれはPS Vitaならではの新たな「テイルズ オブ」が生まれるかもしれませんね。
やりたいですねすね。PS Vita……やりたいなぁ。何と言うか,PS Vitaは時代を先取りしていますよね。SCEさんのハードには久夛良木イズムが込められているというか。僕,PlayStation 3を発売日に購入しましたけど,スーパーオーディオとか誰が使うかなぁと思いつつも……。
4Gamer:
クリエイターさんが新たな機能を使ったゲームを制作してくれないと,我々が触れる機会もなさそうです(笑)。
馬場氏:
そういう,クリエイターさえもが驚くような機能や技術をハードに入れてくるあたり,大好きです。でも先取りしているだけに,きっと理解され,受容されるまでに多少の時間が必要なんですよ。そういったハードの魅力をユーザーに伝えるのも我々の仕事ですし,ぜひ盛り上げていきたいなと思います。
昨年はファンの皆さんの応援,メディアの皆さんのご協力,そして開発/プロモーションスタッフの努力によって,15周年記念タイトル「テイルズ オブ エクシリア」は,「テイルズ オブ」ブランドのV字回復と言える成功を収め,フランチャイズを拡大することができました。
4Gamer:
「ゲームが売れない」と言われている時代に,実売で65万本以上という素晴らしい結果を出されましたね。
馬場氏:
有り難いことです。だからこそ,次のマザーシップタイトルが“勝負”なんですよ。
4Gamer:
間違いなく言えることは,「今年も『テイルズ オブ』は見逃せないよ」ということですね。
馬場氏:
はい,今年もガッツリ。「テイルズ オブ」にとっては毎年が特別な年です。みなさん,テイルズチャンネル+(プラス)をこまめにチェックしてくださいね!
好きな仕事を楽しくやれる環境があるからこそ
自信を持って届けられる作品が作り出せる
4Gamer:
最後に,ぜひ馬場さんにお聞きしたいことがあるんですが,よろしいでしょうか。
馬場氏:
どうぞどうぞ。
4Gamer:
馬場さんがゲームを作るうえで,何をモチベーションにしていて,何を求めているんだろうという,ちょっと答えづらそうな質問なんです。ゲーム制作の話をするとなると,ビジネスとコンテンツの両軸になるじゃないですか。会社としては儲けなきゃいけないけど,最近ゲームが売れにくい。ではなぜ俺は儲からないものを作っているんだろうという話を,最近よく聞くようになりました。馬場さんは数字的な結果を出されていますが,いちクリエイターとして,ゲーム作りというものに対してどういう考えをお持ちなのかな,と。
そうですね……一言で言うと「好き」なんです。これに尽きますね。どの仕事もそうですけど,好きじゃないと楽しく仕事ができない。楽しく仕事ができないと,毎日が苦痛になってくると思うんですね。僕らは社会に出てからは,人生の大半を会社での仕事に費やすんですよ。であれば,せめて楽しく仕事がしたい。とくにもの作りを生業にしているわけですから,良い物を作るためにも,楽しく仕事をする義務があるんです。
4Gamer:
なるほど。
馬場氏:
例えば,今ここにいるみんなで,外に行って絵を描こうぜ! ということになるとするじゃないですか。そうすると,僕以外の皆さんは「こんな寒いのに今から外……? 勘弁してよ」って思うかもしれないですね。で,とにかく適当に描いて,早く会議室に戻ろうっていう気持ちが優先されちゃうと,風景を見て,捉えて,描くという行為に没頭できません。描きたくて描いた絵と比べたら,その完成度は一目瞭然だと思います。
4Gamer:
うーん,いろいろ考えさせられるお話ですね。
馬場氏:
もちろん,皆が楽しく仕事できる環境作りも必要ですが,そのためにはまず,自分が楽しくならなければいけないんですよ。自分を見ているスタッフから「馬場さん辛そうだな」「不機嫌そうな顔している」なんて思われるのはダメですね。常に楽しく,モチベーションに溢れた状態で完成させた作品にこそ,僕らは自信を持ちたいし,そういう作品にお金を払ってもらえることを誇りに思うべきなんです。
そういうことを考えていくと,好きな仕事を楽しくやること,そういう環境を作ることが,いい物作りの大前提になるのかな,と思います。少なくとも,そういう風に仕事を続けていって,いつか自分の人生を振り返ったときに,「僕の仕事って天職だったな」って思えたら,そんな素敵なことはないですよ。
もし,ゲーム作りが辛くなったり,飽きてしまったらどうしますか?
馬場氏:
例えばの話ですけど,ゲーム作りが面白くなくなってしまっても,ゲームは作れると思います。でもそれは僕のやりたいことではないので,もしそうなってしまったら,どこかで全然違う仕事をしているかもしれないですね。
とにかく僕は,楽しく仕事をする中で,良い作品を作って,多くの人に遊んでもらって,結果としてのビジネス的な成功を得て,会社に貢献するという今の生活に満足しています。まぁゲーム作りを統括する立場なので,ありとあらゆる難問にぶつかるし,プレッシャーもあるし,何かあったら責任をとらなければならないですけど,それでも今は,そういった困難をうまく楽しみに変えることができていますよ。
4Gamer:
ちなみに,私生活ではどんなことでリフレッシュしているんですか?
馬場氏:
そこが下手でね……プライベートでは大体ゲームで遊ぶくらいで(笑)。大体ゲームをしているか,家でのんびりゴロゴロと。冬はコタツに潜り込んで。
4Gamer:
ちょっと意外ですね(笑)。アウトドア的な趣味は?
馬場氏:
機会があればスキーには行きますね。あと昔,水泳やサーフィンなんかもやっていましたけど,ここ最近はゲーム一筋ですね。
4Gamer:
それでも,日々の生活が楽しいから,ストレスが過剰に溜まることはないと。昨年,フロム・ソフトウェアの宮崎さんにインタビューさせていただいたんですけど,そこでお聞きした話とほとんど一緒で,それが印象的でした。SCEの外山さんからも,同様の空気を感じましたね。
馬場氏:
まぁ,ゲーム開発をしている人間にとって,自分の時間は基本的にないですからね。平日も普通に遅くまで仕事するし,土日だって忙しければ出社する。もちろん,定時で帰りたいとか,土日は絶対休みたいとかいう気持ちもありますよ。
4Gamer:
でも,好きな仕事を楽しくやれる環境があるから,頑張れる。
はい。好きじゃなければ続けられない仕事っていろいろあると思うんですけど,ゲーム作りも間違いなくそれですね。こういったインタビュー記事を見て,ゲーム業界に華やかなイメージを持っている方もいるかもしれないですけど,実際は泥臭い作業の連続ですからね(笑)。
4Gamer:
うーん,「テイルズ オブ」ブランドの15周年が,あらゆる意味で成功を収めることができた理由の一端が,分かったような気がします。
馬場氏:
ともあれ,そうやって作り出した作品達が,多くのファンに遊ばれているという事実に,僕達はなにより勇気付けられますし,次も頑張ろうと自分を奮い立たせられるのかもしれません。
4Gamer:
……馬場さんに話を聞ける機会なんてそうそうないので,ついアレコレ聞いてしまいました。
馬場氏:
いえいえ,こちらもまだ喋り足りないくらいですよ(笑)。
4Gamer:
おかげさまで興味深い話がたくさん聞けました。
馬場氏:
15年という長い歴史を持つ「テイルズ オブ」ブランドの成功は,僕らだけじゃなく,情報をファンへ届けてくれるメディアさんの協力あってこそのものですから,今後ともよろしくお願いします。僕の中では,「次の作品」こそが本当の勝負だと考えています。次がうまくいかないと,これまでの取り組みも完全に成功したとは言えなくなってしまいますから。
4Gamer:
ぜひ,「次の作品」でもたっぷりとお話を聞かせていただければと思います。
馬場氏:
ぜひぜひ。まずは,6月の「テイルズ オブ フェスティバル 2012」を楽しみにしていてください。我々にとっても楽しい仕事ですので,応援してくれるファンにとっても,取材してくれるメディアさんにとっても,きっと楽しいイベントになりますよ。
4Gamer:
取材する側としては気が抜けないイベントになりそうですね! 本日はありがとうございました。
「テイルズ オブ エクシリア」公式サイト
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テイルズ オブ エクシリア
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テイルズ オブ イノセンス R
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