インタビュー
AMD,デスクトップPC向けRichlandの概要を明らかに。APUの積極展開に向けた施策や,主催するゲームイベントの国内実施計画も
4Gamerでは,AMD本社でクライアント製品ののマーケティングマネージャーを務めるMarc Diana(マーク・ディアナ)氏に話を聞く機会を得た。氏は,デスクトップPC向けRichlandの概要はもちろんのこと,AMDのマーケティング戦略なども語ってくれたので,その内容をまとめてみたいと思う。
デスクトップ版Richlandは4.4GHz動作
100Wと65W,45W,3種類のTDPをサポート
まず,デスクトップ版Richlandのリリース時期について氏は,夏前になるのではないかという見通しを示している。具体的な販売時期は明らかにされなかったが,そう遠くない将来だとは見てもよさそうだ。
さて,ノートPC向けモデルが発表されたときにもお伝えしたとおり,Richlandは,「Trinity」(トリニティ)という開発コードネームでよく知られる現行A-Seriesのマイナーチェンジ的な製品である。実際,Diana氏もその点は認めていた。
「CPUには『Piledriver』コアモジュールを採用しており,そのほかの内部構造も(Trinityから)変わっていない部分が多い。Richlandでは,AMDと(A-Seriesの製造を担当する)GLOBALFOUNDRIESとで協力し,性能を上げるのを目標とした。結果として,現行製品に対して15〜20%の性能向上を実現できている」(Diana氏)。
ノートPC向けRichlandの発表時にAMDは,RichlandとTrinityのシリコンダイが同じだと明言していたが,Diana氏の話を聞く限り,プロセス技術の最適化が行われた可能性もあることになる。だとすると,先の「同じ」という発言は,ダイサイズや電機的仕様が共通という,緩い意味だったのかもしれない。
Diana氏はさらに続ける。
「Richland世代のA10で最もクロックが高い製品は4.4GHz動作になる。これは,製品化されたPCパーツのなかでは最大の動作クロックとなるだろう。動作クロックの引き上げに合わせて,メモリコントローラもDDR3-2133をサポートするようになる。Richlandは非常に高速なので,それに見合うメモリが必要になるからだ」。
Diana氏は,4.4GHzというクロックが定格のものなのか「AMD Turbo CORE Technology」有効時の最大動作クロックなのかへの言及は避けていたが,いずれにせよ,APUはかねてより,メモリ性能に応じて性能が素直に伸びる特性を持っているので,DDR3-2133対応のデュアルチャネルメモリコントローラを搭載してくるというのはいいニュースだといえるだろう。アーキテクチャが変わっていないのに15〜20%の性能向上というのも頷ける話である。
なおDiana氏によれば,動作倍率がアンロックされたBlack Editionも,従来同様,Richland世代で用意されるとのことだった。
というわけで,ざっくりとまとめると,デスクトップ向けのRichlandは従来からある2種類のTDPに低消費電力版が加わり,より動作クロックとメモリサポートが引き上げられるということになる。Diana氏は,近いうちにラインナップを明らかにしたいとも語っていたので,そちらも期待したいところだ。
RichlandにおけるGPUのブランド変更は
ノートPC側の事情によるもの
ここまであえて触れて来なかったが,デスクトップ版Richlandでも,GPUコアのブランド名にはRadeon HD 8000シリーズが使われるという。たとえば「Richland世代のA10ならHD 8670になる」とDiana氏は述べている。
ただし,ノートPC版Richlandの発表時にお伝えしているとおり,Richlandで統合されるGPUコアはNorthern Island(ノーザンアイランド)世代のものだ。要はRadeon HD 6000シリーズと同世代であり,Radeon HD 8000というシリーズ名は,言ってしまえばリネームということになる。
実のところ,8000番台のブランド名は,1月にその製品ラインナップが公開されたノートPC向けGPU・Radeon HD 8000Mシリーズに加え,OEMとなるPCメーカーにのみ出荷されるデスクトップPC向けRadeon HD 8000シリーズ,そしてRichland世代の統合型GPUコアに与えられている。もっとはっきりいうと,ノートPC向けの一部製品を除いてことごとくリネームだったりするが,どういう基準でRadeon HD 8000番台の名称が用いられているのか,端から見ていると今ひとつ分かりにくい。
要するに,一方でRadeon HD 8000Mシリーズなのに,Richlandの統合型GPUが7000番台の製品名では,“2013年の新製品”としてバランスが取れず,APU側のGPUコアが時代遅れに見えかねないため,ブランド名を統一したというわけである。AMDがノートPC市場で推しているスイッチャブルグラフィックス技術「AMD Enduro Technology」で,Radeon HD 8000Mと切り替えながら利用するための統合型GPUコアは,Radeon HD 8000系でないと都合が悪かった,という部分もある。
「あまり外部には話したくない部分だが,IntelもNVIDIAも同じようなブランディングを行っているのはご存じのとおりだ」ともDiana氏は述べ,RichlandのGPU名がRadeon HD 8000シリーズを冠しているのは業界の慣習であることへの理解を求めていた。
ところで,ノートPC向けRichlandには,顔認識やジェスチャー入力など,統合型GPUを活用するためのAMD製ソフトウェアが提供されるが,「これらはデスクトップPC向けRichlandにも提供される」とDiana氏。ただ,どのような形で提供されるのかDiana氏は情報を持っていないとのことだった。デスクトップPC向けRichlandのユーザーにも,何らかの形でAMD製アプリケーションが配布されるはずなので,この点は憶えておくのがよさそうだ。
A-Seriesでは他社製品との性能差を積極的にアピール
AMD主催のゲームイベントが日本でも!?
PC版「DmC Devil May Cry」のローンチイベントをカプコンと共催するなど(関連記事),ここ数年の間には見られなかったほど,日本AMDはプロモーション活動を活発化させているが,Diana氏によれば,AMDの動きはこれからさらに強化されるようだ。直近では「AMD APU Advantage Program」,略してAAAプログラムがスタートしているという。
AAAプログラムとは何なのか。Diana氏は「ベンチマークソフトと大作ゲームタイトル,GPGPU演算能力が問われるアプリケーション。これら3つのジャンルに向けてドライバをチューニングしていくことをAMDでは非常に重視している。それをユーザーに示すのがAAAプログラムだ」と語っている。
AMDはドライバの最適化に多くの費用と人員を投入しているとDiana氏は強調していたが,その成果を,より分かりやすい形でユーザーに伝えていくものがAAAプログラムということになるわけである。
テスト結果はそのままポスターなどに掲載されるそうで,掲載されるアプリケーションの基準は何か聞いたところ,「たとえばゲームなら,AMDとパートナーシップを結んで最適化を行っているものが対象となる」という答えがDiana氏からは返ってきた。ポスターなどでアピールされるアプリケーションは国ごとに変更される予定があるとのことなので,日本では,国内でプレイヤーの多いゲームタイトルで,IntelやNVIDIAとの比較が行われることになるかもしれない。
もう1つ,ゲーマーには楽しみな計画も明らかになった。AMDは米国で,ゲームデベロッパやパブリッシャと共同で,ゲームイベント「AMD Fan Day」を何度か開催した実績があり,たとえば次回は米国で4月に実施予定なのだが,「AMD Fan Dayを欧州や日本でもやっていこうと考えている」(Diana氏)。まだ計画の段階であり,具体的な開催日時や場所はまったくの未定だそうだが,国内版のAMD Fan Dayを開催すること自体はほぼ決まっているようなので,続報を楽しみに待ちたい。
……実のところ,Diana氏からは「今年のAMDはちょっと違うな」と感じさせてくれるプロモーション活動や製品の話も聞かせてもらったのだが,残念ながら今回はお伝えできない。ただ,いずれも出てくれば,相当な話題を集めることになるだろう。次世代Radeonはお預け状態ではあるものの,AMDファンはいろいろな意味で2013年の同社に期待していてよさそうだ。
AMDのデスクトップPC向けAPU製品情報ページ
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Trinity,Richland)
- この記事のURL:
(C)2012 Advanced Micro Devices, Inc.