インタビュー
MMORPGの面白さってなんだ?――オンラインゲーム開発のあれこれを語り尽くす「DQX」「FFXI」「FFXIV」プロデューサー座談会
MMORPGを運営していて,辛いこと&楽しいこと
4Gamer:
全然話が変わるんですけど,MMORPGを運営していて一番辛いことって,例えばどういう部分にあるんですか?
んー,「反論できないこと」ですかね。オンラインゲームって,お客さまとのやりとりがかなりあるじゃないですか。そうしたなかで,例えば「こうすれば良いのに」ってことはよく言われるんですけど。
吉田氏:
分かってる,分かってるんだけど!っていうもどかしさですよね。
齊藤氏:
そう。分かってる,分かってるけど,でもできない理由があるんだよ……みたいな。言いたくても言えないですからね。
4Gamer:
まぁ下手なことを言っても,「言い訳するな!」「運営仕事しろ!」って話になるだけですよね。
齊藤氏:
もちろん,いろいろなご意見を頂けることは大変ありがたいですし,お客さまの声を受け止めることは,私どもの義務だと思っているんです。でも,頂いた意見に対する答えは作品(仕様)として出していくしかないんだけど,出す以上どうしても「より多くのお客さんの不満を解消するもの」になるじゃないですか。当たり前ですけど。
4Gamer:
まぁ,当然ですね。
齊藤氏:
でもそれって,逆の見方をすれば「あるお客さんの意見は反映できない」ってことにもなるわけですよ。だから,プレイヤーさんから頂いた意見の意味や真意,その背景にある問題をきちんと理解していても,「そうだよね」とは言ってあげられないシチュエーションが生まれる。これはツライですよね。酔っ払った時なんかは,思わずいろいろぶちまけたくなったりもするんですけど。
松井氏:
気をつけてください(笑)
吉田氏:
苦しいと思う部分は僕も同じですね。僕は,元々が「コアなプレイヤー」と認識していただいているので。「吉田はこのぐらい分かるはずなのに!」って言われてしまうと,ホントにキツイです。
4Gamer:
何か言える範囲で,具体的な例ってお話しできたりします?
吉田氏:
例えばですが,「なぜ週に取れるアイテムに制限をかけるんだ」みたいなお話は,やっぱりかなり言われます。
4Gamer:
ああ。
吉田氏:
プレイヤーさんの気持ちはとても分かるんです。「これは面白いのに,なんでアイテムもらえなくするの?」と。ただ,例えばレアアイテムの出現数を期間制限ではなくて,ドロップ確率とかでコントロールしようとすると,プレイ時間が長いプレイヤーさんがひたすら有利なゲームになってしまったりするんです。
4Gamer:
制限無しでドロップ率1%がいいか。それとも,週に1回確実にアイテムが貰える,ドロップ率は100%だけど,週に1個しか貰えないという形がいいのか。どちらがプレイヤーさんにとって親切なんだっていうのは難しい問題ですよね。
吉田氏:
ただ,ドロップ率1%というのは,100回やったら1個は確実に取れるという話ではない。あくまで期待値。でも,例えば24時間ずっと遊べるプレイヤーさんからすると,そこはむしろ“高い確率”だったりもする。ただ,レアアイテムが溢れるような状況は,それはそれでゲームバランス的に問題があるので,調整を入れなきゃいけなくなって,数が出すぎるからといってドロップ率を0.1%とかにすると,時間のない人は遊べなくなってしまう。
4Gamer:
サービス初期の「Diablo III」なんかは,まさにそうした問題に直面していたタイトルでしたよね。
はい。もちろん,たくさん遊んでくれるプレイヤーさんを冷遇したいわけではなくて。たくさん遊べるプレイヤーさん,あまり遊べないプレイヤーさん,いろいろなお客様がいるなかで,僕らは“みんなが楽しめる,もっとも良い選択”として今の仕様を最初の導入として選んだんです。パッチ2.2からは,そうした「もっと時間をかけて遊びたい」「もっと無駄があってもいい」というご意見にも,コンテンツとしてお応えしていこうと思っています。両方あればいいので。だけど,そうした意図というのは,いずれにせよなかなか伝わらないです。
4Gamer:
でも,今みたいにきちんと理由を語っていけば,納得してくれるプレイヤーさんもいるのではないですか?
齊藤氏:
まあでも,やっぱりそこは難しいんですよ。今の話にしたって,少なくともがっつり遊んでくれているプレイヤーさんからすると,「俺たちはもっとやりたいよ」って部分に制限をかけているだけにしか聞こえないでしょうし。全体を見渡したときにそれが正しいかどうかというのは,結局は運営側の視点ですからね。個々のプレイヤーさんの希望,メリットとは必ずしもイコールになるわけではないんです。
4Gamer:
ただ,全体のバランスが取れているからこそ,アイテムや経験値など,ゲーム内のリソースに価値が感じられるって側面はあるはずなんですけどね。
吉田氏:
そこも結局,最終的には価値観の問題ですからね。時間をかけたぶんだけ強くなるのは当然だろって意見もあれば,先行プレイヤーが強くなりすぎる設計は萎えるって意見もあります。どちらも正しくて,そこは価値観なんだと思います。
4Gamer:
確かに。
齊藤氏:
こういうのは,いろいろな人が一つの世界を共有しているMMOならではの問題でもありますよね。Aさんからしたら問題だけど,Bさんからしたら問題ではないって場合に,どちらが正しいの?って。まぁ,どっちも正しいんですけど,作り手としてはどちらかを選ぶか,違う落としどころを見つけなければいけない。
吉田氏:
そうなんです。本当に難しい。
4Gamer:
なるほど。では,話題を変えて。逆にMMORPGを運営していて,一番楽しいのはどういうときですか。
齊藤氏:
これは逆説的なんですが,やっぱりお客さまと触れ合うときですね。直接お客さまと会えるイベントなんかは本当に楽しい(笑)
吉田氏:
楽しいですよね。皆さん,凄く優しいし。
松井氏:
FFXIなんて,もうゲームが10年以上続いていることもあって,イベントに来てくれる方は本当に紳士淑女って感じの方が多いですからね。
齊藤氏:
あとは,プライベート用のキャラクターでゲームにログインして,いろんなプレイヤーさんの動向を眺めているときですかね。もう,会社にいかないでずっと見ていたいって気持ちになりますもん。
吉田氏:
それは僕も本当にそう思います。プライベートキャラで遊んでいると,もう「何時間でも極タイタン討滅に付き合いますよ!」って思いますから。
松井氏:
分かります。
吉田氏:
あと,楽しい瞬間って意味で言えば,僕はパッチをリリースする直前/直後ですかね。
齊藤氏:
“わーわー”する感じね。
吉田氏:
ええ。サーバーが開くのを待っているみなさんのツイートとかを見ているのも凄く高揚感がありますし,やっぱりあの,開いたとたんに辺り一面にプレイヤーさんがログインしてきて,一斉に駆け出していく,あの瞬間はえも言われぬ感覚があります。変な話,毎回新サービスをローンチした感覚を味わえるというか,新しいゲームを発売したような気分になる。これは,パッケージゲームを作ってた頃は絶対に味わえなかった経験ですよね。
齊藤氏:
楽しいよね。ただやっぱり,緊急メンテナンスが入るとそれどころじゃないわけですけど。
吉田氏:
そうですね。真夜中の2時ぐらいに電話がきて,「吉田さん,ちょっと」というのさえなければ……。
MMORPGは遊ぶのも作るのもオススメです
4Gamer:
そろそろ時間もよい頃合いなので,まとめに向かいたいのですが,例えばMMORPGをもっと日本で広めていくにあたって,ネックになっていると感じる部分であったり,課題だと思っているところはありますか。
齊藤氏:
ネットの特性ではあるんでしょうけど,ネガティブな声の方が大きくなりがちな部分ですかねぇ。
4Gamer:
楽しんでいる人は,みんなゲームに集中してますからね。
齊藤氏:
そうなんですよ。満足しているときは何も言わないんですけど,不満があるときは表で発言しがちっていう。……まぁ,愛ゆえになんでしょうけども。
4Gamer:
愛があるからこそ物申したいってユーザー心理もよく分かりますからね。
不満を言うなって話じゃないんですよね。もっと「楽しい」ってコメントもいっぱいしてほしいなって話で。そっちの方がプレイヤーさんも増えて,最終的には自分もより楽しめる環境が出来ていくと思いますし。
齊藤氏:
そうそう。絶対そうだと思うんだよね。
4Gamer:
ただ,僕が言うのもアレですけど,オンラインゲームって膨大に時間を使う遊びだから,人に勧めにくいなって思いもちょっとあるんですよ。極端かもしれないけど,MMORPGを遊んで人生が豊かになるって言えるのかなって。
齊藤氏:
大丈夫です,なりますよ!(笑)
4Gamer:
いや,以前インタビューをさせて頂きましたけど,その意味で,「ドラゴンクエストX」には“遊びすぎない配慮”が随所に見られて,凄く感心したんですよね(笑)
齊藤氏:
当たり前なことなんですけど,私はオンラインゲームの何が一番楽しいって,やっぱり人と遊べるってところなんですよ。「ドラゴンクエストX」には,一人でも遊べる工夫をいろいろ入れましたけど,じっくり遊びながら人と遊ぶ良さも体験してもらって,5年後や10年後にいい思い出になればって思うんです。私は,今はこういう立場ですから,もう一般の方が主催するオフ会とかには行けないですけど,本当は行きたくて仕方がないですからね。
だから,オフ会のサポートってわけじゃないですけれど,「ルイーダの酒場」みたいなリアル店舗を作って,「じゃあ今度みんなで行ってみようか」ってキッカケを作ったりするっていうのも大事なことなのかなって思うんですよね。
4Gamer:
まぁ,“重厚なオンラインゲーム”でつながった友達って,本当にリアルで仲良くなりますもんね。ソーシャルゲームとかを否定するわけではないですけれど,手軽なゲームでは,なかなかそうはなりにくい。
吉田氏:
長い間オンラインゲームを遊んでて最終的に残る友達って,大体みんな同じような考え方とか価値観を持ってたりするじゃないですか。あれは本当に不思議というか,オンラインゲーム(MMORPG)の凄さだなって思います。それにオンラインゲームって,ゲームっていう共通の話題を提供してくれて,しかも絶えずその話題をアップデートしてくれるエンターテイメントじゃないですか。そりゃ,一緒に遊んでいる人達は仲良くなりますよって話で。
齊藤氏:
何度も繰り返して申し訳ないんですけど,やってみたうえで「これは合わないな」って人は仕方ないと思うんです。ただ,やらないで「えー」っていう人にはぜひ一度やってみてほしい。面白いから!
吉田氏:
この小さな島国で,スクウェア・エニックスだけで3つも大型のMMORPGが作られているわけですしね。どれか1本くらいは触ってみてほしいですよね。
4Gamer:
そうですねぇ……。では,最後に。開発者としてオンラインゲームに関わって,皆さんが得たものってなんですか。
吉田氏:
失ったもののほうが多いかも。
齊藤氏:
歳を取りましたね。
松井氏:
失ったものですか……。
吉田氏:
いやいや,質問は「得たもの」ですよ。僕は失ったもののほうが多いかもって言っただけで(苦笑)
齊藤氏:
オンラインゲームって,開発が50%,運営が50%ってよく言われるじゃないですか。その運営という部分,お客さんと触れ合うって経験は,やっぱり開発者としては得がたいものなのかなって気はしますね。
そこは絶対そうですね。パッケージゲームを作っていた時は,お客さまには作品で答えるしかないって感覚はあったんですけど,それがオンラインゲームになると,作る前に展望を示していかなきゃいけないだとか,考え方がまるで違いますからね。そういうところは本当に勉強になりました。
齊藤氏:
まぁあと,これはモバイルのゲームとかでも同じかもしれないけど,1か月なり2か月なりっていうスパンでマスターがあるっていうのも,パッケージゲームとは全然違いますよね。
吉田氏:
長く続く開発ってしんどいですからね。いつ完成するんだ,いつ評価してもらえるんだって。モチベーションを維持するのも大変で。けれどオンラインゲームなら,短いスパンでマスターが出て,お客様が喜んでくれる姿がダイレクトに見れて。時には「ヨシダァァァッ」って罵声も浴びせられるけど,でも「次,頑張ります!」みたいなテンポ感は,本当にやらないと味わえない感覚でしょうね。
齊藤氏:
パッケージゲームだと,2年かけて作ったもので失敗すると,また2年間かけて取り返さないといけないですからね。
吉田氏:
それに,ここまでダイレクトにお客さまとコミュニケーションが取れるエンターテイメントもそうないんじゃないですかね。プロレスだとか,興行に近い雰囲気というか。ゲーム開発者としてって意味でいうなら,MMORPGの開発は,一度体験してみてほしいなって思うんですよね。
4Gamer:
そんなにお勧めですか。
吉田氏:
はい。だから,ぜひFFXIVのチームに来ていただければと。とくにゲームプランナーと,更にサービス地域を増やすためにサーバーエンジニアを絶賛募集中です!
一同:
(爆笑)
齊藤氏:
これ,そういう記事じゃないから(笑)。ってか,この記事を読んでて,急に「サーバーエンジニアになりたい」っていう人はそんなにいないんじゃ。
吉田氏:
いやいや。ある程度コードが書けて,俺はサーバーで食って行くんだみたいな方であれば,もう全然鍛えますよ(笑)。履歴書をいっぱい送ってきてください。
齊藤氏:
まぁでも,銀行のシステム開発とかやってきた人達からは「MMORPGってこんなにパケットのやりとりがあるのか」って驚かれますよね。
吉田氏:
はい。なので,新しいキャリアも開けるかもしれないのでぜひ。まぁでも,MMOを作る会社や開発者がもっと増えてほしいんですよね。別にMMORPGだけじゃなくていいんですけど。
松井氏:
まぁ,大変だけど楽しいですよね(笑)
4Gamer:
まとめると,MMORPGは遊ぶのも作るのもオススメですと。
齊藤氏:
そうですね。今回は,そういう感じで締めておきましょう(笑)
4Gamer:
分かりました。本日はありがとうございました。
齊藤&吉田&松井氏:
ありがとうございました。
先方(広報さん)の思惑そっちのけで,いろいろなことを聞いてみた今回のインタビュー。国内最大級のオンラインゲームを開発&運営する彼らが,一体何を考えているのか,あるいは何を目指して活動しているのか。それがなんとなくだが,垣間見えたような気がしたと思うのだが,いかがだっただろうか。
スマートフォン市場が爆発的に広がり,とにかく「カジュアルなゲーム」が台頭していくなかで,言い方は悪いかも知れないが,“重い”“遊びにくい”ゲームの価値はどこにあるのか。そんなことを考えながら話を聞いていたのだが,「大変だからこそ面白い!」といえるものも,やっぱりあるよなぁと再確認した次第。これは齊藤氏も繰り返し口にしていたことだが,彼らの運営するタイトルが,まだオンラインゲーム(MMORPG)を遊んだことがないという人にも広がっていくことを期待したい限りである。彼らの今後の動向に注目してきたい。
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