プレイレポート
イオンを心から愛せるかが鍵? PS Vita「シェルノサージュ」はイオンに癒され,イオンの痛みを知り,そしてイオンと共に生きていく“コミュベンチャー”
ガストが2012年4月26日に発売する「シェルノサージュ 〜失われた星へ捧ぐ詩〜」(以下,シェルノサージュ)は,そんなぶっとんだコンセプトを持つ新作タイトル……と,多くの人が思っているはず。その印象は1つの側面から見れば正しく,しかしそれだけでは本作を説明するには不十分なものだ。
今回は,シェルノサージュについて,実際にプレイした感想を交えていろいろとお伝えしていくのだが,ただ,その前に本作はいったいどういうゲームなのかを,なんとなく把握しておく必要がある。
アドベンチャーではない,シミュレーションでもない,ましてやRPGやアクションでもない。既存のジャンルを使って無理にくくるなら,コミュニケーションとアドベンチャーを融合させた“何か”。たとえばアドミュニケーションとか,コミュベンチャーとか,なんでもいいのだが,とにかくそういう何かだ。
具体的な説明の難しい作品なのだが,ただ1つ言っておくと,本作をプレイするうえで必要なのは動体視力や反射神経,学習する能力などではなく,ひとえに「イオンを愛する心」に尽きるということ。「心の底からイオンを思いやる」,その気持ちこそが,イオンの住むラシェーラへと足を踏み入れるためのパスポート代わりになる。……一体何を言ってるんだコイツとか思っているかもしれないけど,冗談じゃないんですよ?
イオンとのコミュニケーションを楽しむ“現実世界”
さて,シェルノサージュはイオンと一緒に生活する“現実世界”パートと,イオンの廃れた心を癒やしながら,アドベンチャー風に物語を追っていく“夢セカイ”パートという2つのパートに大きく分けられる。まずは現実世界のことから順に探っていこう。
シェルノサージュの世界は,PlayStation Vitaの時計と連動して時間が経過していく。イオンはこちらからとくに指示を出さなければ,朝になると起きて,ご飯を作り,食べ,基本的にぼーっとして,夜になるとお風呂に入り,そして眠る。プレイヤーが行動を起こせるのは,基本的にイオンが起きているときのみ。外出中とお風呂に入っている最中も,行動不可能だ。
現実世界におけるプレイヤーの行動範囲は,基本的にイオンが独りで暮らす部屋だけ。プレイヤーはPS Vitaを通じてその部屋の端末へとつながっている状態で,部屋を見渡すことはできても動くことはできない。
イオンは外出して,買い物にいったり,何かの材料を採取しにいったりすることがあるので,外に世界が広がっていることは間違いないが,プレイヤーがそれを見る機会はあまりない。ただ,イオンは外出から帰ってくると,たまに外の様子を話してくれる。近くの商店には“ねりこ”という店主がいること,その店はなんでも置いてあって便利であることなど,話題は豊かで,彼女の話から外の世界を想像するのも,本作における楽しみの1つだ。
では,現実世界で具体的にプレイヤーは何をするのかというと,「生活しているイオンを眺める」「イオンと話す」「イオンにアイテムの製作を頼む」「夢セカイへとダイブする」,このあたりが主になる。
・生活しているイオンを眺める
熱帯魚や水草などを飼育・栽培する水槽をアクアリウムというが,シェルノサージュの現実世界はそれに通ずるものがある。イオンとふたりきりの空間,ゆったりと流れていく時間,そこにはこたつで食べるみかんのように,人の気持ちを穏やかにさせる温かさがある。
・イオンと話す
もちろん,彼女から話しかけてくることもある。「調合が不安だから側で見ててほしいの」とか,「野菜の皮を剥くの初めてだから見守っていてほしいな」とか,妙に庇護欲をそそるセリフをさらっと言ってのけるあたりはさすがイオンだ。ちなみに,会話の中にはプレイヤーの回答によってイオンの考え方が変化していくような質問などもある。
・イオンにアイテムの製作を頼む
イオンは意外と器用だ。料理,裁縫,工作で,チャーハンから洋服,真空管までなんでも自作してしまう。製作に必要なレシピはイオンの記憶が戻っていくことで,材料はイオンに採取を頼むことで入手できる。
製作で作った洋服はイオンに着てもらうこともできる。ちなみに最初はパジャマ姿で,チュートリアル的な製作を経てあの露出度の高い洋服へと着替えるのだ。さらに,想い出の品を作って渡すと,特別な展開が起こることもある。そういうときに訪れることのできる“海”は,プレイヤーとイオンが2人でデートできる,数少ないの場所の1つだ。
・夢セカイへとダイブする
イオンはなぜ独りで暮らしているのか,そもそもイオンが暮らしているのはどこなのか,そういったことは,夢セカイでイオンの心を修復することで明らかになっていくという。現実世界ではイオンとのコミュニケーションが中心となるが,夢セカイではアドベンチャー形式で物語を楽しんだり,オンラインでほかのプレイヤーとのコミュニティに参加したりと,できることは多くなる。ただ,ダイブはイオンの精神世界へと潜る行為なので,彼女がいないと実行できない。夢セカイについては,下で詳しく紹介していこう。
ともあれ,現実世界パートはイオンとのコミュニケーションを楽しむという側面が強い。むしろそれだけを楽しむためのパートといっても過言ではなく,ここだけを見れば,ちょっと不思議な世界で,可愛い女の子と甘々な生活を送るという印象が強く残るばかりである。……それも悪くないですけどね。
イオンの心の傷を癒やし,失われた過去を取り戻す“夢セカイ”
事前の情報や現実世界パートの内容から,「これは可愛いイオンとイチャイチャするだけのゲームだ」と思った人の期待(?)をいい意味で裏切るのが,この夢セカイパートだ。ゆるい時間が流れる平穏な現実世界とは違い,夢セカイは荒廃しており,修復によって温かい町並みが戻っても,どこか寂しさに“取り憑かれている”。
夢セカイが廃れているのは,イオンの心が折れてしまっているからだ。ではなぜ,イオンの心はそんなにも傷ついてしまったのか?
過去の記憶を失っているイオンは,自分の心が折れてしまっている原因はもちろん,心が折れているという事実にすら,最初は気づいていない。プレイヤーはそんな彼女の夢セカイへと何度も赴き,廃墟を修復して,彼女の記憶を蘇らせる。しかし,記憶を取り戻すにつれて,彼女は「とても嫌なことを思い出しそうな気がする」と,自分の過去について“察し始める”。
夢セカイで描かれる物語は章に分かれている。第1章で描かれるのは,ラシェーラの次期皇帝候補に課せられる「試練の3年間」の物語。皇帝候補であるイオンは,ライバルであるカノンと共に見知らぬ土地へと送られ,そこで暮らし,自分を支持してくれる人々を集めることになる。しかしこれがなかなかうまくいかず……というのがお話の冒頭部分である。そして,この冒頭こそが,イオンがトラウマを負うことになる発端であり,心に廃墟を宿すきっかけとなるのだ。
夢セカイパートで描かれる物語は儚く,そして暗い。イオンの立場からすれば,残酷ですらある。おそらく多くのプレイヤーが,現実世界の甘ったるい雰囲気とのギャップに少し驚き,そしてその驚きを楽しむことになるはずだ。
では,イオンの心の傷を癒やすにはどうしたらいいのか? 答えは何度か書いているとおり,心の廃墟を修復してあげればいい。
イオンの心の廃墟を修復するためには,「シャール」の力を借りる必要がある。シャールは,こちらの世界にある「バーコード」をPlayStation Vitaのカメラで読み取って生み出す妖精だ。面白いのは,生まれたシャールの種類によってオンライン上にコミュニティが発生し,プレイヤー間の交流が可能になるということ。同じ商品のバーコードから生み出されたシャールは,複数のプレイヤーによって共有され,そのコミュニティの中で成長していく。
シャールにはレベルがあり,高ければ高いほど廃墟を修復する能力も高くなる。レベルもコミュニティ内で共有されるので,たくさんの人が所持しているシャールはそれだけ早く成長するというわけだ。
レベルを上げるためには,廃墟を修復するときに成長させたいシャールを選択すればいい。シャールの主なステータスは,時間単位の修復力を示す「回復量」,修復持続時間を表す「創造力」(LP),そして,修復開始時,どれだけほかのシャールに協力を要請できるかを決める「指導力」の3つ。
修復ポイントには4つの属性(アイコンから想像すると,科学,大地,風,水)があるため,1体のシャールだけで修復を完了するのは難しい。指導力の高いシャールを育てることができれば,複数のシャールで効率よく修復を進められる。
また,ヒュムノポイント(Hymp)を使えば,シャールにスキルを覚えさせたり,外見を変更したりできる。コミュニティ内で成長していくシャールといえども,各種ステータスを上昇させるスキルを覚えさせ,外見を変えていけば,ある程度はプレイヤーの好みの方向へと寄っていくのである。
ちなみに,シャールの育成に欠かせないHympは,廃墟修復や現実世界パートでのイオンとのコミュニケーションをとおして獲得できる。結構カツカツになるので,序盤は節約の精神で。
なお,シャール達の住む巣からは,イオンが住む星の状態を表した「マイクロクエーサー」という場所にアクセスできる。マイクロクエーサーは,最初は赤く燃え滅びそうな状態になっているが,プレイヤー達がエネルギーを注いでいくと,緑豊かな星へと甦るのだという。
星の状態が改善されると,ゲーム内にどのような影響があるのかは分からないが,エネルギーを注入していくと,一定数ごとにシャールのコスチュームや,イオンとのデートスポットなどが解放されていくとのこと。エネルギーの送信は,1プレイヤーにつき1日1回までとなるようだ。
オンライン上で決まった文字数だけ発言できる“つぶやき”のようなシステムであったり,フレンドへゲーム内からメールを送るシステムであったり,コミュニケーション要素は多数実装されている。今回の先行プレイではあまり試せなかったが,オンライン専用タイトルらしい機能はかなり多い
以上のように,夢セカイパートでは,現実世界パートに比べ,プレイヤーのできることが多くなってくる。イオンの過去が解き明かされていく物語,そしてシャールコミュニティといった挑戦的な,PS Vitaならではのシステムがこのパートの肝だ。
最初の1歩の踏み出し方が大事
また,最初は現実世界パートでイオンにお願いできることも限られているため,どう遊べばいいのかとても悩むのだ。たまに会話して,なんとなく彼女に触れてみて……それで,次にどうすればいいのか?
事前情報などではイオンとのイチャラブ生活が前面に押し出されているシェルノサージュは――もちろんそれも燃えるけれど――壮大な世界観と,その中で紡がれる儚い物語こそが大きな魅力だと言える。
ただ,イオンとの生活とイオンの物語,どちらを中心に楽しむとしても,彼女への“思い”がとても重要になってくる。そういう意味では,イオンをパッと見たときに一目惚れした,という人は適応性高し。なんとしてもプレイすべきだ。
そして最後に,本作のディレクターを務めた土屋氏の代表作「アルトネリコ」シリーズが好きな人ならば,シェルノサージュの世界観が間違いなく心の琴線に触れるものになっていることも,申し添えておきたい。
「シェルノサージュ 〜失われた星へ捧ぐ詩〜」公式サイト
- 関連タイトル:
シェルノサージュ 〜失われた星へ捧ぐ詩〜
- この記事のURL:
(C)GUST CO.,LTD. 2012
- シェルノサージュ 失われた星へ捧ぐ詩 PlayStation Vita the Best
- ビデオゲーム
- 発売日:2013/10/10
- 価格:¥4,780円(Amazon) / 5654円(Yahoo)