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[CEDEC 2015]Autodeskが作ったゲームエンジン「Stingray」がCEDECでお披露目。果たしてその実力は?
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印刷2015/08/27 17:51

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[CEDEC 2015]Autodeskが作ったゲームエンジン「Stingray」がCEDECでお披露目。果たしてその実力は?

Autodeskの梅澤孝司氏
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 日本最大のゲーム開発者会議「CEDEC 2015」が,2015年8月26日からパシフィコ横浜で開催されている。さまざまなテーマの講演が多数開かれているイベントの中から,本稿では,Autodeskの日本法人であるオートデスク(以下,Autodesk)が行った,同社製ゲームエンジン「Stingray」に関する講演をレポートしたい。
 講演タイトルは「新しいゲームエンジン Autodesk Stingray の紹介 〜GDC2015でテクニカルプレビューを行ったゲームエンジンを日本初公開〜」というもので,2015年8月3日にドイツで開かれた「GDC Europe 2015」で発表されたばかりの新ゲームエンジンが,日本で初公開とされたわけだ。解説を担当したのは,Autodeskの梅澤孝司氏である。
 すでに販売も開始されているので,触っている人もいるかもしれないが,CADやグラフィックスソフトで名高いAutodeskによるゲームエンジンは,どんな特徴を持つのだろうか。


多彩なAutodesk製ミドルウェアと連携可能

いくつかのミドルウェアは標準搭載


 Stingrayのもとになったのは,Autodeskが2014年に買収したスウェーデン企業Fatsharkが開発したゲームエンジン「BitSquid」だ(関連記事)。これは,「HELLDIVERS」など,ヨーロッパではいくつかのゲームに採用されているゲームエンジンで,それをもとに,Autodeskで一から作り直したものという位置付けのようだ。

 梅澤氏は,Stingrayの特徴として,3つのキーワードを挙げていた。軽量,パワフル,インテグレーションだ。とくに注目すべきは,インテグレーションの部分であろう。同社が展開するMayaや3ds Maxbなどといった業界の標準的位置を占める3D DCCツールと高度な連携を行うことで,3Dゲームを制作するための最強のエコシステムを構築するというのだ。

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 Autodeskはこれまで,プログラミングの分野においても,「HumanIK」といった各種ゲーム用ミドルウェアを展開してはいたのだが,ゲームそのものの実装は,他社製ゲームエンジンに頼るという協調路線を取っていた。それが,自社製エンジンStingrayの登場によって,ミドルウェアとエンジンの連携がより緊密に行われるようになるという理解でいいだろう。
 同時に,この製品によって,ゲーム制作で唯一Autodesk製品がカバーしていなかった,ゲーム自体のオーサリングの部分がサポートされることになる。

ゲーム制作でのアセット制作の部分以外に,プログラミング関連の部分をまとめてサポートする,同社初のツールということになる
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 まず,DCCツールとの連携機能だ。「Maya」「Maya LT」「3ds Max」の3種類がStingrayとの連携に対応しているとのこと。ただ,カメラビューの同期機能を使うためには,どれも最新版が必要になるそうだ。
 モデリングについては,FBXファイルがそのまま使用できるため余計な変換は不要で,DCCツールとの間でのやり取りもスムーズだ。同じデータを双方で読み込んで,変更したい場合にはDCCツールで更新後,ボタンをいくつか押すだけで同期できる。
 また,Stingrayでは物理ベースのレンダリングシステムが採用されているが,その物理モデルによるシェーダセットも用意されており,DCCツールで読み込むことで,DCCツールとゲームエンジン(ゲーム)とでまったく同じシェーダが利用できる。さらに,Mayaではトーンマップを合わせることで,双方でガンマの違いなどがない,まったく同じ見た目の映像が得られるという。

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 続いて,Stingray自体の機能や特徴が紹介された。
 まず,Stingrayはデータ駆動方式なので,データのみの変更であれば再コンパイルなどなしで実行可能という。
 UI表示にはQtが使われているが,UIデータ自体はHTML5で記述されているので,将来的にはかなりカスタマイズ性の高いものになりそうだ。なお,Stingrayの扱うデータはJSON形式のテキストファイルになっており,こちらも簡単に加工できるだろう。
 アニメーション機能については,個々のオブジェクトの制御用に「Anim Controller」が用意されており,アニメーションのブレンドなどをノードベースで制御可能になっている。

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 また,シーンの管理用には「Story Cinnematic Tool」が用意されており,こちらはキーフレーム間を補間するようなアニメーション制御に対応している。

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 ゲームロジックの部分については,Aurodeskのビジュアルスクリプト「Flow」を使用したコードを使わない開発が可能なほか,スクリプト言語の「Lua」を使用して,ロジックを記述することも可能となっている。また,Stingray自体を拡張して機能を追加したいなどという要望に対しては,ソースコード(C++)の販売も行うそうだ。

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 Autodesk製品の強みとして挙げられるのは,いくつかのゲーム開発用ミドルウェアを最初から組み込んである点だろう。Stingrayには,キャラクターアニメーション制御のHumanIK,経路探索AI制御の「Navigation」,UI制作用の「Scaleform Studio」,物理演算のNVIDIA「PhysX」,そしてサウンド管理の「Wwise」が搭載されている。なお,Scaleform Studoiは,元々Flashの技術をベースにしていたScaleformから,Adobeの「Flash」に依存する要素を取り除いたものとのことだ。使い方自体は変わっておらず,Flashを扱ったことのあるデザイナーならすぐに使えるとのこと。

HumanIKのデモ。“Human”と名前にあるからといって,2本足にしか対応してないわけではない。下写真は,Stingray上で4足の象を動かす様子だ
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 ゲームエンジンとして気になるビジュアル面の能力では,先述したように物理ベースのレンダリングシステムが採用されているので,最新世代のグラフィックスレベルが実現できる。
 なお,上の組み込みミドルウェアのスライドには入っていないが,ライティングミドルウェアの定番というべき「Beast」も組み込まれており,グローバルイルミネーション的なリアルタッチの陰影表現が可能だ。

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 最後に紹介されたのが,使い勝手の部分にもつながる,ゲームデバイス実機とのリンク機能についてだ。作成したゲームを迅速にゲーム機側に送ってデプロイし,動作を確認できれば開発効率が向上する。
 Stingrayでは,マルチプラットフォームに対応しており,複数のプラットフォームへと同時にデプロイして,リアルタイムにテストすることが可能になっている。面倒な配線などは必要なく,ゲーム機とはWi-Fiで接続されるという,イマドキの仕様だ。スライドに埋め込まれたムービーでは,複数のAndroid端末を同時に制御して動作確認をしている様子が示されていた。動作確認する端末がたくさんありそうなAndroidでは,嬉しい機能かもしれない。

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Stingrayの動作デモも多数披露


 続いて,実機によるStingrayの動作デモが紹介された。
 Stingrayに標準で用意されているテンプレートは5種類。標準的なキー入力などを備えた“basic”,キャラクター表示と制御を行う“character”,まっさらな状態の“empty”,乗り物を扱う“vehicle”,そして仮想現実に対応した“vr”だ。

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 今回は,キャラクター用のテンプレートを使ったデモで,いくつかの機能が紹介された。まず,ゲームエンジンのビューポートには,ディフューズだけとかUVだけといったチャネルを指定して表示する機能が組み込まれている。実行時の表示がおかしい部分を,チャネルごとにチェックできるのがユニークだ。

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 続いてDCCツール(ここではMaya)とのリンクの実際が示されたが,リンク機能を使うには,あらかじめ,「StingrayDCCLink2016.msi」というツールをインストールしておく必要があるとのこと。さらに,「NVIDIA_Physx_For_Maya_2016_64bit〜.msi」など,ツールごとのファイルをインストールすることで,ゲームエンジンとDCCツールで物理エンジンの仕様を統一することができるそうだ。
 また,完全に同じ描画にするには,Maya側でStingray用のトーンマップを適用しておく必要もある。

 ビューポートのカメラをツール間で同期させる仕組みは,StingrayかDCCツールかどちらかをマスターに設定する仕様となっていた,たとえば,Stingrayをマスターにすると,Stingray側の操作でMayaのビューポートも同期して動き,ここだと思うところでMayaに処理を切り替えて,そのまま修正作業を行うことが可能になる。ただ,Stingrayをマスターにしたままだと,Mayaでビューポートを操作できなくなってしまったりもするようで,アクティブなウインドウが自動的にマスターになるといった,自動切り替え機能がないと,使いづらそうな印象も受けた。

 講演では実際に,Mayaでオブジェクトに頂点カラーの追加を行い,それをStingrayに戻す過程がデモで示された。Stingray側では,表示されているオブジェクトからファイルビューにデータファイルを呼び出せるので,そこから右クリックメニューでMayaの起動が選択できる。

これが元になるモデリングデータ
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Mayaでシェーダに頂点カラーを追加
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続けて,Mayaでモデリングデータに頂点カラーを設定
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右端にある「Cennected to Stingray」ボタンを押すと確認ダイアログが出るのでYesを選択
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Stingrayウインドウの右下にある「Data Compile」ボタンを押すと,新しいデータが取り込まれる
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Stingray側の色も変わった
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 正直,これでもまだ手順が多いような気はするのだが,一般的なゲームエンジンと比べれば,手軽に行き来ができるようになっているのであろう。

 Flowによるゲームロジックの追加も披露された。サンプルとなるゲームは,タクシーを操って,人を乗せたり,道路上に落ちているコインを拾ったりするアクションゲームだ。ここではまず道路にあるオブジェクトにぶつかるとコインが出てきて音を出す(?)という処理が追加された。
 詳しい説明はなかったため,ロジックの流れがいまいち理解できていない部分もあるのだが,以下ではデモの手順を逐一列挙しておく。

道路上のオブジェクトを選択してオープン
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coin_collisionというオブジェクトに,物理エンジンの衝突イベントをトリガーとしたFlowスクリプトを設定してみる
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Flowの画面に移行したところ
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コインが出現したらというイベント(Unit Spawned)を追加
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コインのアニメーション再生を追加
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コイン出現イベントの出口をアニメーション再生の「Play」に接続し,再生するアニメーションファイルを選択
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Wwiseのトリガーイベントを追加して効果音を再生
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コインを消去するイベントを追加
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Flowのイベントを呼び出す
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最後に元のオブジェクトにつなぐ
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 タクシーに人を乗せる部分の追加では,すでに用意したスクリプトが使う場合が説明された。スクリプトを記述したJSONファイルをテキストエディタで読み込み,それをコピーしてFlowのエディタに貼り付けるだけで,ビジュアルに表示されるほか,Flowエディタでコピーした一部の処理を,そのままテキストエディタに貼り付けることもできるという。テキストファイルでスクリプトを扱えるので,処理の自動生成などは簡単にできそうだ。

左のテキストファイルをペーストすると,右のようなスクリプトがビジュアルで表示される
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 最後に,気になるStingrayのお値段だが,ライセンス形式になっており,1年間でベーシックサポートが3万7000円,アドバンスサポートが6万1000円(いずれも税込)となっている。1か月分なら5000円からで,Maya LTユーザーならば,月額4000円で使用できるという。
 最近は,ゲームエンジンも無料化がトレンドではあるのだが,Stingrayに無料版はない(無料試用期間は1か月)。とはいえ,アカデミック向けは無料であるし,作成したゲームに対するロイヤリティは不要だ。

Stingrayのシステム要件(左)と,対応プラットフォーム(右)。Androidは今のところ「Tegra K1のみ」となっているが,今後拡大されていく模様
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 これまでゲームエンジンを扱っていなかったAutodeskの製品だが,DCCツールと密接に関連しているとあって,ゲームエンジンとしては台風の目になる可能性もある。この後の動向には要注目だろう。

Stingray 製品情報ページ(英語)

CEDEC 2015 公式Webサイト


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