インタビュー
「Dragon's Dogma Online」のシナリオを手がける野島一成氏と,プロデューサーの松川美苗氏に聞く。オンラインゲームならではの“作り方”とは
そんな「Dragon's Dogma Online」のシナリオを手がけるのは,ファイナルファンタジーシリーズをはじめとする数々のヒット作を世に送り,昨年の東京ゲームショウではフランス発の新作RPG「ZODIAC」(PS Vita / iOS)への参加が大きな話題になったことも記憶に新しい野島一成氏である(関連記事)。
今回,4Gamerでは野島氏とプロデューサーを務める松川美苗氏にインタビューを実施し,「Dragon's Dogma Online」のシナリオがどのように作られているのか,どんな内容になるのかといった話を聞いてきた。また,インタビューの終盤には,野島氏にクリエイターとして歩んできたキャリアを振り返ってもらってもいるので,ぜひご覧いただきたい。
「Dragon's Dogma Online」公式サイト
野島氏は開発チームの中心人物の1人として参加
シナリオ制作は「昔のゲームっぽい作り方」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,野島さんが「Dragon's Dogma Online」のシナリオを担当することになった経緯から教えていただけますか。
最初に話が来たのは,2013年の6月頃でしたか。松川さんから,かなり切羽詰まった様子のメールが届きまして。僕はちょうど仕事の切れ目でしたし,いろいろなタイミングもよかったので引き受けることにしたんです。
4Gamer:
野島さんは,以前に松川さんがプロデューサーを務めた「LAST RANKER」(2010年発売)でシナリオを手がけています。
野島氏:
ええ。松川さんが久しぶりに声をかけてくれたこと,思い出してもらえたことが嬉しかったですね。
4Gamer:
その当時,松川さんはそんなに切羽詰まっていたのですか。
松川美苗氏(以下,松川氏):
前回のインタビューでもお話しましたが,「Dragon's Dogma Online」の開発にあたっては,最初にオンラインのマルチプレイを検証しました。その後,プレイヤーの皆さんにどんな体験をしていただくか,そのためにはどんなコンテンツを用意すればいいのかといった企画をチームの総力を挙げて詰めていったんですが,メインストーリーだけは難航しまして……。
そこで,日本で一番,いや世界で一番信頼している野島さんに,キャラクターが生き生きとしている物語を描いていただこうと思ったんです。
野島氏:
そんな大げさな(笑)。
松川氏:
野島さんは「切羽詰まった様子」と,ひと言でまとめていましたが,実際には「(メールを送った)翌日に電話会議をお願いします!」「1か月後には,シナリオをひととおりまとめてください!」といった,かなり無茶な内容でした。今,思い起こしてみると,よく引き受けてもらえましたね(笑)。
4Gamer:
そんな無茶な依頼に対して,野島さんはどのように応えたのですか。
野島氏:
実は,そのときにはオンラインゲームのシナリオというものにピンと来ていなかったんですよ。引き受けてはみたものの,「いったい何をすればいいんだろう?」と。
そこで,いろいろと話を聞いてみたら,僕が普段書いている(オフラインの)コンシューマRPGとあまり変わらないことが分かりました。「それならできる」と安心した一方で「えっ? それでいいの?」とも思いましたね。
4Gamer:
とはいえ,1か月でシナリオをひととおりまとめるというのは,かなり大変だったのではないでしょうか。
野島氏:
急いでまとめなければならなかったのは,プロット(全体像)だけだったので大丈夫でした。その先は結構時間をかけて,行ったり戻ったりを繰り返しながら作っています。
松川氏:
シナリオの推敲に1年近くかけているんですよ。社内で動作テストを行うたびに,野島さんにもシナリオの内容をチェックしていただいたり,私達から「ここにもう少しドラマが必要なので,追加で書いてください」とお願いしたりで。
野島氏:
トライ&エラーというか,昔のゲームっぽい作り方ですね。キャラクターの絵が上がってくると「このキャラだったら,こういう風にしゃべらせたい」とか,曲が上がってきたら「この曲調なら,もっとセリフも盛り上げたい」とか。
松川氏:
実装しては直し,直しては実装し……の繰り返しでした。
4Gamer:
昔の作り方に似ているということは,懐かしい感覚があったのでしょうか。
野島氏:
ディレクターや開発チームのスタッフと,あれだけ頻繁に打ち合わせをしながら作ったのは久しぶりですね。現場の空気感が伝わってくる中で作業を進められるのは,すごく面白いです。
松川氏:
野島さんは,ディレクターやスタッフから「最近,現場で何があったのか」をさりげなくチェックして,ゲームを磨いてくれるんですよ。
野島氏:
定期的にチーム全体の様子を見ていると,空気の変化が分かりますよ。「この空気だと,あまり無茶は言わないほうがいいな」とか「今なら無理を押し通しても,やってくれそうだな」とか(笑)
松川氏:
野島さんは東京,開発チームは大阪にいるので,どうしても電話でミーティングすることが多くなるのですが,それでも伝わってしまうくらい殺気立っていることがありましたね。ディレクターの木下(研人氏)がバタバタしていたり,シナリオ担当者が小声になったりと。
4Gamer:
ちなみに,野島さんは「Dragon's Dogma」はご存じでしたか。
野島氏:
いえ,申し訳ないことに,今回の仕事で初めて知りました。大量の資料がドサッと送られてきて,読み込んだら「これは深刻なストーリーだな」と(笑)。こういうシリアスなゲームは,ちょっといじりたくなるんですよ。
4Gamer:
と言いますと?
野島氏:
クセのあるキャラクターを多く登場させたいと思いましたね。大きな目的に対して,まっすぐ進む人ばかりでなく,寄り道をしたり,そもそも目的に向かわなかったりする人がいてもいいんじゃないかと。
幸いにも,「Dragon's Dogma Online」ではそうしたアイデアを採用してもらえたので,楽しんで作っています。
野島さんはシナリオライターであり,ゲームクリエイターでもありますから,「こんなことをやりたい」というアイデアが出てくるたび,どんどん盛り込んでいただきました。ですから,シナリオだけを外部に委託するという感じではないですよ。ゲームの世界観やコンテンツの内容にいたるまで理解したうえで,開発チームの中心人物の1人として参加してもらっています。
4Gamer:
野島さんの起用が決まったとき,チーム内の反応はいかがでしたか。
松川氏:
野島さんは大御所ですから,最初に名前を出したときはみんながザワザワッとしました。
野島氏:
それはそれは(苦笑)。
もちろん,自分のことを大御所なんて意識したことはないですよ。たまたまいい時代で,いいタイミングに仕事ができたというだけで,多少の努力はしましたが,振り返ってみるととにかくラッキーだったなと。
松川氏:
チームには,学生時代に野島さんのゲームを遊んできた若いスタッフも多いので,大阪に野島さんがいらっしゃると,妙にソワソワしていたり,ミーティングルームの近くまで様子を見に来たりと,面白かったですよ。
プレイヤーそれぞれの遊び方がある
オンラインゲームだからこそ必要な配慮とは
4Gamer:
「Dragon's Dogma Online」のシナリオ制作について,「(オフラインの)コンシューマRPGとあまり変わらない」というお話でしたが,そうは言ってもやはりオンラインゲームということで勝手が違うところはありませんでしたか。
野島氏:
いわゆるJRPGだと「これくらい話を見せたあとに,バトルがあって,ダンジョンがあって……」といったように,開発側がゲームの進行ペースを設定できます。もちろんプレイヤーそれぞれに個人差はありますが,基本的には僕達が作ったシナリオに付き合ってもらう形になります。
一方,オンラインゲームはストーリーを進めなくても,プレイヤーにはやれることがたくさん用意されています。そのため,ストーリーの進み具合と実際に遊んでいる内容に大きな違いが生じるわけですが,その対応策を木下さんと考えることはありましたね。
松川氏:
オンラインゲームだとプレイヤーによって遊び方が異なるので,あるメインクエストをクリアしてから次のクエストを始めるまでに,何十時間と空いてしまうケースだって考えられます。そうなると,前後のストーリーを忘れることもありますよね。
そこで野島さんには,単に「次はここに行け」と指示するだけでなく,「こういう経緯があってこうなった。だから次はここに行く必要がある」といったようにプレイヤーの記憶を呼び起こすセリフを追加してもらいました。
野島氏:
テレビのバラエティ番組で,CM明けに前のシーンをちょっとリピートするみたいな感じです(笑)。
4Gamer:
オンラインゲームの特徴に合わせて,丁寧にストーリーを説明するようにしたわけですね。
野島氏:
正直に言うと,最初は気づいていなかったんですよ。だから,当初は「この間,入手したアイテムだけど〜」といった文章を書いていました。
松川氏:
私を含むチームのスタッフも,ほとんどがオンラインゲームの開発は初めてなので,そういうことが分からなくって。
野島氏:
開発が佳境に入った頃に,ようやくオンラインゲームがどういうものなのかが理解できたんです。
松川氏:
「プレイヤーの中には,このキャラクターのことを忘れている人がいるかもしれない」ということに気づいて,野島さんに追加発注したり,ボイスを追加収録したりといった感じでした。
私達がもともと得意としていた開発スタイルから,「このゲームはどう遊ばれるのか」というプレイヤー目線を意識した開発スタイルに移行していったというわけです。
もっとも,実際にプレイヤーの皆さんのご意見を反映していくのは,先行体験テスト以降が本番となります。
野島氏:
今,振り返ってみるとしんどいことは多かったですが,だんだん完成形が見えてくる感じや,手慣れたことをやっているのとは違う感じが楽しかったですね。なんだか思い出みたいに話してますけど(笑)。
松川氏:
まだ正式サービスされていませんよ!(笑)
野島氏:
プレイヤー自身が主人公となるゲームも久しぶりでしたね。
松川氏:
野島さんの作品といえば,きちんとキャラの立った主人公が登場するイメージが強いです。
野島氏:
僕自身は「ドラゴンクエスト」のように“プレイヤー=主人公”というシナリオが好きなんです。
4Gamer:
え! そうなんですか。
野島氏:
はい。ただ,キャラの立った主人公が登場する作品の依頼が多いというだけです。
松川氏:
そういえば「野島さんって,一人称シナリオのゲームに関わっていたんですか?」と質問してきた若いスタッフがいますよ。
野島氏:
自分では結構書けると思っているんですが……。
松川氏:
ええ(笑)。だから「何でもできる人だから大丈夫だよ」と答えておきました。
4Gamer:
それでは,ストーリーのエンディングはいかがでしょう。オンラインゲームでは,ストーリーの結末を迎えてもゲーム自体は続いていきます。そのあたりでも,勝手が違ったのではないかと思います。
それは「何を持って終わりとするか」ですね。日本の戦国時代を扱うゲームがあったとして,信長が死んだところで終わりにするのか,それとも秀吉や家康の時代まで描くのか。さらに時代の切れ目には,平和な時期が少しあるのかもしれない。ストーリーを長く続けられるということは,それだけいろいろなことが描けるということです。その意味で「Dragon's Dogma Online」には,できるだけ長く続いてほしいですね。
松川氏:
頑張ります!
4Gamer:
現在の進捗状況としては,すでに1つのストーリーを書き終えているのでしょうか。
野島氏:
ええ,シーズン1を書き終えました。今はそれに続くシーズン2のシナリオに取りかかっているところです。
松川氏:
「Dragon's Dogma Online」を長く遊んでいただくために,今まさにいろいろと仕込んでいる最中です。
ただ,作り手としては,このサイクルで開発を続けるのはしんどいですね。オンラインゲームを作っている人達は,本当にすごいと感心してしまいます。
野島氏:
シーズン1から2へ,2から3へと続いていく中で「このキャラクターが将来,どうなっていくのか」といったところを気にかけてほしいですね。
シーズン1は弱った白竜の力を取り戻すため
覚者と人間達がオークの軍勢に立ち向かう
4Gamer:
シーズン1のストーリーについて,差し支えない範囲で教えてください。
野島氏:
「Dragon's Dogma Online」の世界には白竜という絶対的な存在がいて,その竜が放つパワー──「竜力」が世界を繁栄させていたんです。しかし,とある大きな事件によって白竜が弱り,その結果としてオークなどの魔物が台頭してきた。シーズン1は,そんな魔物の軍勢と戦い,竜を守ろうとする人達の物語です。
4Gamer:
世界設定は「Dragon's Dogma」から引き継がれていますね。
野島氏:
ええ。もともとの世界観を下敷きにしたうえで,新たにオンラインゲーム用のストーリーを書きました。
4Gamer:
「Dragon's Dogma Online」では,大勢のプレイヤーが「覚者」になります。コンシューマRPGでいうところの“勇者”が世界にあふれている状態ですが,そのあたりも野島さんが考案されたのですか。
野島氏:
それは,この世界でオンラインゲームのシステムを成立させるために開発チームが考えていたところですね。
松川氏:
チーム内のシナリオやクエストを担当するスタッフのほうで,「Dragon's Dogma」の世界では「こうしておいたほうがいいだろう」という最低限のルールみたいな部分は決めてありました。
たくさんのプレイヤーの皆さんに遊んでいただくオンラインゲームで,「オレは主人公の覚者。フレンドは従者のポーン」という状況では楽しめない人もいるだろうと。皆さん,覚者になりたいだろうと思いましたので,全員が覚者として活躍できる世界にしたんです。
4Gamer:
分かりました。プレイヤーが全員覚者であることのほかに,チームから野島さんへのオーダーはありましたか。
野島氏:
最初から竜が弱っている,という設定ですね。
松川氏:
実は,野島さんに依頼した時点で弱った竜のモデルを作っていました。
野島氏:
だから,竜にお願いすればすべて解決できるような世界ではないと。
松川氏:
そもそも「Dragon's Dogma」のストーリーは,覚者が奪われた心臓を取り戻すために竜を倒しにいくというものでした。
一方,「Dragon's Dogma Online」は弱った竜の力を取り戻すという物語です。したがって,覚者が大勢いても大丈夫。また,「どうすれば竜が復活するのか」「その結果,世界が平和になるのか」という展開も,「Dragon's Dogma Online」ならではの色になっています。ここが,最初に野島さんにお願いしたところでした。
野島氏:
本来,1人しかいないはずの覚者が大勢いる。で,その先はどうなるのかという話をしたんですが,答えが用意されていなかったんですよ。そこで「ああ,ここが僕の腕の見せどころだろう」と。
最初,みんなで殺し合う展開を提案したのですが,早々に却下されました(笑)。
松川氏:
ゲーム内が殺伐としちゃいますから……。
4Gamer:
ああ,確かに。
野島氏:
僕は,オンラインゲームでもコンシューマゲームでも「これはやらないほうがいい」という“常識”が分からないままやっているんですよ。
「Dragon's Dogma Online」全体の流れとしては,シーズンを重ねていく中で登場キャラクター達と行動することにより,世の中のルールが少し変わっていく。その結果,新しく生まれる世界にどう折り合いをつけるのか,という話になるだろうと考えています。
私達は3年,5年,10年とプレイヤーの皆さんと一緒に「Dragon's Dogma Online」の世界を育てていきたいと思っています。そのために,まずはチームで土台を作り,野島さんに「こんなクエストを入れよう」「このキャラクターはこうしたほうが面白くなる」といった形で面白くしていただいています。
メインクエストに登場するキャラクターは,そのときどきで発言内容が変わるなど,既存のオンラインゲームにはない,コンシューマゲームを作ってきた私達ならではの要素も取り入れています。
4Gamer:
なるほど。
それでは,発表されているキャラクター達のうち,ストーリー上の最重要人物を教えていただけますか。
野島氏:
序盤では,白竜神殿にいる「レオ」でしょうね。レオは世界を動かす中心的な存在で,プレイヤーが近づくと「アレをやれ。コレをやれ」と手伝わされます。
しかし,あえてレオを避けてフィールドを走り回るのも,それはそれで楽しいと思いますよ。
4Gamer:
最初は,レオに巻き込まれる形でメインクエストを進めるということですね。では,レオに近づかなければ,ストーリーが進まず,ほかのクエストだけを遊べるのでしょうか。
メインクエストを進めることで,行き来できるフィールドが段階的に広がっていきます。したがって,プレイヤーはその時点でのフィールド内でやれることがなくなったら,レオに会いに行くような感じになると思います。
ただ,メインクエストは必ずしもレオが発端というわけじゃないんです。
野島氏:
白竜神殿には,レオのほかにもノンプレイヤーキャラクター(NPC)の覚者やさまざまな組織の代表者がいます。彼らは仲良しではなく,それぞれの立場の違いから意見がぶつかり合っている状況です。
4Gamer:
そこには政治的な思惑が絡んでいるのですか。
野島氏:
いや,むしろ個人の主義や主張ですね。自分の組織を代表しているというより,「オレはこう思う!」といったものです。
松川氏:
NPCの覚者は,新米覚者であるプレイヤーに対して,ゲーム内のさまざまなことを教えてくれます。
一方,「ミシアル」「ジョゼフ」「クラウス」は白竜に仕える神殿寄りの人間達です。また,「ゲルト」「ハインツ」は騎士団に属しています。彼らは彼らで人間として白竜を守り,ひいては世界を守りたいという思惑があります。
覚者,神殿,騎士団がそれぞれの立場から「こうすべき」と主張しているのですが,それらは微妙に食い違っている。そうは言っても,目の前にオークの軍勢が迫っているから協力しなければいけないという状況です。
ミシアル |
ジョゼフ |
クラウス |
ゲルトとハインツ |
4Gamer:
騎士団は,覚者と神殿を疑問視しているという設定ですね。
松川氏:
騎士団は,覚者のように竜に選ばれたからではなく,自分達の世界のために竜を守りたい。したがって覚者と騎士団とは,竜を守るという目的は同じでも立場が異なるのです。
覚者の中には,かつて騎士だった者もいるので,騎士団から「我々の立場が分かるだろう」という非難が生じます。その一方で覚者は人間よりも長命ですから,その長い人生の中でどうすれば竜を復活させられるのかを考えている。
こうした意識のギャップが,シーズン1のストーリーでは大きなポイントになっています。
野島氏:
覚者の中には「人間とは身分が違う」と考えている者もいます。
4Gamer:
覚者と人間との確執も描かれると?
松川氏:
現在は白竜に近い存在のキャラクターだけですが,今後は異なる立場の人物を発表しますので,続報にご期待ください。
4Gamer:
ちなみに,野島さんがキャラクターデザインにオーダーを出すことはあるのでしょうか。
野島氏:
いえ,そこは出会いを大切に(笑)。とくに今回は,ほとんど絵が仕上がっている状態でシナリオを書きました。
松川氏:
ただ,あとから追加したキャラクターの中には,野島さんのリクエストを受けて見た目を決めたケースもありましたよ。
4Gamer:
それでは,あらためてシーズン1の見どころを教えてください。
野島氏:
いろいろなキャラクターがそれぞれの思惑を持って登場しますが,全体としては「白竜に元気を取り戻してもらいたい」という流れで進行します。その途中,白竜が「ありがとう」と言ってくれるシーンがあって……。ほんの短いシーンですが,これがグッと来るんです。オレ,頑張ったなと。
正直なところ,最初は手探りで作っていましたが,何回も直して「これはイケる」という線まで持ってきましたので,楽しみにしてください。
松川氏:
現在発表しているシーズン1に登場するキャラクターは全員,ゲーム内のコンテンツと関係しています。ストーリーを縦軸とすると,横軸にはそのときどきの配信イベントやお祭り的なイベントなどがあり,各キャラクターが登場する関係です。
とくに「ヴァネッサ」は,グリッテン砦の攻防戦で共闘するキャラクターで,プレイヤーを叱咤激励する存在です。その反面,プレイヤーが守ってあげなければならなかったりと非常に面白い魅力を持っています。
今回,野島さんにチームの一員となっていただき,オンラインゲームを一から作るという挑戦を成し遂げることができました。ぜひ早く体験してほしいですね。
最初はシナリオライター志望じゃなかった!?
野島氏の意外なクリエイターとしての経歴
4Gamer:
またとない機会なので,野島さんの経歴などをお聞きしたいのですが,そもそもゲーム業界に入ったのは,データイースト入社がきっかけだったんですね。
ええ,ちょうどバブルと呼ばれていた頃です。僕は北海道の札幌出身なんですが,当時データイーストが札幌に開発ブランチを作ったんですよ。そこにプログラマーとして入った友人に誘われて,僕も入社した感じです。それまではガテン系のアルバイトで日銭を稼いでいたので,そろそろちゃんと就職をしなきゃなと。
その後,1年間だけ東京で研修するはずだったのが,なぜかそのままずっと東京に残ることになっちゃって。
4Gamer:
そこには,東京に残りたいという野島さんの意向はなかったのですか。
野島氏:
最初は,研修中にプロジェクトに組み込まれて,それが終わらないと札幌には帰れないという話でした。しかし,当時は常に人手不足でしたから,その後もいろいろなプロジェクトに関わることになり,なかなか帰るタイミングが見つからず……。
その一方で,僕も東京のほうがいろんなレコードが手に入るし,これはこれでいいかなと。
松川氏:
レコードですか!
野島氏:
ええ。世の中はCDに移行しつつあったんですが,まだレコードが無くなるなんて考えられないような時代でした。
話を戻すと,札幌よりもレコードは手に入りやすいし,毎週のように誰かしらコンサートをやっているし,プロレスも毎日見られる。「ここはお金さえあれば,何でも好きなことができる天国だ!」と思っていました。
一応,会社には「早く札幌に帰してくださいよ〜」とか言っていましたけどね(笑)。
4Gamer:
野島さんにとって,快適な環境だったわけですね。
野島氏:
会社では一番若い存在だったので,先輩がおごってくれて食費がかからないんですよ。先輩に付いていって,「そうっすか」と言ってうなずいているだけでよかった(笑)。
そうこうしていると,新しいプロジェクトが立ち上がったときに「ちょっとやってみない?」と声がかかるんです。それでゲーム開発にまつわる,いろいろなことをやらせてもらいました。
4Gamer:
当時から,シナリオライターを志望されていたのですか。
野島氏:
そういった意識はなかったですね。と言うのも,当時のゲーム開発はプログラマー主導で,彼らの指示のもと,いろいろな企画を考えたり,絵を用意したりするのが僕の仕事だったんです。今ならプランナーと呼ばれるポジションでしょう。
そんな中,あるときゴルフゲームに登場するキャディのセリフを考えることになったんです。それが思いのほか上司の受けがよく,アドベンチャーやRPGのプロジェクトでも「お前がシナリオを書け」ということになりました。
だから,本当に自分からは何もしていないんです。言われたことをこなしていたら,周りから「テキストの仕事は野島にやらせよう」と言ってくれるようになっていたんです。
のちのシナリオライターとしての活躍を知っていると,意外なスタートに思えます。
野島氏:
当時は社内の開発ツールを使って,好き勝手にスクリプトを組めましたから,ただただゲームを作っていましたね。予算とか,会社がどれだけ僕にお金を使っているかとか,まったく考えていませんでした(笑)。
4Gamer:
ですが,1994年には天国とまで思っていたその環境を離れ,スクウェア(現スクウェア・エニックス)に移籍されています。
野島氏:
データイーストに入社して約10年が過ぎた頃,社内旅行でバスに乗ったとき,年齢的に僕が上から3番めくらいになっていることに気づいてしまったんです。先輩がいないのは,何か嫌だなと。
1994年というと,初代PlayStationやセガサターンの登場により,ゲーム業界の求人が増えていた時期でした。そこで「これならどこにでも行けるだろう」と思ったんですが,会社というものはそう簡単に辞められるわけじゃない。
4Gamer:
プロジェクトを担う責任だったり,引き継ぎの必要があったりと,いろいろな事情がありますね。
野島氏:
そういうことを片付けて,いざ辞めていいとなったときには,パタッと求人がなくなっていたんです。ただ,スクウェアだけは通年採用を行っていたので,正攻法で応募しようとしたら,外回りが多くて顔の広い先輩に「そこそこキャリアがあるんだから,もっとコネとか使いましょう」と言われて(笑)。
4Gamer:
スクウェア入社後は,主にシナリオを担当されていたのですか。
野島氏:
いえ。まずはシナリオを書きつつ,スクリプトを組みつつという感じでした。誰かのパートが終わらないと全体の進行が滞るのであれば,自分のパートそっちのけで,その部分のシナリオを先行させることも多かったですよ。その後,やり残した自分のパートをどうしようか,ウンウン唸ると。その頃は,もう東京にいるのもそれほど楽しいとは思っていなかったかな。
4Gamer:
なるほど。そして2003年に独立されたわけですね。
野島氏:
その頃は1タイトルにつき,開発期間が5〜6年かかるようになっていました。僕はいろいろな話を思いついているのに,1つのプロジェクト期間が長いので全然ゲームに生かせない。海外版を制作するとなると,シナリオ担当の僕は翻訳担当の応対をしなければならない。すると,その間にほかの人がシリーズの次回作を作りますよね。「オレも新しいアイデアがあったのに!」と憤慨するわけです(笑)。
また,同じ環境で10年過ごしたから,そろそろ変化もほしい。そこで独立すれば,自由に書き散らせるんじゃないかと考えたわけです。
4Gamer:
もっとシナリオライティングに集中したいと?
シナリオに限らず,とにかくもっとたくさんゲームを作りたいと思ったんです。
おかげさまで独立から10年以上,いいときもあれば,そうでないときもありましたが,いろいろな人と出会って,いろいろな仕事をやらせてもらいました。
今だから笑い話にできますが,途中でポシャったゲームもありました……。そういうときに限って,いい仕事ができていたりするんですよ。逃した魚は大きかったなと(笑)。
ただ,それも10年経ったので,また環境を変えたほうがいいのかなと思っています。昔は昔で面白かったし,いい思い出も多い。だけど戻りたいかというとそうじゃない。今のほうが断然,面白いですよ。
4Gamer:
今後,どのような活動を予定されているのでしょうか。
野島氏:
大規模ではないスマートフォン向けのゲームを企画からやってみたいですね。だから,スマートフォン向けプロジェクトの話は積極的に受けるようにしています。でも,実際に話を聞いてみると,思っていた以上にゴージャスな仕様だったりして(苦笑)。
4Gamer:
それは声をかける側に「野島さんにお願いするのだから,それなりの規模でないと」という意識があると思います。
野島氏:
小規模な企画でも,気軽にどんどん声をかけてほしいですね。
松川氏:
ダメですよ! そういう仕事をいくつも受けると「Dragon's Dogma Online」が滞ります(笑)。
4Gamer:
それでは最後の質問になります。野島さんがゲーム業界に入ってから30年が経ちましたが,ゲーム開発において大きく変わった部分はどこでしょうか。
野島氏:
何よりもプロデュースワークが発達しました。昔はもっと作家性が中心にあり,誰かが「これが面白いんだ!」と主張して周囲を動かしていましたけど,今は「こういうゲームを作れば売れる」という戦略性が先にある感じです。もっとも,どちらにも良し悪しがあるので,どちらかが優れているという話ではありませんけどね。
4Gamer:
なるほど。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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