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印刷2017/09/02 00:00

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[CEDEC 2017]「Pokémon GO」に至るNianticの道のりを日本人スタッフが紹介した基調講演の模様をレポート

 ゲーム開発者会議のCEDEC 2017が2017年8月30日から9月1日にかけて,神奈川県のパシフィコ横浜で開催された。本稿では,9月1日に行われた基調講演「"GO OUTSIDE! Adventures on foot"」の模様をレポートしよう。

 本講演は2部構成となっており,前半はNianticのDirector of Asia Pacific operations 川島優志氏が,同社のこれまでの取り組みなどを紹介。後半は,「Pokémon GO」iOS / Android)のSenior Product Managerである野村達雄氏が,同作の開発経緯や現在までの動向などを振り返った。

 川島氏は,最初にNianticの設立経緯を紹介。それによると同社はもともとGoogleの社内スタートアップとして設立された組織で,現CEOのジョン・ハンケ氏は,前身のKeyhole時代からGoogle Earthの開発に取り組んできた人物である。

Niantic Director of Asia Pacific operations 川島優志氏
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 ハンケ氏と川島氏は,Nianticの設立にあたって「どうすれば世界を変えられるか(Change the world)」と考えたという。そのときハンケ氏が口にしたのは「人が外に出ればいい(Go outside)」。これを聞いただけでは「ん?」と思うかもしれないが,川島氏は「風が吹けば桶屋が儲かる」のように,途中の段階を順を追って説明することで,きちんと腑に落ちるようになるとした。

 そもそも人が自分の足を使って外に出るということは,運動(Exercise)につながる。川島氏が引用したデータによると,現代人がスマートフォンやPCなどに向き合っている時間は1日あたり9時間(子どもは3時間)で,1日あたりに必要な運動量を達成できていない子どもは80%,運動不足が原因になりえる病気などで亡くなる人は5700万人という結果が出ているという。

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 そうした状況の中,ハンケ氏もまた,晴れた日に自宅に籠もってずっとゲームを遊んでいる息子を見て,「どうすれば彼を外に連れ出せるだろうか」と考えていたそうだ。
 そんなところから,「人々が外に出て,リアルの世界で運動するための動機付けになるものを作ること」というNianticの根本的な考え方が生まれたのである。

 それでは外に出た人に何をさせればいいのか。Nianticは,人々に探索(Explore)をしてほしいと考えた。昨今だとスマホの地図アプリで検索すれば目的地までの最短経路がすぐに分かるが,Nianticでは最短15分で行ける場所に,1時間半かけて向かわせることはできないかと考えたという。そうすることで,身近にあるのに普段は行かない場所に行ったり,あるいはそういった場所の歴史を知ったりといったように,新しい目で世界を見ることができるからだ。

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 加えてNianticでは,リアルの世界の中で,これまで親交のなかった人同士の交流を促し,コミュニティを形成させること(Social)も考えたそうだ。
 そして以上をまとめると,「人が外に出れば,世界が変わる」というわけである。

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 またNianticでは,こうした「人々が運動をし,互いに交流し,リアルな世界を発見するためのモチベーションを作り,世界をよくする」という目的を達成するために対してOKR(Objective and Key Result,目標と主な結果)メソッドを用いて数値目標を定めているという。具体的な2017年の目標は以下のとおりで,川島氏によると,9月1日時点で70〜80%達成しているとのこと。

・ユーザーがロケーションに触れ合う(例:説明を読む,新しいデータを入力する,など)回数が1億回に達すること
・Nianticの公式イベントやユーザーイベントに,25万人以上が参加すること
・3000万人以上のユーザーが1週間に3km以上歩くこと


 そんなNianticが最初に開発したのはスマホアプリ「Field Trip」である。これは,ユーザーの位置情報に基づき,近くのレストランやショップ,名所や旧跡などの情報を自動的に画面に表示したり,音声によるガイドを行ったりするというものだ。
 かなり便利なものに思えるが,川島氏によれば,情報をユーザーに提供するタイミングを適切に判断するのが難しかったり,技術的な課題があったりしたため,あまりうまくいかなかったという。
 その一方,本当に適切なタイミングでストレスなく情報伝達がなされた場合には,魔法のようにも思えたそうだ。

 Nianticが「Field Trip」の経験を活かして新たに開発したのが,位置情報を使ったスマホゲーム「Ingress」iOS / Android)である。全世界200以上の国で遊ばれ,累計2000万ダウンロードを記録しているという本作の大きなキーとなったのは,「リアルの世界で外に出ないとプレイができない」ということだ。

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 本作のユーザー達は,ポータルを求めて山に登ったり,飛行機をチャーターして移動したり,身体に自分の陣営のタトゥーを入れたりといった,それまでのゲームでは見られなかった行動を起こしたという。中には,出不精だった足の不自由なユーザーが車椅子を改造して海外に出向くといったケースもあったのだとか。
 そうしたユーザーの移動距離は累計3億kmに達しており,地球と太陽の間を往復した計算になるとのこと。

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会場では,ユーザーの手によるクリエイティブも紹介された。右下のイラストを手がけたユーザーは,ギラン・バレー症候群を患ったため1日200歩しか歩けなかったが,「Ingress」をプレイしているうちに1日2万歩以上歩けるようになり,最終的には病気を克服したとのこと
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レベル8以上の「Ingress」ユーザーに対して行ったアンケートの結果も一部公開された
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16か国,160名以上の「Ingress」ユーザーが協力し,アジアの海を超巨大フィールドで覆った「オペレーション・マタハリ」も紹介された
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マレーシアでは,「Ingress」をプレイして健康になったから献血しようという,ユーザー主導のキャンペーンも行われた。この試みは世界中に広まり,日本でもユーザーが公式に日本赤十字社とパートナーシップを結んだそうだ
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2014年当時,京都で開催した「Ingress」のファンイベントに集まったのは26人だったが,2016年にお台場で開催した際には国内外からの来場者が1万人を超えたとのこと
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 川島氏は「Ingress」から学んだこととして「ARゲームは現実世界でのユーザーの振る舞いにポジティブな影響を与えられる」「新しい,意味のあるソーシャルな交流の形態を作れる」「ローカルと,そのはるか先の両方で探索と発見を奨励できる」「身体を動かすことやエクササイズを奨励できる」という4項目を挙げた。

 そして2014年3月27日,ハンケ氏と川島氏はGoogle Mapのエイプリルフール企画だった「Pokémon Challenge」のプロモーション映像をチェックすることとなる。その映像に表現されていた,リアルの世界を探索してポケモンを見つけるというシーンを見たとき,二人は「これこそがNianticの次に作るものだ!」と直感したとのこと。
 その夜,川島氏はさっそく「Pokémon Challenge」を手がけたGoogle Japanのスタッフとコンタクトを取り,(企業の)ポケモンとの橋渡しを依頼したそうだが,その人物こそが本講演のもう一人の登壇者,野村氏だった。

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 ただその当時のNianticは,企業内スタートアップとしての期間を終えるタイミングにあり,解散してGoogleの各部署に回るか,それとも独立するかの選択を迫られていた。ハンケ氏と川島氏らは独立を選んだが,Googleに残るというスタッフもおり,結局Niantic全体のスタッフ数は約半分の40人ほどになってしまった。また資金繰りにも悩まされたという。
 任天堂とポケモンからすれば,Googleと新しいビジネスを始める予定が,新興の中小企業とのビジネスになってしまったわけだが,当時の任天堂の代表取締役社長だった岩田 聡氏は,快くNianticに投資したというエピソードも披露された。

 川原氏と交代して登壇した野村氏は,まず「Pokémon GO」のアイデアの発端となったGoogle Mapのエイプリルフール企画を紹介。野村氏がGoogle Japanに入社して2年目に手がけた「ドラゴンクエスト」のフィールドのような8bit調のマップは話題となり,社内では「次は何をやるのか」と聞かれるようになっていたという。
 しかし,2013年に作ったエイプリルフール用のマップはそれほど話題にならず,野村氏は「去年は,ドラクエのような有名なIPとGoogle Mapとの掛け算だったから,大きく取り上げられた」と自覚したそうだ。

「Pokémon GO」Senior Product Manager 野村達雄氏
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 そして2014年,野村氏は本来の業務が忙しいためエイプリルフール企画には携わらないつもりだったのだが,あるとき「Pokémon Challenge」のアイデアを思いついてしまったという。さらにはGoogle Japanとポケモンのオフィスが同じビル内にあったことも幸いし,「Pokémon Challenge」の企画はすんなり進行したことから,結局この年もエイプリルフール企画担当になってしまったのである。

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 「Pokémon Challenge」では,みずタイプは川や海などの近く,ほのおタイプは火山などの近くといったように,全151体のポケモンがマップ内に隠されている。そしてユーザーが150体のポケモンを見つけて初めて,151体めのミュウが出現するという仕掛けになっていた。もちろんユーザー達にはそうした仕掛けは知らされていなかったため,最初にミュウの画像がネットに公開されたときは「Photoshopで加工したのでは?」という疑惑が持ち上がったという。

 実はこうした疑惑が生ずるのは,狙いどおりだったと野村氏。というのは,初代「ポケットモンスター」がブームになった当時も,ゲーム内の特定の場所に行くと特殊なモンスターがいるという噂が多々あり,とくにミュウに関してはそうした噂が多かったからだ。そこで「Pokémon Challenge」でも,狙ってこの遊びを入れたという。

 そして「ポケットモンスター」というIPとGoogle Mapの掛け算により生まれた「Pokémon Challenge」は話題となり,上記のとおりNianticのハンケ氏と川島氏を動かした。さらに,リアルタイムで初代「ポケットモンスター」をプレイしたりアニメを見たりした世代である野村氏も,「リアルの世界でポケモンを捕まえるゲームは,絶対に面白くなる」とNianticに移籍し,「Pokémon GO」のプロジェクトに加わったのである。

 「Pokémon GO」は現在,7億5000万ダウンロードを記録し,150以上の国と地域で遊ばれ,プレイヤーの累計歩行距離は160億kmに達しているとのこと。
 野村氏は,本作がこれだけヒットし,多くの人に遊ばれることとなった理由として,まず「ポケットモンスター」をベースとしたゲームであることを挙げる。言うまでもなく「ポケットモンスター」は世界的に有名なIPであり,野村氏は「日本人に知り合いはいなくとも,ピカチュウは知っているという人が世界中にたくさんいる」と表現した。
 加えてNianticは本作を開発するにあたり,老若男女誰でも楽しめるよう,可能なかぎりシンプルなゲームに仕上げることを心がけたそうだ。

 そうした「Pokémon GO」のキーとなっているのは,やはりARだろう。野村氏は「ARは特殊なデバイスを介して利用するものと考えられがちだが,広い意味ではGoogle MapのようなマップアプリもARといえる。ARはすでに皆さんの手元にあると考えている」と,Nianticの考え方を紹介し,本作で使われるARについて「テクノロジー」「アート」「人」の3点から解説した。

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 テクノロジー面に関しては,当初,スマホのカメラとジャイロセンサーだけでは,「Pokémon GO」はうまく動作しないのではないかと考えていたことが明かされた。そのため最初期の「Pokémon GO」のプロトタイプは,Google ストリートビューを使い,ポケモンと遭遇するとその場所の画像が表示される仕様となった。
 しかし,Google ストリートビューに使われる写真は常に同じで,リアルの季節や時間帯などと連動させられなかったり,表示されるポケモンのサイズが不自然になってしまったりといった課題が生じたのである。

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 行き詰まってしまったプロジェクトに光をもたらしたのは,テックアーティストが週末に試しに作ってみたというプロトタイプだった。このプロトタイプは,当初ダメだと思われていたカメラとジャイロセンサーを使ったシンプルなもの。これに触ったスタッフは満場一致で「イケる!」となったとのことで,野村氏は「何でも実際にやってみてから判断しよう」と反省したという。

 また「Pokémon GO」では,「Pokémon Challenge」と同じように,リアルで水のあるところに,みずタイプのポケモンが出現するといったように属性などに応じて出現場所を決定しているが,野村氏はこうした部分がリアルの世界とゲームの世界をリンクさせる重要な要素であると指摘。またリアルでは銅像があったり看板があったりする場所が,ポケモンジムやポケストップになるのも同様とのことだ。

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 さらに全ユーザーが,一つの同じ世界で遊んでいることも重要だという。技術的には困難を伴うが,Nianticでは,たとえばレアなポケモンを発見したユーザーの「レアが出た!」という一言によって,ほかのユーザーが動くといったケースが発生する可能性を重視しているとのこと。

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 また,これだけヒットしているタイトルだけに,サーバートラブルへの対応も万全にしなければならない。ローンチ時には,最悪のケースに備えて見込みの5倍以上のサーバー容量を用意していたのだが,実際のトラフィックは見込みの50倍以上に達してしまい,サーバーダウンを引き起こしていたという。
 ただし,これは設計不備が原因ではないため,たとえサーバーがダウンしても数時間で復旧することが可能なのだそうだ。

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 アート面では,当初からユーザーインタフェースを最小限にし,マップを全面に押し出すことを考えていたという。これはプレイ時の没入感にこだわっているからで,今なおメニューやボタンを追加する場合には,「本当に必要なのか?」と十分な検討を行っているそうだ。

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 また当初作っていたマップに対しては,「どう見ても,ここにポケモンは住んでいないだろう」という意見がスタッフの中から上がったという。そこで「もっと『ポケットモンスター』の世界に沿ったものにしよう」と考えた結果,マップは次第に柔らかい感じになっていき,最終的にはリリースバージョンのようなリアル世界の情報と「ポケットモンスター」の世界とのバランスを取ったマップになっていったのである。

マップデザインの変遷
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 人に関しては,世界中の国や地域で行われている「Pokémon GO」の公式イベントやユーザーイベントが紹介され,性別や人種の違いを問わず本作を楽しんでいる姿が示された。

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 野村氏は「ARとは,スマホのカメラを通して何かを見たから成立するものではなく,ユーザーにどんな影響を与えるか,ユーザーの現実をどう変えるかに尽きる」とし,「そこにはさまざまなテクノロジーが存在するが,最後には人への影響が一番大事」とまとめていた。

2017年8月に横浜スタジアムで開催された公式イベント「Pokémon GO STADIUM」も紹介された
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NianticにおけるARの定義も示された
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 講演の最後には川島氏が再び登壇し,病気により歩くこともままならなかった80歳の女性が,「Ingress」を始めてから1日5km前後,累計1500km以上歩き,若いユーザーのコミュニティとシニアユーザーのコミュニティの橋渡しのような存在になっていることを紹介。

 さらに「ゲームには人々を変えるという強い力がある。その力を,未来を動かすために使うかどうかは,私達にかかっている」とし,「人々を外に連れ出し,世界を探索するように促し,国境や人種,言葉や性別を超えて交流させ,身体を動かすよう背中を押すこと。私達が起こしたいイノベーションはそういうことなんです。ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでしたが,私達のストーリーで皆さんを励ますことができたら嬉しいです」と聴講していたゲーム開発者に呼びかけて,講演を締めくくった。

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