レビュー
「Alan Wake」を超えるRemedy渾身の1本
Quantum Break
フィンランドに拠点を置くRemedy Entertainmentは,「マックス・ペイン」(2001年発売)と「マックス・ペイン2」(2003年発売)でその名を世に知らしめたデベロッパだが,Xboxユーザー(筆者含む)にとっては何と言っても「Alan Wake」がセンセーショナルだった。この2010年に発売されたXbox 360用サイコスリラーアクションは,陳腐な表現になってしまうがとにかく面白かった。「Xbox 360ゲームのベスト5を挙げろ」と言われたら,確実に「Alan Wake」は入る。ベスト3に入れてもいい。細かいゲーム紹介は割愛するが,物語にグイグイと引きこまれる海外ドラマ風のストーリー展開は秀逸で,続きが気になりすぎてなかなかゲームを中断できなかったほどだ。
そんな「Alan Wake」を生み出したRemedyの最新作ということならば,当然期待してしまう。では,実際に「Quantum Break」を遊んでみてどうだったのか。結論から言うと,「期待以上の部分がほとんどだが……」といった感じだ。ある意味,贅沢な注文をつけたりもしているが,革新的なビジュアルやシステムなど,さまざまな要素をじっくりとレビューしてみたい。
「Quantum Break」公式サイト
実写パートのドラマがゲームと融合
ここまでくると海外ドラマと比べて遜色ナシ
タイムマシン実験の失敗により,“時間”が崩壊して“この世界”がなくなってしまうかもしれない……という危機的状況から「Quantum Break」の物語は幕を開ける。トラブルに巻き込まれた主人公ジャック・ジョイスは,時間を操る「タイムパワー」を手に入れ,この特殊能力で世界を救うべく戦うことになる。
こんな感じで物語は進み,基本的にはジャックを操作してゲームは進んでいく。全5章構成になっており,各章が終わると「タイム分岐」が発生し,2つの選択肢のうち,どちらを選ぶかによってストーリー展開が変化する。当然,選択しなかったほうの展開は知る由もなく,それを知りたければ,繰り返しゲームをプレイするしかない。
タイム分岐の選択後,実写パートのドラマが流れるのだが,長いものだと30分近くあって,完全に海外ドラマといった趣だ。プレイヤーがジャックを操作するゲームパートだけでなく,この実写パートも選択肢によって変化するので,つい何周もプレイしたくなる。
ゲームと実写の融合。これまでもいろいろなゲームで試されてきたことだが,「Quantum Break」ではそのための技術が一歩進化している。なにせ,ゲームパートと実写パートに登場するキャラクターは同じなのだが,ここにほとんど違和感がない。ゲームパートにはポリゴンで描かれたキャラクターが登場し,実写パートはそのモデルとなった俳優が出演する。この差があまり感じられないのだ。
タイムパワーを使ったときのエフェクトに関しては,ゲームと実写で同じ処理を施していることもあって,このシーンがゲームなのか実写なのか,よく分からなくなることもある。大げさに思えるだろうが,そのくらい区別がつかない仕上がりになっている。ついにゲームと実写ドラマの融合はここまできたのか,という印象を受けた。
こうしてテキストで書いていると,すごく陳腐になってしまうが,とにかくこればかりは実際にゲームをプレイして,その融合っぷりを感じてほしい。単に「ゲーム内のポリゴンが実写っぽい」という以上の感想を持つことだろう。
また,「Quantum Break」をプレイしてとくに強く感じたのは,「海外産のループものはこうなるのか」という発見だ。本作のストーリーはタイムトラベルがテーマで,いわゆるループもののテイストも少なからず含まれている。ネタバレになってしまうので,詳しい説明は避けたいが,2周3周とプレイしてすべての分岐を体験してほしい。1周目には気がつかなかったことが徐々に見えるようになり,物語の深みが味わえるはずだ。
時間を止めながら罠を通り抜け,敵を倒す
見どころは兎にも角にも「タイムパワー」
さて,ここからはアクションゲームとしての「Quantum Break」を見ていこう。
基本操作は一般的なTPSのもので,ゲームが進むにつれて使えるタイムパワーが増えていく。当然ながら,このタイムパワーが本作のキモであり,これを使いこなせないと「ここ,どうやって先に進むの?」と行き詰まることもある。
「タイム ストップ」はバブルを発射して,触れたものの時間を止めるという能力だが,その対象はキャラクターだけに限らない。たとえば,何かが落ちてくるような場面では,タイム ストップによって落下を食い止めるという使い方が可能だ。
ゲームの序盤には,どの能力を使ったらいいかを示唆するチュートリアル的なメッセージが表示されるので,投げ出したくなるほどに行き詰まることはないだろう。「先に進めない!」と思ったら,たいていはタイムパワーを使ってどうにか切り抜けられる。「タイム ビジョン」で周囲の情報を探ったり,いろいろなタイムパワーを試したりするといいだろう。
要所要所で発生する銃撃戦に目を向けてみると,これが結構難しい。序盤の第2章までならゴリ押し気味でもなんとか切り抜けられるものの,中盤以降の戦闘ではそうはいかない。
マシンガンやショットガン,ハンドガンといった武器を駆使して敵を倒していくことになるが,しっかりとカバーアクションを使いながらヒット&アウェーを徹底しなくては生き残れないだろう。
タイムパワーの使い方も重要だ。前述したタイム ストップはもちろん,瞬間移動が可能な「タイム ドッジ」,銃弾を受け止める「タイム シールド」,大爆発を引き起こす「タイム ブラスト」,時間を止めてしまう「タイム ラッシュ」といった,さまざまな能力をどう組み合わせて,どう切り抜けるか。これを考え始めると,戦闘の奥深さや楽しさが急激に増す。「テキトーに撃っていれば,なんとかなるんでしょ?」なんて考えでは,まず生き残れない。とにかく死んで覚えるしかないのだ。
こうしたタイムパワーを使いこなせるようになると,本作の魅力にはっきりと気づくだろう。時間を操るアクションというのが非常に個性的で,「時間が止まっている世界」というのは何とも不思議かつ斬新なビジュアルだ。単に画面が止まっているだけではなく,プリズム越しに見ているかのような不思議なエフェクトを施されているのだが,「実際に時間が止まったら,こんな風に見えるんだろう」とすら思えてくる。
こんな体験ができるゲームは,ほかにはないはずだ。ハードがXbox Oneへと進化したからこそ,可能になった表現であり,ゲームの進化はハードウェアの進化とともにある,ということをまさに体現した作品と言える。
日本語音声ローカライズはナシ
字幕ゆえの情報量の多さにやや辟易
ここまではベタホメしてきたのだが,眉をひそめてしまった部分がないわけではない。
たとえば銃撃戦。タイムパワーのコツが分かってきたあたりは楽しいものの,理不尽な展開でゲームオーバーになることもあり,ちょっとストレスに感じるかもしれない。
ストーリーの展開に関しては,「Alan Wake」をプレイしたかどうかで印象が変わる気がする。少なくとも,初めて到達した結末をどう解釈するかで評価は分れるところだろう。筆者はこういう部分も含めて好きな部類なのだが,当然そうでない人もいるはずである。
あとは日本語版特有の問題として,つくづく音声吹き替えではないことが残念と言わざるを得ない。「Alan Wake」が日本でも高く評価されていたのは,そのローカライズが非常に丁寧だったことも理由の1つだ。あらゆる音声がすべて日本語化され,その世界を存分に感じ取ることができたからこそ,日本のXbox 360ユーザーに強く響いたのだ。
ところが,「Quantum Break」のローカライズは英語音声/日本語字幕になった。「字幕=ダメ」と全否定するわけではないが,少なくとも本作に日本語字幕は合わない。登場人物が多く,その人間関係や細かいSF設定などの情報量は多いものの,字幕のフォントサイズが小さく,テキストを読む気力が失せることがある。
さらに,字幕の表示中に実績が解除されると,字幕とインフォメーションが重なってしまい,字幕がちゃんと読めなくなる。本体設定でインフォメーションの表示をオフにすればいいのだが,実績解除を楽しみにしているプレイヤーには寂しい話だ。
また,BGMが鳴っている場面では「♪♪」,登場人物が息を整えている場面では「荒い呼吸」という状況説明の字幕まで表示されると,思わず「それ,いるの?」と突っ込みたくもなる。緊張感のある場面で表示されてしまうと,かなり萎えてしまうのだ。
というわけで,気になる点は少なくないが,「Quantum Break」にはそれらを踏まえてもなお強く薦めたくなる魅力が詰まっている。Xbox One本体を買ってでも,ぜひプレイしてほしい。とくに「Alan Wake」でピンときた人ならば,むしろ遊ぶべきである。
ちなみに,PC(Windows 10)版もWindows ストアで配信中だ。その最小システム要件は公式サイトで確認できるが,現在のミドルレンジといったスペックだろう。これをイチから揃えるなら10万円以内で収まるかもしれないが,だったらXbox One本体を買ったほうが……ねえ?
「Quantum Break」公式サイト
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