プレイレポート
「No Man’s Sky」は奇跡の復活を遂げたのか。最新アップデート「Atlas Rises」で生まれ変わった本作を遊んでみた
しかし,発売から1年後の2017年8月11日に大型アップデート「Atlas Rises」が実装され,これを境に評価が一変。発売からの総合評価が「ほぼ不評」だったSteamでのカスタマーレビューが,直近30日間の評価に限れば「ほぼ好評」にまで巻き返している。果たして,No Man’s Skyは遊ぶべきゲームになったのだろうか?
「No Man’s Sky」公式サイト
「No Man’s Sky」Steamプロダクトページ
宇宙を駆け巡り,クラフトで生き延びる
まずは改めて,No Man’s Skyとはどんなゲームなのかを紹介しておこう。
本作は宇宙を舞台としたサバイバル/クラフト系アクションゲームだ。プレイヤーは記憶を失った状態でとある惑星に放り出され,生き延びるために周囲の資源を集めていく。最大の特徴は,宇宙に浮かぶ無数の惑星が自動生成されるという点だ。惑星の景観,そこに生息している生物,得られる資源などが変化し,その組み合わせは1800京通りを超えるという。
灼熱や極寒の大地,放射能の嵐など,自然条件もさまざま。プレイヤーの命を守るエクソスーツ(宇宙服)のパワーは時間経過と共に減少し,ゼロになるとプレイヤーは死亡してしまう。生き延びるには資源を採掘し,パワーを補充する必要がある。
結晶体や生物を探してプルトニウムや炭素を手に入れ,エクソスーツやマルチツール(武器兼採掘道具)のエネルギーをチャージする。岩から鉄や亜鉛といった金属を掘り出して基地を建設する。さらに専門家を雇って乗り物や武器を作ってもらったり,栽培プラントを作って植物を栽培したりといった具合に探索と収集で命をつなぎながら,暮らしをより良いものにしていくのだ。
また,後述する「ギルドミッション」(クエストのようなもの)をこなせば,いろいろなアイテムやパーツのレシピが手に入り,エクソスーツやマルチツール,宇宙船を強化できるようになる。このあたりは,サバイバル/クラフト系アクションゲームの楽しさが凝縮された部分といえるだろう。
SFモノとしての面白さも見逃せない。本作の宇宙には,カエルのような商人「ゲック」,凶暴な「ヴァイキーン」,ロボット生命体「コーバックス」といった個性的な種族が存在し,宇宙ステーションや惑星上の基地に住み着いている。当初,プレイヤーは彼らの言葉を知らないため,会話をしても何を言っているのかまったく分からない(メッセージがアルファベットの羅列にしか見えない)。そのため,何かを問いかけられたり,提案されたりしても,適当に選択肢を選ばざるを得ない。
ある時などは,ヴァイキーンの兵士が自分のマルチツールを勧めてきたことがあった。たくさんのパーツを取り付けられる高級品をタダでくれるらしい。この時はヴァイキーンの言語をまったく知らなかったため,兵士が何を言っているかさっぱり分からなかった。せっかくだから……とありがたくいただいたら,なぜかヴァイキーンからの評価がダウンしてしまった。果たして,彼は何を言っていたのだろう?
実は彼は脱走兵で,追跡を逃れるべく自分の武器を処分しようとしていたのだろうか。それとも,どう考えてもいかがわしい横流し品や盗品を押しつけられたのか。古典SFによくある「言葉が通じないがゆえのすれちがい」を実体験できたというわけだ。単語を教えてもらうと,徐々にメッセージが日本語に置き換わっていくのだが,それでも相手の言っていることが充分に読み取れない場合がある。まるで遠い外国を旅しているようで面白い。
本作の自由度は非常に高い。無数の惑星にはさまざまなイベントが配されており,どこを探索してもいい。謎めいたモノリスが建っていることもあれば,墜落した宇宙船がうち捨てられていたりもする。モノリスでは一気にいくつかの単語を学べたり,貴重なアイテムが手に入ったりするし,宇宙船を修理すれば自分のものにしてしまえる。また,貴重な鉱物が掘れる場所もあり,探索するのが楽しい。
惑星をあらかた探索し終えたら宇宙船に乗り,隣の惑星へ。本作では地表と宇宙はシームレスにつながっており,いわゆるロード画面が存在しないため,「ちょっと隣町へ」という感じで気軽に惑星間を行き来できる。地表から宇宙へ上昇する時の空の移り変わりや,大気圏に突入した際に地表の建物がぐんぐん大きくなるあたりは,SF映画のようでワクワクする。
惑星の集まりを星系といい,本作の宇宙にはこれが無数に存在している。資源を集めてワープ用の燃料を作り,別の星系に行けば,そこはまた新たな探索の舞台となる。「見知らぬ街を放浪するのが好き」「旅が好き」という人には,たまらない体験となるだろう。
大型アップデートで生まれ変わったNo Man’s Sky
発売直後は「探索好きにはオススメできるが,プレイが単調になりがち。総じて人を選ぶ作品」といった評価が多く見られたNo Man’s Sky。「事前の宣伝と実際のゲームが大きく違う」と賛否両論になったことを覚えている読者もいるだろう。
しかし驚くべきは,物議を醸してからも着々とアップデートが続けられてきたことだ。2016年11月の大型アップデート「Foundation」では基地の建設が,2017年3月の「Pathfinder」では探索車「エクソクラフト」や高難度の「パーマデス」が追加されるなどの拡充が行われた。そして,8月11日の大型アップデート「Atlas Rises」では,以下のような多数の新要素が追加されている。
●「Atlas Rises」アップデート概要
- ストーリー分岐と,深い物語がある30時間分のシングルプレイ
- 自動生成されるギルドミッション
- より深い星系間貿易
- 各星系に「経済タイプ」「経済レベル」「紛争レベル」のパラメータを追加
- バイオームの多様性の強化,レア生物の追加
- 惑星表面の低空飛行が可能に
- 最大16人が参加できる共同探査
Atlas Risesの導入による最も大きな変化が,物語を楽しみつつゲームについて学べる「シングルプレイミッション」の追加だ。記憶を失った状態でとある惑星に放り出されたプレイヤーは,謎の人物「アルテミス」を救うべく宇宙を旅して回ることになる。
ミッションを通して「資源の収集」「宇宙船の操縦」「基地の建設」「星系間のワープ」といったゲームの基本を学べるのはもちろん,いろいろな謎が散りばめられているため,その先が楽しみになる。これまでのバージョンでは遊び方はプレイヤー次第だったが,そこにミッションという導線と,物語の続きを見たいというモチベーションが加わったわけだ。
サバイバル/クラフト系ゲームの場合,「やれることはいろいろあるが,いきなりゲーム世界に放り出されて戸惑ってしまう」ということも多いのだが,本作でのこうした問題は,アップデートで解決されたと言ってもいいのではないだろうか。しかも,公称30時間分とボリュームもあるため,発売当初に遊んだ人と,シングルプレイミッションの実装後に触れた人では,評価も大きく変わることだろう。SteamのカスタマーレビューがAtlas Risesアップデートを境に急上昇したのは前述したとおりだが,その原動力はシングルプレイミッションにあると考えていい。
「ギルドミッション」は,RPGなどにおけるクエスト的なものだ。「荷物を届ける」「敵を倒す」「行方不明者を捜す」など,いくつかのパターンがあり,遂行すると報酬がもらえたり,各種族からの評価がアップしたりするというメリットがある。
エクソスーツや宇宙船の強化パーツの中には,評価が高くないとレシピを買えないものがあるため,ギルドミッションは中期的な目標にもなっている。こちらもシングルプレイミッションと同様,モチベーションを強化する要素というわけだ。ギルドミッションをこなしつつユニット(お金)を稼いでいると,サバイバル/クラフト系アクションゲームというよりはRPGを遊んでいるようにも感じられる。
ある程度資金に余裕ができたら,貿易をするのもいいだろう。星系には7つの「経済タイプ」のいずれかが割り振られており,それぞれにニーズが異なっている。「発電」タイプの星系で手に入れた物が,「鉱業」タイプの星系で高く売れるなど,相関関係にあるのだ。
たくさんの品物を運んでガッチリ稼げば,数億ユニットもするような「貨物船」を買うのも夢ではない……かもしれない。貨物船は大量のアイテムを運べるうえ,複数の宇宙船をストックしたり,船内に基地を作ったり(!)できるため,いつかは手に入れてみたいところだ。
さらにAtlas Risesでは,宇宙船による地表の低空飛行も可能になった。山をかすめるように飛んだり,洞窟の中に入ったりといった心躍るシチュエーションを楽しめる。
また,「共同探査」は「マルチプレイへの第一歩」とでも言うべき機能になっている。現在は同じ惑星にいるプレイヤー同士がボイスチャットできるのだが,本作の宇宙には1800京以上の惑星があるため,普通に遊んでいたのでは合流などできるはずがない。残念ながら筆者も誰とも遭遇できなかったのだが,マルチプレイ要素の充実については今後のアップデートに期待したい。
発売時点のNo Man’s Skyを見て失望した人が多かったこと。そして,プレイヤーを選ぶ作品であったことは事実だ。発売直後にはイギリスの広告基準協議会(ASA)に「誇大広告を行ったのではないか」という訴えが起こり(調査の結果,棄却),ソニー・インタラクティブエンタテインメントのワールドワイド・スタジオ プレジデントである吉田修平氏はEurogamerのインタビューに「良いPR戦略ではなかった(It wasn't a great PR strategy)」と答えている。
一方で,発売から1年間にわたって地道にアップデートが続けられてきたのも事実である。シングルプレイミッションやギルドミッションのおかげでハードルは低くなっており,発売当初ほど人を選ぶゲームでないと感じられる。
ポイントは,これらの大型アップデートが有料の拡張パックやDLCではなく,無料で実装されているということだ。すでにNo Man’s Skyを買った人ならゲームを立ち上げるだけで新要素を楽しめるし,これから買う人も特別な手続きをする必要はない。
こうした努力の甲斐あり,SteamのカスタマーレビューにおけるNo Man’s Skyの評価は確実に改善されている。これは開発者とプレイヤーの双方にとって明るいニュースと言えるだろう。誠意を持ってアップデートを続ければレビューも上向き,悪評を覆すことができるのだ。
マルチプレイについてはまだまだ初期段階であり,UIに関しても微妙に使いづらい部分もある。また,移動に費やす時間が長かったり,効率的なユニット稼ぎが分からないと物価の高さに苦労するなど,気になる点があるのは確かだ。
しかし,現在もアップデートは続けられており,新要素の追加だけでなく,操作性を向上する細かな調整も行われている(例えば,宇宙船で高速移動する「パルスジャンプ」は,原稿執筆中にもA/Dの同時押しからSpaceバーに変更されて使いやすくなった)。
万人向けのゲームでないのは確かだが,SFやサバイバル,探索が好きな人であれば,遊んでみる価値のあるゲームに仕上がっていると感じられた。今後のHello Gamesの奮闘に引き続き注目していきたい。
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