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困難にチャレンジするのは,FFシリーズや日本のゲーム業界への使命感があるから。「メビウス ファイナルファンタジー」開発陣へのインタビュー
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印刷2016/11/12 00:00

インタビュー

困難にチャレンジするのは,FFシリーズや日本のゲーム業界への使命感があるから。「メビウス ファイナルファンタジー」開発陣へのインタビュー

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 美しいグラフィックスや奥深いストーリー,そして戦略性の高いバトルなど,スマートフォン向けタイトルらしからぬ作り込みが話題となった「メビウス ファイナルファンタジー」PC / iOS / Android。以下,メビウスFF)。2016年11月1日には60fpsや4K解像度にも対応するPC版の配信がSteamで開始され,よりリッチな環境でプレイできるようになった。

 スマートフォンからPCへ,それもいわゆるブラウザゲームでない形での移植や,App Store,Goole Play,Steamという3プラットフォーム間でのデータ共有など,興味深い試みが行われている本作について,プロデューサーであるスクウェア・エニックスの北瀬佳範氏と,プロジェクトリーダーを務める同社の浜口直樹氏に話を聞いた。

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4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。11月1日にPC版メビウスFFの配信が始まりましたが,移植のきっかけは何だったのでしょうか。ブラウザゲームではない形でPCへ移植されるゲームはそれほど例がないですよね。

「メビウスFF」プロジェクトリーダー 浜口直樹氏
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浜口直樹氏(以下,浜口氏):
 メビウスFFが「HDクオリティのゲームをスマートフォンで楽しめる」というコンセプトのゲームということもあって,自宅ではタブレット端末を使ってプレイされている方が多いんです。そこで,PC版ならそのニーズにもっと応えられるんじゃないかと思ったのがきっかけですね。
 よりリッチな体験というのは,プレイヤーの皆さんから要望をいただいていたことではあるのですが,それがPC版という形で出てくるとは予想されていなかったようで,発表時には大きな反響がありました。

4Gamer:
 PC版の開発にあたってグラフィックスをリファインするといった作業をしているのでしょうか。

浜口氏:
 もともとグラフィックスの素材を高解像度で制作していましたので,そういった作業はほとんどありませんでしたね。

4Gamer:
 ということは,最初からPCへの展開を想定していたと。

浜口氏:
 いえ,そうではないんです。
 私が以前開発に関わっていたFINAL FANTASY XIIIシリーズでは,グラフィックスの素材を最初にリリースしたPS3やXbox 360に合わせて作った結果,その後PCへ移植するとなったとき「もっとクオリティの高い素材が欲しい」という事態になりました。
 そういった経験を踏まえて,予想していないプラットフォームへの移植が決まっても対応できるよう,すべての素材を高解像度で制作しておくべきだろうと考えるようになったんです。

4Gamer:
 最初に高いクオリティで作り,それをプラットフォームに合わせて落とすならそれほど手間はかからないけれど,その逆は大変ということですね。

浜口氏:
 はい。実際,PC版メビウスFFの開発では素材の手直しがほとんどなかったですし。コストとの兼ね合いにはなるにせよ,“リソースはできるだけ高解像度で作っていく”という考え方が主流になっていくだろうと思います。

4Gamer:
 では今回,移植先にコンシューマゲーム機ではなく,PCを選んだ理由は何でしょうか。

「メビウスFF」プロデューサー 北瀬佳範氏
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北瀬佳範氏(以下,北瀬氏):
 我々は「FINAL FANTASY XIII」の開発から派生したチームで,浜口はシリーズ作品をPS3からPCへと移植する作業も経験していましたから,そこでPC版やSteamでの配信に手応えを感じていたようです。

浜口氏:
 そこはかなり大きいですね。初めて「FINAL FANTASY XIII」をPCへ移植した時は,勉強不足があってお叱りを受けたりもしましたが。そこからノウハウを蓄積していきました。

4Gamer:
 縦画面を指で操作するスマホ版に対して,PC版は横画面とマウス操作,というの大きな違いだと思いますが。そのあたりで苦労はしませんでしたか。

浜口氏:
 開発環境はWindowsベースでしたので,最初からマウス操作に“対応”はしていたんです。現在のPC版はスマホ版をマウスで操作するようなプレイ感になっていますが,キーボードやゲームパッドを使いたいといったニーズも認識していますし,今後ブラッシュアップしていきたいです。

4Gamer:
 バッテリー残量やパケット代を気にせず,よりリッチなグラフィックスで遊べるというメリットはあるかと思いますが,スマホ向けのゲームにはPCと合わない部分もありますよね。たとえば,スタミナ要素のためにプレイ時間が限られるのであれば,わざわざPCを立ち上げなくても……と感じるのではないかと。

浜口氏:
 PC版の目的には,よりリッチな体験のほかに,“ゲームを続けてもらう”ということがあります。我々にとって本当に悲しいのは,「ゲームはやりたいけれど,スマートフォンのストレージ容量が残り少なくなっているから,アンインストールしないといけない」といった感じで離れてしまう方がいることなんです。PC版があれば,そうしたお客様もプレイし続けることができますから。

4Gamer:
 なるほど。ストレージ容量の圧迫がゲームをやめる要因になる,というケースは案外多そうですね。お2人は,今後スマートフォンからPCへ移植されるケースが増えていくとお考えですか。

浜口氏:
 ゲームの特性によるでしょうね。戦略性があり,しっかり腰を据えて遊ぶのに向いたタイトルなら,PC版のニーズがあると思います。偶然なんですが,他社さんでも同じようなケースがありましたから,今後はこうした動きが増えてくるかもしれませんね。

北瀬氏:
 数年前から比べると,Steamに日本製ゲームやFree-to-Playタイトルが増えてきていますから,PC移植の環境は整ってきているという印象です。ただ,メビウスFFは海外でも通用するという確信があったのでPC版を出しましたが,もともと国内のみを考えているタイトルですと,それは厳しいかもしれません。

浜口氏:
 メビウスFFでは,世界展開してビジネスを成り立たせることにもチャレンジしています。当初からグローバル展開が視野にあって,距離感の近い日本市場に向けて作ったゲームを改善しつつ,頃合いを見て海外に挑戦という流れでした。

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4Gamer:
 北瀬さんと浜口さんは,先ほど話に出た「FINAL FANTASY XIII」など,コンシューマゲーム機向けの大作も手がけてられていましたが,スマホ向けとコンシューマゲーム機向けの開発で,大きな違いを感じるのはどのあたりでしょうか。

浜口氏:
 コンシューマゲームだと,発売されたら一区切りがついて開発が終了,という感覚がどうしてもあります。ですが,スマートフォン用ゲームだとアップデートを通してお客様とキャッチボールしながら進化している感じがしますね。

北瀬氏:
 私も,機能改善のチャンスがあることが大きな違いだと思います。メビウスFFでは,ほかのゲームでは考えられないくらい,細かく機能を向上させていますが,それがとても喜ばれていることが,毎月行っている生放送配信のコメントからも伝わってきます。

いらないカードを入手したときに自動で売却できたり,合成素材が手に入ったら自動で合成できたりと,“かゆいところに手が届く”機能が続々と追加されている
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4Gamer:
 ストーリーの作り方も,スマホ向けとコンシューマ向けでかなり異なる部分ではないかと思います。コンシューマタイトルなら,当然ストーリーをきっちり終わりまで描くことになるわけですが,メビウスFFのようなタイトルだと,終わりを設定できませんよね。
 一般的なスマホ向けタイトルだと,「一応ストーリーのテキストがある」ぐらいの扱いなので,それほど苦労はないのかもしれませんが,メビウスFFではストーリーも見どころの1つなので,そこをどう作っているのか,気になります。

浜口氏:
 いえ,メビウスFFのストーリーも,終わりまでしっかり考えてあるんです。野島さん(野島一成氏)に最後まで書いてもらったものを,章ごとに分けて配信しています。ゲームを運営しつつストーリーの展開を考えている,ということはありません。

4Gamer:
 あ,そうなんですね。ちょっと意外でした。

北瀬氏:
 ファイナルファンタジーの系譜に連なるものなので,メインストーリーに力を入れたいという思いがあります。スマートフォンゲームではあったので,プレイヤーにしっかり楽しんでもらえるだろうか……という不安はありましたが,杞憂だったようです。

10月18日に発売された本作の公式画集には,キャラクターや世界観の設定資料なども収録されている
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4Gamer:
 ボイス付きのカットシーンなので,じっくり見てしまいます。
 ストーリーの終わりが決まっているということは,その後に新しい物語が始まるということですね。まさかそこでゲーム自体が終わるということはないでしょうし。

北瀬氏:
 どうでしょうね(笑)。たぶん続いていくでしょうけれど,その後についてはプレイヤーの皆さんのお気持ち次第です。

4Gamer:
 1プレイヤーとして,ぜひ次の話も見たいです(笑)。
 ところで,メビウスFFでは,グラフィックスやストーリー以外にも,スマホ向けタイトルらしからぬところがあると思います。一度取得したカードなら指定して再入手できる「リバイバル」や,手持ちカードのレアリティを上げる「クラスチェンジ」などは,「合成素材が欲しい」「レアカードが欲しい」といった,いやらしい言い方をすれば“ガチャの回させどころ”を消してしまっているように感じるのですが。

浜口氏:
 これも1つのチャレンジです。できるだけ多くのお客様に負担にならない範囲で遊んでいただくほうが安定した運営ができますし,それぞれのプレイヤーが感じるゲームへの距離感に差が出なくなるはずです。

4Gamer:
 自分もほかのスマホ向けゲームの情報を見ていて「これはガチャ回しまくってるプレイヤー向けじゃないの?」といった印象を受けて,距離を感じることはあります。

浜口氏:
 現在,プレイヤーのみなさんと活発にコミュニケーションできているのも,こうしたポリシーが伝わっているからではないかと思います。

4Gamer:
 なるほど。ちょっと話題が変わるのですが,8月に1周年記念の大型アップデートが行われて,「フルオートバトル」の開放など,さまざまな機能が追加されました。こちらの反響はどうでしたか。

浜口氏:
 大々的にプロモーションをかけたわけではないのですが,評判は良かったですね。ゲームに戻ってきてくださったプレイヤーも多くいらっしゃいました。
 遊びやすくなったところが評価されたと思っていますが「マゾさを制した時の達成感がなくなって寂しい」という声もありますから,この辺りはちょっと考えていかないといけないですね。

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北瀬氏:
 昔はシードを集めるために,何度も何度も繰り返しプレイしたりしていましたから(笑)。

4Gamer:
 マゾさということになると,さらなる高難度コンテンツということでしょうか。

浜口氏:
 具体的なところはまだ何も言えないですね。フルオートバトルのAIも日々改良を加えていますが,高スコアを狙うなら自分で戦略を練って戦わないといけないですし,そういうメビウスらしさは損なわないようにしています。

4Gamer:
 今後の話つながりだと,PC版の配信に合わせて公開されたクラウドのスクリーンショットが気になります。
 スマホ版で2015年末に行われた「FINAL FANTASY VII REMAKE」とのコラボがもう一度来るのか? と思ったのですが。

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浜口氏:
 PC版の美しいグラフィックスでコラボイベントをプレイしてほしいということは考えていて,早い段階で再配信ができないか検討中です。クラウドのスクリーンショットはその思いの表れですね(笑)。

4Gamer:
 現在,メビウスFFのプレイヤーが全世界888万人を突破したことを記念するイベントが行われています。現在メビウスFFは日本,アジア,北米,欧州でサービスを展開されていますが,日本と海外のプレイヤーで,反応に違いがありますか。

浜口氏:
 台湾や韓国の方が,現地版のリリース前から日本版をプレイされていて,“メビウスとはどういうゲームなのか”という情報を広めてくださったのが印象的でしたね。

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北瀬氏:
 配信前からコミュニティができあがっていたような感じでした。“今後こういうカードが追加されるから,今は召喚せずに待った方がいい”といった,こちらが苦笑いしてしまうようなアドバイスもありますし(笑),日本版との違いに非常に敏感ですね。

4Gamer:
 それだけ注目されているんですね。

北瀬氏:
 スマートフォン用ゲームを海外展開するときは,現地の会社に運営を任せることも多いのですが,メビウスFFは日本オフィスからすべての地域を直接運営しています。コミュニティの運営に関しては委託しているところもありますが。

浜口氏:
 スクウェア・エニックスでこういった取り組みをしているのはメビウスFFくらいのものですね。国内サービスだけだった時は気が休まる時間帯もあったんですが,世界展開となるとサーバー負荷も常に一定以上ですし,どの時間に何が起きてもおかしくないんです。ドタバタはしますが,学ぶことも多いですね。

4Gamer:
 予期せぬタイミングでトラブルが起こったりもするわけですね。

浜口氏:
 24時間いつ連絡が来てもいいようにしています。

北瀬氏:
 海外版のアップデートは,時差の関係で地域ごとにリリース時間が異なるので,万が一何かあれば次の地域のリリース時間までに直す,というせめぎ合いもありますね。

4Gamer:
 時差との勝負ということになるんですね。以前浜口さんが講演で語られていたように,メビウスFFの開発ではさまざまな試みがされているようですし,今日も何度か“チャレンジ”という言葉が出てきていて,困難もいとわない,という印象を受けます。

北瀬氏:
 実現できる環境があるなら,スクウェア・エニックスとしてチャレンジしておくべきだろう,という使命感に近いものがあったということです。元々,浜口のチームはFINAL FANTASY XIIIをクラウドゲーミングで遊べるようにしたりと,いろいろなチャレンジをしていますし。

浜口氏:
 “ファイナルファンタジーは綺麗なグラフィックスであるべき”というイメージもありますから,そこは他社さんに負けてはいけないところだと思っていました。そこは松田(※社長の松田洋祐氏)からのオーダーでもありましたし。

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北瀬氏:
 コンシューマゲームの開発では,日本のゲームが技術面で海外の作品に押されているといったようなことが言われて久しいです。それがスマートフォンゲームの世界でも起こってしまってはまずい,という危機感もありました。

4Gamer:
 なるほど。そういった思いがあってのチャレンジなんですね。
 では最後に読者へのメッセージをお願いします。

浜口氏:
 メビウスのコンセプトは“高クオリティのコンテンツをどこでも遊べる”というところにあります。PC版の配信以降も新しい試みで進化を続けていきますので,末永く見守って頂ければ嬉しいです。

北瀬氏:
 PC版はSteamでの配信ということでハードルが高いと感じられている人もいるかと思いますが,そんなことはありませんので,4GamerのSteam入門記事なども調べて,ぜひ遊んでみてください。

4Gamer:
 ありがとうございました。

 メビウスFFには,FINAL FANTASY XIIIから続くチャレンジで得たノウハウ,そしてファイナルファンタジーシリーズや日本のゲームに対する思いが込められていた,これからどんなチャレンジを見せてくれるのか,楽しみだ。

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