インタビュー
楽天ゲームズ 荒木重則代表に聞く。新プラットフォーム「RGames」は何を目指すのか。HTML5と楽天のネットワークがもたらすゲーム体験とは
現在,「RGames」では国内ゲーム会社のIPを活用した「パックラン」や「インベーダーブラスト」「パズルボブルブリッツ」など,16本の新作ゲームが基本プレイ無料(アイテム課金制)で楽しめる。もちろん,ゲームのダウンロードやインストールは不要だ。
今回,楽天ゲームズの代表取締役社長を務める荒木重則氏に,同社および「RGames」の設立に至る経緯,新たなプラットフォームの狙い,そして今後の展望を伺ってきた。
「RGames」公式サイト
楽天ゲームズ コーポレートサイト
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楽天ならではの仕組みを持ったゲームプラットフォームを目指す
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,楽天が楽天ゲームズという新会社を設立し,「RGames」(ラクテン ゲームズ)というゲームプラットフォームを立ち上げた経緯を教えてください。なぜ,このタイミングだったのでしょうか。
荒木重則氏(以下,荒木氏):
2014年にHTML5が勧告となり,HTML5での開発技術に長けた米国のBlackstorm社をその後に設立するコアメンバー達と楽天との出会いがあった頃から本格的に検討し始めました。楽天はその年,メッセージングアプリを運用するViber Media社を買収しており,同社が提供するメッセージングアプリ「Viber」は,その当時,すでに全世界に約5億ものユニークID(携帯番号登録者数)があったので(現在のユニークID数は8億9千万以上),HTML5ベースのゲームとの相性にも可能性を感じたんです。
それからさまざまな可能性を議論し,2015年12月にBlackstorm Labと合弁で「楽天ゲームズ株式会社」を設立しました。
4Gamer:
それでは,「RGames」をブラウザゲームのプラットフォームにした理由を教えてください。
荒木氏:
理由はいくつかあります。まず,今の成熟したモバイルゲームのマーケットに後発で乗り込むには,相応の投資と期間,そしてほかとは違う独自性が必要です。たとえばスマホのネイティブアプリでヒットを出すには,数億円の開発費,毎月の運営費,加えてプロモーション費用などを合わせて,1タイトルあたりに億単位の投資は当然のように必要ですが,もちろんそれでもヒットするかどうかは分かりません。
競争の激しいネイティブアプリ市場の中で,後発の楽天グループとして何をすべきだろうか。それを考えた末にたどり着いたのが,App StoreやGoogle Playのようなアプリストアの「次」に来るものだったんです。
そもそも楽天グループはこうしたインターネットサービスのプラットフォーム作りを得意としていますから,アプリストアに支払う手数料やアプリの審査にかかる工数,ランキングを上げるための多額の広告宣伝費の投下といった既存のビジネスモデルで必要とされる方法とは,違うやり方ができるのではないかと。
4Gamer:
楽天グループならではのやり方を目指すというわけですね。
荒木氏:
そういうことです。さらに,ブラウザゲームのプラットフォームは広告収入が中心のビジネスモデルになりがちですが,もっとほかのやり方も可能だとも考えています。
ブラウザゲームのプラットフォームにした,もう1つ大きな理由は,新しいゲームを体験していただくための「壁」が非常に高くなりつつある現状を打破したい,との思いもあります。たとえば現在のネイティブアプリは,アプリストアでは数が多すぎてなかなかユーザーの目に触れない。ユーザーの目に留まるよう積極的に広告を打った結果,バナーをクリックしてもらえても,最終的にゲームをインストールしていただけない。あるいはインストールされても遊んでいただけない,という状況も多いと思います。
また,ユーザーの立場からすると,インストールが終わった直後にアップデートが始まることもあり,思いどおりのタイミングでプレイができない。しかも,そうしたアップデートが数週間に1回ある。このような遊ぶまでに一手間も二手間もかかるゲーム体験は,本当に良いものなのだろうかと考えた結果,クリックしてすぐに遊べるブラウザゲームにたどり着いたわけです。
4Gamer:
「RGames」で提供するゲームは,HTML5ベースに特化されています。これはどのような狙いがありますか。
荒木氏:
ここ数年,HTML5はAppleやGoogleが積極的に対応へ取り組んでいます。一方,Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏は2012年に「HTML5に賭けたのは失敗」と発言していますが,これは「時期尚早だった」という意味であって,HTML5自体を否定したわけではありません。
確かに現状のHTML5には足りない部分がまだまだあります。しかし,今後はゲームを含めたネイティブアプリレベルの体験をブラウザ上で提供する流れになると,私自身は考えています。
広告モデルと少額課金モデル。双方を備えたゲームプラットフォームに
4Gamer:
HTML5のブラウザゲームに特化したプラットフォームというと,2015年9月にYahoo!ゲームの「かんたんゲーム」がリニューアルオープンしました。その時点で,「RGames」の構想はあったのでしょうか。
ありました。ただ,先ほど少し触れたように,私達はマネタイズの方法について検討を重ねていました。広告収入だけに頼らない,本当にユーザーの体験を第一に考えたゲームを作るにはどうすればいいのかと。
4Gamer:
つまり,「RGames」のビジネスモデルはゲーム内課金が中心になるということですか。
荒木氏:
ゲーム内のアイテム課金と広告収入の両立を目指しています。広告がある一方で,アイテムの購入にあたってはクレジットカードや楽天スーパーポイント,キャリア決済など,さまざまな方法でお支払いいただける仕組みも用意しています。
4Gamer:
それでは,現状の「RGames」のユーザー層はどのようになっていますか。
荒木氏:
現時点では,30代から40代の割合が大きいですね。全体的な傾向としては,ガッツリ遊ぶゲーマーというよりも,余暇の時間にゆるゆる遊ぶ方が多いというイメージでしょうか。元々の楽天のユーザー層とも,ほぼ合致しているのではないかなと思います。
実のところ,今回のHTML5を使ったゲーム事業という取り組みは,楽天全体とのシナジー(相乗効果)を見込めなければ,あまり大きなものにはならなかったでしょう。
4Gamer:
と,言いますと?
荒木氏:
楽天グループとしては,「RGames」で培ったHTML5のノウハウを今後,ほかの事業やサービスにも活かしていけるのではと考えています。たとえば,中国のTencent社はHTML5を使ってメッセージングアプリ「Wechat」から,いろいろなサービスを提供する仕組みを構築していますよね。
4Gamer:
将来的には,楽天グループがこうした仕組みを作りたいと?
荒木氏:
HTML5にはさまざまな機能があるので,そういった展開も視野に入ってくると思います。「まずはゲームから始めよう」というわけです。
ブラウザゲームというと,モタッっとしているイメージがあるかもしれませんが,HTML5の最新技術によって高いパフォーマンスを出せるようになっています。また,ゲーム内課金があるため,セキュリティ対策も万全でなくてはいけません。こうしたノウハウを積み重ねていくことが,将来,楽天がHTML5を使ってさまざまなサービスを展開していく際に,役に立つのではないかと考えています。
4Gamer:
先行投資の意味合いに近いのでしょうか。
荒木氏:
リスクを恐れずに「まずはやってみよう」という感じですね。やってみたら,思わぬ敵がいるかもしれないし,逆にすごく良い経験ができるかもしれない。リスクはあれど,そうして培ったノウハウを楽天のほかの事業に活かしていければ面白くなるだろうということなんです。
「共有しやすい」ブラウザゲームの特長を活かし,世界にカジュアルゲームを展開
4Gamer:
現在,「RGames」で提供しているゲームは楽天ゲームズの内製でしょうか。
はい,合弁パートナーのBlackstorm社のメンバーと共に,ほぼ内製で開発していて,フファーストパーティとセカンドパーティという体制になっています。グラフィックスやコーディングなどを部分的に外注することはありますが,1つのゲームの制作をすべて外部に委託することは考えていません。
4Gamer:
「RGames」のオープンプラットフォーム化,つまり外部制作タイトルの受け入れはいかがでしょう。
荒木氏:
まずは自分達できちんとゲームを作り,サービスを提供,運営する場をしっかりと構築することが最優先だと考えています。自分達でやって成功したと自信を持って言えるまでは,オープン化はしない予定です。
4Gamer:
分かりました。
それでは,楽天ゲームズに共同出資しているBlackstorm Labsについて教えてください。
荒木氏:
Blackstorm社はHTML5での開発に特化した技術者の集団です。同社のCEOはWebsocketの発明家だったり,Node.jsの開発に初期から関わっています。同社が持つ開発技術やノウハウを活用して,「RGames」のゲームを開発しています。
楽天ゲームズ設立当初は,開発をすべてBlackstorm社側のメンバーに任せていましたが,現在は楽天ゲームズ独自で世界各国からも数十名のスタッフが集まり,「RGames」のゲーム開発に携わっています。
4Gamer:
なるほど。今後のタイトルラインナップはどうなりますか。
荒木氏:
まずはカジュアルゲーム中心の展開を考えています。それと並行して,ミドルクラスのタイトル開発も進めていますが,いずれも手軽に遊べるもので,いわゆる「超大作ゲーム」は現時点で考えていません。
たとえば,Facebookのメッセージングアプリ「Facebook Messenger」で遊べる「Instant Games」は,同じくカジュアルゲームが中心ですが,そこで運営しているタイトルは広告宣伝をほとんど行っていないにもかかわらず,リリースから1週間で非常に多くの方に遊んでいただけました。
これはネイティブアプリでは考えられないような事象で,こういった現状を踏まえると,もし将来的にグローバル展開を狙うのであれば,誰でも入りやすいカジュアルゲームを中心にすることが適しているのではないかと考えています。その中で楽天の持つユーザーベース,たとえばゲームと相性の良いメッセージングアプリの「Viber」を通じた拡散など,楽天グループサービス内でのシナジーを生み出していければという構想はありますね。
4Gamer:
現在,「RGames」にはバンダイナムコエンターテインメントやタイトーのIPを活用したタイトルが数多く並んでいますが,これも海外を見据えた展開というわけですね。
海外展開についてはまだ具体的に言える段階ではないのですが,今後も国内外で人気のIPをカジュアルゲーム化する方向性で,数タイトルの開発を進めています。実は,こちらの2社以外にもお声がけをいただいている会社があるのですが,当社のリソース不足で実現に至っていないものもたくさんあります。「え,そんなところから?」というご提案もあり,「スタッフが10倍になれば……」と思っています(笑)。
4Gamer:
オープンプラットフォーム化はまだ先になりそうとのことですが,「自分達にゲームを作らせてほしい」という提案に対してはいかがでしょうか。
荒木氏:
現時点ではオープン化は未定ですが,一口にオープン化と言っても,何をオープンにするのかというになるかと思います。
やり方として考えられるのは2つあり,一つは「RGames」というゲームプラットフォームを開放して,サードパーティ製のタイトルをユーザーへ提供すること。もう一つは開発連携という形でサードパーティとより深い関係を築くことです。
4Gamer:
かつて楽天グループはAndroidアプリストア「楽天アプリ市場」を展開していましたが,約1年半でサービスを終了しました。仮にオープン化されるとして,サードパーティの立場では「RGamesは大丈夫なの?」という点が気になると思います。
荒木氏:
「RGames」と楽天アプリ市場はまったく別の事業ではありますが,そうした点も含めて,まずは自分達だけで「成功した」と言えるところまでやりましょうということです。
遊ばせるための工夫を盛り込み,従来とは異なるゲーム体験を
4Gamer:
「RGames」がターゲットにしているユーザー層を教えてください。現状では,既存の楽天ユーザーと重なるという話でしたが。
荒木氏:
現在,実際に遊んだ方々から寄せられているご意見をもとに,どんな層に受け入れられているのか,何が求められているのかを検証している段階です。ただ,これからさらに,獲得に力を入れていきたいのは若年層です。今後,展開するタイトルが若年層から支持を受け,「RGames」のユーザーとして定着してもらえれば,将来的に楽天ユーザーになっていただける可能性もあります。
既存の楽天ユーザー向けには手軽に遊べるカジュアルゲームを,若い人向けには新しい遊びをもたらすタイトルを,それぞれ提供できればと考えています。
4Gamer:
それでは,スマホとPCのどちらをメインデバイスとして考えていますか。
荒木氏:
デバイスを選ばないことがHTML5の特長の一つでもあるので,どちらがどうということは考えていません。一つのアカウントで同じタイトルを,スマホでもPCでも,どこにいても遊べるのがメリットだと思います。
ただ,若いユーザーはとくにスマホを好む方が多いので,「RGames」のゲームはスマホの縦持ちで遊びやすいように,すべて縦型のレイアウトにするつもりです。ブラウザゲームを横型のレイアウトにすると,スマホでは操作しにくかったり,ゲーム画面のバランスがおかしくなったりしてしまうんです。
4Gamer:
コアなゲーマーに刺さる要素はいかがでしょう。
荒木氏:
私自身,ゲームが大好きなので,コアなゲーマーが楽しめるものも,もちろん提供したいと考えています。
「RGames」ではHTML5の機能を活かして,リプレイ動画の共有やミッションクリアによる報酬付与といった仕組みも,すでに実現しています。これらを通じて,ユーザー間でより盛り上がれる要素を作っていきたいですね。
また,コアゲーマー向けというわけではありませんが,別のアプローチとして,日常的に使うメッセージングアプリで「ゲームではないものをトリガーとするゲーム」的な遊びを提供できるのでは,とも考えています。それはAIのチャットボットかもしれませんし,AR(拡張現実)かもしれませんし,有名IPを使ったものかもしれません。
具体的に話せる段階ではないですが,ご期待に応えるようなものを提供していきたいと考えていますので,ぜひ今後にご期待ください。
4Gamer:
実際,ゲーマーがコアなゲームしか遊ばないかというと,そんなことはないですよね。入り口はシンプルで簡単でも,やり込める要素があればハマッてしまう可能性があります。
荒木氏:
ええ。たとえば,リプレイ動画の共有はコアゲーマーの方々にも楽しんでいただける要素だと思います。
さらに,ブラウザゲームなので,共有したリプレイ動画が拡散しやすく,それを見た新たなユーザーが「自分もやってみたい」と思えば,すぐにゲームを始められます。インストールやアップデートの手間がなく,端末に依存しないブラウザゲームだからこその強みですね。
ちなみに,Blackstorm社がFacebook Messenger向けに配信している「EverWing」には,ユーザーを遊ばせるための工夫が随所に盛り込まれています。その結果,「EverWing」は一人あたりの一日の平均プレイ時間が約1時間と非常に長いんです。
4Gamer:
なるほど。お話を伺って,「RGames」の狙いが分かってきました。
それでは,荒木さんご自身はモバイルゲーム市場が今後はどうなると予想していますか。
今後も伸び続けていくと思います。ただ,後発の企業が既存のネイティブアプリ市場に新規参入するのは,より難しくなっていくでしょう。
しかし,ゲームがゲームとして面白くさえあれば,ネイティブゲームが少しずつHTML5のゲームに取って代わる可能性もあると考えています。
この流れは,今のコンシューマゲームとモバイルゲームの関係,かつてのアーケードゲームとコンシューマゲームの関係に似ているのではないでしょうか。以前は「このクオリティをスマホで再現するのは無理」とか「これはゲームセンターでしか遊べない」といった垣根がありましたが,今では曖昧になっていますよね。ブラウザゲームがネイティブアプリを超えるとまでは言いませんが,極めて近いところまでいく可能性はあると思います。
4Gamer:
最後になりますが,楽天ゲームズと「RGames」の動向を注目している人にアピールをお願いします。
荒木氏:
繰り返しになりますが,メッセンジャーアプリとHTML5の相性はとにかく良い。先日開催されたFacebookのカンファレンス「f8」でも,同じくHTML5ベースのゲーム「Instant Games」は非常に高い注目を集めていました。もし,HTML5で作ったゲームが従来のネイティブアプリに匹敵する成果を出せれば,ゲーム業界に衝撃が走ると思うんです。それを目指して,「RGames」はチャレンジしていたいと思います。
iPhoneやUnityが世に出た当時,「うまくいくはずがない、開発がしにくくゲーム開発に向いていない」と言われたこともありましたが,今では業界のスタンダードな存在になっています。私達も近い将来,スタンダードと呼ばれるようになりたいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。楽天ゲームズのチャレンジに期待しています。
「RGames」公式サイト
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