インタビュー
金子一馬×竹安佐和記×長谷川 仁。悪魔絵師と「The Lost Child」開発陣による,まさかの鼎談が実現!
「El Shaddai ASCENSION OF THE METATRON」(PS3/Xbox 360。以下,エルシャダイ)にも連なる,独自の「神話構想」の世界観をベースにした本作だが,“現代の日本が舞台”“悪魔を使役する”“ダンジョンRPG”とくれば,やはりアトラスの人気シリーズ「真・女神転生」を真っ先にイメージする人も多いだろう。
となれば,実際に同シリーズで数々の悪魔デザインを手がけ,世界観設定やシナリオにも深く関わってきた“悪魔絵師”の目に本作はどのように映るのか,大いに気になるのも無理からぬところ。
それならばと今回,悪魔絵師・金子一馬氏,「The Lost Child」プロデューサー・キャラクターデザインで,「神話構想」の生みの親でもある竹安佐和記氏,そして本作の開発ディレクター 長谷川 仁氏の三氏に集まっていただき,まさかの鼎談を敢行!
企画の経緯に始まり,それぞれの立場や視点から,両作品の共通点や相違点,これまでに影響を受けてきたものやデザイン論,そして神話や悪魔の魅力について,たっぷりと語ってもらった。
「The Lost Child」公式サイト
今,誰もやろうとしないことに挑戦し
ピースを揃えていったら「真・女神転生」っぽくなった?
4Gamer:
今日は金子一馬さんを交えて,「真・女神転生」(以下,メガテン)シリーズに似ていると評判の「The Lost Child」について,いろいろとお話を聞かせていただければと思うのですが,まずは本作のことを知ってもらうために,企画の経緯から教えていただけますか?
そもそものコンセプトは,角川ゲームスさんが持ってきたものでしたよね。
長谷川 仁氏(以下,長谷川氏):
ええ。その中で最初に考えたのは,「竹安さんと一緒に何ができるか?」ということでした。
金子一馬氏(以下,金子氏):
もともと,お二人は知り合いだったんですか?
長谷川氏:
いえ,共通の知人からの紹介です。初めてお会いしたときは「あのエルシャダイの人だ!」と思いましたよ。
金子氏:
ああ,「The Lost Child」はエルシャダイとも関連があるんですよね。
竹安氏:
そうです。エルシャダイは「ほかの何にも似ていないものを」というところから生まれましたが,今回は角川ゲームスさんのオーダーに沿ってゲームを作っていったんです。
長谷川氏:
竹安さんと仕事をするにあたって,まずエルシャダイを必死にプレイしました。そして次に,エルシャダイの続編ではなく,竹安さんの「神話構想」を活かして,角川ゲームスがチャレンジできるゲームとはどんなものだろうと考えたんです。僕自身がエルシャダイをプレイして強く印象に残ったのが,天使や堕天使の存在と,それを捕縛するという部分でしたから。
金子氏:
天使や悪魔を捕縛するという設定は,エルシャダイの頃からあったんですか?
長谷川氏:
エルシャダイのストーリーが,神の意思に背いて地上界に降り,そこで自分達の王国を築き上げている堕天使達を捕縛するというものでした。
そして,これらの魅力的なワードを,面白いゲームに落とし込めないかといろいろ考えた中で,一番新しい挑戦になるだろうと思えたのが,現代の日本を舞台に,天使と堕天使と悪魔──「The Lost Child」でいう“アストラル”達──が戦争している中,彼らを捕縛して回るという内容でした。
金子氏:
そのへんで,すでに聞いたことがある内容ですよ(笑)。
竹安氏:
でも,もともとジャンルとしての下敷きになっていたのは,角川ゲームスの「デモンゲイズ」なんですよね。
デモンゲイズは角川ゲームスのオリジナルIPのダンジョンRPGなんです。そのフォーマットを活かしたチャレンジは,一つの手だろうと。
ただ,ダンジョンRPGで舞台が現代日本,そして天使と悪魔ときたら,金子さんもおっしゃるとおり,それはもうメガテンですよね。
竹安氏:
僕も最初に話を聞いたとき「メガテンっぽいですね」と言ったら,「そうです」と返ってきましたから(笑)。
金子氏:
現代日本を舞台にしたのには,何か理由があるんですか?
竹安氏:
それは僕の提案です。エルシャダイを含む僕の「神話構想」では,きちんとファンタジー世界を構築しているのですが,その世界観のすべてをほかのスタッフと共有するとなると,今回の開発期間では難しいと考えたんです。
でも現代の新宿だったらすぐに分かるので,そう提案しました。提案はすんなり通ったのですが,一方で,ますますメガテンに近づいてしまったというわけです。入り口をメガテンに近づけようとしたわけではなくて,ピースを揃えていったら,結果としてそうなってしまったというのが正しいところかもしれません。
長谷川氏:
それに,ほかのメーカーさんもあえてそこを避けているんですよ。それはもちろん,キーワードだけで「これってメガテンじゃね?」と言われてしまうからなんですけど。
金子氏:
RPGと言えば「ロード・オブ・ザ・リング」みたいなファンタジーもの,という意識が根強いのも理由の一つだと思いますよ。端から現代で旅をするという発想が頭にない。
竹安氏:
ひょっとすると,世間的には「すでに先駆者のいる,ゆるいところから始まった企画」と思われているかもしれませんが,僕にとって現代日本は初めての舞台設定なんですよね。ずっとファンタジー世界の設定でしか作ってこなかったので。
金子氏:
たとえばロックスターじゃないですけど,「東京なんてぶっ潰しちまえ!」みたいな発想はなかった?
竹安氏:
それはさすがにないですね(笑)。
金子氏:
実を言うと,メガテンで最初に東京を舞台にしたのも,今のお二人の説明に近い理由があるんですよ。「何で現代の東京を舞台にしたゲームがないんだろう?」って。
長谷川氏:
影響といえば,金子さんとメガテンからはもちろんですが,もう一つ,菊地秀行さんの小説「魔界都市<新宿>」もそうなんですよ。
ああ,僕も影響を受けています。
長谷川氏:
新宿というと“魔都”みたいな,中二的なイメージがあるんですよね……。
金子氏:
僕は若い頃,リアルに魔都感を味わっていましたからね。ヤバいところを目撃しちゃったり,自分自身,危険な目に遭ったり。そうやって,街としてある種のアスレチック感があることを知っていたので,「何でここを使わないんだろう?」とずっと考えていました。
長谷川氏:
現代といえば,「The Lost Child」にもエルシャダイにも出てくる堕天使のルシフェルは,現代風の衣服を身にまとっていますよね。
竹安氏:
ルシフェルは“時の旅人”という設定なんですよ。
金子氏:
ああ,サンジェルマン伯爵みたいな。
竹安氏:
それで見識と見聞を深めるためにいろんな時代を旅した中で,一番好きなのが僕らの暮らすこの時代ということから,あの格好をしているんです。
4Gamer:
よく携帯電話も使っていますよね。
金子氏:
それは,すごく面白いですね。
長谷川氏:
そういったキーワードを紡いで,僕らの世代がインスパイアされたことを合体させたら自然とこうなったのが「The Lost Child」なんです。
竹安氏:
僕が作った「神話構想」は,いろんな神話を混ぜて構築しているんですが,その中のエピソードの一つと捉えていただけるといいんじゃないかと。
4Gamer:
「The Lost Child」は,「神話構想」の中のどのあたりに位置するのでしょうか。
竹安氏:
エルシャダイは「神話構想」における「セタ」という世界の話なのですが,「The Lost Child」では,もう一つの「リュタ」という世界で物語が展開していきます。だから,この両者は近しいけれども違う存在で,「The Lost Child」のストーリーはエルシャダイから完全に独立したものとなっています。
お気に入りのアストラルをとことん強化できる
永続的な育成の仕組みが大きな差別化のポイント
4Gamer:
結果として,メガテンと似てしまったという「The Lost Child」ですが,逆にここを差別化しようと意識した部分はありますか。
長谷川氏:
要素が似ていてもテーマは異なりますから,実際にプレイしてみたときの感覚はまったく違うものになると断言できます。
またゲームの設計として,天使や悪魔を集めるという部分こそ近しいですが,彼らをどう使って遊んでもらうかというところで大きく差別化を図っています。たとえばメガテンの「悪魔合体」は大きな発明で,重要なキーワードでもありますが,「The Lost Child」ではまったく違う遊びを作ろうと。
竹安氏:
それが「アストラルのSIN化(進化)」と「スキルの移譲」という二つの要素です。
まずアストラルはSIN化こそしますけれど,合体はできません。またスキルの移譲は,アストラルの持つスキル同士をバーターで取り替えていくというシステムです。
こういったタイプのRPGだと,あとから出てくるキャラクターのほうが強いので,どうしても同じキャラクターを使い続けるのは難しくなりますよね。「The Lost Child」ではスキルを移譲することで,最初は魔法が使えない悪魔でも攻撃魔法を使えるようになったりしますので,自分の好きなアストラルをずっと使い続けられます。
また,アストラルを初期化してスキルをリセットすると,ベースになる初期ステータスが上がるので,より強化することも可能です。そうやって使い続けて強化したアストラルを用いた,ネットワーク対戦モードも用意しました。
金子氏:
つまり「The Lost Child」では,プレイヤー同士で戦えると。
長谷川氏:
ええ。とにかく,アストラルの育成をとことん楽しんでほしいと考えているんです。そこまでやり込む人が数百人でも,数十人でもいいので,遊んでくださった方の心に残るタイトルを作りたかった。そうしないと,新しいIPを成功させるのは難しいですから。
金子氏:
メガテンは最初,悪魔を“道具”の一つとして扱っていたんですよね。だから合体させたり,途中で捨てたりしていた。でものちのち,「やっぱりケルベロスを最後まで使いたい」というような意見が寄せられて,成長要素を加えることになったんです。さらには名前も付けられるようになったり。
長谷川氏:
どこまでやるのか,見極めが難しいんですけどね。
金子氏:
そう,それが本当にいいのかどうかは,また話が別なんです。そこは,いろいろお考えになったんだろうなと。
長谷川氏:
最終的には,元となるアストラル自体はずっと変わらずにいるという,今の仕様に落ちつきましたが。
金子氏:
なるほど。おっしゃるように,メガテンとは確実に違う部分ですね。
長谷川氏:
そこを楽しんでくれる人が,一人でも多くいてくれるといいんですが……。
ともあれ新しいRPGを作るにあたり,永続的に遊んでもらうことを重視しました。実は先日,いまだに「Wizardry」を毎日欠かさずプレイしているという人の話を聞いたんですよ。「The Lost Child」も,そこまで遊び続けていただけたら本望です。
4Gamer:
長く遊べる要素といえば,全99層ある高難度ダンジョン「ルルイエロード」は,踏破するのに400時間以上かかるとのことですね。
長谷川氏:
ええ。ただ,人によってプレイ時間は大きく変わると思います。
4Gamer:
ほとんどのプレイヤーは本編クリア後に挑戦することになると思いますが,エンディングを迎えた直後のレベルだと,どのくらいまで進めそうですか。
長谷川氏:
30〜40層くらいでしょうか。各層で謎を解かないと次の層に進めないのですが,この謎がまた「何じゃこりゃ」という内容でして,おそらく一人では全部クリアできないんじゃないかと。
金子氏:
ネットで情報交換したりする必要があるわけですか。
長谷川氏:
はい。ヒントも用意しているのですが,中にはクリアして初めて「ああ,そうか!」となるようなものもあります。だから謎さえ解けてしまえば,その層を10分でクリアできることもあるし,謎が解けなければ,3時間も4時間もクリアできないということになります。どこかで心が折れる人も出てくるでしょうね。
竹安氏:
僕は10層くらいで心が折れましたよ……。
金子氏:
それはちょっと早いんじゃないですか(笑)。
長谷川氏:
基本的には,エンディングを見たあとに楽しんでいただくためのコンテンツですからね。それなりに難しくはなっています。
ウルトラマン,ファッション,音楽
さまざまな要素を合体させてデザインする
4Gamer:
さて,ここまでのお話で「The Lost Child」がご自身やメガテンの影響を受けていると聞いて,金子さんはどう思われましたか。
「真似された」ではなく,「オレと同じものを見てきたんだな」と考えると,親近感が湧きますね。
以前,「ペルソナ」と「ジョジョの奇妙な冒険」(以下,「ジョジョ」)が似ているという理由で,荒木飛呂彦先生と対談させていただいたことがあるんです。「ジョジョ」に出てくるキャラクターって,洋楽にまつわる名前が付いてるじゃないですか。
僕も洋楽が好きなので,その点について,荒木先生に聞いてみたんですけれど,やっぱり洋楽が大好きらしくて,海外アーティストの名前って面白いなと思って使ってみたそうなんです。
4Gamer:
そういった自分と共通するエピソードを聞くと,確かに親近感が湧きますね。
金子氏:
あとは“トリッシュ”のことですね。これは僕のほうが先に出したんですけれど(「ペルソナ」シリーズに登場する妖精のこと),やっぱり「ジョジョ」のほうが認知度が高いから,世間的には僕が真似したと言われることもあって(笑)。
それはともかく荒木先生とは,二人して「あれはトリッシュ・ゴフのことだよね」「可愛かったよね,あのスーパーモデル」と。
長谷川氏:
入り口が同じなんですね。
金子氏:
そう,二人ともファッションが好きで,デザイナーのコレクションを見ているんです。だから,シンパシーを感じますよね。
長谷川氏:
金子さんもやっぱり,そうやっていろんなところからアイデアを引っ張ってくるんですか。
金子氏:
自分では意識してないけど,思った以上に幅広く取り込んでいるみたいです。
長谷川氏:
金子さんの画集に収録されている悪魔のイラストを見ると,よく「これ,どこからアイデアを出したんだろう?」と思いますよ。
金子氏:
それはインプットの幅が広いからだと思います。神様や悪魔が出てくる神話伝承も好きだから詳しいし,「ウルトラマン」の怪獣も好きだし,それこそファッションも好き。関連性のない,さまざまなものが混ざってアウトプットされるんだと思います。
4Gamer:
竹安さんは悪魔などのキャラクターをデザインするにあたって,意識していることはありますか。
お話を聞いていて,金子さんに近いところがあると思いました。実を言うと,僕は15歳の頃まで,本当に漫画とアニメだけに没頭していたオタクだったんです。でも,このまま漫画やアニメの業界に入っても,感性が狭くていいものが作れないんじゃないかと考えるようになって,積極的にお洒落な友達を増やしたりしたんですよ。
長谷川氏:
今でいう“リア充”になろうとしたわけですね。
竹安氏:
実際,リア充になったんです。
金子氏:
なったんですか!
竹安氏:
ええ,結果として,音楽や服など感性が明らかに広がりました。
でも22歳のとき,今度は「オレ,もう一回,オタクに帰るわ」と宣言して,自主制作のアニメなんかを作り始めて,今に至るんです。
金子氏:
線引きがビシッとしてますね。ジワーッと意識が変化していくのではなく。
竹安氏:
思い立ったらスパッと。
長谷川氏:
リア充を止めたのは飽きたからですか?
竹安氏:
いや,そういうことではないんです。
僕はずっと,オタクって高尚なものだと思っているんですよ。だって,何のメリットもないところに情熱を注いでいるわけじゃないですか。それはもう,魂を越えた先にある何かを求めているんじゃないかと。
金子氏:
なるほど。人付き合いの話で言えば,僕は中学高校と,当時でいう“つっぱり”,のちに“ヤンキー”と呼ばれるような人達とよく遊んでいたんですよ。そのあとアニメーターになり,今があるので,やっぱり佐和記さんのように,つっぱりとオタクの両方の世界を知っているんです。それぞれプライドを持って生きているんだけど,プライドの方向性が全然違う。
あと面白かったのは,好きな音楽の共通点ですね。かたやユーロビート,かたやアニメソングという違いこそあれ,どちらもアップテンポでBPM(※)の速い曲が好きなんですよ。疾走感がある。
※Beats Per Minuteの略。演奏のテンポを示す単位のこと
竹安氏:
ああ,それ分かります。僕,リア充時代にちょっとだけパンクやグラムロックにハマって,ロック仲間とばかり遊んでたんですけど,家に帰ると「伝説巨神イデオン」(以下,「イデオン」)のテーマソングを聴いていたんです。僕の人生の一曲といっていいくらい好きで。
金子氏:
僕も「イデオン」は好きなんですよ。デザインからしてすごい。今度ぜひ「イデオン」の話をしましょう(笑)。
しかし,佐和記さんの人生は興味深いですよね。形になってるから格好よく聞こえるけど,よく考えるとブラブラしているだけにも思える。
竹安氏:
確かに当時は,ファッション寄りの友達とオタクの友達の双方から「あんな奴らと付き合うな」とか「チャラチャラすんな」とか言われて,モヤモヤしていましたね。でも,そうやらないと感性が広がっていかないから。
長谷川氏:
それが今,モンスターのデザインの発想に結びついているわけですよね。
金子氏:
佐和記さんもやっぱり,いろんな要素を合体させている。
竹安氏:
ただ,自分の中に「これは絶対」みたいな軸はないんです。むしろ「今はこれなのか」「次はこれか」という感じでやっています。
同じところを通り,同じものを見てきたけれど出口は違う
これまでにないものを見たいという気持ちが原動力に
長谷川氏:
これは僕個人の考えなんですが,モンスターのように忌み嫌われる存在をデザインするときは,屈折した思いなど,ネガティブな何かが必要なんじゃないかと思うんですよ。同じモンスターでも,綺麗な気持ちで描くと,にじみ出てくるものが違うというか。
それを踏まえると竹安さんの描くアストラルは,どういうルーツを辿ってこうなったんでしょう。
金子氏:
まあ,ここにも僕の影響があるよね(笑)。
竹安氏:
確かに,多少なりとも金子さんの影響は受けています。
金子氏:
それはおそらく“悪の美学”なんですよ。「スター・ウォーズ」だったらダース・ベイダーでしょっていう。佐和記さんは,そこを目指しているんじゃないかと感じます。
竹安氏:
ええ。だから自分の中では,何も難しいことはないんです。いくらでも作れるし,描ける。
長谷川氏:
僕が考えるに,それは竹安さんの中に邪悪な部分があるからじゃないかと。
竹安氏:
うーん……どうでしょうね。金子さんも挙げていましたけれど,僕も成田 亨先生(※)の手がけた「ウルトラマン」の怪獣のデザインに圧倒的な憧れを抱いているんですよね。成田先生のデザインには,生命を生み出しているくらいの勢いがあるんですよ。
※「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などの怪獣,宇宙人,メカデザインを行ったデザイナー・彫刻家
金子氏:
当時は成田先生しかいなかったから「ウルトラマン」が今の怪獣やモンスターのデザインの基礎になったけど,もし今あの人がポンと出てきたら,どんなデザインをするのかは見てみたい。意外と地味なものになったりするかも。
竹安氏:
どういう発想でゼットンをデザインしたのか知りたいですよね。あれはダース・ベイダーに負けないくらいのラスボス感がある。実際の立ち位置もそうですが,デザインだけで「ラスボスだな」と分かるんですよね。
金子氏:
成田先生は作品によって「直線で構成しよう」とか,デザインにテーマを設けるんだそうです。そういったテーマを設けて創作することってのは真似したいですよね。たとえば今回の作品は,昔ながらの怖い要素に,現代的な概念の怖さを足すことをテーマにしようとか。
長谷川氏:
確かに,一部でも既視感のあるデザインだと親近感が湧きますよね。まったく見たこともないデザインだと,グロテスクなのか怖いのか,判断できなかったりします。
金子氏:
連想させることも重要なんです。気持ち悪いものを重ねるだけでなく,あえて綺麗なものをくっつけてみたり。おそらく佐和記さんの中では,常にそういったことがグルグルしている。だけど本人にとってはいつものことだから,意識することはない。
竹安氏:
意識してないですね。何もない。
長谷川氏:
何もないことはないでしょう?
金子氏:
いや,それがないんですよ。常に考えているのに,考えているという意識がないんです。
長谷川氏:
それは……何というか,宇宙を感じさせますね。
竹安氏:
なんだかカウンセリングされてるみたいですね(笑)。
金子氏:
いちおう褒めているんですよ(笑)。
4Gamer:
では逆に,竹安さんから見た金子さんの作品や画風についての印象はいかがですか。
竹安氏:
僕が初めてモンスターデザインをしたのが,ちょうど「デビル メイ クライ」の頃です。当時,すごくモンスターデザインの研究をしていて,その中で金子さんの画集を見てまず感じたのは「完成しているな」ということでした。おこがましいですが,「これ以上ないデザインを描かれる方だな」「同じ方法論で戦っても勝ち目はない」と,リスペクトを込めて考えていました。だからルーツは似ているにしても,金子さんと同じことをしているつもりはまったくないです。
金子氏:
たぶん,佐和記さんも僕と同じものを見て,同じところを通っているんですよ。でも同じ出口を出ようとすると,狭いから詰まってしまう。
竹安氏:
そうなんです。金子さんがもうやりきっているので,「ここでは,もうやることないな」と。そこで全然違う方法論で行こうと,ずっとやってきました。
金子氏:
それに僕は僕で異質だしね。自分としては「こういう人がいてもいいだろう」という意識でやっていました。
竹安氏:
正直な話をすれば,世の中のモンスターデザインから刺激を受けることって,ほとんどないんですよ。単純なルールで作っているものが多くて。でも金子さんは,すごくいろんなルールを持っているところが大いに参考になりました。
金子氏:
おそらく「自分が気になるものでないと面白くない」みたいなところがあるんですよ。映画でもテレビでも,たとえばコマーシャルでも,自分が「ハッ!」となるものでないと「どうせ同じでしょ」となって見たくならない。
竹安氏:
「これは,このルールでやってるんだな」というのが,分かってしまうんですよね。
金子氏:
まったく違うルールでやってるものが見たいよね。でも,みんながみんなそうじゃなくて,普通のものを見たい人もいるし,そもそも普通のものを初めて見る人もいる。そういう人達に,その先を見せても何も伝わらない。だから,伝わるように作る必要もある。そういうことを考え出すと,ちょっと難しい道を選んじゃったかな,と思うときもあります。
多彩な活動,日常と非日常,そして知識欲が
ほかにない作風につながっていく
金子氏:
しかし佐和記さんは,本当に何でもやってますね。絵を描くだけでなく,漫画を描いたり,アニメや映像を作ったり。
竹安氏:
実は小説の連載もやっています。
金子氏:
アグレッシブ! きっと創作のスピードもすごいんでしょうね。
竹安氏:
最近はツールが便利になりましたからね。小説はもうスマホでプロットだけ書いてしまって,細かいところは家で書いています。
金子氏:
パーツだけ用意しておいて,あとから組み上げるんだ。
竹安氏:
そうそう。だからそういった意味では,実は人から“絵描き”と言われると,あまりいい気分はしないんですよ。絵はそんなに描きたいわけじゃないんですよね。時間がかかりますから。
金子氏:
確かに文章のほうが早いですからね。
竹安氏:
小説なら「巨大なドラゴンが現れた」と書けば,あとは受け手にお任せできますよね。でも絵だと巨大なドラゴンだと分かるように描かないといけないから大変なんです(笑)。
4Gamer:
今の意見は,ちょっと竹安さんに抱くイメージが変わるかもしれません(笑)。
竹安氏:
僕はアーティスティックに仕事をすると思われがちなんですが,本当は相手のオーダーに応えるスタイルなんですよ。長谷川さんはよくご存じだと思いますが,「こういうものにしたいんです」と言われて,「じゃあ,こうしたらどうでしょう」と提案する。「これじゃなきゃダメなんだ!」みたいなことは,あまりないんです。
金子氏:
あれ,じゃあ長谷川さんが佐和記さんを操ってるわけですか?
長谷川氏:
でも,竹安さんのアイデアを肉付けして形にしていったものも結構ありますよ。
金子氏:
いやいや,「ちょうどいい魔物がいた」みたいな感じで,それこそ捕縛して長谷川さんが佐和記さんを操っているんですよ。それを聞きつけた僕が,魔物の先輩として,こうしてやって来たと(笑)。というか,本当に僕と佐和記さんは似てると思う。
竹安氏:
金子さんから,そう言っていただけると恐縮です。
金子氏:
繰り返しですけど,同じものを見ているんですよ。きっと一緒に何かやっていたら,また違ったと思いますね。
長谷川氏:
それは分かります。今日みたいに不思議な距離感で,あらためて竹安さんを掘り下げたからこそ,お二人の近しい部分が見えてきた感じですよね。
金子氏:
佐和記さんの箱を開いたというかね。門でもいいけど。
竹安氏:
自分では,こだわりがないと思っているんですけどね。
長谷川氏:
そうですか? そんなことないと思いますよ。
竹安氏:
強いて言うなら,「新しいことをやりたい」「人と似たくない」というのがこだわりですかね。でも今日の話は「金子さんと似てる」というのが結論になりそうですけど(笑)。
金子氏:
確かに作ったゲームは似てますよね。でも,それは同じことを考えて作ったからなんでしょう。冒頭が巻き込まれ型だったり。
竹安氏:
ああ,そこも似てるんですか。実は,メガテンは初期のものしか遊んだことがなくて。
金子氏:
ええ,似てます。やっぱり,僕自身が巻き込まれたいんですよね。自分から「戦わなきゃ!」となるのではなく,たとえば母親から頼まれたお使いに行くと,変なヤツに襲われる。実はそいつが化け物で,なんで化け物に襲われたんだろうというところから,裏側にいろんなものが隠れていることに気づいていく。
長谷川氏:
日常から,非日常に入っていくということですよね。
金子氏:
実際には身の回りに非日常なんてないんだけど,だからこそ求めるんですよ。
長谷川氏:
「ひょんなことから非日常が始まるかもよ」と思わせる。
金子氏:
ただ,世の中の多くの人にとっての非日常というのは不倫のようなものだったりするから,テレビドラマで表現されるようなフィクションじゃないと理解できないかもしれない。ややこしい設定のSFなんかは,難しすぎるんです。
長谷川氏:
「The Lost Child」は,日常の中に天使と堕天使,そして悪魔がいるんじゃないかという妄想で作っているんですよ。ただレイヤーが異なるので,普段は彼らの存在が分からない。
金子氏:
世界が多層構造になっていて,僕らのいるレイヤーでは分からないけれど,チャンネルを変えると天使や悪魔達がいると。
長谷川氏:
日本にも,神様は身近なところにいるけれど気づいていないだけという神道の考え方があったり,あるいは水木しげる先生も「妖怪は身近なところにいる」とおっしゃっていたりしますが,それに近しい考えです。だから主人公は,オカルト雑誌のライターなんですよ。現実的な人物だと,そういった非日常的な存在なんて切り捨ててしまいますから。
金子氏:
そういう非日常を表現するとき,日本は“気配”を重視するんですよね。たとえば幽霊のビジュアルは透けている。でも海外だと“形”が重要なんですよ。都市伝説でも幽霊のようなものではなく,斧を持った禍々しい姿の化け物が襲ってくる。
長谷川氏:
加えて,新宿にはそういった非日常が潜んでいそうな雰囲気があるんですよね。それを感じてほしいので,ほかにも,いかにも何かが出そうな舞台を用意しています。たとえば富士の霊脈とか。そして,そこにいるのは霊ではなく,天使や悪魔かもしれないというのが「The Lost Child」というゲームなんです。
4Gamer:
竹安さんと金子さんは,これまで神話や悪魔をテーマにしたタイトルを多数手がけてきましたが,そうしたテーマの持つ魅力とは,何でしょうか。
金子氏:
単純に知識欲ですね。聖書というものがあるんだと。たとえば「目からウロコ」という言葉も聖書が元なんです。「豚に真珠」もそうですね。
僕らの生活に根付いていることの中には,意外と聖書が元になっているものが多いのに,僕ら自身はまったく聖書のことを知らない。それに気づくと聖書に詳しくなりたいと思うし,それで「面白いな」となったら,もっともっと知りたくなる。そうやっていつの間にやら,悪魔にも詳しくなっていったというのが実情です。
竹安氏:
僕もほとんど同じですね。僕の場合は自分から興味を持ったわけではなく,仕事でオーダーを受けたことがきっかけでいろいろ調べ始めたんですが,やっぱり知識欲が出て,もっともっととなっていきました。
金子氏:
あと僕にとっての悪魔は,完全に怪獣の延長線上にありました。怪獣だけだと物足りないと思っていた頃,古本屋で悪魔辞典や妖怪辞典と出会ったんですよ。おどろおどろしい絵や,アルラウネというちょっとエロいお姉さん風の悪魔が描かれていたりして。それがのちのち知識欲とミックスされて,「なるほど,聖書とはこういうものか」となっていった経緯があります。
竹安氏:
聖書が普及したのは,ヨーロッパで活版印刷が発明されたからですよね。それで多くの人が聖書を読めるようになり,宗教戦争に発展していったことは,今,インターネットが普及して,人々がそれまで知り得なかった情報を手にした状況に似ています。そういうことに気づくと一気に面白くなるんです。
たとえば僕の「神話構想」では,いろいろな神話をつないでいるんですが,なかなか辻褄が合わなくて難しい。それは結局,各時代の権力者が「オレが神の代弁者だ」「オレが神だ」と主張するために物語を改変してきたからだと分かったとき,僕達が知らなかった世界の歴史が別軸で見えてきたりして,すごく楽しいんですよ。
金子氏:
ああ,天照大神も本来は男神なのに,女性である推古天皇の即位のために女神にしたという説もありますね。
竹安氏:
エルシャダイのベースになっている旧約聖書のエノク書も“偽典”と呼ばれていますが,あれはエノクという人物が神の代弁者を名乗ったからです。でも当時の権力者達は,自分達以外の神の代弁者を認めなかった。だからエノクの聖書を偽物とし,別の聖書を作ったわけです。そういう,いきさつが面白いなと。
竹安氏の「神話構想」を読んでいるとより楽しめる
「The Lost Child」初回特典には前日譚も収録
4Gamer:
ところで,「The Lost Child」の初回特典ブックレット「神話構想記」には,主人公の伊吹隼人と,エルシャダイのイーノックとの関係についての前日譚が収録されるとのことですが。
竹安氏:
ええ。僕自身が短編小説を書き下ろしています。
4Gamer:
その部分は,「The Lost Child」のゲーム本編には盛り込まれていないんですよね?
長谷川氏:
ええ,「The Lost Child」を新しいIPとして打ち出していくにあたり,イーノックはエルシャダイのイメージが強すぎると判断しました。
竹安氏:
おそらく僕の「神話構想」を知っている人は,「The Lost Child」を自然に受け止められると思います。一方,エルシャダイしか知らないと,最初は少し違和感を抱くかもしれませんね。
4Gamer:
エルシャダイは知っていても,「神話構想」までは追い切れていないという人もいるでしょうから,そういう人のために,このブックレットがあると。
このブックレットは,初回特典でしか手に入らないんですか?
長谷川氏:
そうです。
金子氏:
じゃあ皆さん,今すぐ予約して「The Lost Child」を買わないと。……こうやって宣伝もしないとね(笑)。
4Gamer:
ナイスフォロー,ありがとうございます(笑)。
では最後に,「The Lost Child」に興味を持っている人に向けて,ひと言ずつメッセージをお願いします。
長谷川氏:
今回,天使と堕天使,悪魔をモチーフにしたゲームを作ったからこそ,こうして金子さんといろいろお話する機会を設けられました。皆さんにもぜひ,お気に入りのアストラルを見つけて,愛情を持って育てていただきたいです。それは,恋人を探すようなものだと思いますから。
竹安氏:
エルシャダイに近しい部分を期待されている方は,「The Lost Child」をプレイする前に,僕の「神話構想」を読んでおいていただけると嬉しいです。すでに「神話構想」を読んでいる方には,相当喜んでいただける内容になっています。
もちろん「The Lost Child」から始めるという方も,オムニバス形式のストーリーを楽しんでいただけると思います。ぜひ遊んでみてください。
金子氏:
今回,初めて佐和記さんとお話をしたわけですけれど,あらためて「僕とよく似てるな」と。似ているということは,僕のやってきたことが報われたということでもあります。
でも,似てはいても,出口は違う。同じものを見てきた人達に,こうして新しい形で継承されているのを知ることができてよかったなと思います。今日は僕もすごく勉強になりました。
4Gamer:
ありがとうございました。
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