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[COMPUTEX]最大18コアのハイエンドPC向けプロセッサを投入するIntelの狙い
最大18コアのプロセッサでエンスージアスト市場に殴り込み
エンスージアスト(Enthusiast)市場とは,ゲームなどで高性能なPCが要求される分野だが,昨今のe-Sportsなどの盛り上がりもあって,PCメーカーや周辺機器メーカー各社がこぞって製品を投入していることでも知られている。毎年この時期にはIntelから同分野に向けたハイエンドプロセッサの投入が行われているが,今年はとくに前述のようにライバルAMDの動きもあり,Intelが非常に神経質になっている印象が強かった。
Core i9-7900Xは10コア/20スレッドで,これは前世代にあたる「Core i7-6950X Extreme Edition」のコア/スレッド数と同等だが,今回はさらに「Core i9-7920X(12コア/24スレッド)」「Core i9-7940X(14コア/28スレッド)」「Core i9-7960X(16コア/32スレッド)」「Core i9-7980XE(18コア/36スレッド)」の4つの上位版が発表されており,Core X-seriesは4コアから最大18コアまで幅広いラインナップを取り揃えることになる。ライバルとの比較でいえば,コア数の少ない下位モデルを値下げすることでコストパフォーマンスで対抗する一方,Core i9を冠する上位モデルで性能差をつける作戦となる。
ただ,発表を行ったBryant氏が10コア以上のモデルの投入計画があることを説明したものの,実際にステージ上で見せたプロセッサが何コアの製品かとか,それらの提供時期を含む詳細情報については一切触れていない点に注意したい。おそらく,AMDへの牽制のために先行発表を行ったため,まだ製品提供前の準備段階であり,実際に製品が出回るようになるには,ある程度時間がかかると予想される。
Bryant氏が手にするのはCore i9のプロセッサだが,どのモデルかは不明 |
Core X-series搭載製品を提供するPCメーカー |
またエンスージアスト市場へのメッセージとして,IntelがVR(仮想現実)を大きくプッシュしている点にも注目したい。ここ最近のIntelのデモでは内蔵GPUでゲーム動作に十分なパフォーマンスを提供できることを示すために,どちらかといえばワークロードが軽いゲームを選択する傾向があった。だが今回はVR HMDを組み合わせた複数のデモを披露しているほか,そのうちのひとつで12コア/24スレッドのマシンによるデモが紹介されるなど,より高負荷なゲーム環境をアピールするようになっている。
新プロセッサ投入により,従来のゲーム体験を3D VRのような空間に拡張していくという |
CPUメーターを見ると24スレッドで動作していることが確認できる |
今年後半に投入が予定されているOptane Memoryを使ったSSDのアピールも行われた。HDD+Optane Memoryの構成とHDDのみの構成の2台のマシンで台湾で人気のオンラインゲーム(「黒い砂漠」だろうか)を起動するデモを行ったところ,Optane Memoryを組み合わせたマシンではHDDのみの場合に比べて4割程度の時間でゲームが開始された。
第8世代Coreプロセッサはホリデーシーズン商戦に投入
今回のComputexでは現行の“Kaby Lake”こと第7世代Coreプロセッサに続く次世代モデルについても言及が行われている。例年であれば夏に米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されるIntel Developer Forum(IDF)で関連する発表が行われるものだが,今年はIDF中止がアナウンスされており,一部の発表がComputexで行われたのだとみられる。
以前までは世代をひとつ経るごとに15%のパフォーマンス向上が実現されていたが,今回の第7世代から第8世代へのステップアップでは30%の上昇が実現されているという。また,ホリデーシーズン商戦での製品投入が表明されており,おそらく10-11月ごろのタイミングでPCメーカー各社から搭載製品が続々と発表されることになりそうだ。
ただ,第8世代Coreプロセッサに関してはこれ以上の詳細は語られておらず,プロセスルールの微細化や技術的なトピックなども不明のままだ。まだ噂レベルではあるものの,この世代では現行の14nm製造プロセスでアーキテクチャの最適化が行われた「Coffee Lake」と,10nm製造プロセスに微細化が行われた「Cannonlake」が混在する形で登場するとされている。前者は主にデスクトップやハイエンドPC,後者は薄型ノートPCをターゲットとしたものとなる。
まだ詳細が不明な第8世代Coreプロセッサの話題と比べると,いくぶんか身近で楽しみな話題だったのが「常時接続PC(Always Connected PC)」のコンセプトだ。Intelのプロセッサと同社のLTEモジュールを組み合わせた仕組みで,携帯ネットワークを使って常時接続環境を実現する。現在,世界各地でLTEやその次の5Gインフラの整備が急ピッチで進んでいるほか,大容量プランの提供でバイト単価が下がってより常時接続環境が身近になってきたことが,このコンセプトの背景にあるとBryant氏は説明する。かつてCentrinoブランドでWi-Fi接続を身近なものにしたIntelだけに,ぜひ期待したい分野ではある。
また今年1月のCESで発表された「Compute Card」の8月出荷も発表されている。クレジットカードより少し大きいサイズのデバイスだが,PCの動作に必要な仕組みがすべてカードの中に含まれており,これをディスプレイやドック型の装置に接続することで通常のPCとして利用が可能になる。システムを丸ごと持ち歩けるため,カードを挿入または接続できる環境さえあれば同じシステムを好きな場所で利用できる。Intelでは教育用途などでの活用を考えているようだ。
PCからデータカンパニーを指向するIntelの未来
IntelにとってPCは大きなマーケットであり,同社の売上の半分近くは今なおPCに関連したものだ。一方で,大きな利益の源泉となっているのはサーバーなどデータセンター向けの市場であり,同社が最も力を入れている分野でもある。とくにサーバー市場におけるIntelの市場占有率はほぼ独占に近い水準であり,これを死守することが何より重要となる。近年,IoTによるデバイスやセンサー数の増加から処理データ量が加速度的に増えているほか,AIやクラウドの発展によりデータセンターの需要が高まっているなど,市場は拡大傾向にある。Intelも自らを「PCカンパニーではなくデータカンパニー」と表現しており,こうしたニーズに応えるべく最新製品を投入している。
PCカンパニーからデータカンパニーへ……近年Intelが最も力を入れているIoTとデータセンター分野での発表 |
パーソナルユースと比べ,業務用途で1日に取り扱われるデータ量は非常に膨大なものになる。とくにスマートファクトリーなど大量のセンサーや制御データがやりとりされる場所では1PB(ペタバイト:1000TB)に達するという |
すでに発表済みのものではあるが,こうしたデータセンター向けのプロセッサとしてSkylake-SPことXeon Processor Scalable Familyが紹介されたほか,大容量データを高速処理するための技術として第2世代のIntel 3D NAND SSDの提供が発表されている。
データセンター向け製品の分野はIntelに高収益をもたらすものの,同時にその美味しい市場はライバルらの絶好のターゲットとなっている。同分野では現在,ARMプロセッサを使ったソリューションの開発が進んでいるほか,Googleなどのように最大顧客となるユーザー自身がIBMとの提携を発表して自らプロセッサを含むシステムの開発に乗り出すなど,次の潮流に向けた動きが加速している。とくにデータセンターは大口顧客の意向に左右される部分も大きく,Intelがその優位性をアピールして必死につなぎとめを行う背景にもなっている。はたして今回発表された内容は大口顧客のお気に召すものだっただろうか。
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- 関連タイトル:
Core X(Skylake-X,Kaby Lake-X,Cascade Lake-X)
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