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何を変え,何を変えるべきでないのか? 「MONSTER HUNTER: WORLD」のコンセプトとグローバルユーザーに向けた取り組み
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印刷2018/03/30 19:44

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何を変え,何を変えるべきでないのか? 「MONSTER HUNTER: WORLD」のコンセプトとグローバルユーザーに向けた取り組み

「モンスターハンター:ワールド」のディレクター,徳田優也氏
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 世界累計で750万本を売り上げ,日本に留まらず海外へシェアを広げるきっかけとなったカプコンの「MONSTER HUNTER: WORLD」PlayStation 4/Xbox One。以下,「モンスターハンター:ワールド」)。グローバル化といっても,日本のゲームの歴史を振り返れば,それが容易でないことは明らかだ。では,「モンスターハンター:ワールド」は,どうやってこれを成し遂げたのか。

 本日(2018年3月30日),大阪で開催中の開発者向けイベント「GAME CREATORS CONFERENCE '18」で行われたセッション,「モンスターハンター:ワールドのゲームコンセプトとグローバルユーザーに向けた取り組み」で,この取り組みが語られたので,レポートしたい。
 登壇したのは,カプコンで「モンスターハンター:ワールド」のディレクターを務める徳田優也氏。サンフランシスコで行われたGame Developers Conference 2018でも,「モンスターハンター:ワールド」に関するセッションを行っているが,今回はGDCとは少し趣向を変え,徳田氏が自身のキャリアを振り返りつつ,どうやって「モンスターハンター:ワールド」のコンセプトを生み出すに至ったのか,そしてそれをどうゲームとして具現化したのかを語った。

>幼い頃から生き物が好きだったという徳田氏
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「MONSTER HUNTER: WORLD」公式サイト



生態系の表現を試みるモンスターハンターシリーズに惹かれて


 徳田氏が,初代「モンスターハンター」のプロモーションムービーに惹かれてカプコンに入社したのは2004年のことだ。モンスターを生態系の一部として表現しようとしているこのシリーズに魅力を感じて,同社の門を叩いたのだと言う。徳田氏は,入社以来14年にわたってモンスターハンターシリーズに関わり続け,フランチャイズの成長を助けてきた。

 徳田氏にとって大きな転機となった作品が「モンスターハンター3」だ。モンスターだけでなく,ハンターも水の中に入って狩猟をするという,シリーズの中でもかなりユニークなコンセプトを持つこの作品の制作を通して,徳田氏は自分がモンスターハンターシリーズの中でやりたいことを次々に蓄積していったという。

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 この頃から徳田氏は,現シニアプロデューサーの辻本良三氏に現在の「モンスターハンター:ワールド」にあたる「次世代のモンスターハンター」を作らせてほしいと直談判していた。しかし,徳田氏の実績が伴わないこともあってか,なかなか承認はおりなかった。

 その後,徳田氏は「モンスターハンター4」の制作にメインプランナーとして参画することになる。モンスターハンターシリーズをより一般化させたかったと語る徳田氏は,その戦略を見事に成功させ,結果として「モンスターハンター4」と「モンスターハンター4G」は850万本近いセールスを記録する大ヒット作になった。

 こうして,徳田氏は順調に経験を積み,2014年頃に満を持して辻本氏から「次世代のモンスターハンター」の制作をオファーされる。

 徳田氏は,「次世代のモンスターハンター」を制作するにあたり,辻本氏から2つの要望を受けた。それは「コンシューマ機で次世代のモンスターハンターを作ること」と,「日本のユーザーも海外のユーザーも楽しめる作品にすること」だったという。

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 この要望を受けて,徳田氏は下記3つのコンセプトを掲げて制作に取り組んだ。

・据え置き機で世界最高の品質のモンスターハンター
・次の10年間の土台となる次世代モンスターハンター
・初めて触れる人がすぐに楽しめるモンスターハンター


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 モンスターハンターシリーズは2004年から続く長寿タイトルであり,その土台となる部分には,古くなって取り替える必要がある要素も存在した。徳田氏は,次の10年を支える土台をこの作品で築くこと,そしてさまざまなプレイヤーに遊んでもらえることを目指してビジョンを固めていった。


やりたいことは,決まっていた


 長年,モンスターハンターに関わってきた徳田氏にとって,この作品でやりたいことは決まっており,企画の概要は10日くらいで完成したという。驚くべきことに,このとき完成させた企画のほとんどは,「モンスターハンター:ワールド」に実装されているとのことだ。

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 さて,「モンスターハンター:ワールド」の開発が進む中,「モンスターハンター4」の海外版にあたるニンテンドー3DS向けの「Monster Hunter 4 Ultimate」が発売されることになった。この作品はおよそ150万本を売り上げ,メタスコアも非常に高かった。ちなみに海外で150万本という売り上げは,それまでのモンスターハンターシリーズ中,最多とのこと。

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 しかし,徳田氏はメタスコアの数値を信用しなかったという。なぜなら,2015年頃のモンスターハンターは海外で大きなシェアを獲得しているとは言えず,一部のファンだけが高いスコアをつけていたからだ。つまり,ニッチだからこそ,評価されたというのが徳田氏の見解。そして,それが事実であることを突きつけられる出来事が,このあとすぐにやってくる。

 「Monster Hunter 4 Ultimate」の発売から半年後の2015年8月,徳田氏は据え置きのコンシューマ機を中心に遊んでいる北米のプレイヤー,つまり「モンスターハンター:ワールド」のターゲット層に「Monster Hunter 4 Ultimate」を遊んでもらい,その反応を集めた。結果はひどいものだったという。

これはテストの結果プレイヤーから返ってきたレビュー。精神的にタフであると自称する徳田氏だが,このときばかりは悔しさが込み上げ,蕁麻疹が出たという
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 テスト後,徳田氏はテスト結果と改善点をまとめてすぐにチームと共有した。改善すべきとされたのは,「動きを止めないモーション設計」「L3ダッシュ(グローバルスタンダートに合わせる)」「ロックオンカメラの実装」などだ。

 こうした要素のほとんどは,徳田氏がもともと「モンスターハンター:ワールド」に入れようと思っていたものではあったのだが,1点だけ,海外を視野に入れて制作する際に必ず実装しなければならないと気づいたポイントがある。それが,ボイスチュートリアルだった。

 国内外問わず,テキストを読みたくないというプレイヤーが一定数いることは分かっていたが,海外では,ボイスチュートリアルでなければ絶対にプレイしないという層まで存在することが分かったという。これは非常に重要な点で,コストはかかるが,プロトタイプの段階から必ず入れていかなければならないと思ったそうだ。

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変えるべきか,変えてはいけないか?


 さて,ターゲットとなるプレイヤーの反応を得て,徳田氏は考えた。「モンスターハンター:ワールド」では,これまでのモンスターハンターの何を変えて,何を変えるべきではないのか。

 徳田氏はまず,過去作にできたことは今回もできるようにする(=変えない)ということを念頭に置いた。例えば,シリーズ作品のファンのプレイスタイルをリスペクトして,「モンスターハンター4」で導入した「ジャンプ攻撃と乗り」についてはこれを強制せず,楽しいけれど,やってもやらなくてもよいデザインにしたという。

 一方で徳田氏は,装備などは大胆に変更しても良いと判断した。従来は剣士とガンナーで防具が分かれていたので,ゲーム中にそれらを切り替えるハードルが高かった。「モンスターハンター:ワールド」では防具が共通化されたため,武器のコンバートは容易になっている。

「モンスターハンター:ワールド」のテストの様子。当初のアイテムショートカットは4枠しかなかった
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説明なしで,弾の切り替えを理解できたプレイヤーは少なかった。ヘビィボウガンの追加要素の目玉として実装された機関竜弾も,ほとんどのテストプレイヤーが使えなかった
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 このように何を変えて,何を変えるべきではないのかを考えていく中で,徳田氏と開発チームで擦り合わせが必要な要素も,もちろん存在した。とくに開発チームと共有するのが大変だったのが,ダメージ表示だったという。実はこのダメージ表示,実装までには相当の紆余曲折があったそうだ。

 当初,テストプレイヤーのレビューでは「体力ゲージを出して欲しい」という声が多かった。しかし,これについて徳田氏が話を聞くと,プレイヤーが本当に求めているのは体力ゲージではないことに気がついたという。プレイヤーは,自分の取った行動が正解なのか間違いなのか,そのフィードバックを欲しがっていたのだ。しかも,できるだけ早く。

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しかしテストで慎重にプレイヤーの声に耳を傾け,「Monster Hunter 4 Ultimate」に比べて非常に好意的な意見を得られるようになった。その声を元に,さらに改善を重ねていく
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 プレイヤーは,ゲーム内の自分の行動が間違っていた場合,次のアクションをすぐに試す。つまり,行動を改善していくのだ。しかし,モンスターハンターにはゲーム側からのフィードバックがなかった。国内のプレイヤーは,モンスターの挙動を観察することでフィードバックを得ていたが,海外のプレイヤーにとってそれは分かりづらいものであり,それこそが問題の根本であったのだ。

 これを解決するために,徳田氏は体力ゲージではなくダメージを表示することを決めたが,モンスターハンターのダメージは,肉質を考慮するなど非常に複雑な計算の末に算出される。それを表示するのは,はばかられるというのが開発チーム内の意見だった。
 徳田氏は,これに対して自分がテストで募らせた危機感を丁寧に伝え,最終的に今の形で実現できたという。

 開発にあたり,こういった要素はいくつもあった。一部では,「日本は農耕民族で,海外は狩猟民族。そもそも文化的に噛み合わないのでは」と言われたこともあるという。徳田氏は,重要なのは海外のプレイヤーがどう遊ぶのかを研究すること,何を変えて何を変えないのかというコンセプトを持つこと,そしてモンスターハンターシリーズが培った体験を,しっかりとゲーム内で説明することなのだと語った。

 最後に徳田氏は,「初めてのディレクターで,こういった大きなタイトルを任せてもらえたことは経験として非常に大きい,カプコンはそういったキャリアプランを望むことのできる会社だと思う」と述べて,講演を締めくくった。

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