インタビュー
「閃乱カグラ」プロデューサー 高木謙一郎氏インタビュー。自宅である“ゲーム御殿”で,シリーズの“これまで”や“これから”,ルーツについて聞いた
本作は「閃乱カグラ」シリーズ第1作「閃乱カグラ -少女達の真影-」(3DS。2011年9月22日発売)と,同作品も収録された第2作「閃乱カグラ Burst -紅蓮の少女達-」(3DS。2012年8月30日発売)のHDリニューアル作品だ。
主人公の飛鳥が所属する「国立半蔵学院」と,飛鳥のライバルである焔が所属する「秘立蛇女子学園」それぞれを主役とした,「閃乱カグラ」シリーズの根幹となる“善忍”と“悪忍”の物語が描かれている。
「『閃乱カグラ』の原点となった作品のリメイクが発売されるなら,あの方にシリーズを振り返ってもらうっきゃないね!」ということで,“爆乳プロデューサー”こと高木謙一郎氏と連絡を取ったところ,高木氏のお招きにより“ゲーム御殿”で知られる自宅にてインタビューを行うことになった。
“爆乳ハイパーバトル”というそのジャンル名や,可愛くてセクシーな登場キャラクター達など,どうしても“パイ”(に関する話題)に触れずにはいられなくなる「閃乱カグラ」だが,今回その話題は控えめに,大のゲームファンでその造詣も深い高木氏に“ゲーム好きが作ったゲーム”としての「閃乱カグラ」に込められた思いやそのルーツについて語ってもらったので,本稿でその模様をお伝えしよう。
「閃乱カグラ」シリーズ ポータルサイト
4Gamer:
今回はご自宅でのインタビューということで,お招きいただきありがとうございます。
高木さんのTwitterなどでも拝見したことはありますが,本当に壁一面ゲームや関連アイテムでいっぱいですね……圧巻です。
高木謙一郎氏(以下,高木氏):
4Gamer:
(笑)。さて,「閃乱カグラ」シリーズ第1作と第2作をリメイクした「閃乱カグラ Burst Re:Newal」が発売されました。このタイミングに合わせてシリーズを振り返ってもらいつつ,「閃乱カグラ」の魅力やそのルーツに迫っていきたいと思います。
今回なんですが,“ゲーム御殿”であるご自宅でのインタビューということで,“パイ”の方ではなく,ゲームファンとしての高木さんに迫っていければと考えています。
高木氏:
“パイ”は控えめがいいということですね。分かりました。
4Gamer:
まずは「閃乱カグラ」シリーズの近況を聞かせてください。
2017年は“爆乳ウォーターバトル”こと「閃乱カグラ PEACH BEACH SPLASH」(以下,「PBS」)や,初のスマホ向けネイティブアプリとなった「シノビマスター 閃乱カグラ NEW LINK」(iOS/Android。以下,「シノマス」),そして,“手が滑って購入してしまった”という人が続出したSwitch用DLソフト「シノビリフレ -SENRAN KAGURA-」(以下,「シノビリフレ」)など,これまでになかったような展開を見せていましたね。
高木氏:
はい。ファンの皆さんのおかげで,「閃乱カグラ」は2017年にシリーズ5周年を迎えることができました。その感謝の意味も込めて,いろんな情報や新タイトルも発表させていただきました。
4Gamer:
「PBS」については昨年3月のインタビューでもお話を聞いていますので,「シノマス」と「シノビリフレ」について聞かせてください。まず「シノマス」ですが,これはいつごろ制作が始まっていたのでしょう。
高木氏:
企画の立ち上げ自体は「PBS」と同じころなので,2年〜2年半くらい前ですね。だいぶ前からじわじわとやってました。
4Gamer:
ソーシャルゲームだと「閃乱カグラNewWave Gバースト」(以下「NW Gバースト」)がありますが,なぜ新たにスマホ向けタイトルをリリースしようと思ったんですか?
高木氏:
「閃乱カグラ」というゲームを,もっと多くの人達に知ってほしいというのが大きいですね。
もともとコンシューマやアーケードゲームが好きでこの世界に入った人間なので,正直言うとこれまでスマホ向けのモバイルゲームにあまり関心を向けていなかったんです。
でも,スマホ自体の性能が上がってゲーム性の高いものが作れるようになったことや,ある意味,今一番多くの人が遊んでいるゲーム機であることを考えると「やらない理由はないな」と。それがスタートですね。
4Gamer:
基本オートで進行するシンプルな操作でチームバトルが楽しめる本作ですが,このゲームシステムはいつ定まったのでしょう。
高木氏:
カードを集めてチームを編成するとか,3Dモデルのキャラクター達が戦うとかいう部分は,割と早い段階で決まっていました。もう少しアクション性のあるものにする案もあったんですが,スマホのゲームって気軽に遊べるという部分の方が大事ですよね。
ゲーム性の高いものが作れるようになったけど,だからといってあまり詰め込み過ぎちゃうと,最初は楽しくても継続していくのが辛くなるんじゃないかなと。「あまりやりすぎちゃうのもどうだろう」と話し合っているうちに,今の形に落ち着きました。
4Gamer:
「シノマス」では新たに追加された各チームごとに新衣装が追加されましたね。
個人的には,どの衣装もコンシューマ向けタイトルに出してほしいくらいお気に入りなのですが,これまでの制服の着こなし方や忍転身姿と比較すると,いわゆる“肌色”が控えめですよね。これはやはり露出面への考慮もあったのでしょうか。
高木氏:
キャラクターが持っている本来の可愛さやカッコよさを前面に出したいというのがあり,あのデザインにしたんですが,やはりそういった面もあります。
これまでも「NW Gバースト」のときなどに,「胸の谷間が見えているから,葛城が着ているシャツの前を閉じよう」みたいな,キャラクター個別の修正を不本意ながらしたことはありました。でも,キャラクターも増えてきているし,3Dモデルもあるから一人ひとり直していくのは難しいし,そもそもやりたくない。
「じゃあいっそ,新しいものを作った方が良いし,(その方が)面白いよね」みたいな話に落ち着きました。
4Gamer:
メインストーリーで,忍の武術大会「シノビマスターズ」に新たな気持ちで挑むため,各チームそれぞれ新ユニフォームを用意するという場面がありますね。新衣装を自然な形でストーリーに組み込んでいるあたりも「巧みだな」と思いました。
高木氏:
ありがとうございます(笑)。
4Gamer:
「シノマス」は今後どのように大きくしていきたいと考えていますか?
高木氏:
すでにいろいろなアイデアが出ていて,例えば「閃乱カグラ」シリーズにおける強大な敵である「妖魔」を,プレイヤーみんなで協力して倒す……みたいなものもできればと思います。
でも,より良いゲーム環境を作るためにまだまだやるべきことがたくさんあって,まずはそちらからですね。まだ出ていないキャラクターもたくさんいるので早く登場させたいですし,PvPモードの「闘技場」を面白くするため,日々ブラッシュアップしていかなくちゃならないと考えています。
4Gamer:
もう一つの「シノビリフレ」ですが,「Switch向けにまさかこんなゲームが……」と驚いた人は多いと思います。
これまでの作品の「更衣室」モードをベースとしたゲームになっていますが,なぜこれをSwitchでやろうと考えたのでしょう。
高木氏:
任天堂さんからSwitchをかなり早い段階から紹介してもらったのがスタートですね。「HD振動っていうのがあるんですよ」「ほうほう,なるほど」「ただの振動じゃなくて,“感触”が伝わるんですよ」「ほうほう,なるほど」みたいな(笑)。
4Gamer:
(笑)。
高木氏:
これは真面目な話ですが,新しいゲーム機が出たとき,ゲームが好きな人達は,そのハードの持つ特性や新機能を試したくなる。それを手軽に体験できるゲームってけっこう求められると思うので,やってみたいと思いました。
4Gamer:
“感触”を感じてもらうなら,更衣室モードのスキンシップが最適だと。
高木氏:
いえ。実は,同じ日に発表したピンボールゲームの「PEACH BALL 閃乱カグラ」(以下,「PEACH BALL」)が,最初に出すつもりで制作していたタイトルで,「シノビリフレ」は「PEACH BALL」のお遊び要素として作っていた部分だったんです。
4Gamer:
なぜそのお遊び要素を,単体の作品として出すことにしたんですか?
高木氏:
「PEACH BALL」内にあった「シノビリフレ」の原型を「こんなこともできるんだ。じゃあもっとやってみよう」なんて言いながら作り込んでいるうちに,もう少し時間をかけて凝ったゲームにしたくなったんです。
でも,HD振動を手軽に体験できるゲームは早く出したいというのもあって,「じゃあ,おさわり部分を切り出して,気軽に遊べる一本のゲームにしよう」と。
4Gamer:
元はお遊び要素だったということですが,ストーリーはしっかりあるし,おなじみの「陽」「陰」「閃」でキャラクターの反応や物語の展開も変わりますよね。気軽さはありながら,けっこう作り込まれていた印象があります。
気軽なものをと言いながら,やっぱり作っているうちに「どうせやるならちゃんとやりたい」という欲が出ちゃって,気が付けばストーリーやシステムを作り込んでいたんです(笑)。
誰かが「手が滑った」という上手い表現をしてくれて,それに乗っかるみたいな買いやすい空気が生まれて……発売から2か月くらいしか経っていないのに,ニンテンドーeショップで販売されたSwitch向けダウンロード専用ソフトの年間ランキング第3位になることができました。おかげさまで多くの人に楽しんでもらえて,とてもありがたい話です。
4Gamer:
せっかくお話に出たんで,「PEACH BALL」のことも聞かせてください。
ピンボールといえば昔のゲームセンターでは定番のゲームの一つですね。これをピックアップするところが高木さんらしいなとは思うのですが,なぜ「Switchでゲームを作るならピンボールだ」と考えたのでしょう。
高木氏:
ピンボールって,目から入ってくる刺激以外にも,あの「カーン」「ガコーン」みたいに音をたてながら,弾かれた玉の振動が台をとおして手に伝わるってくる感覚っていうのも,ゲームとしての魅力や楽しさとしてあると思うんです。
もちろん,もともとピンボールが好きだったこともあるんですけど,HD振動の話を聞いたとき,Switchだったらその楽しさを表現できるんじゃないか。じゃあ「閃乱カグラ」と組み合わせて,“爆乳ピンボール”としてやってみたら面白そうだなと考えました。
4Gamer:
ここで“ひと盛り”あるところも高木さんらしいなと感じます。
高木氏:
普通に「ピンボールのゲームです」って出しても,今はなかなか手に取ってもらうのは難しいと思うんです。まずは「またこんなことやってるぞ(笑)」っていう話のネタみたいに興味を持ってもらうところからですね。
そうやって興味を持ってくれた人達に,カグラのキャラクター達の魅力と,ピンボールというゲームが本来持っている面白さを知ってもらえるようなゲームを届けたいと思います。
4Gamer:
なるほど。楽しみです。
2017年ですが,今までお話しいただいたような新たな試みもたくさんありましたが,「閃乱カグラ」というコンテンツを知ってもらおうという動きも多かったと感じました。
キャラクターを紹介する特設サイト「シノビ少女図鑑 -『閃乱カグラ』シリーズ」などがそうですが,こちらはかなり手が込んでますよね。
シノビ少女図鑑 -『閃乱カグラ』シリーズ
高木氏:
たしかにあのサイトは,けっこう手間が掛かっています(笑)。
皆さんに支えられ,おかげさまで5周年を迎えられ,ファン層も凄く広がったのですが,やはり長く続いたシリーズなので,過去作品をプレイしたことがない人も増えているんですね。
そういった,最近ファンになってくれた人達や,これからゲームを遊ぶという人達が,気軽にキャラクター達や世界観の基礎を知り,その魅力に触れられるような機会を作ろうというのが,サイトを立ち上げた目的の一つです。
4Gamer:
年が明けてからですが,「Burst Re:Newal」の体験会では全国各地を周り,多くの参加者と交流されていましたね。こちらもやはり,「閃乱カグラ」を知ってもらうための活動なのでしょうか。
高木氏:
「閃乱カグラ2 -真紅-」あたりからだと思うんですが,こちらは長年続けてますね。
昔の「ハドソン全国キャラバン」みたいなゲームのプロモーションって,「雑誌やテレビに出ている有名人が日本中を周ってる。自分の町にもやってくる」みたいなワクワクがあって,子供のころにそういう存在に憧れていました。
今の時代,店舗に足を運んで,来てくれた数十人かの人達と交流して……っていうのは,ネットを使ってバーンってプロモーションをすることと比べたら非効率ですよね? でも,実際にそういう場所に足を運んで得られるものって,実はけっこう大きいんですよ。
4Gamer:
どのようなものが得られるのでしょうか。
高木氏:
体験会の現場って,楽しんでくれる人達はもちろんですが,つまんないと感じて数十秒で試遊をやめちゃう人もいるわけです。そういったお客さんのリアクションを目の当たりにすることによって,ゲーム自体のデザインや見せ方,プロモーションでゲームの魅力を知ってもらうための話し方や伝え方などを勉強できるんです。こういう経験は大事だと考えていて,スタッフにも「できるだけ行った方がいいよ」という話をしています。
もちろんインターネットや配信で発表していくことも大事ですけど,それだけじゃ面白くないなとも思うんです。
4Gamer:
「PBS」のインタビューの際も少し伺いましたが,SteamでのPC版配信など,海外展開も好調のようですね。
高木氏:
はい。「閃乱カグラ SHINOVI VERSUS -少女達の証明-」(以下,「SV」)をリリースしたころは表現の問題でなかなか厳しい見られ方もしましたけど,熱心なファンの人達が「女性蔑視なんかじゃない」「ゲームとしてもちゃんと面白いんだ」みたいに,コミュニティサイトでゲームへの理解を広めてくれたんです。おかげさまで今は穏やかというか,海外でも多くの人がゲームを楽しんでくれていますね。
E3 2017ではサイン会を行ったんですが,「1時間あればじゅうぶん終わるだろう」と思ってたら,たくさんの人がきてくれて,ブースをぐるっと囲むくらい行列ができたんです(笑)。けっきょく2時間以上掛かって大変でしたけど,「Oh,タカキ!」って喜んでくれて嬉しかったですね。
シリーズ原点となる物語を描いた「Re:Newal」と
「閃乱カグラ」シリーズの始まりについて聞く
4Gamer:
最新作の「Re:Newal」について聞かせてください。このタイミングでなぜ1作めと2作めのリメイク作品を制作することになったのでしょう。
高木氏:
まず,立ち上げたのが「PBS」制作が落ち着いた2016年末ですね。現在制作中のシリーズ最新作「閃乱カグラ 7EVEN -少女達の幸福-」(以下,「7EVEN」)もすでに動き出していたんですが,「SV」「閃乱カグラ ESTIVAL VERSUS -少女達の選択-」(PS4/PS Vita。以下,「EV」)「PBS」と,シリーズのメインストーリーが進んでいて,「じゃあ次も」となると置いてけぼりになっちゃう人も増えるんじゃないかと思ったんです。
4Gamer:
先ほどの「過去作を遊んだことがない人も増えた」という話につながりますね。「閃乱カグラ」とはそもそもどんな話だったか,あらためて触れる機会を作ろうということでしょうか。
高木氏:
コンテンツ自体大きくなって,僕一人では回らなくなってきていました。もちろん企画の立ち上げや最終的な味付けみたいなものはやりますが,現場のプロデューサーやディレクターを育てて,それぞれがタイトルを仕上げていけるような体制を作らなくちゃいけないと思ったんです。
5年近くほとんど休みなく走ってきたので,作る側としてもここで一度「閃乱カグラ」シリーズの根底にあるもの振り返り,一息ついてからまた次のステップに進もうと。
4Gamer:
チームとしても「閃乱カグラ」を一から見直す作品になったんですね。
リメイクの際あらためて1作めと2作めに触れたと思いますが,いかがでしたか?
高木氏:
言葉にするのは難しいですが,いろんなことを思い出しましたね。もちろん,「今ならここはこうするのにな」みたいな,ゲーム制作者としての考えや今後につながる発見もありました。
4Gamer:
3Dアクションとしては「SV」や「EV」といったPS4 / PS Vita向けタイトルで土台は固まっていたと思いますが,3DS向けの横スクロールアクションから3Dアクションにというのは,やはり苦労があったのでしょうか。
高木氏:
もちろん,ポンっとは行かなかったです。「Re:Newal」って,パッと見は「SV」や「EV」と同じ雰囲気かなってなると思うんですけど,3Dアクションとしても,その2作品とは違うところがかなりあるんです。
4Gamer:
分かりやすいところだと,新要素の「バーストシステム」や,敵の攻撃が表示されるようになったところがありますね。
高木氏:
はい。あと,これは新しい作品を作るたびに行っているんですが,遊びにくかったところやちょっと変だなというところ,キャラクターごとの操作感などは細かく調整しています。
4Gamer:
どのあたりをとくに気にして調整されたんですか?
高木氏:
「1週間くらいプレイしてなくても何となくできちゃう」みたいな気軽さは保ちたいと考えていました。
買ったその日に遊んだけど,忙しくてしばらくプレイできない日が続き,久々に立ち上げてみたらどこまで進めたか忘れたし,操作も分かんなくなっちゃって遊ぶのを止めちゃった……みたいなことって,僕自身もあるし,皆さんもあると思うんですよ。
そうなってしまうと残念でもったいないですし,少しでも多くの人が最後まで遊んでくれるよう,そのあたりは気にしていますね。
4Gamer:
気軽さや爽快さはもちろん大事ですけど,やり応えみたいなものがないとすぐ飽きられてしまいますよね。このあたりのバランスは大変そうです。
高木氏:
はい。重要な部分だし,それだけに大変なところです。
「閃乱カグラ」シリーズの課題の一つに,いわゆる“草刈りゲー”にはしたくないっていうのがあります。プレイヤーが「ただただ敵を倒して進むゲームだな」ってならないように気を遣い,複雑な操作はないけどやり応えも感じられるものに仕上げ,キャラクターの動きやミッションの見せ方も工夫して……というのは常に考えている部分ですね。
4Gamer:
あらためて1作めのリメイクということで,そもそもなぜ「閃乱カグラ」というゲームを制作したのか聞かせてください。
高木氏:
まず初めてプロデュースとディレクションを担当した「勇者30」の話をさせてください。
ゲームが大好きで,ゲーム業界に入った当時からともかく「自分のオリジナルゲームが作りたい」という思いが強かったのですが,もちろんそんな簡単にはいきませんよね。
マーベラスに入ってからいろんな仕事を経験し,古巣のオーパスと一緒に制作した作品が「勇者30」でした。
4Gamer:
オーパスは高木さんのゲーム業界でのキャリアのスタートになった会社ですね(※高木氏のTwitterより)。
高木氏:
はい。そういった意味でも昔の仲間達に恩返しができたという面でも思い入れの深い作品となったし,ゲーム自体もとても良い作りとなってセールスも上々でした。しかし一方で,これが何年も続くシリーズになって,テレビでガンガンCMが流れるような作品になるかといったら,そういう作品ではなかったんですよね。
これとは違う形で,シリーズとして長く続くゲームが作りたいと思いました。
4Gamer:
それもオリジナルで,ということでしょうか。
高木氏:
そうですね。シリーズものだと当時「一騎当千」のゲームを3タイトル担当していたので,続編を制作するという選択もあったかと思いますが,やはりやるならオリジナルのシリーズ作品を立ち上げたいという思いがありました。
あと,「Shining Dragon」「Eloquent Fist」「XROSS IMPACT」と,3つのサブタイトルの頭文字を並べると意味がある単語になるよう作ったのに,例えばここに「Y」が頭文字になるサブタイトルが付く続編を作ったら「コイツ日和ったな」って言われるんじゃないかな,みたいなのもありましたが(笑)。
4Gamer:
(笑)。
高木氏:
そんなとき,「任天堂がニンテンドー3DSという新ハードを出す。3Dによる立体視があるそうだ」という話を聞いて「これはっ!? 3Dで“パイ”が飛び出すゲームがあったら,皆やってみたいと思うに決まってる!」と。
「一騎当千」の時点で「爆乳プロデューサー」と名乗っていたし,ちょっとエッチなアクションゲームというのはずっとやりたくて,きっとジャンルとしても広がるだろうと思っていたんです。なので,「ともかくこれはチャンスだ。同じようなことを思いついた人はきっとたくさんいるはず」と,急いで取り掛かりましたね。
4Gamer:
爆乳プロデューサーとして,先を越されてはならないと。
高木氏:
はい。ジャンルとして広がるという自信はあったけど,こんなに面白いものが溢れていて,人気のシリーズ作品もいっぱいあるこの時代に,いきなりオリジナルコンテンツを立ち上げたところで浸透させるのは難しいだろうという不安はありました。
でも,「“パイ”を立体視出来るゲームが,任天堂のゲーム機向けに出る」っていうのはかなりインパクトがあるから,これなら覚えてもらえるんじゃないかと。実際に人と話しやすいというか,「なんだこれ。馬鹿じゃないの(笑)」って話題にしてもらえて,広く認知されていきましたから。
4Gamer:
「馬鹿じゃないの」で広がったけど,「本当にただの馬鹿なゲームだった」で終わったら,5年以上続くシリーズ作品にはならなかったわけですよね。
ゲーム性みたいなところは相当考えて作り込まれたのかなと思います。
高木氏:
はい。メニュー画面の作り方一つとってもそうなんですけど,ともかく分かりやすくというのは当時から心掛けていました。操作が分からなくても,何かのボタンを押し続けたら,必ず何かしら次のアクションが出る。ガチャガチャやってるだけで爽快に遊べるようにしようという部分もですね。
というのも,「閃乱カグラ」に興味を持ってくれた美少女ゲームファンの人達から,アクションゲームであることへの困惑の声があったんです。普段はアドベンチャーやノベルゲームで遊ぶけど,アクションはやらないから苦手だと。
4Gamer:
なるほど。せっかく興味を持ってくれたのに,「アクションだから」で手を伸ばしてくれなかったらもったいないですね。
高木氏:
はい。「俺にアクションを求めるな。俺ができるのはフラグ管理だけだぞ!」みたいな意見もあって「なるほど」と思いながら(笑),そういう人達でも楽しめて,迷わずに進められるゲームに仕上げなければいけないと考えて制作しました。
さきほどの「久々にプレイしても操作できる」という話につながりますが,この辺りは当時からそうですし,今も常に考えているところですね。
美少女モノに格ゲー……“ゲーム御殿”を周り
「閃乱カグラ」のルーツを探る
4Gamer:
ここからは“ゲーム好きが作ったゲーム”としての「閃乱カグラ」について聞いていきたいと思います。
「閃乱カグラ」には,大のゲームファンでその造詣も深い高木さんだからこその,さまざまなゲームをオマージュしたような要素が感じられます。ちょうど話題となった“美少女モノ”という観点だと,どのゲームの影響があるのでしょう。
高木氏:
そうですね……。あっ,現物があるのでそこでお話ししましょう。
4Gamer:
それではご自宅を案内していただきつつ,「閃乱カグラ」のルーツを探っていきましょう。
高木氏:
いいですね(笑)。ではまず“美少女モノ”ですが,この「銀河お嬢様伝説ユナ」と「ワンダーモモ」になりますね。
2作品で共通しているところでいうと,変身要素や健康的なお色気シーンなんかは「閃乱カグラ」に受け継がれていると思います。「ワンダーモモ」だと,パンチラしながらのアクションもありますね。
美少女モノという話でいうと,ゲームじゃないですけどこれもそうです。
4Gamer:
インタビュー途中に届いた宅配便ですね。嬉々として受け取っていらっしゃったので,中身が気になっていたのですが,見せてもらうことはできますか?
高木氏:
4Gamer:
あっ,「セーラームーン」ですね。
高木氏:
はい。基本は5人チームで,変身シーンがあってコスチュームチェンジする……。
原田さん(鉄拳シリーズのプロデューサー・原田勝弘氏)の対談企画「原田が斬る!」に出たとき(※)に,「美少女モノの目覚めがセーラームーン」という話をしましたが,やはり影響は大きいです。
※2017年4月29日掲載「原田が斬る!」第4回(該当記事は[こちら])
4Gamer:
続いて格闘ゲームからの影響という話を伺いたいのですが……しかし自宅にアーケード筐体があるのって,間近にしてみると凄いですね。友人や知り合いを呼んでちょっとした大会が出来そうです。
高木氏:
最近も「ストリートファイターZERO」で大会みたいなことをしましたし,会社の同僚や仕事仲間を呼んで遊んだりしますね。あとは夜に一人でお酒を飲みながらプレイします。
4Gamer:
グラスを片手にですか。優雅ですね。
高木氏:
本当はSNKの筐体も欲しいし,もう何台か並べたいんですよ。もちろんそんなスペースもないし,妻に「1台まで」って釘を差されてもいるんですけど(笑)。
あと,両替機も起きたいんですよ。両替機で両替した小銭を,コンパネのところに積んで……みたいなことをやりたいんです。
4Gamer:
ゲームセンターの一連の流れを家で再現するんですか(笑)。それはさらに贅沢ですね。今でもゲームセンターには行くんですか?
高木氏:
はい。高田馬場のミカドなんかは良くいきますね。最近も「餓狼伝説SPECIAL」や「真サムライスピリッツ 覇王丸地獄変」をプレイしに行きました。
ミカドと言えば,この前NHKの番組で取り上げられていたじゃないですか。
4Gamer:
「ドキュメント72時間」(※)ですね。
※1つの場所で3日間(72時間)取材を行い,その場所に関わる人達や出来事を追うドキュメンタリー番組。ミカドを取り上げた「伝説のゲーセン 大人たちの闘い」は,2018年2月2日に放映された(公式サイトは[こちら])
高木氏:
実は,あの取材があったとき,ミカドにいたんですよ。たぶん映ってないと思うんですけど,「俺に声掛けにこないかな」って思いながら眺めてました(笑)。
4Gamer:
高木さんを知っている番組スタッフがいたら,きっと声を掛けられていましたね(笑)。
「閃乱カグラ」にも,例えば,ガードキャンセルの感覚で防御や高速移動を入れつつ連閃(コンボ)をつなげるといったバトルでのアクションなど,格ゲー的な要素があちこちに含まれていますよね。
高木氏:
あとこれはパロディっぽい部分ですが,「シノマス」の特訓シーンは格ゲーのボーナスステージですね。わら人形を斬るのはサムスピだし,氷割りは龍虎の拳。ブロックを壊すのはスーパーファミコン版「ストリートファイターII」です。
4Gamer:
龍虎の拳といえば,ビール瓶斬りならぬ“牛乳瓶斬り”が「シノマス」にありますね(笑)。
高木氏:
はい(笑)。アクション面での話に戻すと,「飛翔乱舞」はやはり「エリアルレイヴ」の影響が大きいと思います。
4Gamer:
空中に打ち上げた敵を追撃して連続技を決めるというというのはたしかにそうですね。
高木氏:
これは格ゲーの影響という話とはちょっと変わっちゃいますが,「飛翔乱舞」には長年「ファイナルファイト」をプレイしていて考えていたことも入っているんですよ。
4Gamer:
どういうことですか?
高木氏:
「ファイナルファイト」でコーディーがアッパーで敵を打ち上げたとき,浮いた敵に攻撃を当てたくて仕方がなかったんですよ。当たり判定がないのは分かっていながら,それでもジャンプキックをやっちゃっていたんです(笑)。
さっき言った,“ガチャガチャやってるだけで爽快に遊べる”というところにもつながるんですが,「空中に浮いた敵に攻撃が当たったら,楽しいし気持ちいいはずだ!」という,僕の思いを詰め込んだものですね。この辺りの話になったらキリがないかもしれないです(笑)。
4Gamer:
たしかに細かな部分でのこだわりはまだまだありそうですね。
高木さんは,自身が好きだったゲームの要素や,「ここがこうだったらもっと楽しい」と感じていたものを落とし込みながらゲームの新しい形を生み出していますが,好きだったゲームのリメイクを担当したいというのはありますか?
高木氏:
あまりないんですよね。自分がいなくても作れるかなと思いますし,なにより,いちプレイヤーとして遊びたいって思っちゃうんです。
4Gamer:
恐れ多くて手が出せないみたいなのではなく,あくまでプレイヤーとしてリメイク作品を迎えたいと。
高木氏:
そうですね。この“プレイヤーとしてゲームを迎えたい”というのは,自分の作ったゲームにも言えることなんです。
4Gamer:
どういうことでしょう。
高木氏:
今まで遊んできたゲームの好きな部分や「ここはこうだったらいいな」という,自分の遊んでみたいゲームの要素を込めて作ってきたわけです。そうやって自分の理想に近いものを作ってきましたが,しかしそれをいちプレイヤーとしてまっさらな気持ちで迎え入れて遊べないことが悔しいんですよ(笑)。
なので,“老後の楽しみ”として,20年か30年くらい経って自分がどんなゲームを作っていたかという記憶が薄れたころに(笑),また新たな気持ちで「閃乱カグラ」を楽しみたいって考えています。
HONEY∞PARADE GAMESとして新たな挑戦を
「7EVEN」はこれまでにない「閃乱カグラ」作品に
4Gamer:
あちこちご案内いただきつつお話をうかがっているうち,もう結構なお時間になってしまいました。
そろそろ締めの言葉をいただきたいと思うのですが,まず高木さん個人の展望について聞かせてください。「閃乱カグラ」シリーズ以外でなにか構想などはあるのでしょうか。
高木氏:
もちろんありますし,実際に動いているものもあります。
それは僕個人としてではなく,HONEY∞PARADE GAMESとしてというのもありますね。いつもスタッフ達と「こんなことやりたいね」という話はしています。
4Gamer:
先ほども話していただきましたが,チームとして今後どう動いていくかを考えていると。
高木氏:
そうですね。当然スタジオには,僕とは違ったセンスを持つ人達がたくさんいます。そんな彼らの持っているアイデアを積極的に引き上げて,新しいゲームを作っていきたいんですね。業界にもそれなりに長くいて,知識や経験もあるので,手助けやアドバイスができればと思います。
HONEY∞PARADE GAMES自体,ようやく設立1年というくらいなので,まだまだこれからですし,「閃乱カグラ」シリーズをより広げつつ,新しいことに取り組んでいきたいと考えています。
4Gamer:
高木氏:
全体的なビジョンはできていて,コンセプトワーク的なところも固まっています。
あと,「どうせやるなら一新したいよね」という感じで話していて,ゲームモデルやキャラクター表現で変えたかったところや,新しくしたかったことを0から作っている部分なども含めて,これまでの作品とはかなり違ったものにしたいと考えています。
4Gamer:
ゲームの魅力の一つであるキャラクターはいかがでしょう。
高木氏:
コンシューマ作品以外にも「NW Gバースト」や「シノマス」などで人気のキャラクターも増えましたし,もちろん新キャラクターの追加も考えているので,かなりの人数になりそうです。今は,少しでも多く出したいと考えつつ,どこまで出せるか戦っている最中ですね。
単純にキャラクター数という意味でも作業時間は掛かるので,皆さんにお見せできるのはまだまだ先かと思いますが,内容的には相当面白いものになるという自信はあります。
4Gamer:
かなり期待が高まります。ではあらためて,「Re:Newal」について,オススメのポイントなどを教えてください。
高木氏:
また,シリーズ初心者向けみたいなアプローチもしてはいますが,昔からのプレイヤーの皆さんが楽しめるような要素もたくさん込めています。ファンの皆さんには「こんなところも変わってるんだ」という発見や“懐かしくも新しい体験”をしてほしいです。そうして過去の物語を懐かしみながら振り返りつつ「7EVEN」を待っていてほしいですね。
4Gamer:
こちらから控えめでとお願いしていてなんですが……最後はやはり“パイ”で締めていただきたいと思います。なにか“パイ”に関連したトピックなどはありますでしょうか?
高木氏:
2018年って,逆から読んだら「パ(8)・イ(1)・オ(0)・ツ(2)」になるんです。
もう2か月が過ぎてしまいましたが,この記念すべき年に,ファンの皆さんが楽しめるような何かができればと考えています!
4Gamer:
本日はありがとうございました。高木さんとHONEY∞PARADE GAMESの今後や,「閃乱カグラ」シリーズの新たな展開を楽しみにしています!
「閃乱カグラ Burst Re:Newal」公式サイト
「閃乱カグラ」シリーズ ポータルサイト
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