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[TGS 2017]細かい仕草へのこだわりが人間らしさを生み出す。「サマーレッスン」のプロデューサー玉置氏へインタビュー
このたび,東京ゲームショウ2017の会場で,本作のプロデューサーを務める玉置 絢氏に,新キャラクター「新城ちさと」の魅力や,キャラクターを人間らしく作るうえで工夫しているポイントなどを聞く機会を得たので,その内容をお届けしよう。
「サマーレッスン:新城ちさと」公式サイト
4Gamer:
よろしくお願いします。さっそくですが,新城ちさとの特徴を改めて教えてください。
宮本ひかりとアリソン・スノウがプレイヤーに対して優しいキャラクターだったのに対して,ちさとはアタリが強くアグレッシブな感じです。プレイヤーを翻弄させるようなことを言ってきて,おちょくったりからかったりする,そういうアクセントを楽しむキャラクターですね。
4Gamer:
ひかりやアリソンとは,雰囲気が違うんですね。
玉置氏:
人の好みというのはそれぞれですから,今までのキャラクターにピンとこなかった人にも本作をアピールしたいということで,こういった形になりました。
4Gamer:
ぱっと見の印象だと,黒髪の清楚なお嬢様といった感じですが,実際には強気で先生を翻弄するようなキャラということで,そのギャップがいいですね。
玉置氏:
キャラクターの見た目と性格のギャップは毎回意識して作っています。例えばアリソンは,日本のマンガ文化でのステレオタイプでいうと積極的なタイプに見えますが,実際は物静かで優しい性格ですし。
4Gamer:
なるほど。新城ちさとの外見でこだわった部分はありますか。
玉置氏:
ひかりと同じ見た目にならないようにしました。アリソンとひかりは人種的な違いがあるので簡単に作なのですが,ちさととひかりの場合,DNAレベルが近いというか,少しいじったくらいでは姉と妹くらいに思われてしまう可能性があったんです。
4Gamer:
顔の骨格が似ていると,そうなりそうですね。
玉置氏:
ですので,ひかりと違う顔にするのが1つのチャレンジでしたが,すでに可愛さのベストを尽くした「ひかり」というキャラクターを作っておいて,そこから個性を変えていくのが難しくて……。その結果,可愛くなくなってしまったら元も子もありませんし。ひかりとは違う可愛さを持った別人を作る,というのが初めての取り組みでした。
4Gamer:
ちさとの場合,どこに力を入れたんですか。
玉置氏:
髪型です。初めは「鉄拳」シリーズのリリのように,もっとパッツンでした。ただ,黒髪で前髪が全面パッツンという,いかにもきつそうな髪型にしてしまうと,いざ目の前に来られたときに怖く感じてしまうんです。そのため,前髪はパッツンなんだけど,可愛く見える髪型を開発するために時間をかけました。分け目を作ったり,サイドを耳の後ろにかけたりなど,いろいろなところで工夫しています。
4Gamer:
キャラクターを作るうえで,何か参考にしているものはありますか。
玉置氏:
実写の資料が一番多いですね。とくにヘアやメイクのアーティストのネット記事だったり本だったりに書かれている可愛く見える方法などを,ビジュアルアートのチームでは,よく参考にしてます。
4Gamer:
実際の技術が参考になるというのは面白いですね。
玉置氏:
サマーレッスンには「人間相当」というコンセプトがあるので,人間のために書かれた本を参考にするのは重要なことなのです。
4Gamer:
ゲーム内では,どのように活かされていますか。
玉置氏:
ひかりが思ったとおり可愛く作れなかったとき,究極の必殺技として化粧をさせました。化粧をした瞬間にめちゃくちゃ可愛くなって,こういう努力は本当に大事なんだ,というのを改めて思い知りました。
髪型も同じで,可愛さと気の強さを同時に成り立たせる髪型とか,可愛く見える髪型みたいなものを本から探しました。
4Gamer:
素人考えで恐縮ですが,ちさとがひかりの髪型をしても十分可愛いと思うのですが。
玉置氏:
ちさとの髪型については,ヘアアーティストの記事なんかを読むと,「人間の顔つきにはタイプがあり,このタイプの人はこうすると良いところが引き立ち,良くないところが隠れます」といったノウハウがあるそうなので,そうした情報をチームみんなで参考にして作りました。ほかのゲームを作るときには考えたこともない要素なので,面白かったですね。
4Gamer:
実写に近づけると「不気味の谷」に落ち込むかもしれませんが,そこはどのように考えているのでしょうか。
玉置氏:
不気味の谷には,人間が無生物に見えるタイプと,演技をしているように見えるタイプがあるんです。厳密にいえば,後者は不気味の谷とは別の問題なのですが。前者は,人間がやっていてもキャラクターがやっていない要素を見つけて,そこを埋めていくという作業を続けています。その中でもとくに重要なのが目です。
4Gamer:
目の動きとかでしょうか。
玉置氏:
はい。例えば,視線を逸らされた状態で話されていたら,CGのように感じるんです。人間は対面で話をするとき,どういう角度からでも相手の目を見ます。専門家も言うように,こうした自然な目の動きが,相手を人間だと思わせるうえでとくに重要であるようですね。
また,人間が何かを見るとき,眼球だけではなく,首とか体を自然に動かします。そうした自然な動作をうまく実現するプログラムやパラメータが,我々の独自のノウハウになっているんです。
4Gamer:
確かにサマーレッスンのキャラクターは,どんな角度からでも自然にプレイヤーの目を見て話してくれますよね。
玉置氏:
そして,もう1つ重要なのが表情です。これは,ちょっとだけ眉を動かすとか,ちょっとだけ目を細めるとか,そういう細かい動きのことを指します。サマーレッスンでは,そのためだけに作られた表情システムを持っていて,それで表情を細かく動かしているんです。
それがよく分かるのが,ちさとです。顔を近づけてプレイヤーを翻弄するとき,ちょっと目を細めたりとか,眉を少し上げたりなどの動きを見せます。つまり,表情豊かな子なんですね。サマーレッスン独自の細かい表情表現をよく活かせるキャラといえます。
4Gamer:
公開されているムービーを見ても,その変化の細かさが分かります。
玉置氏:
サマーレッスンでは,モーションアクターをしていただいた声優さんの表情を撮影したあと,さらに自分達で手を加えて修正していきます。その過程で「フェイシャル・レビュー会」というものがあり,全員で表情をチェックし,意見を出し合って修正していくんです。こうした苦労にかけるコストがほかのCGに比べて高いところが,キャラクターを自然に見せるポイントの1つなんです。
4Gamer:
プレイヤーをドキッとさせるような演出は,計算して作られているんでしょうか。
玉置氏:
最初は,かなり狙って意識的にやっていました。そのおかげでだんだん何がポイントなのか分かってきて,現在は割と自然にそういう演出ができていることが多いですね。
もちろん,人工的に魅力を作っていくことも必要なんですが,もっと大事なのはそもそもの「人間を作る」ということでしょう。キャラクター自体,もともと人間が演じたものなので,アクターの何気ない仕草などが味になったりするわけです。あまり演技っぽくしないというのは,すごく重要だと思います。
4Gamer:
演技指導などもされてるのですか。
そこは分担制です。アイデア出しなどは,私やシナリオ系のスタッフも一緒にやりますが,我々が思い描くキャラクターを実現する演技をアドバイスをしてくれるプロフェッショナルがいます。本職は女優さんなのですが,コンサルタントみたいな感じで,演技の仕方をアクターや声優さんに提案し,それを実際に試してもらって収録するといった感じになってます。
4Gamer:
かなり本格的ですね。
玉置氏:
さらにフェイシャルアーティストが,収録したモーションデータを,もっと魅力的に見せるように修正します。サマーレッスンくらいの規模のプロジェクトであれば,割合としてフェイシャルアーティストは2人くらいなのが普通なのですが,サマーレッスンには6人もいます。それだけモーションに力を入れているというわけです。
4Gamer:
キャラクターの制作には相当な時間がかかっているのですね。
玉置氏:
もっと労力が減らして効率的に作れればいいんですけど,そうしようとすると,人間じゃなくなるんです。手を抜いたものではダメなんです。
4Gamer:
やはり気づかれますか。
玉置氏:
人間がほかの人間を人間だと認識するということについては,間違いが生死に直結する場合もあるためか,非常に複雑な認識システムになっているようなんです。社内から適当なスタッフを捕まえてきて見せたりするんですが,ちょっとでも手を抜くとすぐに「人間っぽくない」って言われてしまいます。
とはいえ,やはり効率化したいというのは1つの願いですね。
4Gamer:
次のキャラクターは考えていますか。
玉置氏:
この3人でちょうどいいバランスかなと思っているので,しばらくはこのまま,いろいろな展開をしたいと思っています。
4Gamer:
最後に,サマーレッスンを未体験の人に向けて,アピールポイントを教えてくだいさい。
玉置氏:
サマーレッスンはVRの良さが分かりやすく体験できますし,普通の人生では経験できないことも楽しめます。そこに特化した作品でもあるので,機会があればぜひやってください。ちさとが加わってキャラクターが3人になったので,きっと好きな子が見つかるはずです。
ちさとにはこれまでなかった新しい魅力を持っていますし,イベントもいままでやってこなかったことなどをたくさん盛り込んだので,サマーレッスンをすでに遊んでいるという人にも,ぜひ触ってほしいですね。
4Gamer:
どうもありがとうございました。
4Gamerの東京ゲームショウ2017特設サイト
- 関連タイトル:
サマーレッスン:新城ちさと 七曜のエチュード(基本ゲームパック)
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