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「シーマン」の斎藤由多加氏が「BitSummit 4th」の講演で語る,“ハマるゲームの三つの条件”そして“ゲームにおけるリアリティ”
講演は,聴衆の多数決によってテーマを決めるところからスタート。斎藤氏からは「1:新しいゲームの企画をどう考え出すか」「2:ゲームを面白くするにはどうすればいいか」「3:現在斎藤氏が手がけている人工知能の話」と三つの選択肢が提示され,聴衆の挙手が最も多かった2番に決まった。
斎藤氏はハマるゲームには三つ条件があり,これを取り入れるとその作品は必ず面白くなる……と語る。その条件とは“成長の要素がある”“性格が投影される”“プレイのノウハウが持続できる”ことであるという。
斎藤氏が個人的な例として挙げたのがトランプのポーカーだ。氏にとってポーカーは普通に遊んでもつまらないゲームなのだが,お金を賭けるととても面白く感じられるという。“賭ける”とポーカーが面白くなる理由として斎藤氏が挙げたのが,「ブタでも勝てること」。
ご存じの通りブタとは役が何も存在しない状態であり,普通に勝負すると絶対に勝てない。しかしブタであることを隠して賭け金をつり上げることにより,相手は“ここまで賭けるならよほど強い手に違いない”と勝手にビビって勝負を降りてくれる場合がある。
金を賭けることにより勝負の場における振る舞いに,プレイヤーの性格が投影されるようになったことで,斎藤氏はポーカーを面白く感じられたのだ。こうした性格,感情の機微はプレイを繰り返すほどに読み取りやすくなる。プレイヤーが成長,上達し,そのノウハウが持続できているのだ。
また斎藤氏は,ゲームを面白くするには“何かを教えてくれる”要素が必要だと考えているという。教えると聞くと文章がずらりと並んだ教育ソフト的なものを想像してしまうが,氏が言うのは直感的に知識を伝えるということ。作り手が個人的に教えたいと思っている情報を,ゲームというやりとりの中で伝えると,とても面白くなるのではないかと語った。
続いて,「ゲームにおけるリアリティ」についても言及。斎藤氏は,“3Dグラフィックスがリアルになること”と“ゲームにおけるリアリティの向上”は,必ずしもイコールになるとは考えていないという。また,ディスプレイに映る画像ではなく,人間の脳がリアルに感じるものがリアリティである考えているそうだ。
その実証として取り出されたのは,かつて斎藤氏が「The Tower」の続編を開発するにあたって作ったプロトタイプだ。ビルの様子を模式的に表現したもので,プロトタイプだけあってテクスチャも貼られておらず,グラフィックス的に極めてシンプルな状態である。
このプロトタイプを“リアル”にする方法があるが,それはグラフィックスを高度にすることではないのだという。氏が示した答えとはビルの中に,一人一人が独自の動きで行き交うたくさんの人々を表示すること。写真だと分かりづらいかも知れないが,グラフィックスが何か高度になっているわけではないのにとてもリアルに感じられた。ゲームにおいてリアル感を出すためにはどう表現すれば人がリアルに感じるのか,その方法自体も模索しなければならないというわけだ。
さらに斎藤氏は,「リアリティをグラフィックスに求めるとゲームは劣化する」と語る。「面白くないゲームを面白くするためにいろいろな要素を足しすぎると,プレイヤーが参加する余地がなくなってムービーと化してしまうことに,一番気をつけなければならない」と,講演を締めくくった。
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