イベント
[CEDEC 2016]感情を伴うデータで,より的確な運営を。「スマホゲーム分析の一歩先へ 〜ユーザー行動ログとユーザーの感情を結びつける新しい分析手法〜」をレポート
「CEDEC 2016」公式サイト
具体的には,開発サイドが抱く「どのようにゲームが遊ばれているか」「不満に思っているのはどこか」「どういうプロモーションならダウンロードしてくれるか」といった疑問に対して,ユーザーの声を分析して答えを導き出していくというもの。
ユーザーの声を聞くにはアンケートが使われるが,データ分析的な考え方や行動ログを組み合わせることにより,さらに役立つ情報が得られたり,隠れたニーズを浮き彫りにしたりすることができるという。片瀬氏は,DeNAのタイトルを例に,アンケートとデータ分析の組み合わせが役に立った事例を解説していった。
アンケートとデータ分析で
ユーザーの生の声を浮き彫りにする
■「逆転オセロニア」の事例
―データ分析によって,改修の優先順位が明らかに―
片瀬氏がまず挙げたのが,「逆転オセロニア」の例だ。同作ではリリースの1か月後という早い時期からユーザーアンケートを行ったが,リリース直後だけに開発者は手一杯。そこで,片瀬氏がアンケートとデータ分析を行い,ゲームのどこを優先して改修すべきかを探っていったという。
アンケートではゲーム全体への満足度は高かったが,ゲーム内の要素を20に分けて細かく調べたところ,満足度が低い部分がいくつか明らかになったという。
あとは,これらを直すだけ……とこれで問題が解決したように見えるが,これは「満足度が低く,早急に改善すべき部分」と「満足度は低いが,改修は急がなくて良い部分」が一緒になった状態だ。順にすべてを改善すればいいのだが,使える労力は限られており,時間もかかる。全体的な満足度を高めるには,まずどこを改めればいいのかをピックアップする必要があった。
ここで片瀬氏達が使ったのが,「CSポートフォリオ分析」だ。かいつまんでいうと,それぞれの要素に対する満足感と,全体的な満足感を関連づけるという手法になる。「ある要素への満足感が,ゲーム全体に対して感じる満足度にどれだけ影響しているか」とも言い換られる。
一口に「出来が良くない」(満足度が低い)と言っても,その性質はいろいろだ。枝葉末節の出来が少々悪くても,全体の評価にはさして影響を与えないので,急いで直す必要性は低い。しかし,出来の悪さがゲームの根幹に関わる部分なら,早急な修正が必要になる。「CSポートフォリオ分析」を使えば,その両者を見極めることができるというわけだ。
結果として,修正後のアンケートでは総合満足度もアップしたことが確認できたという。
■「キン肉マン マッスルショット」の事例
―誰に向けて,どんなCMを作るべき?―
「キン肉マン マッスルショット」で,サービス開始から1周年を記念してテレビCMを放映することになった。問題になるのは「どんなCMを作るべきか」という点だ。
キン肉マンのファンに向けたものであることは当然だが,では,彼らはどんな人達で,どうすればゲームをダウンロードしてくれるのだろうか。原作マンガは37年の歴史を持ち,そのためファン層も多様。また,CMの長さはわずか15秒で,無駄な要素を入れる余裕はない。
しかし,漠然としたアンケートでは,あまり参考にならないデータが集まってしまう。精度を上げるにはセグメンテーション(分類)が重要になると片瀬氏は言う。
そのためアンケートでは,回答者をキン肉マンのファン別に「コア」「ミドル」「ライト」「認知だけ」に分けた。
アンケートの対象者数としては「認知だけ」が最も多くなり,「コア」なファンになるほど数が減る。しかし,大切なのはそれぞれのセグメントで,どれだけの人がゲームを遊びたいと思っているかだ。その比率は,認知しているだけの層で1%になのに対し,コアファンは90%に達した。この結果を踏まえて,CMはコアファンをターゲットにすることとなった。
また,コアなファンが最も強く反応したのが「超人達のミニキャラが登場すること」だったため,CMでもミニキャラが前面に押し出されることとなった。
放映後の追跡調査では,目標を上回る新規ダウンロードを達成したうえ,増えたユーザーの中で最も多かったのがコアなファンだった。そして彼らの多くがダウンロードの理由として「ミニキャラが動いている」ことを挙げているという。
以上から片瀬氏は,適切にセグメンテーションしたうえでそれぞれに質問を投げかけることにより,「絶対数は少ないかもしれないが,ゲームを遊ぶ意欲が高い人の割合が大きい」層を浮き彫りにできたと述べた。
行動ログとアンケートを組み合わせて必要な情報を得る
ここまでアンケートの有用性を解説してきた片瀬氏だが,アンケートには弱点もあると指摘する。
例えば,「どれだけ戦闘を行ったか」といったゲーム内の行動については,記憶を頼りに答えなければならないので,正確なデータは取りにくい。
また,ユーザーをログインの頻度で分類したい場合,アンケートに「あなたはヘビーユーザーですか?」という項目を設けても,正確性は低い。どこからがヘビーユーザーなのかは,人によって基準が違うためだ。
ここで役立つのが,ユーザーがゲーム内でどんな行動を取ったかのを記録した「行動ログ」で,アンケートではうまく抽出できないようなデータも,行動ログなら一目瞭然になる。「どれだけ戦闘を行ったか」は正確な回数が記録され,「ヘビーユーザーであるかどうか」はログイン頻度や時間を見ればいい。
行動ログを元にセグメンテーションを行い,満足度など,ユーザーの感情を掴むためにはアンケートを使う。両者を組み合わせれば,ユーザーをより深く理解できるのだ。
ここからさらに問題を追及していくことも可能だ。例えば,満足度の低いイベントに参加していたユーザーを行動ログでピックアップし,ログイン日数などで「ヘビー」「ミドル」「ライト」に分類。そのうえで,イベントの不満点をアンケートで探れば,それぞれの層が抱えている異なる不満が抽出できる。
さて,開発者として気になるのが,「なぜゲームを止めてしまったのか」というものだろう。これはなかなか探りづらく,アンケートを取りたくても,対象となる人はもうゲームをやっていないし,かつてのユーザーを集めるにも限界がある。
とはいえ,行動ログと定期的なアンケートを組み合わせれば,その理由はある程度推察できると片瀬氏は言う。行動ログでゲームを止めたユーザーを見つけ,その人が以前,アンケートにどう答えていたかを調べるのだ。
最後に片瀬氏は,アンケートとデータ分析,行動ログを組み合わせたマーケティングリサーチは,ゲームの開発や運営だけでなく,プロモーションなどにも役立てられると総括して,講演を締めくくった。
「CEDEC 2016」公式サイト
4Gamer「CEDEC 2016」記事一覧
- この記事のURL: