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[CEDEC 2014]働きながら本を書くにはどうすればいいのか? そんな疑問に答える講演「執筆のススメ 〜会社勤めをしながら著述賞をとる方法〜」
会社勤めをしながら本を書き,しかも賞までもらってしまう。なかなか難しそうなことだけに,成しとげた人がいるなら,ぜひとも話を聞いてみたい。と,そんな人達の興味を満たしてくれそうなタイトルだ。
バンダイナムコスタジオ HE開発統括本部 HE第2開発本部 HE開発3部 HEプログラム2課 リードグラフィックスプログラマの堂前嘉樹氏 |
バンダイナムコスタジオ HE開発本部 HE技術部 HEソフトウェア2課 プログラマーの加藤政樹氏 |
4Gamer「CEDEC 2014」記事一覧
登壇したのは,バンダイナムコスタジオ HE開発統括本部 HE第2開発本部 HE開発3部 HEプログラム2課 リードグラフィックスプログラマの堂前嘉樹氏と,同HE開発本部 HE技術部 HEソフトウェア2課 プログラマーの加藤政樹氏の二人。堂前氏は「ゲームを動かす技術と発想」という本を,また加藤氏は「ゲームの作り方 Unityで覚える遊びのアルゴリズム」という本を書いた。
「ゲームを動かす技術と発想」は,プログラマーではない人や学生をターゲットにゲームの内部動作を分かりやすく解説した本で,また「ゲームの作り方 Unityで覚える遊びのアルゴリズム」は,Unityで作った10種のミニゲームを題材に,ゲームにおける感覚的な面白さをいかにして理論的なプログラムに落とし込むかをテーマにした本になっている。内容はもちろんのこと,いずれも“仕事をしながら執筆したこと”が評価され,共に「CEDEC AWARDS 2013」の著述賞を受賞している(関連記事)。
堂前氏が本を書くに至ったきっかけは「プログラマ以外の人がゲームの内部動作を知ることで,よりよいゲーム開発ができるのではないか」と考えたことだそうだ。同時に,開発チームの一員として評価されるのではなく,個人として評価されたいという思いもあったという。
「ゲームを動かす技術と発想」は,堂前氏がほぼ一人で書き上げた。
「サボり癖がある」ことを自覚している堂前氏だけに,会社の業務をこなしながら執筆時間を作れるのだろうかという不安はあったが,これはiPadで解決したそうだ。
PCを使った場合,執筆の前にそれなりの覚悟が必要だが,iPadならどこでも書くことができて精神的に楽だったという。「執筆オフィス」として使われたのは主に通勤電車だ。普通電車なら確実に座れたし,遊ぶものもないので気も散らないということで,約1時間の通勤時間をiPadによる執筆にあてた。「自分を追い込んで無理矢理に時間を作ること」が重要だったと堂前氏は語った。
執筆前から,読者のターゲットを学生やプログラマーでない人に絞っていた堂前氏。「難しすぎず,やさしすぎない」という目標を達成するために,マインドマップを使用した。
マインドマップとは,アイデアの軸を中心に,キーワードやイメージを放射状に広げていくことで思考を整理する手法だが,堂前氏の場合は書名を中心に,解説すべき項目をキーワードとして広げていった。内容をマインドマップ化することにより,自分が書こうとしている本の全体像が見え,難しすぎる話題をカットするなど,項目の刈り込みも行えた。
次に問題となったのが,図版の用意だ。分かりやすい説明には図版が必要だが,堂前氏には絵心がなかった。そこで,ある程度割り切って,iPadなどで使えるプレゼンテーションソフト「Keynote」を使うことにしたという。あらかじめ用意された四角や丸といった図柄を組み合わせて図版を作成するというソフトだが,最終的に500枚もの図版を作成することができたのだから,成果としては上々だった。
加藤氏の場合は,「自分が先輩からプログラム作りを教わったように,今度は次世代に何かを残したい」と思ったことが本を書くきっかけだった。以前から著作に興味のあった加藤氏だが,執筆経験がないことから躊躇していたという。そんな加藤氏を決心させることになったのが,これまでの経験と「先を越されたくない」という思いだったという。
加藤氏は仕事中に「一発ネタ」的なゲームのアイデアを書くことが多いのだが,なかなか制作には至らず,ほかの人が同じようなものを作って世に出すたびに,悔しい思いをする……ということを繰り返していた。
「どんなに独創的なアイデアでも,思いついたのが一人だけということはない。最初に形にした人こそ“生みの親”になれるのだ」と加藤氏は述べ,このまま躊躇していては,自分の構想と同じような本が出版されてしまうに違いないという思いから,不安はあったものの「見切り発車」で著作を決意したという。
加藤氏が「ゲームの作り方 Unityで覚える遊びのアルゴリズム」にを構想したのは,Unityが本格的なゲーム開発に使われ始めた頃のことで,インディーズ的な感覚を愛する加藤氏としては,Unityを使った個人制作がもっと話題になってもいいのではないかと思っていたという。
「開発効率を上げるような話ばかりではなく,もっと夢のある話もしたい。たとえそれが“車輪の再発明”でも,モノ作りを楽しむような感覚があってもいいのではないか」という考えから,「DIY(自分で作る)」という本書のコンセプトが固まった。
堂前氏がほぼ一人で本を書き上げたのとは対照的に,加藤氏は多くの人を巻き込んで10種類のミニゲームを作った。Flashで作ったイメージムービーをUnityでゲームにしたり,プランナーが作ってきたプロトタイプをUnityで完成させたりと,さまざまなやり方でゲームを作っていったそうだ。
感想は,肯定的なものだけでなく否定的なものもあったが,どちらにしても書いた苦労が報われたように感じられた。また,想定した読者層ではなかったが,ベテランプログラマーから誉められるといった,意外な喜びもあった。ただ,社内ではそれほど話題にならなかったらしく,「もっと自分から売り込んでも良かったのではないか」ということが反省点だそうだ。
加藤氏の場合は,社内でもUnity関連で声をかけられることが多くなり,Unityを使ったゲームジャムにも運営側として招かれて,参加者がゲーム作りを楽しむ姿を間近に見て,感銘を受けた。また,加藤氏に続いて,本の執筆に挑戦する人が出てきたという。
これから本を書こうと思っている人に対して堂前氏は,業務外の時間を使って書くとしても,前もって会社の許可を取ることが大事だ述べた。なにより,本業の仕事をキッチリこなすことが重要であり,体力的にも辛いことがあるが,「頑張るしかない」とのことだ。
読者のターゲットもしっかり絞り込み,情報の量がただ多いだけではなく,必要な情報が高い密度でまとめられていることが重要である,と堂前氏はまとめた。
加藤氏は,「迷っているなら,すぐに始めてください。迷うのは時間の無駄」とアドバイスした。やる気を出すことは手伝えないため,最終的には自分自身が奮起するしかない,という。
「考えるのではなく,感じてください。“見切り発車”でもいいので,最初の一歩を踏み出してください。一生懸命やっているなら,助けてくれる人は必ず現れますから」と,受講者達に熱いエールを送り,講演を締めくった。
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