インタビュー
スマホゲームの開発費は“平均”で1億超え。2014年オンラインゲーム市場の知られざる数字を,JOGAに直接聞いてみよう
スマホゲームの開発費は,アベレージで1億円超え
4Gamer:
そんな,ちょっと厳しいスマホマーケットの実情が見えてきたところで,気になるのは開発費なんですが,スマホゲームの開発費って,やはり平均して高騰傾向にあるんでしょうか。
川口氏:
相当高騰していますね。我々の調査によると1タイトルで,平均1億円を超えています。
4Gamer:
2億3億いってるのがあるのは知ってますが,「平均で1億超え」というのは,またちょっと重みが違いますね……。
川口氏:
そうなんです。いまや平均で1億超えなんです。
「チェインクロニクル」(iOS / Android)が登場したあたりから,見るからにお金のかかってそうなタイトルが増えてきましたよね。その後,大手が出すものは相当なコストがかかっているわけですが,ついに“アベレージ”で1億円を超えてしまったわけですか……。このご時世に資金調達で1億を用意するというのは結構大変ですよねえ。
植田氏:
しかも1億の売上を上げるのも結構大変ですし,売り上げただけじゃ赤字ですからね。
4Gamer:
その挙句に,上位陣に集中してARPPUが高いというのは……。
川口氏:
セールスランクのベスト3って,1年以上にわたってあまり変わってない気がするんですよ。
4Gamer:
24時間ほぼずっと持っている“ゲーム機”で,大半のものは無料で気軽に始められるのに,逆に一極集中を起こしちゃうんですね。
植田氏:
一極集中化した背景には,セールスランキングの存在があるとは思いますけどね。
海外への展開において重要なポイントは?
4Gamer:
ところでJOGA的には,来年も同じ%で伸びていくという見立てなんでしょうか。
植田氏:
昨年と一昨年が飛躍的に伸びた年だったので,さすがに同じ伸び率ではないんじゃないかと思っています。
みなさん先刻承知のとおり,“化け物タイトル”の存在が大きいと思うんですよね。これに匹敵するような新たな化け物タイトルが出てくるとマーケットも変わると思いますが,さすがにそう簡単に生まれるようなものではないでしょうし。
4Gamer:
その化け物タイトルを生んだ会社さんですら,生み出せてはいないわけですし。まぁもちろんそれが果てしなく難しいことであるのは重々承知してますが。
植田氏:
結構厳しいマーケットになりつつありますが,その存在感は,今までと比べ物にならないほど大きくなったのもまた事実です。一つでもヒット作につながれば,企業としてのインパクトがとんでもないことになるわけで。
4Gamer:
ゲーム作りってもともと博打みたいな部分を持ってますが,それにしたってスマホは博打の度合いがずいぶんと強くなってる感はありますね。業界のルールが変わっちゃったから,戦い方まで変化しちゃってて,なんかちょっと不安になります。
植田氏:
でもスマホが,この先もしPCのオンラインゲーム的なものになっていくのであれば,“運営の力”というものが非常に大きくなってくると思います。そうなると,結局その“戦い方”も原点回帰していくんじゃないですかねえ。
4Gamer:
国産だと「パズル&ドラゴンズ」(iOS / Android)なんかは運営重視に見えますね。あれってもともと「RO」(ラグナロクオンライン)の運営チームがやっているという話を聞いたことがあるんですが,オンラインゲームを分かっている人達が運営しているわけで,そういう部分はガンホーの強みかなぁ,と。
日本がそういう方向に行くのはなんとなく納得ですが,一方で「Clash of Clans」(iOS / Android)のような,欧米産の強いゲームって,なんで何も“運営”がなくても平気なんでしょうかね。
植田氏:
逆に,システムだけで長く続けさせるのは,素直に凄いと思います。
4Gamer:
しかしそういう好みの違いみたいなものが分からないと,例えば国産アプリを海外に出すにしても,逆に海外から持ってくるにしても,なかなか成功には結びつかないんじゃないかな,と思います。
植田氏:
そこはJOGAのほうでもいろいろ支援を行ってますよ。日本の企業同士や,海外企業とのマッチング,海外への売り込みとか。日本国内だけではなく,海外での売上もキッチリ上げてもらうために,側面的な支援というものをさせてもらっています。
アイルランドやヨーロッパ,カナダなどさまざまな国が支援をしていて,そういった国の支援の紹介などをさせてもらってます。
4Gamer:
どんな結果が出てますか?
植田氏:
現時点ではまだ十分な成果は上がっていませんが,スマホの時代になって,国内で開発したものを海外に……ということを,皆さん積極的にやり始めました。PCオンラインゲームの時代は,海外のタイトルを日本に輸入してサービスする会社が多かったのですが,これは時代の流れによる変化でしょうね。
4Gamer:
ちなみに世界的にはどういったものが人気なんでしょうか。
植田氏:
いわゆるジャパニメーションテイストの系統は受け入れられやすいですね。
4Gamer:
あぁ,なんか分かる気はします……。ということは東南アジアとかも結構積極的に?
川口氏:
ええ。皆さんが知りたがっているのは,やはり中国市場への進出の仕方ですね。PCオンラインゲームにしても,スマートフォンゲームにしても,やはり東アジアがメインですね。
4Gamer:
これから伸びていくのはどのあたりの地域ですか。
川口氏:
ベトナムとインドネシア,タイ……あたりは皆さん挙げますね。すでにタイはマーケットが立ち上がっていますが,タイの次に人口が多いのはベトナムとインドネシアになります。こうした状況ですので、2015年5月にはベトナムの団体と協力関係を作り,先方と企業情報のやりとりを始めました。
植田氏:
ベトナムは平均年齢が非常に若くて,インドネシアは人口が多いんですよね。
4Gamer:
しかしそのあたりの国々は,まだインフラ周りが整備されていない印象なんですが,実際にはどんな感じなんでしょう。日本にいるとなかなか実感が湧かないんです。
植田氏:
お察しのとおり,インフラはまだまだ弱いですね。あと問題になるのは決済の部分です。クレジットカードを所持していないプレイヤーの問題をどうするか,とかそういうところを一つずつクリアしていかなくてはなりません。キャリアの課金を利用するにしても,その手数料がめちゃくちゃ高いですし。
4Gamer:
ちなみに「めちゃくちゃ」ってどのくらいなんでしょうか。
植田氏:
地域によっては,平気で50%を取るところもありますね。
4Gamer:
一部の中国パブリッシャより優しいかも……。
しかし日本のゲームって速くて充実したインフラと,高性能な機種を念頭に作ってあるでしょうから,いざ持っていこうとするとそっちの問題のほうが大きそうですけどね。
……逆に,海外から日本へのライセンスアウトって,JOGAは支援するんですか?
海外から日本への進出のケースは結構多いですよ。また海外からダイレクトにこの企業を紹介してくれという話もありますし。会員企業の場合はご紹介しています。
植田氏:
サポート……という形ではないですけど,業務提携を結んでいる,各国の同じような業界団体がいくつかあります。韓国や台湾,ベトナム,そしてエジプトなど,だいたい10か国くらいでしょうか。
4Gamer:
海外から売り込みをかけられることも多いわけですね。
植田氏:
まぁでも業界の方ならお分かりいただけるかと思いますが,そうはいってもやっぱり「どう考えても無理です」と言いたくなるような“難しい売り込み案件”というものもあるんですよね。我々のほうで,そういうものはフィルタリングをしたうえで皆さんに紹介していますが。
ほかに海外の支援では,JETRO(ジェトロ:日本貿易振興機構)さんともやりとりしていて,JETROさんが海外でセッティングしてくれたり,もしくは海外企業を連れてきて商談会を行ったりしています。
川口氏:
年1回,JETROさんと共同開催でマッチングイベントもやってますよ。
4Gamer:
1つ何かが流行るとみんな同じものを作っちゃうので,いろんな国のいろんなエンターテイメントを見て,もうちょっと選択肢の多いマーケットになってほしいですね。スマホが世界最大のゲームプラットフォームであることは,もはや間違いないわけですし。
植田氏:
グローバル視点で見れば,まだまだチャレンジしがいがありますよね。
JOGAの新たな試み「スタートアップベンチャー」
4Gamer:
しかし支援という話で言うなら,そもそもJOGAの原点となる主旨は,10年ほど前の設立時から「ベンチャー支援」でしたよね。
植田氏:
そうですね。それは今も昔も変わっていません。
4Gamer:
今まで聞いてきたような話は,ベンチャーというよりは,やはり「すでに動いている会社」のための支援だと思うんですが。
植田氏:
確かにそうですね。でも最近では,改めてキチンとそこにフォーカスしてみようということで,新規オンラインゲーム関連事業者向けにスタートアップベンチャー支援プログラム(関連記事)を,今年の6月から始めていますよ。
JOGAの入会って,そこそこ条件が必要だった気がしますが,新規のベンチャーが満たせるものでしたっけ?
植田氏:
おっしゃるとおりJOGAの入会にはもろもろの条件があるのですが,この障壁を低くして,支援プログラムという形で入会できるようになっています。
4Gamer:
なるほど。どんなことを“支援”してくれるんですか?
川口氏:
企業経営や企業会計関連企業によるサポートを含めてパッケージ化している感じですね。例えば,マイクロソフトさんがAzureというサーバーを提供するとか,JOGAで開催している国際会計基準や景表法(景品表示法)の情報共有会等に参加できたりします。ゲームを作るイベントは数多くありますが,どうやってビジネスにしていくのかというところをサポートしてくれるものがない。そこを会員企業のみなさんがフォローするという仕組みです。
植田氏:
PCオンラインゲーム主流のときには,ハッキングに対してどのように対応するかの勉強会なんかもやりましたね。セキュリティに関しても10年ぐらい積み重ねてきた知見もありますし。そういったオンラインゲームビジネスに必要なスキルやノウハウをある程度提供していく予定です。
4Gamer:
入会金はおいくらほどでしょう?
植田氏:
会費制なんです。年間5万円です。
4Gamer:
内容を考えると割と安い気がする……かも?
それで,その低くなった障壁(=入会条件)はどんなものなんでしょうか。
植田氏:
設立後3年以内であることがメインです。一応の審査はさせていただきますが。あと,このサポートを受けられるのは,入会から2年間のみです。
4Gamer:
2年間という設定には,どんな理由が?
植田氏:
ある程度ビジネスが安定するであろう2年ほどで,本会員のほうに移っていただければと。
4Gamer:
まぁ2年あれば白黒ハッキリしてることは多そうですね。
植田氏:
設立から数年で上場するような会社もありますから。新しいタイプのゲームを提供したり開発するベンチャー企業の登場で,業界がさらに活性化していけばいいと思います。
4Gamer:
今後ほかに,こういう活動を増やしていく可能性はありますか? 激しい速度で変わりゆくゲーム業界においては,こういう団体の存在意義はそれなりに大きいと思うんですが。
あくまでも我々は脇役にすぎないので,状況を見極めながら会員企業のニーズに応えていくつもりです。まぁいまはプラットフォームが乱立してて,非常に難しい時代だと思いますけどね……。
4Gamer:
この“過渡期”はちょっと続きそうですよね。
植田氏:
そういうときこそ,会員企業同士あるいは海外とのネットワークが有効だと思うんです。ゲーム業界に限らずエンタメコンテンツは“答えのない市場”ではありますが,過去の事例や海外の状況を見ると,意外に見えてきたりしますし。
4Gamer:
歴史は繰り返しますよね。
植田氏:
例えば,海外で売れているゲームと日本で売れているゲームはやっぱり違いますし,一方で海外でも日本でもヒットする可能性というものもあります。例えば中国で人気のMMORPGが,日本に上陸して大旋風を巻き起こすかもしれませんし,その逆だってありえます。
4Gamer:
確かにそうですね。
植田氏:
そういった意味でも,一つのものに固執することはせず,オンラインゲームというくくりを持って,産業振興に役立つようなことを愚直に続けていこうと思います。
派手なイベントをやったりすることがないので,JOGAの活動内容はあまり知られてはいないと思うんですが,各企業にとってタイムリーに役立つ情報共有会といったことを,フットワーク軽くやってきてるんですよ。
JOGAは規制団体ではない
4Gamer:
例えばもっとも最近だと,どんなことしてるんですか。
植田氏:
今取り組んでいるのは,PCオンラインゲームが主流のときに作ったガイドラインの改訂です。かつてコンプガチャの騒動があったときに改訂版を出したんですが,今の時代に沿うようにしなければなりませんし。
4Gamer:
まぁ,どんどん状況も変わっていきますもんね……。
植田氏:
変わりますし,解釈の違いという問題も出てきました。コンプガチャの騒動から3年が経って,プレイヤーもどんどん入れ替わっていますが,運営側がきちんとガイドラインを理解してサービスしなければと思いますので。スマートフォン全盛の時期ということもありますし。
4Gamer:
そのあたりの話題で,最近何か特殊な問題とか起こったりしてますか?
景表法が変わって課徴金が課されるようになるとか,かなりハードルが上がってしまってる感はありますね。
4Gamer:
景表法,結構難しいですよね……。しかもあれがあるがゆえに,いろいろと足かせも多いですし。そのあたりの問題に関しては,逆のアプローチという線はないんですか? ロビー活動をして議員立法で法を作ったり,またはいまのものを変えたりとか。
植田氏:
我々は規制団体ではないので……。あくまでも自由資本の中で,大人のビジネスをしていくといいますか。
4Gamer:
意図せぬ規制をされる前に,意図的な規制を作るというのは,理想的ではないにしても,一種の解決だとは思うんです。
植田氏:
私は逆に,規制されないようになんらかのアラートを出せるといいかな,と考えてます。「ウチの子供が何十万円も課金してしまった」だとかそういったことが続くと,どうしても規制の動きが進みますからね。
4Gamer:
そうなりますよね。
植田氏:
かつてコンプガチャに関しては規制をしたわけですが,ああいう状態になる前に,本来であれば各社に自浄作用が働くべきだったな,と今になって思います。また逆に,規制を作ったら作ったで「規制の範囲内であれば何をしても良い」という考え方をする人も出てきますし。
4Gamer:
あぁ……いますよね,そういう人。
植田氏:
規制の範囲内であっても「さすがにこれはひどくない?」という売り方ができたりしますし。やはりそこは履き違えないでほしいと思います。
来年のオンラインゲームのキーワード
4Gamer:
さて,ゲーム業界を外から見ている個人や団体ってそんなに多くないと思うんですが,そんなJOGAのお二人が考える,「オンラインゲームにおける今後のキーワード」ってなんでしょう?
植田氏:
e-Sportsですかねえ。ちょうど会員企業でe-Sports関連の会社がいらっしゃるので近々セミナーを行う予定です。
川口氏:
リアルイベントとPCやスマートフォンのゲームの連動で効果を上げている,ガンホーさんやKlabさんのような会員企業もいらっしゃるので,会員企業のゲームの活性化のためにe-Sportsとの連動ができないかと考えています。
4Gamer:
プレイヤー人口も増えてきて,e-Sportsというものに対する理解も以前よりは深まってきて,ようやく土台が完成……するかな? という感じですよね。
植田氏:
日本ではまだそんな感じですが,もちろん世界的に見ればe-Sportsのマーケットは無視できないレベルです。それを示すようにe-Sportsのマーケットは6億ドル(約750億円)を超えるといわれてますし,PC用のゲーミングデバイスの市場規模は,年を追うごとに拡大していますから。
4Gamer:
結構ありますね。それぐらいシビアにゲームをやる人が増えているということなのかな。
植田氏:
スマホゲームとはまた違った楽しみ方を味わえると思うんですよね。
4Gamer:
確かに「本気で真剣にプレイするゲーム」ならではの面白さはありますね。
植田氏:
マネタイズに関する問題は残っていますが,単純に“面白い”という部分にフォーカスするのは良いと思うんですよね。それがゲームの寿命を大きく伸ばす要因になるでしょうし。
4Gamer:
では,JOGAはe-Sportsが「くる」と思っているという見解を聞けたところで,区切りをつけたいと思います。本日はありがとうございました。
──2015年7月17日収録
日本オンラインゲーム協会(JOGA)公式サイト
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