イベントで展示されていたXG Station
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ASUSTeK Computer(以下ASUSTeK)は,2007年3月31日に秋葉原で開催されたユーザー向けイベント「ASUS春のフレッシュフェア」で,「XG Station」の開発途上版サンプルを公開した。 XG Stationは,ASUSTeKが持つゲーマー向けブランドの一つ,「ASUS Gaming Series」に属する製品で,一言でまとめるなら,ノートPC向けの外付けグラフィックスカードだ。今回4Gamerでは,イベントの終了後,台湾へ返送されるまでのわずかな時間ながら,世界に一つしかないとされるこのサンプルに触れる機会を得た。果たしてXG Stationとは何なのか,そして,ノートPCでゲームをプレイする人達にどんなメリットをもたらしそうなのかを,一足早く探ってみたいと思う。
■ExpressCard接続の外付けPCIeボックス ■+グラフィックスカード+USB&サウンド=XG Station
開発途上版XG Station概観。電源はACアダプタから取る仕様だ。ノートPCとはExpressCard/34で接続
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さて,「ノートPC向けの外付けグラフィックスカード」と言われても,なかなかイメージしづらいかもしれないが,もう少し具体的に説明するなら,ExpressCard※接続の外付けPCI Expressボックスに,グラフィックスカードが差してあるアイテム,ということになるだろう。ノートPC側のExpressCardスロットに差すことで,ノートPCとPCI Express x1接続。これにより“外付けグラフィックスカード”というか,外付けの描画ユニットとして利用できるという理屈だ。
本体にはボリュームコントローラが用意されており,ここからGPU(グラフィックスチップ)やグラフィックスメモリチップの手動オーバークロック設定が可能。XG Stationには別途,USB 2.0×2およびサウンド入出力端子(ピンジャック)が用意されており,ゲームプレイ時にはXG Stationにお気に入りのキーボードやマウス,あるいはヘッドセットなどを接続できる。
カーボン調のデザインになっているXG Stationの外観。ボリュームコントローラの横にあるミラー状のスペースは,オーバークロック設定時の内容を反映する部分のはず(断言していない理由は後述)。USBおよびサウンド入出力端子が用意されているのも特徴だ。メッシュ部分は外気を入れるための吸気口。ASUS Gaming Seriesのロゴマーク部分も吸気口になっている
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XG Stationの接続例(左)。通電中はXG Station内部の青色LEDなどが光る。この状態で,XG Stationとディスプレイを接続すると,ディスプレイにXG Stationの描画内容が出力されるという仕組みだ。右は接続のイメージ図。ヘッドセットなどもXG Stationと接続することが想定されているのが分かる
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XG Stationの内部。比較的シンプルな構造だ。ASUS Gaming Seriesのロゴ裏に,小型のファンが用意されているのも分かる。ちなみにこのファンは吸気用だった
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開発途上版らしい,“手作り感”のある筐体を開けてみると,中にはPCI Express x16スロットが用意されており,「GeForce 7900 GS」搭載のASUSTeK製グラフィックスカードが差さっていた。前述したとおり,このPCI Express x16スロットは1レーン接続になるが,「GeForce 7600 GT,クロックアップ版GeForce 7900 GT,GeForce 7900 GTXを利用したテストで,x1接続でも,x16接続の約80%程度のパフォーマンスは出た」(ASUSTeK)とのこと。製品版では,GeForce 7900 GS以外のグラフィックスカードを採用する可能性も十分にあるという。 実際,XG Stationは2スロット仕様の大型クーラーを採用したモデルにも対応できる構造になっているので,(電源容量さえ許せば)ハイエンドモデルも利用できそうだ。また,大型のファンを利用したミドルレンジクラスのカードを静かに運用するという可能性もあるだろう。なお現時点では,XG Station単体で販売される予定はなく,何らかのASUSTeK製グラフィックスカードとセットになるとされている。
カードを外した状態で,別の角度から。GeForce 7900 GSカードのカード長は約198mmだが,外部電源コネクタを利用して給電しても,長さには余裕があった。カードの裏側によほど大きな突起があったり,外部電源コネクタの位置が特殊だったりしない限り,「GeForce 8800 GTS」以下のサイズであれば差せそうな気配だ。ちなみに差さっていたカードは市販の「EN7900GS/2DHT/256M」とまったく同じもののように見える
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VX1 Golden Editionでインストールしてみた例。この後,GeForce Go 7400だけ無効化したり,ドライバを削除してみたりしたが,状況は変わらなかった
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およそどんなものか分かってきたところで,ここからは実際にベンチマークテストを……と思ったのだが,今回用意したASUSTeK製ノートPC「S6F キャメル」と「VX1 Golden Edition」の両製品では,残念ながら正常に動作しなかった。両ノートPCのいずれも,ホットプラグで「Windows XP」から認識はされたものの,XG Station専用ドライバとして開発途上版に付属していた「ForceWare 93.51」をインストールすると,「空きリソースが不足している」というメッセージが出てしまったのだ。
内蔵グラフィックスコアのドライバを削除してみても状況は変わらず。時間的な制約もあり,これ以上の検証は行えなかった。もっとも,XG Station専用版ForceWareが内蔵グラフィックスコア用ドライバとバッティングしただけのような雰囲気だったので,製品版でこの問題に対処したドライバさえ出てくれば,ExpressCard/34搭載ノートPCに――すべてかどうかはともかく――対応するのではなかろうか,といった印象である。 なおASUSTeKいわく,現時点では国内未発売の同社製ノートPC「W3」で動作確認済み。ただし「“ASUSTeK製ノートPC専用”ではない」とのことで,他社製ノートPCで動作する可能性は十分にありそうである。
左:XG Stationは,ドライバのセットアップ後に,別途制御ソフトをインストールすることによって,本体のインジケータが利用可能になるとされている。そのため今回は,インジケータがどう動くか分からなかった。残念
右:一方ハードウェア的には問題なく動作しているようで,オンボードのUSBコントローラは問題なく動作していた。今回はそこまで試せていないが,サウンド入出力機能は,C-Media Electronics製のUSB Audioチップによって提供されている
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ASUSTeKの広報担当者によると,XG Stationは2007年5月以降に発売予定。搭載するカードが決まっていないため,当然のことではあるが,価格は未定だそうだ。開発途上版での対応OSはWindows XPのみで,「Windows Vista」用ドライバは開発中という。
「果たして何に使うのさ?」と疑問に思う人はいるかもしれない。だが,最近ではノートPCのほうがPC初心者には人気が高いこと,そして,日本国内で販売されているノートPCのほとんどは,3Dグラフィックス機能が貧弱であることを考えると,その答えが見えてくる。 PCI Express x1接続なので,デスクトップPCとまったく同じ3D性能は実現できないと思われるが,それでも,単体のグラフィックスカードであれば,ノートPCのオンボードグラフィックス機能とは次元の違うパフォーマンスを発揮可能。「高いスペックのノートPCを買ったはずなのに,3Dゲームを快適にプレイできなかった」とお嘆きのPC初心者層や,後からノートPCで3Dゲームをプレイしたくなったような人にとって,XG Stationは,福音となる可能性を秘めているというわけだ。
その意味において気になるのは,やはりコストと互換性。ASUSTeKにはぜひ,誰もが納得できる価格と仕様で製品化してほしいところである。(佐々山薫郁)
イベントでは,本邦初公開となるXG Stationにユーザーが群がった。端で聞いていた限り,「ASUSTeK製ノートPC以外でも動くのか?」という質問が,非常に多かった。右はイベントを訪れた報道関係者に公開された,「GeForce 8800 GTX」搭載の水冷&クロックアップ版カード「EN8800GTX AquaTank/HTDP/768M」。予想実売価格10万円前後で,限定的に出荷される見込み
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※PCMCIAという業界団体が策定した,ノートPC用拡張カード規格のこと。最近の,PCI Express世代のチップセットを採用したノートPCの一部で採用が始まっている。内部インタフェースはPCI Express x1もしくはUSB 2.0で,どちらか一方が使用される。カードサイズは34mm(ExpressCard/34)または54mm(ExpressCard/54)で,5mm厚,75mm長は共通。ExpressCard/54スロットでは,ExpressCard/34カードも利用可能だ。なお,それまで一般的に用いられてきたPC Card(PCカード,俗にPCMCIAカードとも呼ばれる)の後継という位置づけとなり,PC Cardとの互換性はない。
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