波乱に次ぐ波乱。GIGABYTEのOC大会,国内決勝戦レポート
大会当日のスケジュール。参加者に与えられた時間は1時間で,CPU 2個のオーバークロック動作を行わねばならない。最高到達クロックを競うのはもちろんだが,時間との戦いという側面もある
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GIGABYTE UNITEDによるエンドユーザー参加型オーバークロック大会「GIGABYTE Intel P35 アジア地区オーバークロッキング大会」。その国内決勝戦が2007年8月24日に開催された。予選を勝ち抜いたDAKARA氏,Cal930氏,ROCX氏の3名が,GIGABYTE UNITEDの日本支店である日本ギガバイトユナイテッドに集い,熱く静かな戦いを繰り広げることとなった。
■わずか1時間でCPU 2個のOCを行う ■国内決勝戦のレギュレーションを確認
イベント概要の詳細については2007年7月20日の記事を参照してほしいが,簡単に振り返っておきたい。今回のイベントは,GIGABYTEブランドのIntel P35 Expressチップセット搭載マザーボードを利用して,アジア地区ナンバーワンの“オーバークロッカー”を選出しようというもの。決勝大会は2007年9月14日から17日の日程で,中国の北京市で開催される予定だ。
国内決勝戦のレギュレーションは,基本的に予選と同じ。「スーパーπ」104万桁の完走を「オーバークロック成功」と見なし,完走時のスクリーンショットを,「CPU-Z」の実行結果とセットで保存し,提出する必要がある。 国内決勝大会で用いるのは,「Core 2 Duo E4300/1.80GHz」(もしくは「Core 2 Duo E4400/2GHz」)と「Core 2 Duo E6850/3GHz」の2製品。いずれも参加者による持ち込み可なので,言い換えると,オーバークロック耐性を参加者自身がチェックしたCPUを持ち込んでの戦いとなるわけである。 参加者に与えられた持ち時間は(セットアップおよび定格クロックでの動作確認を除いて)1時間。1時間内にCPU 2個のオーバークロック動作を行い,到達した最高クロックを競うというルールになっている。
■工夫を重ねた銅製容器+液体窒素で ■オーバークロックに挑むDAKARA氏
「クリPro4」と呼ばれる銅製容器(銅枡)
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くじ引きで先発となった,DAKARA氏のトライからレポートしていこう。DAKARA氏が持ち込んだのは,究極のオーバークロックでは定番ともいえる液体窒素と銅製容器である。液体窒素を注いで冷却する銅の容器の構造については「秘密」とのこと。CPUに接する部分の構造が,CPUの温度をコントロールするために重要なのだそうだ。 液体窒素という扱いづらい冷却材を使うだけにCPUの換装は簡単ではなく,DAKARA氏は2種のCPUのためにPC2台を持ち込んでいた。
2台のPCを持ち込んだDAKARA氏。2台とも,CPUソケットの周りには結露防止の断熱材が置かれていた。CPUにグリスを塗って銅容器を上から押しつけるだけで固定する仕組みはない。銅の重量で密着させようということだろう。左の写真奥に見える計器は熱電対を使った温度計。CPUの温度がリアルタイムに監視できるようになっている
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いよいよオーバークロック開始。液体窒素を注ぎ込む
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液体窒素を注ぎ込み,まずはCore 2 Duo E4300搭載PCを起動。BIOSの設定を手早く変えていく。あまりに変更が手早すぎて詳細な設定は分からなかったが,とくにCPUコア電圧やDRAM電圧を大胆に変更していたようだ。 結果,コア電圧1.85V台では起動せず,1.80Vの設定で起動に成功。DAKARA氏は「テストのときはコア電圧1.85Vでも動いたんだけど……」とやや不満そうだ。 ちなみに使用していたOSは,Windows 2003 Serverである。Serverを使う理由は「スーパーπのスコアが一番高いし,いつも使っているから」だそうで,このあたりはよく一セットでくくられがちなハードコアゲーマーとオーバークロッカーの最大の違いというところかもしれない。 最終的なスコアとなるベースクロックは,液体窒素の威力もあって514.1MHz(FSBクロック2056.4MHz)を達成。定格の2.57倍となる実クロック4626.7MHzでスーパーπの完走に成功した。
みるみる下がるCPUの温度(左)。液体窒素自体は-195.8℃である。しばらくすると,-100℃を下回るまで温度が低下していた。右はトライの様子。BIOSの設定を手早く変更していく
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Core 2 Duo E6850を搭載する挑戦機。少し見づらいかもしれないが,棒の先にコア電圧を微調節するポテンショメーター(多回転型精密半固定抵抗器)が取り付けられている
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波乱が起きたのはCore 2 Duo E6850のチャレンジにおいてだ。 液体窒素を注いで冷却,BIOSの設定を変えてオーバークロックという手順はCore 2 Duo E4300と同じだが,2台目のPCにはコア電圧を微調節する自作の仕掛けが取り付けられている。GIGABYTEブランドのマザーボードは1.85V以上のコア電圧設定を持っているのに設定は行えないとしたDAKARA氏によれば,このポテンショメーター(※精密に調節できる可変抵抗器,いわゆるボリュームのこと。電圧を微調整できる)で,さらに高いコア電圧にまで調節できるようになっているとのことだ。 だが,その仕掛けを使ってコア電圧を調節しつつオーバークロックに挑戦している最中,PCが「ウンともスンともいわなくなってしまった」のである。 最終的にはBIOSすら上がらなくなり,マザーボードが壊れてしまった模様。DAKARA氏によれば「液体窒素を使う以上,想定できるリスク」とのことで,残念そうだったが,いずれにせよ,Core 2 Duo E6850ではノースコアという結果に終わってしまったのだった。
DAKARA氏によるCore 2 Duo E4300でのチャレンジ結果
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■オリジナルのPC架台で挑むCal930氏 ■Core 2 Duo E6850で5GHzまであと一歩
これがCal930氏のPCだ。「持ち運べる」PCケースという点ではレギュレーションをクリアしている。断熱材にくるまれたのが液体窒素を注ぎ込む銅製容器で,上からネジで圧着固定されている
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続く挑戦者はCal930氏だ。DAKARA氏と同じく,定番の液体窒素冷却を使用。銅製容器を使う点は同じだが,マザーボードをオリジナルの架台に固定して銅製容器をネジでCPUに強力に密着させるよう工夫しているのが特徴だ。
Cal930氏も,この銅製容器に一手間加えている。容器自体は普通の(?)銅製らしいのだが,底に「秘密の何か」が詰められているのだ。氏によれば,この「秘密の何か」がポイントらしい。「Pentium 4と違ってCore 2 Duoは発熱がとても小さい。なのでオーバークロックしやすそうに思えるんですが,逆に発熱が小さすぎて温度の調節が難しいんですね。その点,これを詰めると温度の調節がやりやすいんですよ」(Cal930氏)。 実際,ほんの数度というピンポイントの範囲でCPUが回ったり回らなかったりするのだそうで,液体窒素で冷却しまくればいいというものではないらしい。温度とコア電圧の双方が最適なポイントに決まったとき,CPUの最高クロックがマークできるのだという。一見,オーバークロッカー達は無造作に液体窒素を流し込んでいるようだが,実際には微妙にコアの温度を調節しているわけである。
というわけで,Cal930氏のオーバークロック挑戦が始まった。Cal930氏はDAKARA氏とは逆にCore 2 Duo E6850からトライをスタート。 Core 2 Duo E6850は順調にクロックを上げ,最終的にはコア5GHz越えに到達。だが,5GHzではスーパーπが完走せず,ハングアップしてしまった。「5GHzは超えたかったんだけど……」とCal930氏。結局,Core 2 Duo E6850のスコアは5GHzの一歩手前,ベースクロック555MHz(FSBクロック2220MHz),コアクロック4995MHzという記録となった。5GHzには届かなかったものの,液体窒素冷却でなければ到達できないクロックだろう。
液体窒素を注ぎ込みオーバークロックへの挑戦がスタート。銅製容器の周りには断熱材のほか,マザーボードを保護するためのペーパータオルが数枚重ねて置かれていた(左)。右は動作クロック5GHzで起動したWindows XPのデスクトップ。残念ながらスーパーπ104万桁は完走せず
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Cal930氏のPCにも自作のコア電圧調節用ポテンショメーターが取り付けられていた。コア電圧を微調節しつつ究極のオーバークロックに挑む
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続いてCore 2 Duo E4400のオーバークロックにチャレンジ。DAKARA氏同様,Cal930氏も2台のPCを持ち込んでおり,PCを変更してのトライが始まった。 だが,やはりここでも波乱が発生。DAKARA氏同様,PCが起動しなくなってしまったのだ。順調に動作していた1枚めのマザーボードにCPUを移し替えても起動せず,どうやらマザーボードが壊れてしまったようで,やむなくオーバークロックへの挑戦は終了となった。 「やはり1時間というのは厳しい」とCal930氏。1時間以内に2台のPCをセットアップしてオーバークロックするという過密スケジュールが焦りを招き,トラブルにつながった側面は確かにあるのだろう。Cal930氏はCore 2 Duo E4400でノースコアという結果に終わった。
Cal930氏によるCore 2 Duo E4300でのチャレンジ結果
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■積極的安全策? 「ごく普通の水冷マシン」で ■オーバークロックに挑んだROCX氏
ROCX氏が持ち込んだ水冷マシン。CPUの換装が容易なこともあって,1台のPCのみでCPU×22のオーバークロックに挑んだ
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最後の挑戦者はROCX氏だ。液体窒素という,インパクトのある挑戦が続いたが,氏は水冷PCでの挑戦となる。 「ごく普通の水冷マシンですよ」というPCは,一般的な水冷システムが利用されていた。冷却剤は普通の水だ。液体窒素冷却という,ややエキセントリックなシステムが続いただけに,落ち着く外観かもしれない。CPU用の水枕は「なかなか売ってないもの」だそうだが,それ以外は「普通に買えるもの」とのこと。 液体窒素冷却ではCPU周辺が凍り付く。そのためにCPUの換装はやや難しく,先の挑戦者は2台のPCを用意していたわけだが,4本のビスを外すだけでCPU用水枕を取り外せることもあって,ROCX氏は同一のPCを使ってCPU×2のオーバークロックにトライする。
左はラジエーター部。動作中はかなりの騒音を発する。「ごく普通に買える物ですよ」とはROCX氏の弁だ。右の写真に見える水枕は「普通には買えないかもしれない」そうだが,自作などではなくメーカー製
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オーバークロックへのトライを始めるROCX氏。使用していたOSはDAKARA氏と同様,Windows 2003 Serverだった
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冷却システムに冒険した部分がないだけにオーバークロック作業は順調に進む。コア電圧,コアクロックともやや控えめではあるが,波乱が起こりにくいというのがROCX氏のシステムが持つ強みだ。 結局,大きなトラブルもなく,オーバークロックへの挑戦はスムースに完了。記録はCore 2 Duo E4300がベースクロック426MHz(FSBクロック1704MHz),実クロック3834MHz。Core 2 Duo E6850がベースクロック443.5MHz(FSBクロック1774MHz)の実クロック3991.5MHzだった。両方の挑戦を成功させたのはROCX氏だけという結果になった。
ROCX氏のチャレンジ結果
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■リスクが勝負を分けた国内決勝 ■北京への切符を手に入れたのはROCX氏
液体窒素による冷却。そのアグレッシブなシステムで臨んだ2氏が,最終的にはリスクに破れた格好だ。-100℃を下回る温度にCPUを冷やすのだから相当な無理はあると思われ,トラブルが発生する確率が高くなるのはやむを得ないだろう。5GHzに迫るオーバークロックが可能な半面,大きなリスクがあるわけだ。
また,大会の運営にも若干の問題はあったかもしれない。これは裏話になるが,国内決勝大会当日,会場において突然「北京でCore 2 Duo E6550/2.33GHzを使うことになったので,国内決勝でもそれを使いたい」という話を日本ギガバイトユナイテッドが切り出し,時間をかけて「当たり」のCPUを探し出してきた参加者の反発を招く場面があった。また,決勝大会で1種類のCPUしか使わないのであれば,国内決勝において,1時間で2回挑戦させるタイトさに意味があったのだろうかという疑問も残る(※もちろん,さまざまな局面におけるGIGABYTE製マザーボードの安定性をアピールするという意味において,大会のステップごとにレギュレーションが変わること,それ自体は悪いことではないが,問題は時間だ)。 全体として,運営側の認識にやや甘いところがあった感は否めず,その甘さが,アグレッシブな冷却システムを持ち込んだ2氏が満足できるスコアを残せない遠因にもなったといえるだろう。
日本ギガバイトユナイテッドの担当も勝負が終わった直後は「どうしましょう……」ととまどい気味。だが,規定どおり,2個のCPUいずれでもスコアを残せたのはROCX氏のみなのも,疑いようのない事実だ。したがって,順位は下記の通り決定した。
1位:ROCX氏 2位:DAKARA氏,Cal930氏
ROCX氏は,北京で開かれるアジア大会に出場する予定。日本のオーバークロッカーの代表として頑張ってほしい。心から応援したいし,また,ROCXをはじめとするアジア各地区の代表が満足な挑戦を行えるよう,北京では土壇場でルールが変わるようなことがないよう期待したい。(ライター:米田 聡)
※お詫びと訂正:初出時に,DAKARA氏とCal930氏の挑戦内容に関する部分で,1.85Vと書くべきところを1.8Vと記載するなど,複数の誤記がありました。お詫びして訂正いたします。
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