― プレビュー ―
Intel初の“真のデュアルコアCPU”,そのゲームにおける可能性
Core Duo&i975Xa-YDG
Text by 宮崎真一
2006年3月7日

 

 Intelが新しくリリースしたCore Duoは,ノートPC向けCPUとしては初めてデュアルコアを採用した製品だ。このCore Duoを搭載するノートPCが各社から登場しているので,チェックしている人もいるだろう。

 

Core Duo T2500/2GHzのエンジニアリングサンプル。刻印は製品と若干異なるが,スペックは同一だ

 実のところCore Duo自体は,2006年1月初旬の発表直後から秋葉原などのPCパーツショップ店頭で単体販売されている。だが,「利用できるマザーボードが存在しない」という理由で,無用の長物と化していた。
 あれから2か月。この問題には,ようやくケリが付きそうである。というのも,2006年3月以降に,マザーボードメーカー各社から,相次いでCoreシリーズ対応のマザーボードが発売予定になっているから。これらを入手すれば,“Intel初の,真のデュアルコアCPU”を用いて,デスクトップPCを組めるようになるのだ。

 

 4Gamerでは,デスクトップ向けチップセットであるIntel 975P Expressを搭載しつつ,Coreシリーズを正式にサポートしたAOpen製マザーボード「i975Xa-YDG」の開発途上サンプルを入手。そこで今回は,このi975Xa-YDGを用いて,Core Duoの「ゲーマー向けデスクトップPC用CPU」としての可能性を探っていきたいと思う。

 

i975Xa-YDG
メーカー:AOpen
問い合わせ先:エーオープンジャパン
予想実売価格:3万8000円前後
http://aopen.jp/company/contact.html

 

 さてこのi975Xa-YDG,Intel 975P Expressを採用するため,ノートPC用チップセットがサポートする省電力機能「拡張版Intel SpeedStepテクノロジ」は利用できない一方,2本のPCI Express x16スロットを搭載し,ATI Technologies独自のデュアルグラフィックスカードソリューションであるCrossFireをサポート。CPUクーラーを取り付けるための,いわゆるリテンションキットは,Socket478版Pentium 4対応マザーボードと同じものが用意されている。
 Core Duoは,Pentium 4/Dと異なり,「Integrated Heat Spreader」(以下IHS)が取り付けられておらず,CPUコアが剥き出しになっている。IHS分の高さをかせぐため,銅板などの熱伝導板で高さ調整をする必要はあるものの,基本的にはSocket479対応のCPUクーラーならどれでも利用可能。また,銅板なしで利用できる専用クーラーが,製品版には付属する予定になっている。

 

Socket479と電源周りのアップ。CPUソケット周りはこれで決定だろうが,搭載するコンデンサのスペックなど,電源周りは最終製品で変わる可能性がある

 

 このほか,FSBクロックなどのオーバークロック設定項目はBIOSに用意されていたが,そもそもデフォルトの動作クロックを正しく認識しておらず,表示も「10MHz」。変更も行えなかった。このあたりは,製品版で変わってくるだろう。

 

 

Core Duoの3モデルをPentium M&
本誌の標準環境と比較

 

 というわけで,ここからはテストに入っていきたい。今回用意したのは,Core Duo T2500/2GHzとCore Duo T2300/1.66GHz。そこで「CrystalCPUID」の「Intel Enhanced SpeedStep Control」を用いてCore Duo T2500の倍率設定を12から11に変更し,Core Duo T2400/1.83GHz相当でのテストも行うことにした。また,1コア動作時の性能を見るため,Core Duo T2500&T2300では,Windows XPのBoot.iniファイルに「/ONECPU」というオプションを追加して1コア動作させ,そのときのスコアもチェックしている。グラフ中「1Core」という表記がそれに当たるので,参考にしてほしい。

 

Core Duo T2500/2GHz(どの写真でも左)とPentium M 760/2GHz(どの写真でも右)を比較してみた。一番したの写真は真横から見たもの。基本的にはよく似ており,478ピン構成である点も変わらないが,ピンアサイン(配置)は異なっており,CPUソケットの互換性はない。ダイの高さは目視する限り同じで,銅板を使う場合,同じ厚さのものが利用できそうだ

 

 また今回は比較対照用に,Core Duo T2500と同じ2GHzで動作するPentium M 760/2GHzと,2006年3月時点における本誌の標準テスト環境である,Athlon 64 4000+/2.4GHz+nForce4 SLIも用意した。このほかテスト環境は表1,テストに用いたCPUの仕様面の違いは表2を参照のこと。

 

 

 

 なお,これはいつもどおりだが,以後本稿ではグラフィックスドライバ側から垂直同期のみオフに変更した状態を「標準設定」,同じくドライバ側で強制的に8倍(8x)のアンチエイリアシングと16倍(16x)の異方性フィルタリングを適用した状態を「8x AA&16x AF」と呼ぶ。

 

 

■Core Duoのパフォーマンスは良好

 

 まずグラフ1は「3DMark06 Build 1.0.2」の標準設定時における総合スコアだが,本誌連載「西川善司の3Dゲームエクスタシー」における解説がすべて終わるまで,3DMark06の値は参考値として扱う。

 

 

 例によって「3DMark05 Build 1.2.0」のスコア(グラフ2)から分析を開始するが,3DMark05は一部がマルチスレッドに対応し,さらに今回テストに利用したForceWare 81.98もマルチスレッド対応。このため,デュアルコアCPUが有利になる傾向になるわけだが,それを裏付けるように,デュアルコアCPUのスコアが優秀だ。とくに,今回テストした中で最上位となる,2GHz動作のCore Duo T2500が,Athlon 64 4000+を,すべての局面で上回った点は評価できる。

 

 注目したいのは,Core Duo T2500の1コア動作時だ。Pentium M 760と比べると,わずかではあるが,Core Duo T2500のほうがスコアが高いのである。Intelは以前,本誌の取材に対して「Core Duoは1コアで動作させても,同クロックのPentium Mよりパフォーマンスが高い」と明言していたが,たしかにその傾向は出ているといえるだろう(プラットフォームが異なるので,必ずしも高速と断言できないが)。
 ただ,“Core Solo T1300/1.66GHz相当”になる,1コア動作のCore Duo T2300では,全体と比較して明らかに一段落ちる結果となった。1コアCPUのCore Soloに,過度の期待は禁物と思われる。

 

 なお,8x AA&16x AF適用時は,負荷が高くなって全体的にスコアが低くなった以外,標準設定と傾向は変わらなかった。

 

 

 

 続いて「Quake 4」において,「The Longest Day」というマップで7名によるデスマッチを行ったリプレイデータを利用し,Timedemoから平均フレームレートを計測した結果をグラフ4にまとめた。
 前述したように,ForceWare 81.98はデュアルコアCPU(≒マルチスレッド)への最適化が行われているため,Core Duo T2500のスコアはかなり高い。Core Duo T2500の1コア時,そしてPentium M 760と比べると,デュアルコア化による恩恵があるのをはっきりと確認できる。
 一方,グラフ5で描画負荷が高くなると,グラフィックスカード側がボトルネックとなり,CPUごとの差はあまり見られなくなる。

 

 

 

 続いて「Battlefield 2」だ。Battlefield 2では,「Dragon Valley」で実際に行われたコンクエスト(16人×16人対戦)のリプレイをスタートから120秒間再生し,「Fraps 2.60」を用いて平均フレームレートを計測した。

 

 まず標準設定のテスト結果であるグラフ6では,それこそ垂直同期の設定ミスによって,100fpsでクリッピングが生じている……ように見える。
 では,本当にクリッピングが起こっているのかといえば,そうではないようだ。もしクリッピングが生じているのであれば,8x AA&16x AF適用時のテスト結果となるグラフ7で,クリッピングの生じない高解像度設定時には,CPUの性能に合わせてバーの長さに変化が生じるはず。だが,現実にはそうなっていないわけで,ここは「クリッピングは生じていない」と見るべきだろう。これはどうやら,グラフィックスカード側にボトルネックが生じているようである。

 

 それを踏まえて,改めてグラフ7を見てみると,1024×768ドットでCore Duoのいずれもが100fps近い値を維持しているにも関わらず,Pentium M 760やAthlon 64 4000+は80fps弱と標準設定に比べて大きく値が落ち込んでいる。

 

 

 

 次に「TrackMania Sunrise」で1周53秒程度の「Paradise Island」というマップのリプレイを3回連続で実行し,その平均フレームレートをやはりFraps 2.60で測定した結果をグラフ8,9にまとめた。ForceWare 81.98のデュアルコアCPU最適化があって,Core Duoが順当に高いスコアを示している。
 TrackMania Sunriseは描画負荷の低いゲームだが,こういったタイトルで,1コア動作のCore Duo T2500がAthlon 64 4000+を上回っている点にも注目したい。Battlefield 2の結果と合わせて,CPU負荷が相対的に高くなるようなゲームタイトルでは,Core Duoの潜在能力が発揮できるといえそうだ。

 

 

 

 

 

■ノートPC用CPUらしく,消費電力は非常に低い

 

 Core DuoはノートPC向けCPUという位置付けのため,低消費電力が期待できる。そこで,システム全体の消費電力をワットチェッカーを用いて計測してみよう。
 CPUの負荷を見るため,負荷をかけるアプリケーションは今回,MP3エンコードソフト「午後のこ〜だ」を使用。「午後べんち」機能を用いて,30分間負荷をかけ続けたときを「高負荷時」とする。一方,PCの起動直後を「アイドル時」とした。

 

 グラフ10はその結果だが,一見して分かるように,デュアルコアCPUでありながら,Core Duoの消費電力は非常に低い。高負荷時であっても,システム全体で110Wに達せず,Pentium Mシステムとほとんど変わっていない印象だ。デスクトップ用CPUとしては屈指の消費電力の低さを誇るSan DiegoコアのAthlon 64 4000+を搭載したシステムが“圧倒的に消費電力が高い”ように見えるのだから,Core Duoの優秀さは大したものである。
 しかもこれはi975Xa-YDGを利用した結果,つまり,拡張版Intel SpeedStepテクノロジを利用していない状態の結果だ。例えばMSIが発売を予告している「945GM SpeedSter」は,Mobile Intel 945GM Expressを搭載しており,拡張版Intel SpeedStepテクノロジを利用できる可能性が極めて高い。その場合,アイドル時の動作クロックは1GHzにまで低下するので,消費電力はさらに大きく下がることが期待できる。

 

 

 最後に,ゲームとは関係ないが,総合性能を見る「PCMark05 Build 1.1.0」の結果をグラフ11にまとめてみたので,気になる人は参考にしてほしい。詳細なデータは別途,表3として用意した。ゲームだけでなく,(マルチスレッドアプリケーションを含む)総合的な性能でも,Core Duoが優秀なのはよく分かると思う。

 

 

表3 PCMark05 Build 1.1.0の詳細スコア

 

 

■コスト以外は実に魅力的

 

 開発途上版のマザーボードと組み合わせてのプレビューとなった今回だが,ゲームをプレイする環境として,“Core Duo搭載デスクトップPC”はかなりの可能性を持つことが実証できた。とくに,2GHz動作のCore Duo T2500搭載システムは,Athlon 64 4000+搭載システムを上回る性能を見せており,ゲーム用プラットフォームとしての魅力はかなり高い。Core Duoには,2.16GHz動作の最上位モデルとしてCore Duo T2600も用意されているから,それを選択すれば,より上位のAthlon 64シリーズとも互角以上に戦えるだろう。消費電力が非常に低く,いきおい発熱も低いため,「静かなゲーム用PC」の実現も期待できる。

 

 と,魅力だらけに見えるCore Duoだが,一つだけ泣きどころがある。それは価格だ。まず2006年3月5日時点における,Core Duoの店頭価格はおおよそ以下のとおり。

  • Core Duo T2600:未発売
  • Core Duo T2500:5万8000円前後
  • Core Duo T2400:4万円前後
  • Core Duo T2300:3万3000円前後

 そして,i975Xa-YDGの予想実売価格は3万8000円前後だ。前出のMSI製マザーボードも,2万9000円前後になる予定だから,Core Duo T2500とマザーボードを購入しようとすると,少なく見積もっても8万5000円はかかる。

 この点,Athlon 64 4000+とnForce4 SLIマザーボードであれば,前者が4万4000円前後,後者が(モデルによって幅はあるが,安いものなら)1万5000円前後で購入できるから,合計で6万円弱。新製品の出始めは値段が高くなるから,その分は割り引いて考える必要はあるとはいえ,それでもコストパフォーマンスの違いは明らかだ。しかも,Core Duo対応マザーボードはPentium 4/DやAthlon 64用ほどは量産できない(=数が売れない)ため,量産効果による値下がりをそれほどは期待できないという弱点もある。

 

 というわけで,現時点ではコスト面がどうしても気になる。ゲームパフォーマンスに優れていて,さらに低消費電力というメリットと,天秤にかけることになるだろう。唯一の弱点に目をつぶれば,非常に面白い存在だ。

 

タイトル Core
開発元 Intel 発売元 インテル
発売日 2006/01/06 価格 モデルによる
 
動作環境 N/A


【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/core_duo_dt/core_duo_dt.shtml