2WAYマップで作戦立案の余地が広がる
日米の戦いに加え,新たにドイツとイタリアも参戦して大きくリニューアルされた,「大戦略 大東亜興亡史2 〜トラ・トラ・トラ ワレ奇襲ニ成功セリ〜」 |
国産ストラテジータイトルの草分けたる「大戦略」シリーズは現代戦をモチーフとした作品群だが,このシステムを用いて第二次世界大戦を扱う派生作品は,かなり早期から存在した。セガ/チキンヘッドの「アドバンスド大戦略」シリーズというライセンスタイトル以外に,システムソフト(現システムソフト・アルファー)自身がリリースしたキャンペーンゲーム,「ブリッツクリーク」や「パンツァーカイル」を憶えている人もいるだろう。
そうした経緯を意識していたかどうかは分からないが,システムソフト・アルファーは終戦60周年に当たる昨年(2005年),第二次世界大戦の太平洋戦線(およびそれ以前の軍事衝突)を扱った「大戦略 大東亜興亡史〜ニイタカヤマノボレ一二〇八」を発売,賛否両論を含めファンの間で大きな話題となった。今回紹介するのは,その大幅リニューアル版となる「大戦略 大東亜興亡史2〜トラ・トラ・トラ ワレ奇襲ニ成功セリ〜」である。
前作同様,ゲームシステムはシンプルなターン制をベースとする。1日は4時間ごとの6ターンに分割されており,1ターンは行動と,生産/配置の2フェイズに分けられている。
プレイモードとしては,プレイヤーが日本軍またはアメリカ軍を担当して太平洋戦争全期間を戦う「キャンペーンモード」,軍資金や陣営などを自由に設定して楽しめる「シングルモード」,史実の著名な戦いをプレイする「シナリオモード」の三つが用意される。収録マップ数は,約100枚と前作からほぼ倍増。前作になかった史実マップに加え,日本軍のソ連領本格侵攻や欧州戦域における日本軍の戦いというような,架空戦マップも加わった。
部隊(兵器ユニット)は,前作からさらに増加して約1150種類が登場。有名な兵器だけでなく,完成しなかった幻の兵器や実用化が戦後になった兵器も一部登場する。さらに,前作にはなかったドイツ,イタリアが加わるなど,バリエーションが大幅に増えている。兵器の種類が充実しているのは日本とアメリカのみで,そのほかの陣営にはちょっと物足りない感があるものの,太平洋戦線がメインのゲームなので,それほど問題はないだろう。
また,マップについては数が増えただけでなく,2WAYマップと呼ばれる二重構造のものが加わったのも特筆すべき点だ。この2WAYマップには,戦域拡大方式と戦域連結方式という,二つのバリエーションがある。
戦域拡大方式のマップでは,マップ全体のうち一部,例えば島や都市が拡大マップとして表示される構造になっている。広域マップでは1ヘックスでしか表示されていない島に,別途島嶼戦用の拡大マップが用意されているという具合だ。拡大される領域は広域マップ上では特別なヘックスで表示され,部隊の行き来が可能なほか,広域マップにいる部隊に命じて,拡大マップ内に向けた支援攻撃も実施可能である。これにより戦艦部隊の艦砲による上陸支援射撃や,手順の込み入った大都市の攻略戦闘なども再現可能になり,リアリティアップに大きく貢献している。
これに対して戦域連結方式は,本来地理的に離れた二つのマップを繋げたものとなっている。両マップ間で部隊の行き来が可能なので,自軍部隊をどう分割するか,どちらのマップを重視して戦うか,予想外の展開になった場合に部隊を転用すべきか否かなど,なかなか複雑な判断を楽しめる。
新たに加わったドイツの兵器。艦艇は空母がないなど物足りないが,ほかの有名どころはほぼカバーされている | キャンペーンモードでは,時間の進行に従って,史実で起きた事件や作戦の経過を解説してくれる | プレイ開始前にマップの概要が説明される。大勝利を重ねることで,史実とは違う戦史を歩むことも可能 |
未完の超兵器,試作兵器も多数登場するので兵器マニアもかなり満足できそうだ。なぜか列車砲が充実している | 新機軸の2WAYマップ。画面は全域マップのミッドウェー島で,周囲に進入可能なヘックスが表示される | ミッドウェー島の周りのヘックスを経由して拡大マップへ。スケールに合わせ,行動フェーズなどが3倍に |
兵器と部隊への愛着が実る,進化/改良/鹵獲ルール
戦いを有利に進めるには兵器開発が不可欠。開発には予算がかかるが,史実よりも早くロールアウトさせることも可能 |
大戦略系列の作品をプレイしたことのある人なら分かると思うが,お気に入りの兵器や,経験を積んで強くなった部隊には愛着が湧くものである。とくに経験を積んだ部隊を次のマップに持ち越せるキャンペーンタイプのゲームでは,部隊の成長こそが大きな楽しみというファンも少なくないだろう。大東亜興亡史2は,そんな深い愛着に応えるシステムを備えている。
まず,部隊に指揮官やパイロットを配置する「搭乗員システム」に注目したい。搭乗員は,それぞれ防御力アップや攻撃力の向上など特殊な能力を持っており,部隊に配置(つまり搭乗)することでその能力を兵器に付加できる。部隊は戦果によってレベルアップするが,搭乗員も階級がアップし,能力が強化される(階級や能力の向上には個人差あり)。
さらに,敵国の飛行場など,兵器を格納した地形を占領することで,格納されていた兵器を鹵獲し,それを自軍で使うことも可能になった。日本軍でプレイした場合,例えば零式艦戦の防御力不足(敵機を撃墜する以上に落とされる)や戦車の能力不足(機関砲相手でもよくやられる)に悩まされることが少なくないが,そうした自軍の泣きどころを,敵国の兵器で補えるのだ。
鹵獲したP-51Dムスタングに日本のエースパイロットを乗せてみる,というコラボレーションも夢ではない。欧米の頑丈な兵器に当時の日本人の敢闘精神が加われば鬼に金棒(?)。史実における燃料事情や戦術ドクトリンの違いといった細かい部分さえ気にしなければ,これはけっこう病みつきになるはずだ。
兵器の進化/改良システムは,前作のコンセプトを引き継ぎつつ,着実に改善されている。前作では進化や改良の進捗状況がかなりつかみづらかったのだが,今作では兵器ごとに条件が明確に表示されるようになったので,進化/改良の判断がしやすくなった。
兵器ごとの進化の系統樹が確認できるようになったのは,さらに重要なポイントといえよう。前作でまさしく「あるべきものがない」ように感じられた部分なので,この改良は素直に喜びたい。
ちなみに,前作でプレイヤーが育てた部隊を持ち越すことも可能である。部隊データのコピーには,多少の手間とコツが必要だが,前作でときに苦心惨憺しつつ部隊を育てたプレイヤーには,嬉しい配慮だろう。
兵器に搭乗員を乗せ,各種の能力を付加する。名前は,史実の人物に微妙に似た架空の名前になっている | 兵器ファンとって最も嬉しいのが鹵獲ルール。鹵獲しまくって軍事費をかけずに戦力アップだ! | 兵器だけでなく兵員も鹵獲可能。補充や進化に制約はあるものの,日本軍キャンペーンの初期では大いに役立つ |
兵器の練度が最高(★マーク)なら,進化が可能。改良は,同系統の改良型があれば随時可能だ | 進化させてもすべての性能がアップするとは限らないし,練度も最低レベルに下がる。進化の承認は慎重に | 開発や生産指定は分かりやすくなった。生産ラインを追加したり旧式化した兵器を生産ラインから外したりも可能 |
マップの特性に応じて大胆に戦い,高評価を目指す
マップクリア後は4項目で戦いぶりを評価される。最高評価は「師団長」。オール甲でなくても達成可能だ |
先に述べた三つのモードのうち,中心になるのはやはりキャンペーンモードである。
キャンペーンでは,マップごとにクリア条件があり,それを超える圧勝なら大勝利となって,以下,勝利,引き分け,転進(敗北ではないが,マップをクリアしたことにはならない),敗北という五つの結果が出,それによって次に進むマップが決まる。大勝利を積み重ねていけば,架空戦マップに到達することも可能だ。もっとも,ソ連やアメリカ相手に大勝利を重ねるのはなかなか大変だが。
個々のマップでの戦績は,「作戦期間」(短いほど優秀),「軍資金収支」「部隊生存率」「建物占領率」という四つの条件で評価され,軍資金追加などのごほうびもある。
高い評価を得るためには,配置された敵部隊を早期に包囲殲滅するとか,囮部隊で敵を引き付け,その間に歩兵部隊を敵の根拠地に到達させる電撃的な戦い方などが不可欠だ。場合によっては,爆撃機を積極的に使った根拠地破壊も有用だろう。
例えば,日本キャンペーンの最初のマップである「盧溝橋事件」では,最初に進撃してくる敵国民党軍の歩兵2部隊を,早期(おおむね3ターン)で全滅できるかどうかで,展開ががらりと変わる。それを確実に狙うなら,歩兵で都市を占領しながら進撃するよりも,航空機を主体にして,敵の歩兵を見つけ次第叩いていくほうが効率的だったりするのだ。
そのためには,開始前の編成画面で戦闘機や艦上攻撃機などを生産し,第1ターンで配置,第2ターンで出撃させておくことが必要だ。初動で敵歩兵部隊をとり逃がすと,敵が生産した部隊が間に合ってしまい,敵部隊全滅でクリアすることが格段に難しくなる。
一方アメリカキャンペーンの場合,最初のマップは航空戦が主体の「第二次重慶爆撃」である。試してみればすぐ分かるように,自軍にはP-40戦闘機が十分な数配置されているので,配置フェイズでは爆撃機に重点を置きたい。爆撃機には軽爆撃機,重爆撃機などの種類があるが,例えば兵器特性メニューに「破壊」の項目がある爆撃機(最初に生産可能なものの中ではB-18とB-26)を生産しておき,それで日本軍の根拠地を破壊すれば,早いターンに勝利できる。
もちろん,ここに示してみたのは解法の一つにすぎない。要はマップの特性をきちんとつかみ,一つの戦術に固執することなく,ときにトリッキーにすぎると思われる作戦でも積極的に試すのが,大切なゲームなのだといえよう。
本作は,前作をよい意味でしっかり踏み台にしており,リアリティと遊びやすさをうまく両立している。相変わらずユニットの組み合わせによっては,常識的に理解しづらい武器使用や戦闘結果が出たりもするものの,前作のファンはもちろん,広くストラテジーゲームファンにお勧めしたい作品である。
日本軍キャンペーン最初のマップ「盧溝橋事件」。初期配置の歩兵を全滅させると大勝利しやすい | 機銃掃射で歩兵を壊滅! 兵器の練度アップも大切だが,迅速に勝てそうなマップでは,極力大勝利狙いで行こう | 陸戦オンリーのマップは混戦になりやすい。囮部隊を出し,別方向から主力が進撃するという陽動作戦も有効だ |
重爆撃機による敵根拠地破壊も有効な戦術。アメリカ陣営では,最初から長距離を飛べる重爆撃機が生産可能 | 日本軍独特の特攻兵器も登場。これで攻撃すると兵器は消滅し,爆弾の威力に相当する損害を相手に与える | アメリカ軍には,核兵器搭載機がある。核爆弾を使うと,影響範囲内の建物は破壊され,兵器は消滅する |