レビュー : GeForce 8600 GTS

DirectX 10世代初のミドルレンジ向けGPUが持つポテンシャルを探る

WinFast PX8600 GTS TDH

Text by 宮崎真一
2007年4月17日

 

»  「GeForce 8800」の発表から早5か月。DirectX 10世代のGPUが,ようやくミドルレンジに降りてきた。では,そんな新世代ミドルレンジには,どれだけの可能性があるのだろう? GeForce 7世代から買い換えるだけの魅力を持っているかどうか,宮崎真一氏が「GeForce 8600 GTS」を評価する。

 

WinFast PX8600 GTS TDH
メーカー:Leadtek Research
問い合わせ先:アスク(販売代理店) TEL 03-5215-5650
予想実売価格:3万1000円前後(2007年4月17日現在)

 別記事でお伝えしているとおり,NVIDIAはDirectX 10(=プログラマブルシェーダ4.0)にハードウェアレベルで対応した初のミドルレンジ向けGPU(グラフィックスチップ),「GeForce 8600」「GeForce 8500」を発表した。
 4Gamerでは,発表時点におけるミドルレンジ最上位モデル,「GeForce 8600 GTS」搭載のLeadtek Research製グラフィックスカード「WinFast PX8600 GTS TDH」を,同社の日本法人であるリードテックジャパンから借用できた。なのでさっそく,実際のパフォーマンスと,GeForce 8600 GTSの持つポテンシャルを検証してみたいと思う。

 

別の角度から。NVIDIA SLI用コネクタが1系統分用意されていることや,チップクーラーが4個のネジで固定されていることなどが分かる

 

 

コンパクトにまとまったGeForce 8600 GTS搭載カード
冷却機構は1スロット仕様

 

WinFast PX8600 GTS TDHの特徴をまとめたスライド(出典:Leadtek Research)。2系統のDVI-IコネクタはいずれもHDCP(High-bandwidth Digital Content Protection)サポートだ

 NVIDIAが公開したリファレンスカードのデザインと酷似しており,(今後出荷されるモデルはともかく,初期出荷品は)リファレンスデザインを採用したカードと思われるWinFast PX8600 GTS TDH。カードサイズは180(W)×117(D)mmとなり,カード長で比較すると,「GeForce 7600 GT」リファレンスカードより若干長く,「GeForce 7900 GS」リファレンスカードよりは短い。
 リファレンスカードと同じく,PCI Express用外部電源コネクタを装備しており,Leadtek Researchの資料によれば,定格350W以上の電源ユニットを使うことが推奨されている。

 

チップクーラーを取り外したところ

 冷却機構は,GPUとグラフィックスメモリを覆う1スロット仕様のチップクーラー。これを取り外すと,GeForce 8600 GTSチップ,そして4個で容量256MBを実現する512Mbit品のメモリチップが姿を見せる。リファレンスデザインにおいて,メモリチップを8個搭載することが想定されていない以上,グラフィックスメモリ512MB搭載モデルが登場するには,カードメーカー各社のオリジナルデザインが完成するのを待つ必要がありそうだ。
 WinFast PX8600 GTS TDHの動作クロックはリファレンスどおりコア675MHz,メモリ2GHz相当(実クロック1GHz)だが,搭載するメモリチップは1ns品のGDDR3なので,スペック的にはギリギリということになる。

 

試用した個体が搭載していた,A2リビジョンのGeForce 8600 GTS(左)と,Samsung Electronics製のグラフィックメモリチップ「K4J52324QE-BJ1A」。GeForce 8600 GTSには,「GeForce 8600 GT」と区別すべく与えられた固有の開発コードネーム「G84-400」の文字も見える

 

 

カードごとに異なるドライババージョンに注意
GeForce 8600 GTSはRelease 150/100の両方で検証

 

付属品一覧。少々今さら感があるものの,「Serious Sam II」「Joint Task Force」の英語版フルバージョンが付属する

 ベンチマークテスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション3.1に従う。比較対象としては,グラフィックスメモリ320MB版の「GeForce 8800 GTS」のほか,GeForce 7から「GeForce 7950 GT」,そしてGeForce 8600 GTSが置き換える対象となる「GeForce 7900 GS」「GeForce 7600 GT」を搭載するカードをそれぞれ用意した。NVIDIAのリファレンスカードを利用したGeForce 7600 GT以外は,すべてASUSTeK Computerの協力で用意。具体的には以下に挙げる3モデルを借用している。

 

EN8800GTS/HTDP/320M(左),EN7950GT/HTDP/512M(中央),EN7900GS TOP/2DHT/256M(右)
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:ユニティ コーポレーション(販売代理店) news@unitycorp.co.jp
EN8800GTS/HTDP/320M予想実売価格:4万6000円前後(2007年5月上旬発売予定)
EN7950GT/HTDP/512M実勢価格:3万5000円前後
EN7900GS TOP/2DHT/256M実勢価格:2万4000円前後
 ※価格はいずれも2007年4月17日現在

 

 今回のテスト環境で注意してほしいのは,グラフィックスカードごとにForceWareのバージョンが異なっている点だ。
 まず,比較対象となる4枚のカードについては,それぞれNVIDIAが公式サイトで公開している最新版を利用する。Windows XP用ForceWareはGeForce 8ファミリー専用のものが用意されているため,EN8800GTS/HTDP/320Mのみ「ForceWare 97.94」を導入し,残る3枚は「ForceWare 93.71」をセットアップした次第である。

 

Release 150世代となるForceWare 158.16。NVIDIAコントロールパネルのデザインが若干変更されている

 一方WinFast PX8600 GTS TDHに関しては,ひとまず製品ボックスに付属していたCD-ROMから,「ForceWare 100.95」というバージョンを使用。さらに,発表直前のタイミングでNVIDIAが報道関係者向けに「Release 150」世代の「ForceWare 158.16」を配布したため,こちらでもテストを行っている。
 ちなみに,NVIDIAによれば,このForceWare 158.16ではGeForce 8600 GTSのパフォーマンスが大きく改善されるとのことだ。

 

 また細かい点だが,GeForce 7900 GSを搭載するEN7900GS TOP/2DHT/256Mは,メーカーレベルのクロックアップ設定が行われているため,今回はNVIDIA製ユーティリティ「nTune」から,カードの動作クロックをGeForce 7900 GSのリファレンス設定にまで落として測定を行っているので,この点もあらかじめお断りしておきたい。

 

 さて,以上を踏まえたテスト環境を下にのとおりまとめたので,参考にしてほしい。なお,本稿では以後,とくに断りのない限り,カード名ではなくGPU名で表記し,またグラフ中「GeForce」の表記を省略。また,GeForce 8600 GTSに関しては,必要に応じてGPU名の後ろに括弧書きでForceWareのバージョンを記載する。

 

 

 

“7900 GS+α”のポテンシャルを持つ8600 GTS
ゲームによっては7900 GSを下回る場面も

 

 というわけで,テスト結果の分析に入っていこう。
 まずグラフ1,2は「3DMark05 Build 1.3.0」(以下3DMark05)の結果である。とくにグラフ1の「標準設定」時において,GeForce 8600 GTSのスコアは非常に良好だ。同時に,NVIDIAが主張するとおり,GeForce 8600 GTS(158.16)がGeForce 8600 GTS(100.95)より高いスコアを得られている点も注目に値する。  一方,標準設定でも高解像度になっていくとGeForce 7950 GTとの差がつまり,「高負荷設定」時には1280×1024ドット以上で逆転が起こっているあたりからは,メモリバス帯域幅やメモリ容量の制限がマイナスに働いているのも見て取れる。いわゆる“ミドルレンジらしい傾向”だ。

 

 

 

 グラフ1,2における,ピクセルシェーダおよび頂点シェーダテストの結果をまとめたのがグラフ3,4である。
 GeForce 8600 GTSは統合型シェーダ(Unified Shader)アーキテクチャを採用しているため,どちらも最適な結果が出るはずなのだが,結果は見事に好対照。シェーダ性能だけでなく,グラフィックスメモリ帯域幅も大きく影響するピクセルシェーダテストでは,GeForce 8600 GTSの1450MHzという高いシェーダユニット性能を持ってしても,GeForce 7600 GTと同程度のスコアしか出せていない。これは,128bitというメモリバス制限が予想以上に重くのしかかっていると見ていいだろう。
 一方,GPUのコアクロック(≒シェーダユニットのクロック)がスコアを左右しやすい頂点シェーダテストでは,GeForce 8800 GTSをも上回るスコアを叩き出している。なんともアンバランスな結果だが,これは実際のゲームにおいても影響しそうだ。

 

 

 

 次に「3DMark06 Build 1.1.0」(以下3Dmark06)の結果をグラフ5,6に示す。3DMark06はデータ量が3Dmark05よりも多く,いきおい描画負荷も高いため,メモリバス帯域幅や搭載するメモリ容量が少ないことによる頭打ちが,より低い解像度で顕れている。
 なお,グラフ6でGeForce 7ファミリーのスコアがないのは,3DMark06の仕様上,GeForce 7ではテストを行えないためである。

 

 

 

 以上3DMarkでは「得手不得手こそあるものの,おおむねGeForce 7950 GT相当のポテンシャルを持っている」と言えるGeForce 8600 GTSだが,実際のゲームではどうだろうか。
 まずはFPSから,「Quake 4」(Version 1.2)の平均フレームレートをスコアとしてまとめたが(グラフ7,8),同タイトルでは,標準設定の1280×1024ドット以上で,GeForce 7900 GSの後塵を拝してしまっている。
 描画負荷が高くなると,ほとんどGeForce 7600 GTと変わらないレベルにまでスコアは落ち込んでしまうが,これは128bitというメモリバスの制限が大きく影を落とした格好だ。

 

 

 

 次に,「Half-Life 2: Episode One」(以下HL2EP1)の結果をグラフ9,10にまとめた。HL2EP1では,標準設定の1024×768ドットで,GeForce 8600 GTSとGeForce 7950 GTの間に,30fpsもの差が出てしまった。ただ,Quake 4とは異なり,メモリバスの制限は比較的緩やかで,同じ256MBのメモリ容量を持つGeForce 7900 GSとは互角以上に渡り合っているのも分かる。

 

 

 

 もう1タイトルFPSから,今度は「F.E.A.R.」(Version 1.08)の結果である(グラフ11,12)。F.E.A.R.のグラフは,ちょうどQuake 4とHL2EP1を足して2で割ったような感じになっており,標準設定ではHL2EP1,高負荷設定ではQuake 4と似た印象になっている。換言すれば,描画負荷が低ければGeForce 7900 GS程度,高くなるとGeForce 7600 GT程度ということだ。

 

 

 

 続いてRTS「Company of Heroes」のテスト結果をグラフ13,14にまとめた。レギュレーションの解説記事にもあるとおり,Company of Heroesのテスト環境は非常に描画負荷が高いものとなっているが,ここではHL2EP1と同様,グラフィックスメモリ容量に応じた傾向を見せている。高負荷設定で,GeForce 8600 GTS(100.95)のスコアが異常に低いが,こういう問題があったからRelease 150へアップデートされたのだろう。

 

 

 

 比較的描画負荷の低いタイトルである,レースシム「GTR 2 - FIA GT Racing Game」の結果を見てみよう。ここでは標準設定の1024×768ドットで,3DMark05や3DMar05と同じように,GeForce 8600 GTSのスコアがGeForce 7950 GTを上回っている。
 もっとも,標準設定でも高解像度ではGeForce 7900 GSを下回り,GeForce 7600 GTのスコアに近づいていくのだが。

 

 

 

 最後にMMORPG「Lineage II」のスコアをグラフ17にまとめたが,レギュレーション3.1で用意したタイトルのなかでは圧倒的に負荷の低いタイトルだけに,GeForce 8600 GTSは常時GeForce 7950 GTと互角以上。GeForce 7900 GSに対しても有意な差を見せているのはなかなか立派である。

 

 

 

消費電力はGeForce 7900 GS並み
GeForce 8800の面影は(いい意味で)ない

 

 パフォーマンス検証に続けて,消費電力の測定に入ろう。
 ここでは,OSの起動後30分間放置した直後を「アイドル時」,3DMark06を30分間リピート実行し,その間最も消費電力の高かった時点を「高負荷時」として,それぞれの時点におけるシステム全体の消費電力をワットチェッカーで計測した。その結果をスコアとしてまとめたのがグラフ18である。製造プロセスルールに80nmを採用したGeForce 8600 GTSの消費電力はアイドル時,高負荷時ともGeForce 7900 GS並みで,先のプレビューで「モンスター」と呼んだGeForce 8800の面影を引きずっていないことは明らかだ。

 

 

 そんな,グラフ18の時点におけるGPUの温度を,GeForceファミリーのGPU温度も測定できるATI Radeon向け多機能ユーティリティ「ATITool 0.26」で測定。その結果をグラフ19にまとめた。
 GPU温度は,PCケースに組み込まない,バラックの状態で計測した結果だが,GeForce 8600 GTSのGPU温度はなかなか低い。チップクーラーが異なるので,横並びの比較に意味はないが,冷却能力面でも不安はないといってよさそうだ。

 

 ただし,55mm角相当のファンを内蔵するチップクーラーは,公称騒音レベル25.4dBAで,決してうるさくないのだが,少々高周波成分がノイズとして耳に付く印象を受けた。PCケースのなかに入れてしまえば気にならないかもしれないが,人によっては耳障りに感じる場合もありそうだ。

 

 

 

悪いものでは決してないが,決定打に欠けるのも確か
やはり決め手はDirectX 10か

 

製品ボックス

 3DMark05/06のテスト結果を「ベストケース」と捉えると,GeForce 8600 GTSは,ドライバの練り込みが甘いという印象がぬぐえない。また,「GeForce 7900 GSに勝ったり負けたり」というテスト結果に,決定的なインパクトに欠ける印象を持った人も少なくないのではないだろうか。

 

 ミドルレンジのGPUを使う現実的なディスプレイ解像度が1280×1024ドット以下であることを考えると,しばらくWindows XPで行くという人でも,GeForce 7600 GT(以下のGeForce 7ファミリー)や,GeForce 6ファミリーからの買い換えなら,GeForce 8600 GTS=WinFast PX8600 GTS TDHはアリだ。それは間違いないが,逆に「GeForce 7900 GT」やGeForce 7900 GSといったGeForce 7世代のミドルハイクラスGPUを使っている人にとって,今すぐ買い換えたくなるほどの絶対的な魅力には欠けるのも確か。ドライバのアップデートや,プレイしたいDirectX 10対応タイトルの登場を待ってからでも遅くはないだろう。

 

■■宮崎真一(ライター)■■
某有名PC専門誌の主力編集者として活躍した長いキャリアを持ち,「いかにして公正なデータを取得するか」のノウハウに長けているテクニカルライター。4Gamerでは主に,GPUやCPUの新製品をゲーマー視点で評価している。ゲーマーとしては「Diablo」以来のオンラインRPG好きで,ここ数年,「ファイナルファンタジーXI」をひたすらプレイし続けていることは,デバイスメーカーやパーツメーカーの間でも有名な話だ。
タイトル GeForce 8600
開発元 NVIDIA 発売元 NVIDIA
発売日 2007/04/17 価格 製品による
 
動作環境 N/A

Copyright(C)2007 NVIDIA Corporation

【この記事へのリンクはこちら】

http://www.4gamer.net/review/geforce_8600_gts/geforce_8600_gts.shtml