RV560コア搭載で生まれ変わったRadeon X1600はGeForce 7600 GTの牙城を崩せるか |
PowerColor X1650 XT |
Text by Jo_Kubota |
2006年11月7日 |
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開発コードネーム「RV560」の刻印はないRadeon X1650 XT。ダイサイズは実測で16.7mm×13.8mm,Radeon X1950 Pro(RV570)とまったく同じ |
2006年10月30日の記事でお伝えしたとおり,AMD(ATI Technologies,以下便宜的にATIと表記)は,ミドルレンジ向けGPU(グラフィックスチップ),「Radeon X1650 XT」を発表した。
スペックの詳細については同記事を参照してほしいが,ポイントは表1にまとめてみた。Radeon X1650 ProやRadeon X1600 XTと比べたとき,Radeon X1650 XTが決定的に異なるのが,このスペックである。シェーダユニットの数はおろか,製造プロセスも異なるので,Radeon X1650 XTは,製品名こそRadeon X1600を引きずっているが,その実,まったく別のGPUと断じて差し支えないだろう。
量産版サンプルでライバル&上/下位モデルと比較 付属ドライバではCrossFire動作せず
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PowerColor X1650 XT
メーカー:Tul
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
info@ask-corp.co.jp |
今回入手したTul製のRadeon X1650 XT搭載グラフィックスカード「PowerColor X1650 XT」は,プレス向けのサンプルという位置づけで,Tulの工場から航空便で直送されてきた量産版カード単体とドライバのセットである。ボックス版ではないため,付属品は不明だが,一方で量産版なので,動作クロックは製品版と同じはずだ。 調べてみると,コアクロックは594MHz,メモリクロックは1.39GHz相当。若干ながらクロックアップ設定が行われているのを確認できた。
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GPUクーラーを取り払った状態(左)。試用した個体が搭載するGDDR3メモリチップはHynix Semiconductor製の1.4ns品(右)で,メモリの冷却機構はとくに用意されていない |
さて,ベンチマークテストに当たっては,直接のライバルとなるGeForce 7600 GTを搭載する,Albatron Technology製「PC7600GT」を用意。Sapphire Technology製のRadeon X1950 ProおよびRadeon X1600 XT搭載製品「SAPPHIRE RADEON X1950 PRO 256MB」「SAPPHIRE RADEON X1600 XT」も,比較検討用に入手している。PC7600GTは,GeForce 7600 GTのリファレンスクロック(コア560MHz,メモリ1.4GHz相当)で動作していた一方,Sapphire Technology製の2モデルはいずれも若干のオーバークロック設定が行われていたので,Radeon 3モデルのスペックを表2にまとめている。
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PC7600GT
クセのない仕様で自作初心者向き
メーカー:Albatron Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
info@ask-corp.co.jp
実勢価格:2万円前後(2006年11月7日現在) |
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SAPPHIRE RADEON X1950 PRO 256MB(左) SAPPHIRE RADEON X1600 XT(右)
Radeon専門メーカー製という安心感が魅力
メーカー:Sapphire Technology
問い合わせ先:アスク(販売代理店)
info@ask-corp.co.jp
実勢価格:3万円前後(SAPPHIRE RADEON X1950 PRO 256MB,2006年11月7日現在) 1万8000〜2万4000円(SAPPHIRE RADEON X1600 XT,2006年11月7日現在) |
テスト環境は表3のとおり。
Radeonの3モデルでドライバのバージョンが異なるのは,3モデル中2モデルが,ATIの公式最新版であるCatalyst 6.10では認識されなかったためだ。そこで今回は,PowerColor X1650 XTに付属する,Catalys 6.10ベースのドライバ(バージョン8.302)をメインで用い,HDCPに対応する都合か,それでも認識されなかったSAPPHIRE RADEON X1950 PRO 256MBについては,製品ボックス付属のバージョン8.291を利用する。このため,スコアは若干の誤差を含む可能性があるので,あらかじめご了承を。
ところで,今回はPowerColor X1650 XTのCrossFireテストも行う予定だったのだが,用意したドライバでは,右に示したとおり,CrossFireのチェックボックスがグレーアウトしてしまい,有効化できなかった。このあたりはドライバのアップデートによって解決すると思われるが,Radeon X1650 XTのCrossFireを検討していた人は,記憶に留めておく必要がありそうだ。
なお,4Gamerのベンチマークレギュレーションは バージョン2.0準拠。ミドルレンジのGPUを比較するため,ディスプレイ解像度1920×1200ドットは現実的でないと判断し,テストを省略した。また,以下本文では,とくに断りのない限り,カード名ではなくGPU名を表記する。
GeForce 7600 GTよりは確実に速い Radeon X1650 XT
さっそくベンチマークテスト結果をチェックしてみよう。グラフ1,2は,「Quake 4」のスコアをまとめたものである。
GeForceに最適化されているQuake 4ということもあって,Radeon X1650 XTのスコアはGeForce 7600 GTに置いていかれている。ただ,高負荷設定においてはかなりのところまで迫っているのも事実だ。そして何より,従来のRadeon X1600シリーズを代表するRadeon X1600 XTに対しては,スペックどおり,別次元のスコア差を叩き出している。
標準設定の1024×768ドットで合格点の90fpsを余裕で越え,高負荷設定の1280×1024ドットでもまずまずの60fps前後というのは,2006年11月時点における店頭価格2万円程度のグラフィックスカードとして申し分のないスコア,ともいえるだろう。
続いて,Radeonに最適化された代表的なタイトル「Half-Life 2: Episode One」について,まずは標準設定のテスト結果を見てみる。グラフ2がその結果だが,Radeon X1650 XTはGeForce 7600 GTに対して有意な差を見せ,最適化の効果を確認できる。
さらに,GeForce 7では適用不可能な,HDRレンダリング適用時の高負荷設定を行った結果(グラフ3)をチェックすると,1024×768ドットで60fps。一人プレイすることになる同タイトルでは,まずまずのスコアだ。
1280×1024ドットの平均40fpsというのは,悩ましいレベルといえよう。17〜19インチクラスの液晶ディスプレイにおいてHDR+AAを適用してもプレイに大きな支障はない一方で,フレームレート面で不満を感じることはあるだろう。このあたりが2万円クラスのGPUの限界といえそうである。
続いて,「F.E.A.R.」の結果をグラフ5,6にまとめた。
F.E.A.R.において見えるのは,Radeon X1650 XTとGeForce 7600 GTのパフォーマンスが拮抗していること。グラフの長さでは,標準設定でGeForce有利,高負荷設定でRadeon有利に見えるが,ここは互角と判断するのが正解だ。
レースシム,「GTR 2 - FIA GT Racing Game」の結果考察に移ろう。グラフ6,7を見ると分かるように,標準設定では安定してGeForce 7600 GTより高いスコアを出している。とくに,1600×1200ドットでも平均60fps近いスコアを記録している点は特筆すべきだろう。
ただし,高負荷設定になるとその優位性は失われ,GeForce 7600 GTと同じレベルになる。もっとも,スコアが大きく落ち込んでいるわけではないので,目くじらを立てるほどではない。
最後にMMORPG「Lineage II」のスコアを標準設定でチェックしてみる。
Lineage IIにおけるグラフィックスカードのテストでは,平均30fpsを超えるかどうかが一つの目安になるが,Radeon X1650 XTは1280×1024ドットで完全に合格。1600×1200ドットでも,ゲームプレイに当たってグラフィクスカードが足を引っ張る可能性はまずないといえる。
また,GeForce 7600 GTとの比較では,完全に圧倒。とくに1600×1200ドットで,GeForce 7600 GTのスコアが合格点にほど遠いのと比較すると,その優位性がよく分かるはずだ。
以上のテスト結果がどのようにして生まれたか,念のため3DMarkで確認しておこう。
まずグラフ10,11で「3DMark05 Build 1.2.0」(以下3DMark05)のテスト結果を見てみると,Half-Life 2: Episode Oneと同じ傾向を示しており,最適化済みタイトルにおいて期待できる最高レベルを確認できる。
標準設定,解像度1024×768ドットにおけるFeature Testの結果をまとめたのがグラフ12〜14だ。あえてGeForce 7600 GTと比較してみると,ピクセルシェーダのスコアが同じところで落ち着いており,ようやく性能的に追いついたのが分かる。Radeon X1600 XTとのスコア差は圧倒的だが,Radeon X1950 Proとの決定的な違いも確認できよう。
グラフ15は「3DMark06 1.0.2」の1280×1024ドット,標準設定におけるスコアだ。3DMark05と同じような傾向を示している。
消費電力はRadeon X1950 Pro並みで GeForce 7600 GTよりも大きい
続いて,消費電力をチェックしてみよう。Windows XPが起動してから10分放置した直後を「アイドル時」,3DMark05を30分連続実行し,最も消費電力が高かった時点を「高負荷時」として,いずれもワットチェッカーからシステム全体の消費電力を計測した。その結果をまとめたのがグラフ16である。
一言でまとめるなら,消費電力はRadeon X1950 Pro並みということになるだろう。RV570コア(=Radeon X1950 Pro)よりシェーダユニットが少ないRV560コア(=Radeon X1650 XT)だが,本稿の冒頭で示したように,ダイサイズはまったく同じ。このあたりが消費電力に影響を与えている可能性が指摘できそうだ。いずれにせよ,GeForce 7600 GTの低い消費電力にはまったく及ばない。
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「要求」が,アイドル時のクロックであるはずなのだが,実際には下がらない(※クリックすると画像全体を表示します) |
ちなみに,アイドル時にすら80nmプロセスのメリットがあまり感じられないのは,試用したPowerColor X1650 XTが,アイドル時にも動作クロックが下がらないため。右の画像は「Catalyst Control Center」の「ATI Overdrive」から抜粋したものだが,クロックの「要求」がコア574MHz,メモリ672MHzなのに対し,アイドル時もこの水準まで下がらず,常に一定のままになっているのだ。
製品版で改良が加わるか,高いクロックのまま固定されるかは分からないので,この点は気をつけておく必要があろう。もっとも,今回のアイドル時のスコアは,これ以上高くなることのない“ワーストケース”のものなので,最悪でもRadeon X1600 XT程度,という見方もできる。
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PowerColor X1650 XTのGPUクーラー。銅板でGPUからの熱を受けてフィンに送り,あとはファンの風でカード方向へ吐き出す仕様の2スロット占有型だ |
GPUクーラーが異なるため,スコアは参考程度になることを断ったうえで,グラフ17にGPUの温度測定結果をまとめてみた。
高負荷時で比較してみると,最も発熱量が大きいはずのRadeon X1950 Proが,GeForce 7600 GTの次に温度が低く,ここは,搭載するクーラーの性能がそのままスコアに反映されていると見てよさそうだ。翻ってPowerColor X1650 XTが搭載するクーラーの性能はというと,「悪くはない」といったところである。
2万円のカードとして見れば素晴らしい性能だが 登場がやや遅かった
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カード裏面。これといった冷却機構はなく,よけいな突起などもない |
Quake 4を除くすべてのゲームベンチマークでGeForce 7600 GTと互角以上のスコアを見せたRadeon X1650 XT。先にレビューを行ったRadeon X1650 ProではGeForce 7600 GTにまったく歯が立たなかったことを考えると,ようやく2万円前後のエントリーミドルレンジらしい製品が登場してきたといえる。
Radeon X1650 XT搭載製品はすでに一部で販売が始まっており,今のところ2万円強という価格が付けられている。PowerColor X1650 XTも,だいたいこのあたりの価格で近日中に発売される見込みだ。
パフォーマンスと,GeForce 7にはできないHDR+AAという機能を考えるに,これから2万円前後の予算でグラフィックスカードを購入するのであれば,Radeon X1650 XTは十分に意味のある選択肢となる。
ただし,2006年11月時点において,ライバルのGeForce 7600 GTを搭載する多くの製品が1万円台で販売されているという事実もある。その意味において,Radeon X1650 XTの登場はやはり遅かったというほかない。もっと早く登場していれば,2006年末を迎えるこのタイミングには,もう少し安価になっていた可能性もあるわけで,この点は本当に残念だ。
Radeon X1650 XTがあと半年早く登場していれば,歴史は変わっていたのではないだろうか。
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