― 連載 ―

雨が止むことなく降り続ける街の音楽学園を舞台にした"ミュージックアクション・アドベンチャー"「シンフォニック=レイン」。卒業演奏までの2か月でパートナーを探し,演奏を成功させるのがとりあえずの目標だ
 今回解説するゲームは,工画堂スタジオの「シンフォニック=レイン」。アドベンチャーとリズムアクションを融合させたシステムを持ち,合間に挟まるミュージックアクションパートをクリアすることで,ストーリーを展開させていく。同様のシステムを使った先発作品として「エンジェリック・コンサート」「AS〜エンジェリックセレナーデ」があり,本作はその基本構造を引き継いだ3作めに当たる。ただし,物語の趣(おもむき)はかなり異なるのだが……。
 本作は,魔法が過去のものとなり,"魔導奏器"フォルテールを演奏できる(=魔力を持つ)人が少なくなった世界を舞台とする。主人公はその資質を持つ数少ない人々の一人で,音楽学院の生徒としてフォルテール奏者を目指している。そして卒業課題の演奏会を目前に控えての,演奏パートナー探しにまつわるエピソードが展開されていく。
 重い主題の物語が中心となる本作は,突っ込んだ説明をするとたちまちネタバレになるライター泣かせのシロモノなのだが,プレイの興をそがないよう気をつけつつ,その魅力に迫ってみよう。


アドベンチャーパートの画面はオーソドックス。メッセージウィンドウには消去ボタンとバックログボタンも付いている。メッセージウィンドウ下にあるパラメータゲージの意味は,プレイを進めていけば分かるだろう
 主人公クリスは前述のようにフォルテールの演奏資質を持つ。彼は幼なじみの双子のうち,姉(アル)のほうと恋仲になるが,歌の才能を持っていたのは妹のトルタだった。主人公は故郷に恋人を残して恋人の妹と同じ音楽学院に進学し,3年の歳月が過ぎる。
 登場するキャラクターは,主人公と週1度の手紙のみで繋がっている恋人のアル,その妹で何かとクリスの世話を焼きたがるトルタ,生徒会長にして優等生,おしとやかで人当たりもよいファル,おとなしく,内に閉じこもった感のある下級生リセといったパートナー候補達,さらになぜかクリスの下宿先の部屋にいた"音の妖精"ことフォーニ(クリス以外の人には見えない),音楽学院におけるクリスの唯一の友人アーシノ,指導教官のコーデル先生などといった人物がストーリーに絡んでくる。
 さて,そろそろ本連載のスタイル(というか,キャラゲーのパターン)になじんできた読者諸氏なら,女の子と一緒に卒業演奏の練習をし,その過程でパートナーを選択して仲良くなるという展開を想像するだろう。大枠は確かにそのとおりなのだが,それだけで済まないのが本作の恐ろしいところだ。
 主人公とアルがすでに遠距離恋愛の関係にある以上,ほとんどのシナリオで恋人との別れが生じることになる。その痛みを乗り越え,選んだヒロインと新たな道へ進むのだが,そう簡単に事は運ばない。どのシナリオでも主題となるのは偽り・野心・トラウマ・エゴといった負の感情であり,陰鬱なストーリー展開が待っている。そう,このゲームはいわゆる"泣きゲー" "鬱ゲー"の一種であり,それもプロデューサー自らが"イタいゲーム"と称したというから折り紙付きだ。いや,そこを保証されてもなあ……。

アドベンチャーパートの移動画面。残念ながらどこに誰がいるかまでは示されていないが,どのキャラも基本的にいる場所はほぼ固定されているので,お目当ての相手を探すに当たってとくに苦労はないだろう イベントは主にキャラクターとの会話時に発生し,専用グラフィックス+メッセージウィンドウと,これも普通。これはリセと初対面のときにぶつかって,楽譜が散らばってしまう場面で,実にお約束な展開だ 学生食堂で休憩中の一幕。トルタが飲んでいるのはチョコラータ・カルダ(イタリア語でホット・チョコ),音楽といえばイタリアなのか,ナターレ(クリスマス),チェナーコロ(サロン)といった語がそこかしこに


今日のワンポイントレッスン  :  泣きゲー・鬱ゲー
 宿命的な別れや悲劇的な展開の中にけなげな女の子を配置したりして,プレイヤーのお涙を頂戴するキャラクターゲームを「泣きゲー」と呼ぶ。そのバリエーションが「鬱ゲー」で,ドロドロした人間関係や人の心の醜さをストーリーの主要部分に配するのが特徴。途中で思うさま暗い気分にさせながら,垂れ込めた雲を吹き払うようなエンディングを用意して物語としてのメリハリを狙うパターンと,暗い世界をどこまでも彷徨させる芸術的(?)パターンがあるが,さすがに後者は少数派のようだ。みえみえな泣きゲーに手もなくやられるのは,幼い頃の読書体験が足りないせいだと言い切る人もいるが,世界名作童話がもはや特権的な地位を保ち得ないあたりに,ポストモダン社会の面白味があるともいえよう。

 とはいえ,ただ重苦しい展開に終始するだけでないのが本作の侮りがたいところ。すべてのシナリオには細かい伏線が張り巡らされ,各ヒロインのエンディングを見るごとにそれらの意味が解き明かされていき,最後のシナリオではすべてに説明をつけたうえで,あっと驚く真相を突きつけてくる。御都合主義的な驚きの展開でなく説得力のある形で,である。
 そして,とうていハッピーエンドとは言い難かった個々の物語を,美しい形で終わらせる。とにかく最後までプレイすれば,バラバラだったジグソーパズルのピースがきっちりはまる感覚を味わえるはずである。このゲームのシナリオを担当したのはシナリオライター集団のQ’tronで,「Memories off」の一部やコンシューマゲームの「My Merry May」「My Merry Maybe」などの作品を手がけ,その構成力で根強い人気を持つ。これらの作品で重苦しいテーマを扱いながらきれいに話をまとめた筆力は,本作でも遺憾なく発揮されている。
 上記のような凝った構成になっているため,例えば途中のテキストを読み飛ばしてしまうと,その伏線にまったく気づかないこともある。一度すべてをクリアした後に,もう一度じっくりテキストを読みながらプレイすれば,その構成力に驚かされること請け合いだ。沈鬱なイベントの数々を耐え忍び,最後までプレイのモチベーションを保つことが肝要である。

アリエッタ・フィーネ(アル)

主人公クリスの恋人。故郷でパン職人の修行をしており,クリスとは週1回の手紙のやり取りのみで繋がっている。遠距離恋愛のため,基本的に登場シーンは手紙の朗読の声のみだが……。影が薄く,ほとんどのエンディングでクリスと別れることになってしまうのは鬱ゲーの宿命。とはいえ彼女なくしてこのゲームは成り立たないのである。(CV:中原麻衣)

トルティニタ・フィーネ(トルタ)

アルの双子の妹でクリス限定の世話焼き屋。クリスと同じくピオーヴァ音楽学院に通う声楽科3年生で,双子ヒロインのお約束を体現するキャラである。全身これ伏線のかたまりで,彼女の一挙手一投足を見逃すと後でわけが分からなくなるかも。(CV:中原麻衣)

ファルシータ・フォーセット(ファル)

声楽科3年生で元生徒会長。誰にでも優しく,誰からも好かれ,頭脳明晰で品行方正,人から頼まれたことはこころよく引き受けるという優等生キャラ。欠けるところといえば眼鏡っ娘ではないことくらいだ。"端から見ると完璧超人だが実はお茶目さん" "明るく見える娘は複雑な家庭の事情を抱える"というお約束も実装済みだが,それだけでは済まないのがこのゲームである。(CV:浅野真澄)

リセルシア・チェザリーニ(リセ)

誰もいない旧校舎で独り唄う少女。極度の人見知りで普段はほとんどしゃべらず,心を閉ざしているように見える。プレイヤーの保護欲がかき立てられるタイプのキャラで,仲良くなると小動物系の可愛さを振りまくが,背景が見えてくると……。(CV:折笠富美子)

フォーニ

クリスの部屋に居候している"音の妖精"。なぜかクリスにしかその姿は見えず,声も聞こえない。身長14cmで背中に羽を持つが自由には飛べず,クリスに手伝ってもらわなければ上方向に移動できない。マスコット系ナビゲータキャラなのは間違いないものの,まあ何かと気になる存在ではある。(CV:笠原弘子)


ミュージックアクションパートのメイン画面。右から流れてくる音符に記されたキーを,左の縦線2本の間に来たタイミングで押す。うまく押せればト音記号が一瞬大きくなるので,成否はすぐに分かる
 本作のプレイアビリティを担うミュージックアクションパートは,流れてくる音符に記されたキーをタイミングよく押していくという,「ビートマニア」などに似たシステム。ストーリーの途中で出てくる演奏場面に挿入され,成否によって展開が変わる場合もある。
 ことほど左様に重要な役割を担っているのだが,この作品の大胆さはミュージックアクションを事実上スキップ(!)できてしまうところにある。[Option]設定で[自動演奏]を選ぶと,もれなく満点でクリアされて,何事もなくストーリーが進んでいく。それはゲームとしてどうよ,という気がしないでもないが,純粋にストーリーを楽しむ手段が用意されているだけであって,マイナスの部分はとくにない。詳しくは後述するが,その手段が単なるスキップでなく"自動演奏"であることは,このゲームのコンセプト上よく考えられた措置と評価できる。

 ミュージックアクションの難易度設定はEasy・Normal・Hardの3段階で,それぞれ4/8/30個のキーを操作する。EasyとNormalは同じ曲を扱うが,対象となるキーの数が変化するといった具合だ。問題はHardで,1本の指で3個のキー,つまりホームポジションに加えてその上下をカバーすることになる。
 例えばピアノは白鍵と黒鍵のみであり,いわば2列をうまく扱えば済む。まあハモンドB-3オルガンやパイプオルガンのように基本の鍵盤が2列になったものもあるので,フォルテールという楽器には鍵盤が3列あるのかもしれない。だがちょっと待て,確か主人公はこの楽器を持ち歩いていなかったか!?

 それはさておき,ゲーム世界にマッチした数々の曲を提供しているのは,作曲者として多くのアニメ作品を手がけたシンガーソングライター岡崎律子氏。昨年5月に早逝し,この作品および関連の楽曲が遺作となってしまった点はかえすがえすも惜しまれる。ボーカルを担当する声優陣の歌唱力もほぼ申し分なく,"音楽学院の生徒"として違和感のないレベルに達している。
 シナリオに凝った本作らしく,実は曲の歌詞にもシナリオとリンクした重要な意味が込められている。各ヒロインの見せ場となる卒業演奏の場面では,意味の深さにうならされることもあるだろう。

 作品の性質上,口はばったい説明に終始してしまったが,本作はシナリオや背景設定の巧みさ,それらと一緒になった音楽の威力が十二分に発揮されたゲームだ。ミュージックアクションのみを楽しむ[フリープレイ],ほかのプレイヤーとスコアを競う[インターネットランキング],公式サイトでダウンロード可能な追加曲など,多様な楽しみ方が用意されている本作だが,まずはそのシナリオの妙に驚いてみてほしい。「こちら」にある公式サイトでは,主題歌のダウンロードも可能なので,先に雰囲気を確かめてみるのもよいだろう。

ゲームオプションの設定画面。画面右中ほどの[自動演奏アドベンチャー][自動演奏フリープレイ]をオンにすると,それぞれのモードが自動で進む。フリープレイでの自動演奏は,単純にBGMとして聴きたいときに使える。普通のキャラクターゲームの"ミュージックモード"と同様だ インターネットランキングの登録曲一覧。先発作品の曲も対象になっており,データをゲーム自体から持ってくることでプレイ可能

(41.5MB)
■■柿島真治(ライター)■■
最近興味深いキャラクターゲームが少ないと,ぼやきモードのハードウェア&ゲームライター。そんな彼に「シンフォニック=レイン」について意見を求めたところ,「富士の樹海にふらっと独りで行きたくなった作品」とのことだったので,かなりお気に召している様子だ。彼のディスプレイの上に"音の妖精"が座っていても,驚かない人が世の中に6人くらいいそうだが,本人はむしろ驚くと思う。
タイトル シンフォニック=レイン
開発元 工画堂スタジオ 発売元 工画堂スタジオ
発売日 2004/03/26 価格 9240円(初回特典版は1万290円,ともに税込)
 
動作環境 Windows 98/Me/2000/XP,PentiumIII/800MHz以上,メモリ 64MB以上(128MB以上推奨),HDD空き容量 1.5GB以上,DirectX 8.1以降に対応したビデオカード,ビデオメモリ 8MB以上,DirectX 8.1と100%互換性のあるドライバを備えたサウンドカード,Direct X 8.1以降

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