欧米の大学では,最近,ゲームに関する様々なリサーチが行われているようだ。ゲームがインタラクティブなメディアであるということに注目している研究者は多く,開発者が感覚的に理解はしていても,実際に論文として書かれてこなかった“ゲームの科学”が,ようやく発展し始めたと言えるだろう。今回は,先のGame Developers Conferenceで発表されたゲーム関連研究の「10個の発見」なるものに目を向けてみたい。果たしてそれは?
ここ数年のGDC(Game Developers Conference)を見ていると,ゲーム開発者と学術関係者が密接に連携しつつあることが分かる。長らくゲームには否定的だった学者や研究者達も,ゲームというインタラクティブメディアの教育,福祉,軍事,社会訓練などの分野における予想外の有用性を認め,それをポジティブに受け入れ始めているのだ。
また,ゲーム開発者達も,研究者らの成果をゲームデザインやゲームのメカニズムに取り込もうとする傾向にある。社会行動学や人間工学,経済学などの様々な分野での専門家達の研究成果は,それまで“職人技”という曖昧なものに支配されてきたゲーム開発プロセスを,より明確に具現化すると考えられているためだ。「America's Army」や「Food Force」のように政府や国際機関と連携した作品が作られたり,“シリアスゲーム”というカテゴリが生まれたのも,このような協力関係に基づくものである。
UCバークレーで“新メディア学”の博士号を取得中のジェーン・マクゴニガル氏。学業の傍ら専門学校でゲームについて講義したり,舞台劇や独立系映画のプロデュースをしたりと,幅広く活躍しているようだ
今年のGDCでは,そうしたゲームに関する学術研究者達の1年の成果を,順位を付けて発表するという面白いイベントが行われていた。「Top 10 Video Game Research Finding」(ビデオゲームリサーチに関する10大発見)というなかなか大仰なタイトルの講演は,ジョージア工科大学助教授のIan Bogost(イアン・ボゴスト),オハイオ州立大学の客員教授Mia Consalvo(ミア・コンサルボ),そしてカリフォルニア大学(UC)バークレー校で博士号を取得中のJane McGonigal(ジェーン・マクゴニガル)の3氏によって開かれたもの。ちなみに,最近はあまりにも多くゲーム関連のリサーチが行われているという理由から,今回の10大発見はもっぱら人文科学の研究に絞られていた。
ちなみに今年のGDCは,参加人数が多かったためか,講義会場から観衆があふれ出るケースが多く,火災など万一の事故で混乱が起きないよう消防局からの指導が行われたとのこと。この講義も例外ではなく,すべて席が埋まり次第,誰も室内に入れなくなったので,筆者もドアの外で音声だけを聞く破目に陥った。しかし,幸いにしてマクゴニガル氏によって紙資料も公開されたので,その10大発見とやらをここに紹介しよう。
“10大発見”な割には案外地味に感じるが,実際の学術研究とは,このような小さなステップの積み重ねで成り立っているものなのだ。論文に目を通した限りでは,データ収集に協力したテスターの人数なども決して多くなく,まだまだ次の研究を待っている段階にあるようだった。
しかし,映画産業では1960年代から,コンピュータグラフィックスでは1980年代後半からそれぞれの分野で学術的な研究が続けられて知識が蓄積され,最近になって大きな成果を収めている。したがって,ゲームに関するリサーチがここ数年の間に盛んに行われている事実を見るだけでも,ゲーム産業の将来は明るいと言えるかもしれない。今回紹介されたリサーチが,果たしてどのような結果(つまりはゲーム)へつながるのか? ゲーム産業と学術機関の蜜月関係は,今後も深まっていくことだろう。
次回は,RTSの劇的変化について。お楽しみに。