― 連載 ―

奥谷海人のAccess Accepted
2006年7月19日掲載

 Electronic Entertainment Expo(E3)や東京ゲームショウといえば,本連載を読むような人なら誰でも知っているであろうビッグイベント。しかし,世界のあちこちでは,毎月のように大小のゲームイベントが開催されており,地元のゲーム開発者や研究者の情報交換,ファンへのプレゼンテーション,そしてマーケティングなどに役立っている。本稿では,これらのイベントを「トレードショウ型」「ファン参加型」「セミナー型」の三つに分け,世界各地へ探訪の旅に出かけてみよう。ゲームイベントで巡る世界の旅というわけである。

 

ゲームイベントで世界一周の旅

 

 

業界での取引やマーケティングを目的にした「トレード型」ゲームイベントは,各社とも,金をかけたブースで華やかに行われることが多い。毎年5月に行われるE3は,我々PCゲーマーにとって,最も大切な情報源の一つである

 ゲームイベントの王様といえば,毎年5月に開催されるElectronic Entertainment Expo(E3)である。業界関係者だけを対象にしたトレードショウ形式のもので,一般のゲームファンなどは入場できない。しかし,たとえ一般公開されていないとはいえ,よく知られた開発スタジオや販売会社など,約400社に及ぶソフトウェア,ハードウェアのメーカーが,アメリカや日本,ヨーロッパなど80あまりの国から集結し,毎年2000点を超えるタイトルを展示するという,業界最大のイベントである事実に変わりはない。
 このE3に加え,毎年8月にドイツのライプチヒで開催されるGC(Games Convention),そして,9月に幕張メッセを賑わせるお馴染みのTGS(東京ゲームショウ)がゲームイベントの三本柱。どちらも,報道関係者のみを対象にしたプレスデーが用意されてはいるが,基本的に,ご当地のゲームファンを会場に入れ,実際にその目で見,その手で触ってもらおうというファンイベントとしての性格が強い。

 

8月末にドイツで開催されるイベントGames Conventionは,ヨーロッパ最大のゲームショウとして年々業界での注目度を集めつつある。「ファン参加型」のゲームイベントとして,その活気の良さは他に類を見ないほどだ

 このほか,4Gamerが特集として大きく扱っているゲームイベントだけでも,GDC(Game Developers Conference),G★,ChinaJoy,AOGC(Asia Online Game Conference)などがあり,毎月のように,世界のどこかでゲームイベントが開催されているのが分かる。これまではゲームイベントがほとんどなかった地域でも,さまざまな種類のイベントが開催されるようになってきたのだ。
 これら新興のゲームイベントは,E3のような「トレードショウ」,ファンに遊んでもらうことを目的とした「ファン参加型」,そしてゲーム業界関係者や大学関係者が集まって行うレクチャーを主体とした「セミナー型」に分類することができる。
 ちなみに,かつてはゲームに縁遠いような地域においてもゲームイベントが増加した理由としては,ゲーム産業が潜在成長性の高いものとして捉えられていることが挙げられるだろう。
 このほか,最近ではプロやアマのゲーマー達を集めて行われるゲーム競技大会も増えているが,種類やイベント内容が多岐にわたるため,いずれまたの機会に取り上げることにしたい。それでは,以下にいくつかの聞きなれない(失礼)ゲームイベントを紹介してみよう。

Edinburgh Interactive Entertainment Festival

開催地:イギリス エジンバラ市
開催日:8月21〜22日 (2006年) タイプ:ファン参加型

 数年前までイギリスで開催されていたヨーロッパ最大のゲームイベント,ECTSが行われなくなったため,現在,同国で最も大きなゲームイベントとされるのが,スコットランドのエジンバラで開催されるEIEF(Edinburgh Interactive Entertainment)である。主催者は,ECTSに引き続きイギリス最大の業界団体であるELPSAで,任天堂,SONY,Microsoft各社の協賛も得ている本格的なイベントだ。
 開催時期はドイツのGCとほぼ同じだが,イギリスのみでのプレミアとして初公開される新作ゲームも少なくない。エジンバラは映画祭でも有名な土地であるためか,イベントの目玉は人気ゲームをムービー化して上映するGame Screeningsになっている。

Austin Game Conference

開催地:テキサス州 オースティン市
開催日:9月6〜8日 タイプ:セミナー型

 今年で4回目となるAustin Game Conferenceは,アメリカでも“オンラインゲーム開発のメッカ”として知られるテキサスで開催される。もともとはおしゃべり好きな仲間達が集まって行っていたプライベートな雰囲気のものだったが,専門の企画会社にイベントの運営を託した2005年から急激に拡大し,この手の会合にはあまり顔を出さないBlizzard Entertainmentの幹部や,PCメーカーであるDellの社長などを巻き込んだものに成長した。
 内容的には,Casual Game Conference,Game Audio Conference,そしてGame Writers Conferenceなど,ほかのセミナーではあまり扱われない分野をカバーするカンファレンスが多いのが特徴だ。エキスポ用のフロアも比較的広く,ゲームを素材に制作するデジタル映画“マシニマ”の作品集も劇場で常時公開されるなど,イベント内容も多角的だ。

KRI Russian Game Developers Conference

開催地:ロシア モスクワ市
開催日:4月7〜9日 (2006年) タイプ:トレードショウ型

 KRIと呼ばれるロシア随一のゲームイベントは,業界団体を中心として開催される。今年で4回目となり,ATI Technologies,Intel,AGEIA Technologiesといったハードウェアメーカーがセッションを持つ,開発者向けのワークショップ/セミナーとしての傾向が強い。また,1C Company,Akella,Nival Interactiveなどロシアの有力パブリッシャがスポンサーになっており,ウクライナやバルト海沿岸諸国といった地域の無名開発チームが,制作中のソフトを売り込む機会にもなっているようだ。
 今年のKRIは参加人数が2000人程度と,前年よりも大きく伸びたという。人口が多く,ゲーム制作に関する高い潜在能力で知られる地域だけに,これからの発展が見込めそうな気配だ。

GameCity

開催地:イギリス ノッティンガム市
開催日:10月25〜29日 (2006年) タイプ:ファン参加型

 イギリスで今年初めて開催されるのが,このGameCity。中世イギリスの風情を今にとどめる中部の都市ノッティンガムを,5日間にわたって全市丸ごと,市民も含めて“ゲームの町”にしてしまおうといういささか変わったイベントになるらしい。イベント会場は町のあちこちに点在し,映画館や目抜き通り,パブ(居酒屋)に至るまでゲームの試遊台や映像,関連商品で埋め尽くそうという試みのようだ。
 未発売ソフトのデモなども遊べ,さらにはロサンゼルス美術館で公開中のゲームのキャラクターアート展“Into the Pixel”も参加することになっている。都市全域がWiFiで結ばれ,ゲームを通してノッティンガムが一つになるのだ。

Nordic Game Potential

開催地:スウェーデン マルメ市
開催日:9月19〜20日 (2006年) タイプ:トレードショウ/セミナー型

 対岸のデンマークに橋で渡れるというスカンジナビア半島のほぼ先端,マルメ市で開催される業界団体専用の会合が,Nordic Game Potentialである。IGDA(International Game Developers Assocation)とのタッグによって,フィンランドやノルウェーなど近隣国の開発者も呼び込み,過去3年にわたりイベントを成功させてきた。
 同時期のゲームイベントが多いためか,スポンサーはAutodesk一社のみ。しかし,70人を超える講演者を集めるなど,北欧地域の業界人にとって,ためになる集いの場に成長しているのは間違いないだろう。Marketplaceと名付けられた,商談が自由にできる一角も併設されており,開発用ソフトやミドルウェアを中心としたエキスポもあるようだ。

GAMES 2006

開催地:ポルトガル ポルタレグレ市
開催日:9月26〜30日 タイプ:ファン参加/セミナー型

 業界ウォッチャーを自負する筆者でさえ「ポルトガルのゲーム」と聞いてもピンと来ないのだが,今年,ここでユニークなイベントが開催される予定になっている。GAMES 2006は,業界関係者によるカンファレンスや,開発者向けのワークショップ,さらには,来場したゲーマーが参加できるLANパーティだけでなく,サウンドやグラフィックスなどを独自の発想で制作するアンダーグラウンドなプログラマーを集めたデモパーティなど,かなり多角的なゲームの祭典となりそうだ。
 基調講演にはゲーム業界の重鎮Chris Crawford(クリス・クロフォード)氏の名前もある。エキスポも併設するとのことだが,現在のところ参加企業などは未定のままだ。

CFP Netgame 2006

開催地:シンガポール
開催日:10月30〜31日 (2006年) タイプ:セミナー型

 ゲームに関する学術系のセミナーは,もともと欧米に端を発し,日本をはじめとするアジア地域でも確実にポピュラーになりつつある。「CFP Netgame 2006」は,今後も急成長を続けていくと思われるオンラインゲームに関し,プログラムのアーキテクチャやリソース管理,セキュリティなどといった技術的な問題を,大学や研究機関の研究者,そして企業のソフトウェアエンジニア達が集まって話し合うものだ。
 基調講演を行う名古屋工業大学の石橋豊教授をはじめ,日本やアメリカだけでなく,中国からの参加も多い。また,委員会メンバーのうち12人を日本人が占めているのも特徴的。ナンヤン技術大学が主催するだけあり,かなりハードコアな学術セミナーのようである。

GO3 Electronic Entertainment Expo 2007

開催地:オーストラリア パース市
開催日:3月30日〜4月1日 (2007年予定) タイプ:ファン参加型

 オーストラリアには,大手パブリッシャのアジア・太平洋地域のマーケティング本部やそれらの企業のローカルな開発チームが存在し,ゲームに関するノウハウをそれなりに蓄積している。メルボルンやキャンベラなどでは“豪州ゲームの首都”争いも熾烈なようだが,ここに新たに参戦してきたのが,インド洋に面した西の玄関口パースである。
 GO3 Electronic Entertainment Expo 2007に関しては,まだ具体的な計画は発表されていないものの,地域活性化にも役立つと最近もてはやされている,ファン参加型のイベントになる模様。IGDA主催のセミナーなども行われるらしいが,場所的にも時期的にも今後の展開は不利な気もする。

 

 


来週は,あの名ゲームデザイナーの近況,について。

■■奥谷海人(ライター)■■
本誌海外特派員。ニンテンドーDS用ゲーム「Nintendogs」のカートリッジをポケットに入れたまま洗濯し,それが洗濯槽の中で回っているのを発見した奥谷氏の娘。父親が投げかけた「溺死しちゃったかもね」というブラックジョークにひどく傷付いてしまった。奥谷氏自身,洗剤と水のダブルパンチでは再生不可能だろう,と思っていたが,木陰で乾かしたあとDSに差し込んでみると,なんと,無事にゲーム画面が現れた。「ああ,よかった。8匹とも生きてる」と大はしゃぎの娘を見て,「ひょっとしたら,彼女はゲームの中で子犬達が水に濡れてグッタリした姿を想像していたのかな」と,娘の電子機器への理解不足を不安がっているが,いや,お父さん,ほのぼのしたいい話じゃないですか。


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