最近,シリアスゲーム(遊ぶこと以外を主目的に制作されたゲーム)という言葉をよく聞くが,そのなかでも知識の獲得や訓練を目的とした教育系のソフトに注目が集まりつつある。今回は,BBCが制作した「Climate Challenge」というゲームを中心に,似たタイプのタイトルをいくつか紹介してみたい。今後,学校や会社でもラーニング・ツール(Learning Tools)としてゲームが利用されるケースが増え,ゲームがますます身近な存在となるのではないだろうか。
あのBBCがゲームを制作
2007年1月16日,イギリスの国営放送BBCが,環境保全に関するシミュレーションゲーム「Climate Challenge」を特設サイトで公開した。Flash Player対応のブラウザ(Internet Explorer, Firefoxなど)を使うことで,誰でも無料でプレイできる。
イギリスの国営放送BBCがプロデュースした「Climate Challenge」は,遊びながら環境保護の難しさを訴えるシミュレーションゲームで,BBCと各研究機関の未来への取り組みを強くアピールしている
このゲームは,プレイヤーがEU(欧州連合)の議長となり,予算の割り当てから,排気ガスの規制,電力消費量の調節,さらに食料/水資源の整備にいたる各種政策を選択しつつ,1990年から2100年までの110年間を,10年単位で進行させていくものだ。ゲームそのものは非常にシンプルな作りだが,各政府機関やオックスフォード大学などのデータをもとに,ターンごとに選んだ政策とその結果が複雑に絡み合い,地球環境に影響を与えていくのである。
「次期発売予定の携帯電話でのスタンバイモードの禁止」といった面白い選択肢もあるのだが,そんな細かい政策も「チリも積もれば山となる」で,2100年時点に判明する“結果”がさまざまに変わってくる。筆者の場合,あまりにも環境に優しい項目を意識し過ぎたためか,雇用率や経済成長率の悪化を招き,最終的には食糧難による死者が続出するという恐ろしいことになってしまった。どうやらEU議長には向いていないようだ。
Climate Challengeの狙いは,諸々の政策が環境の変化に多大な影響を与えるということをゲームを通して人々に示し,個人レベルの環境保全意識を啓蒙することだ。すべてのデータは実際のリサーチに基づいたものだが,結果を少し強めることで展開を分かりやすくするなど,ある程度“ゲーム化”されている。プレイヤーの政策に対して世論が聞けるフィーチャーもあり,するべきことと世間の反応との調整の難しさも感じられる。
対象となるプレイヤーは,今後の政策に貢献してもらわなければならない25〜35歳の成人だが,子供用に分かりやすくしたものや,各国語に対応させたバージョンも今後リリースしていく予定だという。
今後も増える“啓蒙型”教育ゲーム
国連の世界食料計画(WEP)が制作し,コナミによって日本語化もされた「Food Force」以降,このように政府の事業や政策をゲーム化して啓蒙の手段に利用するケースが確実に増えている。
従来“エデュテイメント”と呼ばれてきた教育ソフトのほとんどが幼児を対象にしていたことを考えれば,ゲームの社会的地位も大きく変化してきたのかもしれない。日本でもタイピングゲームや脳トレ系のソフトなどが凄まじい発展を見せており,もはや「楽しく学べる」という標語も消え,「学ぶことが楽しい」ゲームがごくあたり前に存在するようになったようだ。
この背景には,おそらく子供の頃からゲームに親しんできた世代が社会の中核に成長し,送り手としても受け手としても,ゲームに対する抵抗感が少ないという理由があるだろう。ゲームという新しいメディアが社会に溶け込んできているのである。さらに,ブロードバンドの一般化が急激に進んでいること,Flashによるブラウザゲームを誰でも気軽に楽しめる環境が整備されつつあることなども理由となるはずだ。
もちろん,こうしたゲームが「教育ゲームの衣装をまとったプロパガンダ」として利用される可能性もあり得るわけだが,少し大げさな言い方をすると,知識向上のツールとしてのゲームが認められつつあるのは間違いない。「ゲームで何かを訴える」「ゲームで活動の宣伝をする」というアドバゲーミング的な要素も持っていることから,良きにつけ悪しきにつけ,これまでの娯楽的要素の強いものとは一線を画したタイトルが今後増えてくるのは間違いないだろう。
というわけで,最近登場した教育ソフトをいくつか紹介しよう。
最近リリースされた
教育/啓蒙/トレーニングソフトの数々
学校給食の改善を目指すイギリスの非営利団体,「School Food Trust」が制作したFlashゲーム。プレイヤーは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のように横スクロール型の画面を走るキャラクターを操り,より健康的な食べ物を集めることで,ヘルスを回復したりポイントを得たりする。キャンディやポテトチップスなどのジャンクフードを食べている生徒にぶつかるとマイナスポイントになってしまうし,コーラやフライドチキンを食べると太ってしまい,腕立て伏せのような運動をしなければならなくなる。
コペンハーゲンのIT大学で開発されたゲームで,アフリカの農民一家の生活を体験するのを目的にした一種のシミュレーションだ。1年に100ドル前後を稼ぐためにトウモロコシや麦などを植えるのだが,干ばつや内戦の影響で,なかなか順調にことが運ばない。そんなゲームでの出来事を,授業などでディスカッションしてもらうために制作したのだという。
こちらは商品化されているソフト。一瞬の判断を問われるようなミニゲームをいくつかプレイしていくことで,バスケットボールの試合における的確な状況判断能力を養おうという選手用のトレーニングプログラムだ。最低1週間,毎日30分ほどプレイすることで十分な効果が認められるらしく,多くの高校や大学チームで採用されているとのこと。
本作は,国際宇宙ステーション内部での生活や作業を体験するのが目的のゲームで,最近デモがリリースされて当サイトの「こちら」でも紹介されたので,知っている人も多いだろう。Vision Videogamesがアメリカ航空宇宙局(NASA)の全面的な協力を得て開発し,NASAが宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと共同で宇宙開発を行う場合の合意書「Space Act Agreement」に沿った内容になっている。現在,学校などから発注されているらしい。