連載 : 剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜


剣と魔法の博物館 〜モンスター編〜

第15回:カーバンクル(Carbuncle)

 ファンタジー世界にはさまざまなモンスターが棲息しているが,モンスターと一口にいっても,すべてが人間に敵対しているわけではない。なかには人と共存しているものもいれば,人の知らない場所でひっそりと暮らしているものもいる。今回紹介するカーバンクル(Carbuncle)は,どちらかというと「ひっそり」暮らしているタイプのモンスターだ。
 カーバンクルはサルのようであったり,リスのようであったりと,容姿に明確な統一感がない。おそらく目撃例が少ないため,あやふやなイメージのまま語り継がれてきたからだろう。これもある意味,カーバンクルの特徴といえる。
 そうした目撃例/伝承のなかで,唯一の共通点ともいえるのが,額に赤い宝石がついていること。その真紅の宝石を手に入れた者は,富と名声を得ると言われており,多くの冒険者がカーバンクルの宝石を求める旅に出ている。
 ゲームでは,レアモンスター的な扱いをうけることが多く,ドロップアイテムがいいとか,お金を多く落とすなどのボーナス的な要素もあり,遭遇できれば嬉しいモンスターといえるだろう。
 戦闘能力は低そうだが,目撃例が少ないゆえに危険性が確認されていないだけで,ひょっとすると,恐るべき力を秘めていたりするのかもしれない。ゲームによっては,十分な注意が必要だろう。

 

 カーバンクルといえば,MMORPG「ファイナルファンタジーXI」のサーバー名や,同シリーズの登場モンスター/召喚獣として(あるいは,「ぷよぷよ」シリーズのマスコットキャラクターとして)知名度が高まった感があるものの,実際に民間伝承として語り継がれてきた,れっきとした幻獣である。
 カーバンクルに関する最も古い記述は,スペインの探検家であったマルティン・デル・バルコ・センテネラの著書「アルゼンチン」(1602年)だとされている。そのなかで彼は,「燃えるような宝石を額に付けた生物をパラグアイで目撃したが,捕獲はできなかった」と記述している。
 ほかにも何人かの探検家が,カーバンクルらしき生物を目撃したそうだが,結局誰一人として捕獲には至ってはおらず,いつの頃からか,「カーバンクルの額の宝石を手に入れたものには,富と成功が約束される」とささやかれるようになった。そのため,さらに多くの探検家がカーバンクルの捕獲に挑戦したが,そのほとんどは,捕まえるどころか,姿を見ることすらかなわなかったようだ。
 ちなみにカーバンクルという名前は,ラテン語で“小さい炭”を意味するカルブンクルス(Carbunculus)が語源だという。小さい炭というとなんだかさえない感じだが,ここで指しているのは,真っ赤に燃える小さな炭である。
 またカーバンクルという名前は,中世にはルビーやガーネットなど,赤い宝石を指す用語として使われていた。転じたあとも,幻獣名として定着したわけではなく,その額に光る宝石を指していたことが多いようだ。
 今日の辞書でカーバンクルを調べると,多くはガーネットを指している。ではカーバンクル=ガーネットか? というと,実は微妙に違う。ガーネットは単一の宝石のことではなく,宝石のグループのことで,さまざまな色(赤だけではない)のものがあるほか,レインボーや星のような模様が入ったものもある。その中でカーバンクルと呼ばれるのは,ライトレッドのカボッションカットだけなのだそうだ。
 またガーネットといえば,古来,魔よけのお守りとして使われていたほか,熱病や毒に効果がある薬としても処方されていたらしい。現在では1月の誕生石として,友愛/忠実/貞潔などの意味が設定されている。

 

次回予告:マンドレイク

 

■■Murayama(ライター)■■
最近,腰痛に悩まされているというMurayama。活動時間の多くをデスクワークで消費するライターだけに,腰痛は職業病ともいえる存在だが,よくよく話を聞いてみると,「腰」ではなく「腎臓」に問題があるような……。「酒だけじゃなくて,水も飲まないとな」なんて言ってる場合ではなく,一度医者に診てもらってください。いや本当に。


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