2月9日と10日の二日間にわたって開催される,アジア オンラインゲーム カンファレンス 2006(AOGC 2006)。これはオンラインゲーム業界のキーパースンが集まって,自社の取り組みや自身の体験を語り,オンラインゲームの今後を考えていく,毎年恒例の催しだ。
4Gamerでは,このAOGC 2006の開催に先立ち,講師を務める何人かのオンラインゲーム関係者にインタビューを行った。AOGC 2006の予告編であるとともに,その講師,その会社ならではの話題に切り込んでみたので,ぜひご一読いただきたい。
今回は,MMORPG「トリックスター」や,オンライン競馬シム「競馬伝説Live!」,最近では新たに“マペットコミュニケーションゲーム”こと「バルビレッジ」を展開するジークレストの,取締役副社長兼COO 長沢 潔氏に,日本におけるオンラインゲームのパブリッシング業務について,お話を聞いた。
MMORPG「トリックスター」の事例を中心に,国内パブリッシャとして取り組める事柄について語る,ジークレスト 取締役副社長兼COO 長沢 潔氏
キャラクターグラフィックスの可愛らしさと,基本無料/アイテム課金制が特徴のMMORPG「トリックスター」
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。今回はAOGC 2006のプレビュー的な位置づけということで,まずは演題である「パブリッシング業務」のお話を中心に,お聞きできたらと思います。
長沢氏:
実はまだ,どんなことを話すか細かく決めてないんですけどね(笑)。もちろん“ジークレストとして”お話しするわけですから,自社の取り組み内容のうち,うまくいっていること/いないことを題材にしつつ,「海外産オンラインゲームの日本側のパブリッシャはこうあるべき」といったスタンスについて,述べていくことになります。
4Gamer:
では,御社で国内サービスを提供している韓国産RPG「トリックスター」のお話からお願いします。まず,トリックスターに着目した時期と,着目の理由について教えてください。
長沢氏:
国内でのサービスインが2005年の3月1日。オープンβテストなどテスト期間が2004年の末,サービスについて検討していたのはその半年前の,2004年中頃です。そこから契約の詰めやら,ローカライズ作業やらが始まるわけです。ゲームそのものを検討していたのは,2004年中頃より前の,2〜3か月間だと記憶しています。
4Gamer:
ものすごく前から注目していた,という感じではないんですね。
長沢氏:
ええ,そもそもジークレストが立ち上がったのが,2003年11月なので。最初から注目していたわけではなく,いろいろなゲームを検討している中に,タイトルとしてトリックスターがあったというところですね。
4Gamer:
システムプロさんが,目を着けていたというわけでも……。
長沢氏:
とくにそういうわけではないです。
4Gamer:
そうなると,トリックスターに限らない話になりますが,その時期に検討していた各タイトルに対する「目の着けどころ」,注目理由をぜひ教えてください。
長沢氏:
まず,その頃オンラインゲーム市場がまだ固まっていない,新しいステージであるという印象を持っていて,今後伸びていくマーケットの中で,どういった作品がウケるか,正直掴みきれていませんでした。
「ラグナロクオンライン」がある程度のマーケットボリュームを確保していて,その対極に「ウルティマオンライン」以来の,“洋ゲー”的な雰囲気を持った作品がある。
大きな流れとしては,3D化が進んでいく,とする考え方がありました。「リネージュII」が代表例ですね。今後のオンラインゲームマーケットは,3Dの作品を中心に進んでいくとする考え方が主流だったわけです。
4Gamer:
そうですね。でも,持ってくることに決めた作品は,別に3Dグラフィックスではない……。
長沢氏:
そうです。我々はどうかというと,実は「3Dじゃなきゃダメだ」とは思っておらず,とにかくマーケットをフラットに見るようにしていました。
その時点でのオンラインゲームの市場規模を考えるのに,コアなファンをターゲットとしたタイトルであったら,おそらく「リネージュ」や「ファイナルファンタジーXI」といった作品と,がっぷり四つの勝負になる。すでに形成されているコアプレイヤーの動きを,どうやってひっくり返していくか方法論が明確に見えない限り,そこにチャレンジしていくのは不可能ではないにせよ,労力がかかるだろうな,と思ったわけです。
一方でトリックスターのような,比較的軽いテイストのものというのは,今後広がっていくマーケットの中でライト層,つまりオンラインゲームに触れてもらって,僕らがその楽しさを伝えていくというアプローチであれば,十分にサービスとして成長させていけるのではないか,というイメージがありました。
4Gamer:
つまり,トリックスターからオンラインゲームに入っていく,そういう人を狙う前提で考えたわけですね?
長沢氏:
そうですね。ただ,もともとオンラインゲームを楽しんでいるプレイヤーの方は,非常に目が肥えていて,その方に満足していただけないゲームであれば,たぶん初心者が入ってきても面白くない。コアプレイヤーに楽しんでもらえないということは,ある意味奥の深さが足りないということだと。
4Gamer:
プレイ内容としては奥深さも必要だけれども,その一方で初心者にとっての入りやすさ,親しみやすさも重要である。そしてそれが,その時点でオンラインゲーム市場にアプローチするに当たって,有効と判断した,と。
長沢氏:
そうです。後で詳しく触れますが,例えば作品のイメージイラストが果たす役割などは,まさに好例と思うんですよ。どんなイメージイラストにするかが,オンラインゲームをやったことがない人にとって,興味を持てるか持てないかが決まる,一つのハードルになる。
そもそもオンラインゲームって何? と考えている人から見て,そこにとっつきやすさがなければ,二の足を踏んでしまうのもやむを得ないと思うんですよ。
4Gamer:
それはそのとおりですね。当時でなく今となってから,かなりはっきりしてきた部分かもしれませんが。